02. 2014年11月14日 07:57:26
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任務を負った安倍首相――行く先は不明 2014年11月14日(Fri) Financial Times (2014年11月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙) 安倍晋三氏が最初に首相を務めた精彩を欠く第1次安倍内閣と、超エネルギッシュで異様に活発な今回の仕事ぶりの対比があまりに著しいため、日本人は同氏を「安倍2.0」と呼ぶようになった。 2年近く前に政治的なカムバックを果たして以来、安倍氏は2007年に終わった最初の惨めな12カ月間の登板の記憶をすべて消し去る任務を遂行してきた。償いをする決意は安倍氏の職務遂行に生まれ変わったかのような情熱を与え、支持者はこれに爽快さを感じ、反対勢力は恐ろしさを覚えている。 生まれ変わったかのような「安倍2.0」 日中外交問題、両国がドイツを引き合いに 就任以来、精力的に外交を展開する安倍晋三首相〔AFPBB News〕 経済的には、安倍氏は20年前に日本経済が停滞に陥って以来最も野心的な経済再生計画に乗り出した。外交上は、1980年代の中曽根康弘氏以降のどの首相よりも積極的に活動し、地域と世界を飛び回っている。 防衛に関しては、日本を憲法の制約から解き放ち、正規軍を持つ「普通の国」としての地位を取り戻すために、過去数十年間で最も組織的な努力をしてきた。 この2週間は、安倍氏の基準からしても慌ただしかった。まず、安倍氏が中央銀行総裁に任命した急進的な黒田東彦氏が、米連邦準備理事会(FRB)が反対の方向に動き出したまさにその週に新たな大規模量的緩和を打ち出し、市場に不意打ちを食らわせた。 日銀が国債購入を増やすことを発表する一方で、日本の巨大な年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は国内株式への資産配分を2倍以上に増やすことを明らかにした。 協調的な政策は即座に影響を及ぼした。日本株は7%上昇し、円相場は対ドルで5%以上下げ、1ドル=115円台をつけた。債券市場は、惨事を予想する声に逆らい、安定した状態を保った。 日中首脳会談もようやく実現 3年ぶり日中首脳会談、「関係改善へ第一歩」と安倍首相 冷たい握手でも、日中両首脳が会談したことは関係悪化の休止を告げる〔AFPBB News〕 次に、安倍氏は今週ようやく、中国の習近平国家主席との会談を実現させた。習氏が権力の座に就いてからの2年間は、安倍氏のそれ以上に力強いものだった。 両氏の仲は悪い。盛んに写真を撮られた握手の際、2人は死んだ魚を扱うような温かさで相手の手を握った。それでも、日中首脳が顔を合わせたことは、危険なほどに悪化する関係の休止を告げた。 中国メディアは、安倍氏が謁見を請い、習氏が鷹揚に取るに足りない人間の願いをかなえてやったように描いた。だが、安倍氏としては、説得力をもって実質的な譲歩をせずに会談が行われたと主張できる。 突如浮上した解散・総選挙観測 3つ目の、ある意味で最も意外なことは、安倍氏が解散総選挙に踏み切るという話が突如浮上してきたことだ。1つの可能性としては、安倍氏が前政権から引き継いだ消費税の追加引き上げ計画から手を引くチャンスとして選挙を利用することが考えられる。 安倍氏は先週、「アベノミクスのゴッドファーザー」である浜田宏一氏と、ぶっ倒れるまで紙幣を刷れという徹底した量的緩和論者の米国人経済学者、ポール・クルーグマン氏と会談した。両氏とも、デフレを完全に打破するために追加増税を見送るよう安倍氏に要請した。 安倍氏は増税すべきか否か本当に決めかねているのかもしれないが、選挙はこの180度の政策転換を達成する1つの方法かもしれない。 もう1つの潜在的な恩恵は、有権者に自分を支持するかクビにするかという選択を迫ることで、まだ相当高いとはいえ低下傾向にある支持率をテコ入れすることだ。活発になった安倍氏は、新たな信任をとことん利用するだろう。 では、こうした動きはどこへ向かうのだろうか。経済的には、日本は今の世代で一番期待の持てる、デフレを終わらせる絶好のチャンスを手にしている。デフレは、決してすべてではないとしても、日本の多くの問題の根本原因だ。 アベノミクスの3本の矢の評価は「A」「B」「E」 2%の物価上昇率を実現することは、王になろうとするマクベスの野望と多少似ている。安倍氏は量的・質的緩和にあまりに夢中になっている――シェークスピアの言うところの「血」にどっぷり染まっている――ため、行くも帰るもままならないのだ。 思い切って試すよう安倍氏を説得したエール大学教授の浜田氏は、金融緩和、財政の機動性、構造改革の3本の矢に、それぞれ「A」「B」、そして「E」の評価を下している。都合よく安倍氏の名前をつづる評価だ。日本が持続可能な緩やかなインフレを実現できれば、半分勝ったも同然だ。潜在成長率の引き上げを目指す構造改革がその後に続くかもしれない。 日本を「普通」の国にする安倍氏の狙いに関しては、結果は恐らくそれほど明確ではない。フィリピン、ベトナム、インドのような国は、より強い日本を歓迎する。日本を中国と釣り合いを取る勢力と見なしてのことだ。 中国政府は、もちろん、そうは見ない。中国政府が安倍氏に、少しでも機会を与えられれば再びアジアを侵略しかねない危険な軍国主義者というレッテルを張ったのは、このためだ。 最大の障害は国内のハードル だが、安倍氏の最大の障害は、国内の障害だ。大半の有権者はまだ、安倍氏の憲法改正の野望に慎重だ。平和主義を規定した憲法9条を捨てることにかけては特にそうだ。 そのような動きは国民投票によって批准される必要がある。これはほぼ確実に越えることのできないハードルだ。安倍2.0の決意がどれだけ固くとも、この戦線では折れなければならないかもしれない。 By David Pilling http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42206 消費税増税延期と年内解散総選挙で株価は弾む 2014年11月14日(Fri) 武者 陵司 安倍首相は明言していないが、もはや年内解散総選挙の流れは、もうほぼ確定的になったといっていいのではないか。そして、懸案となっている2%の消費税追加増税については、1年から1年半程度先送りされる可能性も高くなっている。
消費税増税の延期そして解散総選挙という2つの大きな出来事が、マーケットに一体どういう影響を与えるかということが、おそらくここ1〜2週間の市場における重大な関心事になるのではないか。 消費税増税の延期と解散総選挙に関する見方は、2つに分かれる。 1つの見方は、アベノミクスに批判的な見解を持つ人々の見方である。消費税増税の延期によって、日本や財政の信認が損なわれる。加えて、安倍政権が争点のないまま党利党略により解散総選挙を行うことにより、政治の空白が生まれ安倍政権の弱体化も進む。よって、アベノミクスは失敗し、経済も株も先行きが悪化する。実際、11月12日の(リベラルな主張を貫き安倍政権に批判的な)朝日新聞社説(「解散に大義はあるか」)や毎日新聞の社説(「その発想はあざとい」)では、この解散総選挙は大義がなく、それによって消費税増税延期を推進することに大きな疑問があるというスタンスが見受けられる。 もう1つの見方は、安倍政権やアベノミクスを支持する観点の見方であり、この解散総選挙と消費税増税の延期はポジティブだという結論になる。なぜなら消費税増税の延期によって、景気の下押し圧力は払拭され、この先、日本の経済はデフレ脱却によりいっそう近づくと言えるからである。さらに、今回の解散総選挙には大義がないと言われているが、おそらく安倍政権は、抵抗勢力によって実施の困難を極めている成長戦略や規制緩和の推進を選挙の争点として打ち出すと考えられる。それは、例えば法人税の減税や医療の改革、農業制度や農協の改革などの成長政策について、反対勢力を押し切って推進することが可能になるであろうという期待を高める。 加えて、この10月末に日銀が新たな量的金融緩和を打ち出し、安倍政権と日銀がタイアップしてデフレ脱却に全責任を負うという姿勢も今や明確である。そのような状況の下で解散総選挙を行うということは、アベノミクスあるいは安倍政権への信任投票の意味合いが強い。安倍政権の勝利の可能性が高いと思われ、安倍政権はよりいっそうアベノミクス推進に信認を得て断固としてそれを推し進め、それに反対する勢力は力を失うということが予想される。読売新聞の社説(「課題を掲げて信任を求めよ」と中立スタンス)では、そのような可能性を追求するべきだというニュアンスの主張をしており、解散総選挙や消費税増税の延期は、著しくマーケットにプラスだと考えられる。 おそらく解散総選挙がよりはっきりした時点で、日経平均は急騰し年内に2万円を超えていくような相場が期待できるし、安倍政権が勝利しアベノミクス遂行がより推進力として強まっていけば、来年には日経平均は2万4000円〜2万5000円という水準まで上昇していく展望が開けるだろう。このような株価上昇は、さらに大きなパワーを安倍政権に与えていくのではないか。 今、日本の株式時価総額が約500兆円弱ある。これが2割上がるだけで、100兆円の株価の値上がり効果が実現できるということであり、それの数パーセントが現実の需要に転換しただけでも、大きな経済浮揚効果を与えることが明らかだ。 また、今まで遅延していた円安のプラス効果が、ようやくこれから顕在化することも来年には期待できる。 これについてはすでにレポートしているが、かつての円安の効果は、円安によって輸出数量が増えて国内の生産がよくなり、それが連鎖的な好影響をもたらすという形で、ただちに円安の影響が国内経済を押し上げた。しかし、もはや日本の企業は価格競争をしていないので、円安になっても値段を下げないことにより、輸出数量も増えない。それは何を意味するかというと、円安によって円建ての輸出価格の上昇が起こり、日本の企業は利益増加効果を享受するということだ。 このように円安によって増加する企業利益が今後、企業の賃金引上げや配当の増加、あるいは投資やM&Aの活発化ということによって、経済に好影響を与えるはずである。言ってみれば、ダムに満々と蓄えられている企業利益という水が、これからいよいよ現実経済に配分されるということが起こる。これが来年の前半に期待できることである。 そのような円安メリットの顕在化に、アベノミクスのさらなる推進と一段の株高が起こり、来年から再来年にかけて日本の景気は極めて力強い活力を得るだろう。そういう状況の下で、さらなる消費税増税を仮に2%行うとしても、5兆円程度の負担であれば難なく吸収できるだろう。 日本のデフレ脱却はいよいよ確かであると見えてくることが、この年末の消費税増税延期や解散総選挙が引き起こす展望ではないだろうか。 (*)本記事は、武者リサーチのレポート「ストラテジーブレティン」より「第129号(2014年11月22日)」を転載したものです。 (*)投資対象および銘柄の選択、売買価格などの投資にかかる最終決定は、必ずご自身の判断でなさるようにお願いします。本記事の情報に基づく損害について株式会社日本ビジネスプレスは一切の責任を負いません。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42203
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