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G20では各国政府間の「不協和」ばかりが浮き彫りになった〔PHOTO〕gettyimages
米・欧・中・日のプロ25人が読み解いた 日本の景気と世界経済 この年末までに起きること
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40962
2014年11月06日(木) 週刊現代 :現代ビジネス
株価も為替も乱高下 次に来るのは「上げ」か「下げ」か
世界恐慌、ブラックマンデー……。歴史を振り返ると、全世界を震撼させる経済危機の多くは「10月」から始まっている。この10月から起こった市場パニックは、悪夢の前兆か、それとも—。
■リーマン以上の大混乱も
急上昇と急降下を繰り返すジェットコースター相場が、世界の株式、為替マーケットを襲っている。
日本でも、日経平均株価が一日に数百円単位で乱高下。投資家たちがパニック状態に陥り、「リーマン・ショック、欧州危機に次ぐ規模の世界経済危機がやって来る」といった不吉な予測まで飛び交っている。
「世界各国が多様に絡み合うグローバル時代においては、どこかの国で起きた一つの問題が、あっという間に世界中に伝播して複雑化してしまいます。その結果、世界経済の不透明度は増し、現在のようなマネーマーケットの混乱が起きやすくなっているのです」(スタンフォード大学アジア・米国技術経営研究センターでディレクターを務めるリチャード・ダシャー氏)
実際、世界を見渡せば「爆弾」はいくつも転がっている。その一つ一つが破裂するかどうかを仔細に見極めずにして、経済の未来は読み切れないということだ。
では、世界で、日本でいまなにが起きているのか、これからどうなるのか—。本誌は米国、欧州、中国、日本の経済に精通するプロ25人に緊急取材を敢行。結果をまとめたのが次ページの表である。
まず気がかりなのは米国経済だろう。
そもそも、今回の世界のマーケットの混乱のきっかけを作ったのは米商務省が発表した小売統計だった。
米国経済はリーマン・ショックの痛手からやっと本格的に復活したと見られていたが、そこに水を差すような統計結果が発表されたことで投資家が資金逃避を開始した—というのが、日本のマスコミでよく聞かれる「解説」だが、ルービニ・グローバル・エコノミクスでシニアディレクターを務めるシェリル・キング氏はこう指摘する。
「確かに米国の小売売上高は落ちましたが、実はそれほど驚くべきことではありません。前月比でマイナスという数値でしたが、これも前月の数値が高すぎたことを思えばそれ自体は悪すぎる値ではないからです。実際、米国ではガソリン価格の下落によって、消費者が自由に使えるカネは増えている。現在の米国の購買力レベルは、米国が年間4%ほどの成長力を維持できるほど力強いのです」
では、なぜ米国株は急落したのか。ニューヨークでヘッジファンドを運営する堀古英司氏は「あくまで調整が起きただけ」と言う。
「リーマン・ショック以来、大きな調整がなかった米国の株式市場に、やっと健全な調整が起きたということです。なぜこのタイミングで起きたかというと、投資信託の決算などがあり、市場に『買い』が入りにくい状況にあったからです。調整は株式市場にはつきものなので、今回の『下げ』はマーケットが健全に機能している証拠ともいえます」
確かに、米国経済の復活を示すように、FRB(連邦準備制度理事会)は景気を下支えするために行ってきた大規模金融緩和「QE3」を10月中に終了する見込み。さらに来年にはFRBが利上げに踏み切るとの観測も出ており、これもまた米国経済の力強さを裏付けるものといえる。
一方で、経済が回復途上にある中でQE3終了&利上げに踏み切れば、再び経済を冷え込ませるリスクがあるのもまた事実。NY在住の投資銀行家である神谷秀樹氏は、「リーマン・ショック以上の大混乱が起きる危険性がある」と指摘する。
「金融の量的緩和は、『投機』には資金供給をしましたが、実体経済を回復&成長させる『投資』にはほとんど回っていません。結果、投機筋が莫大に資産を膨らませ、企業も借金しての自社株買いで株価を吊り上げた一方で、学生ローンを抱えて大学を卒業した若者たちが家も買えない。金融緩和を止めると言った時に、この矛盾をどう乗り切るのか。登った山の下り方を間違えれば、経済全体が大遭難する可能性があります」
米国経済については、金融政策転換の影響を見極めることが重要になる。
では、米国に次ぐ世界第2位の経済大国となった中国はどうか。
■またギリシャで何かが
中国国家統計局はこのほど、7−9月期のGDPが前年同期比7・3%増だったと発表。5年半ぶりの低成長という「大減速」が明らかになったばかりで、年末に向けて10−12月期はさらに下回る可能性すら指摘されている。しかし、意外なことに識者たちは「想定内」と口を揃える。中国人民大学財政金融学院副院長の張傑氏が言う。
「中国は経済構造の転換を進めている真っ最中です。これまで経済を牽引してきた輸出や不動産投資に代わり、内需主導型の経済に変革しようとしています。改革の過程で経済成長率が従来より低くなるのは仕方がないこと。今後5年間は、中国の潜在成長率は従来の8~10%から6~7・5%まで低下するでしょう」
亜細亜大学大学院の范云涛教授も言う。
「いま中国では、『高級レストランはガラガラで、刑務所は満員だ』というジョークが流行っています。習近平が汚職を厳しく取り締まっているためで、共産党幹部が汚職を疑われるのを嫌って高級店に行かなくなっているわけです。こうした改革の成果はすでに出ていて、直近で都市部での新規雇用者が1000万人を超えたのは、重厚長大からサービス業への産業転換がうまく進んでいる証拠です」
中国経済最大の懸念は、不動産市況の悪化が経済の足を引っ張っていることにある。経済ジャーナリストの陳言氏は、「10月は北京では最も住宅が売れる時期ですが、今年は昨年と比べて十分の一ほどしか売れていません」と言う。
ひとまずは年末に向けて、不動産市況が悪化する速度を超えて、「次の一手」となる改革を打てるかどうかが中国経済の今後を左右することになりそうだ。
そんな中国を最大の「取引先」とする欧州経済も振るわず、いまだ欧州危機から立ち直れないでいる。
「ECB(欧州中央銀行)は、通貨ユーロの安定性を維持することを任務としているため、欧州発のリーマン・ショックのような事態が起きないように大手銀行の監視を強化しています。しかし、日本の不良債権処理が遅れたように、南欧諸国の競争力回復という抜本的な解決が先送りされているのが問題です。実際、スペインなど不動産バブルを抱えた国では不良債権が膨らんでいる。欧州版の『失われる10年』が始まったともいえます」(在ドイツ・ジャーナリストの熊谷徹氏)
それだけではなく、いま再びの「ギリシャ・ショック」すら囁かれている。
「欧州圏では、ドイツへの反発が強まっています。最悪の場合、EUを崩壊に導く政治紛争に発展し、新しい恐慌をもたらしかねません。そのトリガーを引く可能性があるのが、来年に総選挙が行われるギリシャ。シリザ(急進左派連合)が来春の選挙に勝利すれば、他国にも同様の動きが伝播してしまうかもしれません」(英エコノミスト誌元編集長のビル・エモット氏)
見てきたように、危機の火種はいくつもある。そのうち一つでも発火すれば、それが世界中に一気に広まり、日本にも火の粉が飛んでくる。そんなリスクイベントが年末までの間だけでも、ごろごろ転がっているのだから恐ろしい。
もちろん、日本経済それ自体にも「爆弾」は仕掛けられている。最大の爆弾は、今冬に決定される消費税の10%への増税である。
マーケットバンク代表の岡山憲史氏が言う。
「政府や一部の専門家は、増税しないと日本国債が売り浴びせられると脅していますが、ひどい詭弁です。実は米国の大手格付け会社ですら、『景気悪化をもたらしてまで消費増税するのは、財政再建の観点からも間違い』と断言しています。米国のルー財務長官も、『日本の成長には失望させられている』と言及している。増税は経済が過熱化した時にやるというのが世界の常識なのです。安倍政権がそれでも増税を決めれば、円高と株価下落が加速。すでに疲弊している地方経済は壊滅的な打撃を受けて、日本がデフレ不況に逆戻りする危険性もあります」
RPテック代表の倉都康行氏もこう指摘する。
「そもそも4月に8%へ増税して以降、日本経済は明らかに下り坂に入っています。急速な円安による物価高が生活苦を助長している中で、さらに10%に増税すれば、不況なのに物価ばかりが高くなるスタグフレーションに陥るでしょう」
■一番危ないのは日本
安倍政権は大臣辞任による政局不安を受けて、消費増税をこれまでほどには声高に主張しなくなってきた。が、麻生太郎財務相が「国際公約」だと主張するなど、増税が既定路線であることに違いはない。
こうした中で、政府は「腹案」として、増税を断行すると同時に、日本銀行の黒田東彦総裁とタッグを組んで、さらなる追加の金融緩和を行うというシナリオを構想。アベノミクス「第一の矢」で株価を押し上げた時の成功体験を再現して、それで増税の副作用を帳消しにできると考えている。だが、そんなものはまやかしの経済政策に過ぎない。
「日本でいま進んでいるのは、資産を持つ人と持たない人、都心在住者と地方在住者の格差の拡大です。二極化が進む中で、一部の『持つ者』にしか恩恵がない金融緩和はまったく意味がありません。ましてやそこで消費増税ということになれば、残りの大多数の人たちは大きな経済的なダメージを受けることになる。主婦を中心に財布の紐が固くなって消費は一気に冷え込むし、特に安倍総理が力を入れたいという地方経済は大打撃を受けるでしょう。海外の投資家はこうした事情がわかっているから、たとえ金融緩和をしても、株価すら上がらないという事態も考えられます」(経済アナリストの中原圭介氏)
10%増税の際には、追加の金融緩和だけでなく、なりふり構わぬ財政の大盤振る舞いも実行される見込みだが、これも無意味だ。
「アベノミクス第二の矢で公共事業を増やしたことで、すでに人手不足が生じています。五輪特需もある中で、さらに建設業界への財政バラマキを増やしても景気向上には大して効果的なものは生みません。公共事業で景気維持というのは楽観的な物語でしかありません」(ニッセイ基礎研究所専務理事の櫨浩一氏)
そもそもアベノミクスは、金融と財政のバラマキで短期的に経済を押し上げている間に、日本が抱える構造的な問題に取り組むのが本来の狙いであった。しかし、利権を手放したくない政治家や官僚が構造改革には手をつけず、抜本的改革を後回しにした。そうこうするうちに、「打つ手の選択肢がどんどんなくなってきた」(BNPパリバ証券投資調査本部長の中空麻奈氏)ことがばれてきて、海外投資家たちがアベノミクスへの不信感を募らせ始めた。現在の株価低迷の背景にあるのは、こうした日本経済の真実なのである。
「これから日本経済に起きる最悪のシナリオは、アベノミクス不信に端を発する『日本売り』です。それが一旦起これば、日本株、円、日本国債すべてが売られるトリプル安が始まるのです」(マーケット・アナリストの豊島逸夫氏)
米欧中も発火寸前の火種を抱えているが、実は最も危ないのは、アベノミクスが失敗しかけている日本そのものなのかもしれない。
「週刊現代」2014年11月8日号より
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