07. 2014年11月20日 06:45:23
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【第525回】 2014年11月20日 中山登志朗 [株式会社ネクスト HOME'S総合研究所 副所長 チーフアナリスト] 都心タワーマンションに群がる富裕層たち 本当に相続税対策に有効なのか 4月の消費増税以降、半年以上が経ってもマンション市場が回復しない。そんななか、一人勝ちの様相を呈しているのが、都心のタワーマンションだ。外国人が買い支えているほか、相続税対策のために購入している日本人富裕層が多数いる。しかし、安易に考えて飛びつけば、思わぬやけどを負うことになりかねない。新築・中古ともに冴えないマンション需要 都心タワーマンションだけが一人勝ち 今年4月に消費税が5%から8%に引き上げられてからというもの、都市圏で新規分譲&中古流通しているマンションの動きが鈍くなっている。 なかやま・としあき/株式会社ネクスト HOME'S総合研究所副所長 チーフアナリスト。1963年横浜市中区生まれ。出版社を経て、1998年より不動産調査会社にて不動産マーケット分析、知見提供業務を担当。不動産市況分析の専門家としてテレビ、新聞、雑誌、ウェブサイトなどメディアへのコメント提供、寄稿、出演多数。2014年9月より現職 マンションに限らず住宅、不動産は高額商品だから、消費税の引き上げは一般の消費財に比べて大きな影響を受けることは予測されていたが、実際に4月以降の新築マンションの供給は大きく減少。消費税引き上げ半年を経過した現時点でもその傾向が続いている。
実は、マンション購入で消費税がかかるのは建物部分のみだ。土地売買にはもともと消費税はかからない。しかし、土地の共有持分が相対的に小さく建物価格のウエイトが大きい都市圏のマンションは、3%の消費増税によって「割高感」が醸成され心理的なハードルを高くしてしまったようだ。 増税直後に外税表示のスーパーマーケットのレジで会計のトラブルが発生したことも、消費者心理を見抜けない販売の例として報道されたが、マンション売買においては3%が100万円単位で違ってくることもあるので、その影響たるやスーパーマーケットの比ではなかったということになる。 一方、一般仲介(売主と買主が個人で不動産会社が仲介する)で流通する中古マンションでは、消費税が発生しないというメリットがある。消費増税後は、この一般仲介の中古マンションの人気が出るとの予想もあったが、実際には価格が下落基調で推移しており、マンション市場は新築・中古ともに冴えない結果となってしまった。 しかし、この逆風の中で唯一と言って良いほど「売れているマンション」がある。それは都心や湾岸エリアなどに新規分譲されるタワー&大規模マンションだ。 もともと東京都心部やその周辺は、マンションに対する需要が重層的で、余程のことがない限りニーズが失われることはないといっても過言ではないが、現在、都心のタワーマンション需要を支えているのは、こうした堅調な実需に加えて、昨年以降急速に拡大している「円安でトーキョーのマンションが安く買えるようになった海外の個人投資家」と「相続税対策が必要な国内の土地持ち富裕層」の面々だ。 いまや都内新築マンションの平均価格は5837万円(2014年10月時点、不動産経済研究所調べ)に達しており、一般の給与所得者層が購入可能な価格の上限に迫っているという感覚(&もはや超えてしまっている感覚)は強い。こうした実需層に代わって需要を支えているのが、海外からの投資家と国内の相続税対策組という訳だ。 価格が値上がった都心マンション 新たな需要層は外国人と富裕層に 海外からの投資需要は、送金の問題もあって一部のエリア・物件にまとまって発生することが多い。そのため、大きなトレンドというよりは依然として一時的なトピックスレベルと考えて差し支えないが、相続税対策組は大きなトレンドと言っていい。 というのも、購入者が多岐に渡り、また、資産の付け替えが発生することで、「売り」と「買い」両方、もしくは「大規模リフォーム」が行われることも多い。さらに、ビジネスとして展開する不動産会社だけでなく、富裕層を顧客に持つ証券会社や信託銀行などにとっても、期待される収益源に成長しつつあるのだ。 ただし、相続税が事実上引き上げられる方向で検討されていると伝わったのが2012年末だったから、東京やその周辺に居住している土地持ち富裕層には、すでにその対策をほぼ終えている向きも多い(それが昨年からの都心タワーマンション購入の原動力となっていた)。現在では、まだ対策を終えていない、もしくは対策を講じる必要がないと考えていた富裕層、および比較的広大な土地を所有する地方圏の事業者や富裕層が、今後の“相続税ビジネス”の対象として浮上し始めている。 具体的には、彼らに都心のタワーマンションに資産を付け替えるよう、不動産会社や証券会社、信託銀行などが営業を展開しているというのが足元の状況だ。いわば相続税対策組の第二波を人為的に喚起しているといったところだろうか。 なぜ、地方圏に居住している土地持ち富裕層などに、相続税対策として都心物件の購入を勧めているのか。それは前述したように、都心のタワーマンションは土地の共有持分が相対的に小さく、建物価格のウエイトが大きくなるからという「立地の特性」によるものだ。 建物価格のウェイトの高さが相続税対策に 都心のタワーマンションに富裕層が群がる理由 相続税は、その対象となる資産を評価して算定するところから始まる。その評価は資産の種類によって異なり、仮に現金1億円を相続した場合は評価額も1億円で、この1億円に対して相続税が発生する。これが不動産となると、所有している物件の土地面積や借地権割合、さらに賃貸しているか否かなどによって評価額が様々に減額される(詳細は国税庁のウェブサイト、小規模宅地等の特例「2.減額される割合等」を参照されたい)。 つまり、同じ金額で比較すれば、現預金で資産を持っておくよりも、不動産で持っておいた方が非常に有利だということだ。 例えば、100m2の都心タワーマンションを1億円で購入し、賃貸物件として運用している場合、土地は路線価、建物は固定資産税評価額で評価し、路線価は時価の約80%、資材価格や人件費など建築コストの積算である固定資産税評価額は時価の40〜60%が目安となるため、現金の預貯金や株券に比べると格段に評価額を低くすることができる。 この購入額と評価額との「差額」がそのまま相続税対策となり、評価額に応じて相続税率が掛け合わされるという段取りになる。これは土地+戸建でも同じだが、特にマンションは価格に占める建物の割合が大きいので評価額を下げやすい。一般に高額で、土地の共有持分が小さく、建物価格のウエイトが大きい都心のタワーマンションともなれば、その「効果」のほどがうかがい知れるというものだ。 また、マンションの固定資産税評価額は、同じ棟内であれば住戸のあるフロア、方角、借景などに関係なく「専有面積で一律に決まる」。つまり、階層別効用比が高い高層階や東南の角部屋など、高い価格で流通する住戸ほど節税効果が大きくなる計算だ。上記の例でいうと、物件にもよるが、土地の評価額が約1100万円、建物の評価額が約1400万円の合計2500万円ほどが平均的な評価額だろう。購入額と評価額とのあいだに、実に7500万円もの差が発生するわけだ。 このように相続税対策にメリットが多いと言われ、新築でも中古でも“独り勝ち”の感がある都心のタワーマンションだが、本当に対策として有効なのかの判断は、被相続人の資産規模を正確に算定し、また購入予定のマンションの将来性(=資産価値)を見極める必要もあり、慎重に検討を進めるべきだろう。 安易に物件に飛びつくのは危険 価格下落リスクや諸経費は侮れない 特に都心(および湾岸エリア)には今後、多くの大規模なタワーマンションの分譲が計画されており、中には計画総戸数が3020戸という巨大な物件もあることから、都心立地だからと言って、一概に購入後の価格や想定賃料が将来に渡って高く維持できるという楽観的なシナリオは描けない。 また、物件選びには詳細な条件などを吟味する知識も必要で、都心のタワーマンションを購入しさえすれば大丈夫、という単純な話ではない。マンションを購入すれば、不動産取得税や都市計画税、固定資産税などの各種税金の他、修繕積立金や管理費などのランニングコストが発生することも、しっかりと認識しておきたい。つまり、相続税対策だからといって物件の資産性や収益性を無視することは、決してしてはならないということだ。仮に相続税を1000万円減額できたからと言って、対策として購入したマンションの売却差損が1500万円発生したら、明らかに本末転倒である。 また、想定で400万円程度の相続税が発生するケースで、対策のために自宅2階を2000万円以上かけて改築し、賃貸物件をつくったという例もあることから、どの程度相続税対策する必要があるのかを立ち止まって考えることも、大切なプロセスだ。自分で答えが出せなければ、税理士や司法書士、ファイナンシャルプランナーなど身近な専門家に相談することも検討したほうが良い。この例では、相続税分を生前贈与して将来に備えたほうが、老後の生活資金をより多く手元に残せた可能性がある。 さらに、国税庁も「タワーマンション節税」を黙って見ているわけではない。マンションの建物を固定資産税評価額で評価することは「財産評価基本通達」に明記されているものの、同通達には評価方法が「著しく不適当」であれば国税庁長官の指示によって評価するという趣旨の規定も併記されており、例えば、相続直前に被相続人名義でマンションを購入し、相続発生直後に売却するなどの行為が「租税回避行為」とみなされる可能性も否定できない。 ちなみに宅地についても、相続に関連して宅地分割した場合に、分割後の画地が宅地として通常の用途に供することができないなど「著しく不合理」であれば、分割前の宅地を「一画地の宅地」として課税対象とする旨が注記されているので、同様に留意する必要がある。 消費税と相続税。消費税は誰しも避けて通れない間接税だが、相続税はこれまで富裕者だけが納めるもので、一般にはほとんど関連がない税目だった。今回の改正では、相続税の対象者を増やして「広く浅く」課税しようとの目論見があるので、まずは自分が、もしくは親がその対象となる可能性があるかどうかを調べておく必要はあるだろう。さらに言えば、不動産を活用して相続税を減額する方法は他にもあるから、都心のタワーマンションだけが相続税対策に適しているとの思い込みは早計だ。 いつの世でも不動産は景気対策の目玉であり、課税の対象であり、ステータスであり、資産であり続けている。そのアイコンとしての都心タワーマンションは、購入者と供給サイドの思惑、さらには金融機関や証券会社の思惑までが複雑に絡んで、今後も(少なくとも東京オリンピックが開催される2020年までは)マンション市場の牽引役として注目され続けることになる。 http://diamond.jp/articles/print/62463
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