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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第100回 21世紀の日本のビジョン
http://wjn.jp/article/detail/6747998/
週刊実話 2014年11月20日 特大号
本連載も今回で100回を迎えることになった。記念すべき100回ということで、少し大きな話、すなわち「21世紀の日本のビジョン」について考えてみたい。
現在、世界経済は停滞のとば口(入口)に差し掛かりつつある。
ユーロ経済はデフレ化し、中国の不動産バブルも崩壊のプロセスが進んでいる。「構造改革」に邁進する習近平政権は、恐らくバブル救済策は取らないだろう(そもそも、救済できる規模とも思えないが)。
一時は好調さを取り戻したアメリカ経済も、9月に入り急速に失速。G20において、ジャック・ルー財務長官が各国に政府による需要創出、すなわち「財政出動」を求め、さらにIMFまでもが、
「先進国だけで1兆ドルの需要不足を抱えている」
「今後15年間で世界において6兆ドルの公共投資が必要」
と言い出した。
緊縮財政の権化であり、ワシントン・コンセンサス(米国流資本主義)の先兵であったIMFまでもが「政府による需要創出」を提言し始めたのである。アメリカの(IMFは事実上「アメリカ」であると考えて構わない)驚くべき変化だ。
それにもかかわらず、日本政府は相も変わらず消費税増税という「需要縮小策」に邁進しており、経済指標が発表されるたびに「絶望」の色が濃くなってきている。
10月31日に開催される日銀の金融政策決定会合では、2014年度の実質GDP成長率の予想を、1%から0.6%程度に下方修正する見通しである(本稿執筆時点)。
実質GDP成長率1%の時点で、社会保障と税の一体改革法案の附則18条「実質2%、名目3%」という目標を下回っている。
もっとも、筆者は実際の'14年度の成長率は更に下がり、0%に近づくと考えている。理由は、前回の消費税増税時('97年)の経済成長率が、'97年10〜12月期以降に一気に落ち込んだためだ。
前回の経験を踏まえる限り、現在の「景気停滞」程度の状況が継続すると考えること自体が「甘い」のである。
ちなみに、東大日次物価指数でみると、物価はすでにマイナス1%に落ち込み、消費税増税による物価上昇分が完全に打ち消されてしまった。
本来であれば、すでに安倍晋三政権は消費税の再増税の凍結もしくは先送りを決定し、大規模緊急経済対策が組まれなければならない時期である。
だが、いまだに「消費税再増税」を求める政治家が後を絶たず、経済対策も話し合われてすらいない。驚くべき「政治の怠慢」である。
消費税増税という愚作、失策に邁進するのではなく、日本国を成長、繁栄させるためのビジョンを提示し、政策に落とし込むことこそが、本来の「政治」の仕事のはずだ。
現在の日本は、拡大する所得格差(実質賃金の低下)に終止符を打ち、賃金主導の経済成長を目指す必要がある。
安倍政権が推進するトリクルダウン(富める者が富めば、貧しい者にも自然に富が浸透する)ではなく、国民の所得を増やし、経済全体を押し上げる「トリクルアップ政策」こそが必要なのである。
具体的には、日本国民の安全保障の強化という、政府に求められる「当たり前の目標」を達成するために、財政支出を拡大するのだ。
安全保障には、防衛や防犯、防災に加え、
「安心して高度な医療サービスを受けられる」
「安心して老後を送れる」
「必要な食料やエネルギーが、確実に国民の元に届けられる」
なども含まれる。
要するに、国の安全が守られ、犯罪が少なく、自然災害への備えが充実し、国民が安心して暮らし、ビジネスに勤しむことができる「国家」を目指すのだ。
そのために政府が率先してお金を使い、短期的な問題であるデフレを解決し、さらに国民の所得を「安定的」に増やし、継続的な経済成長を実現するのである。
具体的には、政府が防衛、防犯、防災に加え、エネルギーや食糧の安定調達、さらには医療・介護サービスの充実のためにお金を使い、雇用と所得を創出する。加えて「国民の安全保障を強化する」という形で、当初は政府が消費(自衛官、警察官、消防官などの給与や診療報酬、介護報酬など)及び投資(公共投資)にお金を使い、国民の実質賃金を高める。
所得が安定化し、消費を増やした国民の需要を満たすために、今度は企業が研究開発、技術開発を進め、設備投資を拡大する。最終的には、民需による経済成長路線を取り戻す。
これこそが、21世紀の日本に求められている経済成長のビジョンなのだ。
公共投資について付け加えておくと、現在の日本が公共投資を積み増すことは「需要創出効果」に加え、地方経済の発展を可能とし、首都圏や太平洋ベルト地帯の「非常時(大震災など)」への対応能力(経済力)を向上させることで、「日本国民の安全保障強化(特に、首都圏の住民の安全保障強化)」に貢献する。
さらに、生産年齢人口対総人口比率が低下していき、一人当たりの生産(モノ、サービスの供給)を高めることが必須の日本に「インフラ整備による生産性の向上」という効果までをももたらす。
日本は人口が減少するため「公共投資は不要だ!」ではない。
生産年齢人口が減り、生産性を高めることが経済成長のために必要であるからこそ、インフラ整備に注力しなければならないのだ。それは、皮肉な話だが、現在のIMFが求めている施策でもある。
日本のインフラ再整備を進める際には、企業数と熟練労働者の激減により毀損した土木、建設の供給能力を回復しなければならない。
そのためには、政府が長期的な需要を示し、土木、建設企業の人材投資、設備投資を誘引する必要がある。
「日本国民の安全保障を強化するために、公共投資を含む政府の支出を継続的に拡大する」
というビジョンが掲げられれば、土木・建設企業に安心感を与え、ようやく本格的な人材投資が始まり、若年層への技術継承も進むだろう。
逆に、技術継承ができなければ、日本国はやがては発展途上国化する。世界に範を示すか、発展途上国化するか、現在の日本はまさに「分岐路」に立っているのだ。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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