08. 2014年11月06日 06:53:26
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【第69回】 2014年11月6日 田中泰輔(ドイツ証券グローバルマクロリサーチオフィサー) 米国の堅調な景気と緩やかな金利上昇で来年1ドル=120円 米国経済は来年も再来年も3%を超える成長となり、自律回復が続くだろう。 欧州経済は、2年間の景気後退の後、今年0.7%、来年1.0%、再来年1.4%と、重たい足取りながらもプラス成長を見込む。 拡大画像表示 中国の予想は同7.3%、7.0%、6.8%。もっともこれは、中国当局が新たな安定成長を模索する過程での景気循環上のソフトランディングと考えている。堅調な米国の先導と欧州・中国の落ち着きにより、新興国を含む世界経済全体が同3.2%、3.7%、3.8%と成長ペースを上げる展開がメインシナリオである。 この予想通りなら、世界は今後も何とか緩やかなリスクオン環境が続き、ドル円相場は2015年を通じて上昇基調が続くだろう。ただし、けん引役の米国経済拡大が世界景気改善をどの程度サポートするかで、相場の景色が微妙に変化することには注意が必要だ。 それは米国経済が堅調な一方、米国以外の世界経済が巡航成長ペースに満たないケースである。世界需要が伸び悩む状況で、ドル独歩高となれば、ドル表記される資源価格はその分下落しやすい。 それが経常赤字の資源輸出国の経済見通しを悪化させ、リスクオンを単純に追求しにくくなると、ドル円の上昇ムードに水を差すことになるかもしれない。米金利の上昇が早まる展開が重なると、株式や新興市場の動揺を招き、ドル円は調整することになるだろう。 逆に、米金利が低位にとどまるなら、この種の動揺を緩和する一助になる。しかし、その時点で米国の経済成長が2%前後かそれ以下へと減速している場合、世界経済は回復へのけん引役を見失う。このケースにおける金利低下は、米景気回復の頓挫を印象付けるだけだ。ドル円は反落する。 もっとも、米金利上昇が株式などリスク市場、ドル円の上昇トレンドをくじくリスクを過大視すべきではない。自律回復メカニズムが動き始めた米国経済は、複数年にわたり拡大経路をたどるとみている。 また米政策金利は16年末でも長期的に景気中立とされる水準3.5〜4.0%にも届かないと市場は織り込んでいる。米国・世界経済がしっかり、米金利が緩やかに上昇、この展開こそがドル円強気派にとって最も望ましい。 堅調な米国経済が世界を支え、米金利の緩やかな上昇がドル円の上昇トレンドを支え、今年末112円、来年末120円へと値を上げていくというのが基本シナリオだ。これを軸に米国と米国以外の成長ペース、米金利の先高観、株価をその都度考量して、道筋の修正を加えていけば、相場の大局を外すリスクを抑えられるはずだ。 (ドイツ証券グローバルマクロリサーチオフィサー 田中泰輔) http://diamond.jp/articles/-/61713
田中秀征 政権ウォッチ 【第256回】 2014年11月6日 田中秀征 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授] 日銀追加緩和は意図に反する結果をもたらす!? 米国の量的緩和の終結、日銀の追加緩和、年金資金の株式運用比率の拡大。想定外の三段ロケットが立て続けに炸裂して、株式、為替市場に衝撃的な異変が起きている。 11月4日、日経平均株価は7年ぶりに1万7000円を回復、円相場は1ドル114円台の円安を記録した。 世界は、金融緩和の旗手としての米国が手放したバトンを日本が継承して走るのだと受け止め、同時株高で大歓迎したのである。 だが、今回の黒田東彦日銀総裁の“英断”にはいくつもの問題や疑問がある。 消費再増税や年金運用見直しとは 本当に無関係なのか (1)まず、追加緩和が何を目指しているのか、政策目標が定かではない。 黒田総裁は記者会見で「2%の物価上昇率目標の達成を確実にするため」と語った。確かに昨年の異次元緩和の出発点で、総裁は「2年で2%」の物価上昇の実現に強い自信を示した。しかし、衆目のみるところその実現は危うくなっている。それに、追加緩和によってその実現が保証されるわけではない。これでもし目標達成が不首尾となれば、一体どうやって誰が責任をとるのか。それに、政策決定会合では、賛否が5対4であったと言う。政策効果の判断にこれほどの異論があるのに強行して大丈夫なのか。 また、記者会見で黒田総裁は消費再増税との関係について問われ「全くない」と否定した。しかし、予定通りの再増税にこだわる財務省の強い意向を受けた決定とみるのが自然だろう。 (2)米国、あるいは財務省、厚労省との何等かの意見調整はあったのか。 米国はともかく財務省だけでなく厚労省とも事前の調整はあったに違いない。 塩崎恭久厚労相は、追加緩和について「衆院本会議を出てきてから初めて知った」と語り、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用方針の改定とは「全く関係ない」と強調した。 だが、日銀の国債買い入れ増額規模とGPIFが手放す国債が共に30兆円と合致しているのを単なる偶然と言うのは無理がある。いよいよ日銀は財務省の従属機関に成り果てるのだろうか。 大企業と中小企業、大都市と地方…… 多面的な経済格差進行の恐れも (3)もちろん、日銀が今回の決定で目指しているのは設備投資と個人消費の順調な増加だろう。しかし、そうはならない可能性が高いのではないか。むしろ大量の資金の大半が株式や不動産市場に流入し、資産バブルを招く恐れは消えない。 個人消費では、急激な円安によって国民生活を一段と圧迫することになれば、消費税再増税は逆に一層困難になるだろう。むしろ、そうなる可能性が高いように思う。 (4)多面的に経済格差が拡大し、“中間層”不在の社会構造の形成を助長する恐れがある。 現在の日本では、おおむね五段階の経済格差の拡大が進行している。 (A)大企業と中小企業、(B)製造業と非製造業、(C)輸出産業と内需産業、(D)大都市と地方、(E)資産家と一般人。いずれも前者が伸長してその差を拡大する傾向にある。それをさらに助長しているのが大がかりな異次元の金融政策ではないか。 (5)そもそも金融政策が実体経済を牽引しようとするのは本末転倒ではないか。その効果にはおのずから限界がある。黒田総裁は“物価上昇率2%”のために「できることは何でもやる」と豪語するが、無理をして失敗に終わったらどうするのか。有効な出口戦略を持たずに突進すれば二度と引き返せなくなる。少なくとも金融政策の展開は、意地を張らずに戦々兢々と進めてほしい。「カーブの終わりをよく見て走る」べきだ。そうでなければ、追加緩和は意図に反する結果をもたらす。 http://diamond.jp/articles/-/61678
山田厚史の「世界かわら版」 【第72回】 2014年11月6日 山田厚史 [デモクラTV代表・元朝日新聞編集委員] 金融緩和の蟻地獄にはまった日銀 円安・株高「宴の後」に迫る危機 世は妖怪ブーム。ハロウィーンの日、黒田日銀の「追加緩和」という妖怪が飛び出した。市場はビックリ。円相場は1ドル=113円を抜け、東証ダウは一時1万7000円を突破。NY,ロンドン、東京とマネーの熱狂が地球を回った。 妖怪は倒れそうなアベノミクスを抱き起そうというのだ。今よりきつい劇薬を飲ませ「国債をすさまじく買うぞ」「株や不動産も買い上げるぞ」と宣言した。こんなことをいつまでやるつもりなのか。株高も円安も、日本経済の回復にはつながらないことはこの一年の実績が語っている。 政権に中央銀行がひざまずく 妖怪は「もっとやればそのうち効くさ」とうそぶくが、劇薬は覚せい剤のような副作用がある。大量投与は日本経済の健康とモラルを破壊する。真っ先に問われるのが日銀のモラルではないか。「通貨価値を護る」という使命に目をつむり自国通貨の下落を煽り立てる。「マネタイゼーション」と呼ばれる事実上の国債の日銀引き受けがより強まる。「これだけはしてはいけない」と言われてきた非常識政策の総動員。忍び寄る最悪の事態を意識しつつ、政権の延命に中央銀行がひざまずく姿を、この際しっかり見ておこう。 黒田日銀総裁が明らかにした追加緩和は、マネタリーベースと呼ばれる銀行への資金供給を、これまでの年間60〜70兆円から80兆円に拡大する。50兆円を目標にしていた長期国債の買い入れを30兆円増やし80兆円にする。株価指数に連動する上場投資信託(ETF)と不動産投資信託(J‐RIET)の買い上げを3倍に増やす。 金額が大きすぎてピンとこない人も多いだろう。公正な価格形成が行われるべき市場に日銀がお札を刷って猛然と介入する。年間80兆円のカネを民間に吐き出し国債の値段を上げ(長期金利を下げる)、東証株価を上げ、不動産価格も上げようというのである。 長期金利や株価は、日銀の仕事ではなかった。景気回復・デフレ脱却のためなら手段は選ばない。効き目がないならもっとやる、というのが今回の追加緩和だ。無理矢理でも、見せかけでも、株価が上がり長期金利が下がれば国内の投資は活発になる、という筋書きを突き進む。 これは蟻地獄ではないのか。日銀が買うことで債券や株の市場価格が維持される。日銀マネーに依存した上げ底の価格が形成され、買いが止まれば国債も株も値下がりする。日銀は、ひたすら足を動かし、這い上がろうとするアリのように市場にカネをつぎ込む。足が止まれば餌食になる。 バブルで空いた穴をバブルで埋める 蟻地獄はアメリカで現実になった。米国の中央銀行である連邦準備制度理事会(FRB)は、リーマンショックでペシャンコになった景気を立て直すため、2008年から国債やMBS(住宅債券)などを市場から買い上げて資金を放出した。「金融の量的緩和」である。波状的に3度行い、つぎ込んだ資金は4兆8000ドル、日本のGDPをしのぐすさまじい額になった。 おかげでNYダウは史上最高を更新し景気が好転したかのように見えるが、その陰で「不健康・不道徳」が問題になっている。 国際通貨基金(IMF)はこのほど発表した国際金融報告書で、米国には当局の監視が及ばない投資ファンドやシャドーバンキングが多数あることを指摘し「金融市場を揺るがしかねない脅威になっている」と警告した。 FRBが吐き出した4兆ドルは、ウォール街の株式や債券だけでなく中南米、アフリカ、東欧など新興国の株式市場まで潤した。 2012年9月から始まった第3波の量的緩和(QE3)は、2013年12月まで月間850億ドルの資金を放出した。 「バブルで空いた穴をバブルで埋める」という政策といわれる。リーマンショックで深手を負ったのは銀行や証券会社。経営破たんや金融機能のマヒが心配され、潤沢な資金を流し込むことで危機を回避した。 だが、カネは正しい使い方をされるとは限らない。自動車の好調な売り上げを支えているのはサブプライム自動車ローンといわれる。緩和マネーが返済の危ぶまれる所得層に流れ、次の事故が心配されている。怪しげな投資ファンドや「影の銀行」が跋扈し、またしても金融危機の引き金になりかねない事態を招いているのだ。 危ないことは永遠に続かない。模索されたのが「出口」だった。金融がおかしくなる前にマネーの蛇口を締める。FRBは緩和マネーを2014年1月から月100億ドルずつ減らし、10月末に量的緩和を終了した。新たなカネヅルができたからである。 黒田日銀の金融緩和である。欧州中央銀行(ECB)の量的緩和も始まる。米国が蟻地獄から抜けるのは「お後の用意ができた」からである。 米国足抜けの後を埋める マネーに国境はない。日本と欧州が緩和マネーをどんどん吐き出せば、米国や新興国の株式市場は暴落を避けることができる。黒田日銀のハロウィーン緩和は、FRBの抜けた穴を心配する各国の株式市場を勇気づけた。 「ジャクソンホールの密約」という噂が市場で取りざたされている。8月下旬、米国ワイオミング州の保養地ジャクソンホールで金融セミナーが開かれた。各国の中央銀行総裁が集まる会議の裏で「米国が量的緩和を終えた後、不足する資金を日・欧が埋める、という密約が交わされた」いうのである。 当局者は否定するが「密約があろうと無かろうと、そうなるだろう」というのが市場の受け止め方だ。ハロウィーン緩和は密約を裏付け、次はECBの出番とウォール街は好感している。 バトンを渡された日銀は蟻地獄に足を踏み込んだ。資金を止めれば日本だけでなく世界の株価まで動揺する。危ない役割を引き受けた黒田総裁の正気を疑う。米国には「日本の肩代わり」という出口があったが、日本にはない。 「国際協調」と謳われる政策の連携は、強い国が弱い国に「損」を押し付けるときのうたい文句でもある。 1985年にドル安への協調を謳ったプラザ合意は、1ドル=230円台だった円ドル相場を1年で150円台にまで追い込んだ。円高でありながら米国へ資金が流れるように、日本は金利引き下げを強いられ、超低金利の中でバブル経済に突入、その崩壊が長期停滞へとつながった。 自動車、半導体、鉄鋼の自主規制も貿易摩擦解消のための国際協調だった。 安倍首相が、「アメリカがやっている金融の量的緩和を日本もやろう」と言い出した時、歓迎したのは米国である。前任の白川総裁が慎重だった「異次元の緩和」に黒田総裁が踏み切り、ウォール街はその決断を讃えた。米国で評判のいい“クロダ”は、米国の金融界に都合のいい人物だった。 量的緩和をいつまでも続けていれば、FRBに米国債や住宅債券が滞留してしまう。値下がりする危険のある金融商品を抱えるのは不健全だ。緩和マネーで怪しげな投資ファンドや影の銀行を儲けさせるのは不道徳でもある。市場を混乱させずに足抜けしたい。その時ニューマネーを注いでくれる忠実なパートナーとして黒田総裁は歓迎された。 日本にとってバブル崩壊は「第二の敗戦」だった。金融の蟻地獄は「第三の敗戦」にならないといえるだろうか。 市場が囃す「ダブルバズーカ」 メディアを賑わす追加緩和への発言は概ね「肯定的」でヨイショも目立った。その中で目を引いたのはBNPパリバ証券チーフエコノミスト河野龍太郎氏のコメントである。 「国の借金を中央銀行が引き受ける『マネタイゼーション』の色彩が強まった」(日経新聞)。核心を突いている。 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が11月から運用資産に占める株式の比率を高める。これまでGPIFの運用は国内債券(主に国債)が60%で国内株12%、外国株12%だった。それを国内債券を35%に減らし、国内株・外国株の比率をそれぞれ25%に引き上げた。 GPIFの資産規模は132兆円。新たに株式に流れ組む資金は内外併せて34兆円程度になる。債券を売って株に乗り換える。国債が放出されれば、長期金利は上昇する。「市場で売られる30兆円の国債を日銀が肩代わりするのが今回のスキーム」と河野氏は見る。 30兆円ものニューマネーが流れ込む株式市場は大歓迎だ。GPIFだけではない。日銀もETFの保有を3倍増させる。東証の指標銘柄に買いが入る。市場は「ダブルバズーカ」と囃したてた。 日銀の支援を受けて米国は量的緩和を終了し、ゼロ金利の解除が視野に入った。金利は上がっていく。日米の金利差は開く、との思惑からドルが買われた。蟻地獄から這い出る米国を助け、自らが蟻地獄に落ちた日本の円が売られるのは当然だろう。 再増税実施を迫るメッセージ 今でも黒田総裁や安倍首相は「円安は日本経済にプラス」と考えているのだろうか。 安倍首相がどこまで知らされているかは分からないが、日銀総裁は背筋が寒くなっていることだろう。 円札の価値を裏付ける日銀の資産に国債や株式がどんどん増える。国債金利は史上空前の低金利である0.4%台。つまり国債価格は極めて異常な超高値になっている。金利が反転すれば暴落の恐れさえある。 いまの株式市場は政権の都合で「腕力相場」の様相を呈している。GPIFや日銀など総動員体制で株価を上げているが、不自然な価格形成は長続きしない。 急落すれば日銀の膨大な損が出て、お札の価値が危うくなる。 こんな事態を招かないために「日銀の政治的独立」が大事とされてきた。自民党が政権に復帰し、安倍首相の周辺から「日銀の政治的独立はいらない」という声が上がり、首相のお眼鏡にかなった黒田総裁が就任し、日銀は政権のサポーターになった。 これから何が起こるのか。中央銀行が政権のシモベになり、政府が発行する国債をせっせと買い取る「マネイゼーション」が進むだろう。中央銀行にとって地獄への道である。 黒田総裁は「歴史に残る悪総裁」にはなりたくない。地獄への道を断ち切るには「国債発行の抑制・財政再建が必要」と、ことあるごとに述べている。財務官僚でもあった黒田総裁は「予定通り消費税10%」を主張している。危ない橋を渡って政府に協力するのは、消費税の再増税を予定通り行う環境つくりが必要と考えているからだ。「日銀が不健全なことをとことんやるから、財政を健全にしてくれ」というメッセージでもある。 安倍首相は年内に消費増税の可否を決定するという。政府が選んだ有識者が官邸に呼ばれ意見を聞かれている。巷では景気回復を実感できない人がほとんどだ。株高の恩恵は大企業や富裕層だけ。円安はグローバル企業を喜ばすが、庶民は物価高に悲鳴を上げる。実質所得は17ヵ月連続して下がったまま。化けの皮が剥がれたアベノミクスを取り繕い、見せかけの経済をよくして消費増税にこぎつけたいというのが黒田総裁の本音だろう。 「消費増税は世界への公約」「増税は社会保障財源などに組み込まれ今更止めるわけにはいかない」という声が財務省を中心に吹き出ている。 「予定通り進まなければ債券市場などに不安定な動きが出かねない」。黒田総裁は慎重に言葉を選びながら、国債暴落の恐れを警告する。日本政府が財政健全化を放棄したと見なされれば円安に拍車がかかる。最悪のシナリオは、国債と日本円が抱き合って暴落する「日本売り」だ。 下降する景気をさらに悪化させる増税か、破局の危険を覚悟して回避するか。どちらも選びたくない選択が待ち受けている。 http://diamond.jp/articles/-/61677 |