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ユニクロ柳井社長の非情さ、なぜ真っ当?事業の“ご臨終”=撤退基準明確化の重要性
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141114-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 11月14日(金)6時0分配信
筆者の母校・京都大学から、初のプロ野球選手が誕生した。千葉ロッテマリーンズから2位指名を受けた田中英祐投手だ。10月24日付日本経済新聞によれば、ロッテの林信平球団本部長から挨拶を受けたというが、その会談は15分の予定を大幅にオーバーし50分に及んだという。その時の田中投手の質問が「寮生活」「食事」など多岐にわたったからだというが、その中で感心した質問が「セカンドキャリア」に関する質問だ。
入団前から「引退後の話題」を取り上げているのだが、なかなか日本人のメンタリティでは理解できないかもしれない。筆者は大学院修了後に外資系コンサルティング会社に入社したのだが、内定式や入社式で今後のキャリアについてパートナー(共同経営者)に質問し、同期のコンサルタントと展望を語り合った。パートナーには、「社内の仕組みで、何年くらいでパートナーになることができるのか?」「それをスキップして、もっと早くパートナーのポジションになれないか?」「あなたは、あと何年この会社にとどまるつもりなのか? 次のキャリアの展望は?」などということを聞いた。
特に最後の質問は、一見失礼に見えるかもしれない。しかし、日本企業でいう定年まで勤め上げるパートナーなど、外資系コンサルティング会社では東京事務所のみならず世界を見渡してもほとんど存在しない。99.9%の外資系コンサルタントは、次のキャリアへ進む。60歳の定年まで現役でいるプロ野球選手がいないのと同じである。
多くのモノには「始まり」と「終わり」がある。動物は生を受けそれを全うし、その後、死を迎える。家電製品や自動車も完成後、ディーラーで消費者に購入されその一生を開始し、いずれその役割を全うする。プロ野球選手も球団に入団して活躍後、どこかのタイミングで引退する。
人間は死を迎える前に、家族や周囲のことを考え、遺言書を書く。財産配分を考える。もちろん直前にそれらの意思決定をする人もいるが、まだ元気なうちから財産配分や財産維持・拡大の戦略を考える人も多い。家電製品もしかりで、壊れてから「次、何を買おうかなぁ?」と考える人もいるが、新製品の大幅な機能改善を睨みながら「次はこのタイミングで買い替えよう」と考える人もいる。だから、プロ野球選手が入団前から「引退後」を考えることは、なんら不思議なことではないのである。
●新規事業立ち上げに不可欠な、撤退基準の明確化
同じことは企業の新規事業立ち上げにもいえる。筆者はかつて外資系戦略コンサルタントだった頃、多くの新規事業立ち上げを行ってきたが、日本企業で立ち上げ時に「ご臨終」の姿、すなわち撤退基準を策定する企業は少なかった。製品やサービスの上市のためには、戦略立案担当者と製品開発担当者がタッグを組み、経営陣と相見えながら議論を重ねることになる。そこには上市のための基準、例えば、想定売り上げをいつまでに確保できるのか、生産拡大により利益率がどのように推移するのかなど、さまざまな基準が設定されている。
ところが、「この売り上げを何期連続確保できなければ撤退」「利益率がこの基準を満たさなくなったら撤退」など、製品・サービスを終える基準が明らかになっている企業はほとんどない。その結果、なんとなくダラダラと売れない製品・サービスが継続されてしまうのである。
これは経営陣の怠慢だ。事業レベルでもそうだし、製品・サービスレベルでもそうだが、永遠には継続できない。ほとんどの製品・サービスは自分が携わっている間に終わりを迎える。だから、製品・サービスもご臨終の準備、心構えをしなければならないわけだ。
しかし、ほとんどの経営陣は、新製品・新サービスを展開し、売り上げ拡大を目指すところにしか目がいかない。その結果、戦略立案担当者が撤退基準の話などしようものなら、「このようなハレの良き日に、ご臨終の話などするな」「お前は、売れなくなることを前提に、この製品(サービス)を検討してきたのか」などと、怒られることになるのである。
●売れない製品が山積みになるのを防ぐ
かつて外資系戦略コンサルタントだった頃、製品・サービスの撤退を提言したところ、こういうシーンによく出くわした。撤退すべき製品やサービスの戦略立案担当者や製品開発担当者から、反論が出る。まず、その製品やサービスを上市するところから物語が始まる。多くの取引先に無理を言い、迷惑をかけ、自分の部下がどれだけ苦労して製品・サービスを立ち上げたかということを情感たっぷりに話してくれる。途中、感極まって、目頭にハンカチをやりながら、その製品・サービスに対する愛情を訴えかけてくるのである。
その苦労を垣間見ている経営陣も、思わず情が移り、「まあ、ここまでがんばってきたんだ。まだがんばればなんとかなるかもしれない。もう少しだけやらせてみるか」という判断を下してしまいがちである。そして、担当者は号泣しながら「ありがとうございます。粉骨砕身の覚悟でがんばります」となる。
感情的には理解できるが、ビジネスとしてはまったく理解できない。経営陣の責任は、このような現場の感情論を説得し、ビジネスの論理を現場に徹底させることのはずだ。だから、ここで情に流される経営陣は、経営陣失格である。社長や事業担当リーダーは、ここで防波堤にならなければならない。
世の中に類似製品が溢れる中、製品やサービスの賞味期限は、どんどん短くなってきている。だから、ご臨終の話をしないと、売れない製品・サービスが山積みになってしまう。したがって、製品・サービスを上市する際には、社長や事業担当リーダーが率先して、必ず撤退基準を同時に定めることが必要になる。
●非情=真っ当?
では、どうすれば社長や事業担当リーダーが撤退基準を定められるようになるのか。ひとつの参考例が、ユニクロを展開するファーストリテイリングを率いる柳井正社長のケースだ。柳井社長に対してはさまざまな評価があり、名経営者としての評価がある一方で、「冷徹」「非情」との評価もある。柳井社長は言う。
「事業を始める時には、僕はいつも最終形を考えるようにしている。(中略)誤解をおそれずに言えば、到達できるかどうかはあまり問題ではないのだ」
「泳げないものは沈めばいい」
後者は、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏の言葉を柳井社長が引用したものだ。これを以て、「非情である」という評価がなされていたが、筆者は至極真っ当な見解だと考える。
柳井社長は、事業を始める時に、ご臨終の姿が見えている。だから撤退の判断が早い。1997年にスポーツウェアとシューズの店を「スポクロ」として出店したが、出店から1年も経たずに中止を決定した。ユニクロとの違いを出せなかった、つまりユニクロに対する差別化が機能しなかったからである。
フリースの大成功を収めた後、2001年9月には英国出店を果たした。英国内に21店舗出店したが、03年3月には16店舗を閉鎖。初出店から18カ月での判断である。永田農法での差別化を目指し野菜の流通販売にチャレンジしたのは02年。しかし、04年3月には売上高が事業目標に届かず撤退。
このように柳井社長は、とにかく撤退が早い。それは、ご臨終の基準が明確だからだ。日本企業の経営陣は、柳井社長の判断から学ぶところは多いはずだ。そもそも事業の目標は、次から次へと差別化を実現することである。それが企業の競争優位性を定義するからだ。そのためには、企業の中で少なくとも社長と事業担当リーダーは、事業レベルであれ製品・サービスレベルであれ、ご臨終の基準を明確にしなければならない。感情に流されてはいけない。
個人であれ事業であれ、ハレの門出に終わりの姿を考えるというのは、ちょっと奇妙な気もするかもしれないが、これはリスクマネジメントであり、ポートフォリオをうまく回していくために必要な考え方である。
ロッテの田中投手には、もちろんプロ野球の世界で活躍してほしいが、とてもクレバーな考え方を持っていると感心させられた。
牧田幸裕/信州大学学術研究院(社会科学系)准教授
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