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特別リポート:滞留する復興資金、被災住民に届かぬ3兆円の恩恵[ロイター]
2014年 11月 7日 18:15 JST
[石巻市(宮城県) 7日 ロイター] - 3年半前の東日本大震災からの復興をめざし、道路や橋や3万戸近い新しい住宅建設などに投じるはずの膨大な国費が、銀行の金庫に眠っている。国から地方自治体に交付されたまま滞留している資金はおよそ3兆円。
その一方で、多くの被災住民が、風雪にさらされる粗末な仮設住宅で4度目の凍える冬を迎えようとしている。66歳になる阿部圭子さんもその1人だ。
阿部さんの自宅は、2011年3月11日の午後に石巻の街を襲った大津波に飲み込まれた。夫と二人、着の身着のままでかろうじて避難はできたものの、一瞬にして住む家を失った阿部さんは、やむなくプレハブ造りの仮設住宅に入居。しかし、とりあえずの避難生活が3年半以上もの長期にわたるとは思いもよらなかった。
「ここを出て、もう一度人間らしい生活ができるようになるまで、歯を食いしばって我慢するしかないね」。仏壇とテーブルとテレビを何とか置ける仮設住宅の居間で、阿部さんは力なく語った。
厳しい冬の到来を不安に思っているのは、阿部さんだけではない。いま被災地域では、何千という避難住民が新しい住まいを確保できるあてもなく、仮設住宅で不自由な暮らしを余儀なくされている。仮設住宅での暮らしは、長くても2年間のはずだった。
使われることなく眠る膨大な国費、そして耐えるしかない被災住民。震災で最も大きな被害があった宮城、岩手、福島各県に対し、国はこれまでに復興資金として約5兆円を交付しているが、その半分以上が各地域の銀行に預金として滞留している。ロイターが銀行の預金データや銀行関係者に取材した結果、その額は復興資金として交付された総額のおよそ60%にあたる3兆円に達していることが明らかになった。
およそ3700人という最大の犠牲者がでた石巻市では約5万6000戸の住居が崩壊などの打撃を受けた。震災後3年間で国から交付された復興関連予算は、同市だけで約4500億円にのぼる。しかし、この6割にあたる2600億円が使われずにいる一方、2万5000人近い被災市民が入居すべき公営住宅の建設は遅々として進まず、完成したのは予定の5%以下にとどまっている。
「お役所にはもう何も期待しない。私たちのことは考えていないからね」。阿部さんは狭い居間の薄明かりの下でこうつぶやいた。
<甘い見通し、急増するコスト>
阿部さんの仮設住宅から車で数分の距離にある石巻市役所の市長執務室。「巨大な震災だったのに、霞が関の役人はまるで平時の出来事だったかのような対応をしている」。亀山紘市長は復興事業に必要な様々な認可をなかなか出さない中央官庁に矛先を向ける。「公共工事が進まないのは、それが一つの理由だ。」
これに対し、復興庁の北村信審議官は「自治体による復興関連の支出のペースはあがってきている。特に心配するような状況ではない」と反論する。だが、復興事業の遅れは否定できず、放置されれば、安倍晋三政権にとって時限爆弾にもなりかねない。
安倍首相は2012年12月に就任する前から国会演説などで復興対策の素早い実施を訴えており、首相になってからも東日本大震災の記念日が来るたびにその誓いを繰り返してきた。「被災地の復興なくして日本の将来はない」。安倍氏はかつて野党党首として福島県を訪れ、当時の民主党政権の対応を強く非難した。
「来年の3月11日にはもっと復興が進み、暮らしが良くなると被災地の皆さんが思えるような、そんな日であらねばならないと私は考えています」。2013年3月、安倍首相はこう語り、その一年後にも同様な言葉を口にしている。「これからの1年を被災地の皆さんが復興を実感できる1年にしていく。その決意であります」。
だが、仮設暮らしをする被災者の新居として建設された住宅は、予定されている2万9000戸の1割にも満たない2700戸にとどまっている。一年以上も前に策定された計画で、政府は来年3月末までに1万5000戸の建設をめざすとしたものの、その目標は1万戸に引き下げられた。
建設が進まない理由の一つは、2020年の東京五輪をにらんで商業施設の建設需要が盛り上がり、作業員が被災地での仕事から流出しているという現実だ。それに加え、資材の値上がりと被災地の土地収用費の上昇も事態の悪化に拍車をかけている。
一方で、政府が当初決めた建設コストの見積もりも的外れな額だった。2011年、復興庁は1戸当たりの標準となる建設費をおよそ最大1700万円として予算計上したが。今年4月には2度目の修正を行い、2330万円に増額された。最初の数字を約40%上回る額だ。
同時に、住宅用地の値上がりも予想外だった。石巻市役所復興政策課の岡道夫課長によると、市が保有する土地はすべて仮設住宅向けに使用したため、公営住宅の建設地として、新たに9000区画の土地取得が必要になった。その結果、市の地価は急騰。昨年は公示地価の上昇率が15%と全国の最高を記録した地区もあった。しかし、市が土地を取得するには、法的な所有者を特定する必要がある。ただ、適正な相続手続きを経ていない土地も多く、容易ではないという。
復興事業が難航しているのは石巻だけではない。宮城県は2016年3月までに1万5000戸の公営住宅を建設する計画を示していたが、今年10月上旬にその期限を2年延長した。県によると、震災後に計画した公共事業の約3割で、1次入札の応札業者がゼロという事態が発生した。震災前、こうした入札不調の比率は3%程度だった。応札に尻込みした建設各社は「採算が見込めない」と口をそろえる。
石巻の復興は一つの市をゼロから作り上げるに等しい大事業だ。東北地方で公営住宅の建設を行っている建設会社、鴻池組の鴻池一季・名誉会長は「近代日本において、これほどの規模のプロジェクトはかつてなかった」と指摘。「建設業界は全体で、震災前の数倍もの仕事を抱えている。人手や機材が足りないもの当然のことだ」と語る。
地元の建設会社、遠藤工業の営業担当者によると、震災前の石巻市には、5階よりも高い鉄筋コンクリートの建物は5棟しかなかった。「いま市内では(こうしたビルが)およそ20棟が建設されている。戦後50年かかった建設工事を、3年で行うようなものだ」とその担当者は言う。
<遅れる計画、出口乏しい滞留資金>
建設計画はさらに遅れが予想され、復興資金の滞留が一気に解消されるめどは立っていない。岩手銀行企画部の勝部隆太郎氏は「政府の定める集中復興期間中に復興事業が完了しないのは確実視されている」と語る。
第一生命経済研究所の嶌峰義清・首席エコノミストも、期間を5年としている政府の復興計画について、非現実的な前提に基づいている、と指摘。「人手不足や建材費上昇、移転する住民間の合意形成の難しさといった問題を踏まえると、予算は5年では使い切れない」と悲観的だ。
その一方で、地方自治体に交付された復興資金の多くが預金されている東北最大の地銀、七十七銀行では、過去3年間に公金預金が4倍に増加、現時点で1兆8000億円に膨れ上がっている。
同行の小野寺芳一総合企画部長は「預金が集まることは悪いことではない」としながらも、「資金流出時期のタイミングが読みずらい」と運用の難しさを認める。結局、短期国債が運用先になり、その結果、同行の国債保有残高は2011年当時に比べて2.5倍の2兆円規模に膨れ上がった。
七十七銀行と同様、自治体からの資金を預かっている他の銀行も国債に投資する例が少なくない。震災後、政府は14兆円規模の復興債を発行した。復興資金を預かる銀行がその資金で国債を購入し、政府の資金調達を助けるという「被災者不在」の資金循環が続いている。
<「私たちは捨てられ、忘れ去られたのか」>
石巻の阿部さんにとって、仮設住宅での冬越えは今回が最後になるかもしれない。春になれば、新しい公営住宅ができる可能性があるからだ。しかし、その建設予定地は9月中旬の豪雨に見舞われ、6人の作業員が水を掻き出す作業に追われた。何件かの家の基礎は出来上がったものの、建設作業が進んでいる兆しはほとんどみられない。土や砂利の山の横で数台のクレーンやトラックが待機状態にある。
避難住民の集会所で数人の女性がテーブルを囲み、自分たちの窮状を訴えた。仮説住宅に3年間暮らす66歳の女性は「私たちは捨てられ、忘れ去られたように感じる。永久にここで暮らせると思われているのだろうか」と言う。67歳になる別の女性は「アパートを支給されたけどそれだけ。それも今ではがらがらだ」と不満を口にした。
石巻市の亀山市長にとって、消えない心配の種は避難住民のメンタルヘルスだ。「多くの人が沈みがちになっていることが心配」と同市長は話す。「健康を損ない、新しい場所に移る意思を失くしてしまえば、大きな問題だ」。
(浦中大我 Antoni Slodkowski 編集:北松克郎、加藤京子、吉川彩)
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http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0IR0PR20141107?sp=true
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