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10月31日GPIFがリリースした「中期計画の変更について」。目標リターンありきのもの
GPIFの「株式50%」新運用計画は素人でも許されない無責任な代物である
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/41064
2014年11月13日(木) 山崎元「ニュースの深層」 現代ビジネス
10月31日(金)、日銀の追加緩和とGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の新しい基本ポートフォリオとが発表されて、市場が湧いた。日経平均は1日で7百円以上上昇し、大幅に円安が進んだ。
発表当日は、意外性を伴った追加緩和の影響が大きかったように思われるが、今後、国内株式だけで10兆円以上を買い増しすると予想されるGPIFの運用方針変更の影響は大きい。
■目標リターンありきの無責任な運用計画
GPIFは約130兆円を運用する世界最大級の機関投資家だ。そして、彼らが運用しているのは、日本の厚生年金、国民年金の積立金だ。彼らの運用方針が、それ自体として十分なものなのかどうかは、国民としては知っておきたい問題ではないか。
結論からいうなら、新しい運用計画は、厳密には「素人レベルの運用でもダメ」と評価するべき、残念な代物だ。
10月31日(金)にリリースされている説明資料「年金積立金管理運用独立行政法人 中期計画の変更について」を見てみよう。
この運用計画が根本的にダメな点は、厚生労働大臣の運用目標の与え方にある。「財政現況及び見通し(いわゆる「財政検証」)を踏まえ、保険金給付に必要な流動性を確保しつつ、必要となる実質的な運用利回り(運用利回りから名目賃金上昇率を引いたもの。以下「実質的な運用リターン」といいます。)1.7%を最低限のリスクで確保すること」と資料にはある。
名目賃金上昇率を比較対象にしている点で少し複雑だが、要は「リターン○・○%を確保する、最小のリスクのポートフォリオを作れ」ということだ。
これは、出来の悪いFP(ファイナンシャル・プランナー)などの運用アドバイスにも見られるロジックで、「最小のリスク」が「許容可能なリスク」なのかどうかに関係なく、目標とするリターンを先決している点で、お話にならないくらい無責任な運用計画策定方法である。
■年間22兆5千億円の損失があり得る
同じくGPIFの発表資料より。リスクが当然高まることは書かれているが・・・
リスクについては、後づけで辻褄を合わせたと推測される、「名目賃金上昇率からの下振れリスクが全額国内債券運用の場合を超えないこと。」から始まる、分かりにくい文章がある。
全額債券並みのリスクで、「名目賃金上昇率+1.7%」などという好都合で高い利回りが可能なのかと驚かれる読者がおられよう(それが可能なら、筆者も驚く)。案の定、GPIFのリスク推計値を使うとして、全額国内債券のポートフォリオのリスクは4.7%(年率リターンの標準偏差)だが、出来上がった基本ポートフォリオのリスクは12.8%もある。株式が内外合わせて50%、加えて外債が15%もあるので、このくらいの数字になって不思議ではない。
しかし、基本ポートフォリオの検討では、全額国内債券で運用して賃金上昇率を下回る確率よりも、新しい基本ポーフォリオで運用して賃金上昇率を下回る確率が小さいとして、新しい運用計画を正当化している。株式に高いリターンを設定し、長期間の運用を想定して、コンピューターを回すと、このような結果が出ることは想像に難くないが、これをもって「全額国内債券並み(以下)のリスク」と称することには強い違和感を覚える。
こうなってしまったからくりは、目標リターンが財政検証で想定した長期金利をもとにしたもので、「単なる予想金利の一つ」に過ぎないものが元になっていて、厚労大臣が、これを与えたという杜撰な過程によるものだ。
GPIFの今回の基本ポートフォリオは、経済の順調な推移を想定した「経済中位ケース」を前提としても、名目の期待リターンが4.57%、リスク(リターンの標準偏差)が12.8%ある。金融の世界で良く考えるマイナス2標準偏差のイベントが起こった場合(正規分布を仮定して起こりうる事象の悪い方から2.3%位の位置にある事態)の損失は、マイナス17.37%だ。運用資産を130兆円として、1年間にざっと22兆5千億円の損失が出る場合があり得るということだ。
■下げ相場で「こんなはずではなかった」
この規模の損の可能性があることを許容出来るか否かという点が、検討の出発点で考えられるべきだし、年金財政の側にもフィードバックされる必要がある。本来、「有識者」は、こういった重要な事を指摘するために雇われるはずなのだが、国内株式25%、外国株式25%、外国債券15%、といった、「公的相場操縦」を可能にし、政府を満足させる数字を作る手先として使われてしまったのが現実である。
来年か、再来年か、あるいはその先か分からないが、米国が金融引き締めに転じ、我が国も超金融緩和が終わる時が来ることが予想出来るが、この場合に、単年度で10兆円、あるいは20兆円を超える損失が出ても全くおかしくないのだが、この点を公的年金の加入者が十分に納得しているようには思えない。
相場的には、当面の上昇が楽しみだし、これが年金財政を助ける側面もあるのだが、2,3年以内に来てもおかしくない下げ相場にあって、「こんなはずではなかった」という声が出るのではないかと心配だ。
■こんなポートフォリオを作ってはいけない
また、この基本ポートフォリオの「想定運用期間」を25年としていることにも驚きを通り越して呆れる。
想定運用期間は、与件の変化のスピードと、主に調整コストから決まるポートフォリオの調整スピードが影響するが、いかにGPIFが巨大でも、25年は長すぎよう。せいぜい5年ではないか。
想定期間を長くしたこの影響もあって、基本ポートフォリオからの許容乖離幅がひどく大きく設定されている。国内債券は±10%、国内株式は±9%、外国株式は±8%、外国債券は±4%だ。
内外の株式は標準の50%を中心に加減が36%、上限が64%が可能となるが、裁量の余地が大きすぎて、基本ポートフォリオが運用の基準として機能しないレベルだ。これも、他の年金基金や個人投資家は真似しない方がいい。
日銀が大量に国債を買い入れてくれるので、ポートフォリオを短期間で動かすことが出来、日銀に変わってGPIFが株式や外貨建て資産を買うことで、金融緩和効果も得られる、ということで、当面、国策に沿っている面はある。しかし、国民の年金積立金が過大かもしれない(少なくとも正面から議論されていない大きさの)リスクを抱えて、加えておそらくは高値の株式を抱え込むのはいかがなものか。加えて、GPIFが日本の民間企業の大株主になることの弊害は大きい。
今回のGPIFの運用計画見直しは、運用計画の作り方の点で見ても、経済政策の手段として見ても、適切であるように思えない。
では、どうしたらいいかを一言でいうのは難しいが、そもそも日本の公的年金の積立金は過大であり、公的機関がこのように巨額の資金を運用する必要はない。年金積立金を国民に返すような方向で経済政策の原資として利用しつつ、その規模の縮小を図るのが「まとも」であると筆者は考えている。
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