03. 2014年11月06日 07:56:55
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日本からユーロ圏への警告 2014年11月06日(Thu) Financial Times (2014年11月5日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)復興支援で低利融資、被災地の金融機関に 日銀 異例の僅差で追加の金融緩和を決定した日銀〔AFPBB News〕 日本はもう、当事者全員の総意によって運営される国ではない。 少なくとも金融政策についてはそうだ。日銀の黒田東彦総裁は先週、政策委員会の委員9人のうちわずか5人の賛成を得ただけで、さらに大規模な「量的・質的金融緩和」を打ち出した。 この計画によれば、日銀は今後、日本国債を年間80兆円のペースで購入する。日本の国内総生産(GDP)の16%に相当する金額だ。 これにより、日銀のバランスシートの対GDP比は、80%という水準に向かって急上昇する。この比率で言うなら、米連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)、英国のイングランド銀行よりもかなり大きなバランスシートを擁することになる。また、日銀は買い入れる国債の平均残存期間も7〜10年に延長するとしている。 また、日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、基本ポートフォリオに占める国内債券の割合をこれまでの60%から35%に減らす一方で、株式(国内および外国)の割合をこれまでの24%から50%に引き上げる方針を明らかにした。 この結果、GPIFは日本株の保有額を900億ドル、外国株の保有額を1100億ドル、それぞれ増やすことになる。また、日銀は、GPIFが保有する日本国債を購入することによって、この株式購入の資金を間接的に供給することになる。 日銀の追加緩和の効果は? 日銀は今回の決断の正当性を次のように主張している。「物価面では、このところ、消費税率引き上げ後の需要面での弱めの動きや原油価格の大幅な下落が、物価の下押し要因として働いている」。その結果、「これまで着実に進んできたデフレマインドの転換が遅延するリスクがある」という。 では、日本のしつこいデフレを終わらせようという今回の強化された取り組みは、果たして成功するのだろうか。この問いに答えるためには、直接的な効果とシグナルの発信とを分けて考える必要がある。 GPIFによる株式の購入は大規模かもしれない。しかし、日本国債への投資を民間企業の株式への投資に切り替えることが大きな成果をもたらすとは考えにくい。 「日銀が升酒持ってきた」 追加緩和受け株価上昇 10月31日、日銀本店で追加緩和について記者会見する日銀の黒田東彦総裁〔AFPBB News〕 また、中央銀行が供給する資金は利子が付かず償還もされない政府債務と考えることもできるが、現在の日本国債10年物の利回りは0.5%にも満たない。 従って、この2種類の政府「債務」の差はわずかだ。日銀がいずれ金融緩和政策を転換するつもりであることを考えれば、特にそうだ。 そのため、日銀の取り組みがもたらす効果の主力は、シグナルの発信の方になる。今回の決断は、日銀の真剣さを強調することを意図したものだ。しかし、政策委員会の会合で委員の票が割れたことは、日銀が発信しようとしているシグナルの効力を低下させ、決断のインパクトも弱めるに違いない。 政策のひどい過ちの結果との格闘 日銀は今、自らがかつて支持した政策のひどい過ちの結果と格闘している。今年、消費税率を引き上げることにした決断は間違いだった。第1に、タイミングが悪かった。期待インフレ率が年率2%に上昇するという望ましい動きが確立される前に税率を引き上げたからだ。 第2に、日本は民間部門の消費が少なすぎ、かつ民間部門の貯蓄が多すぎる国なのに、民間部門の貯蓄ではなく消費の方に税を課してしまった。第3に、民間部門の過剰貯蓄をもたらす構造的な要因、すなわち民間非金融法人部門の慢性的な資金余剰(粗利益から投資を差し引いた残り)には手がつけられなかった。 バブル経済が崩壊した1990年代初め以降の日本は、民間部門が膨大な資金余剰を生み出し、これを財政赤字と資本の純輸出で吸収するという構図になっている。また今では、この資金余剰のほとんどの部分が民間部門で生まれている。 政府が景気を再度落ち込ませることなく財政赤字を減らせるようになるのは、唯一、他部門において収入に対する支出の割合が高まる場合に限られる。具体的には、純輸出が拡大するとか、企業の投資が増えるとか、企業から家計への所得移転が行われて家計の消費が伸びるといったパターンが考えられる。 日銀の金融政策がこのような成果をもたらす可能性はあるだろうか。ある程度までは、というのがその答えだ。マイナスの実質金利は企業によるムダの多い投資を恒久的に増やすかもしれない。 また、マイナスの実質金利は円相場を安くするだろうし、それによって経常黒字も拡大するだろう。実際、日銀の先週の発表は円安を招き、円の対ドルレートは10月30日から11月4日にかけて4%下落した。 しかし、こうした変化はいずれも、民間部門の構造的な問題に直接メスを入れるものではない。つまり、金融政策は一時しのぎに過ぎないのだ。必要なのは税制改革だが、この改革には日本政府が提案している法人減税ではなく、内部留保への課税強化を盛り込む必要がある。 代替的な金融政策は確かに存在する。財政赤字を中央銀行が直接埋める、いわゆる「ヘリコプターマネー」である。経済の不均衡を解消することにはならないが、不均衡の結果を最も直接的なやり方で埋めることにはなるだろう。ただ、日本の公的債務が巨額であるため、このような直接的な財政ファイナンスを行えば、人々の期待インフレ率が上昇して制御できなくなる事態を招く恐れがある。 日本の苦境からECBが学ぶべき教訓 11月のユーロ圏のインフレ率、大幅上昇の3% ECBはユーロ圏が日本のようなデフレに陥るのを防がねばならない(写真は独フランクフルトにあるユーロタワー)〔AFPBB News〕 では、日本が置かれた苦しい状況からほかの国々が、特に欧州中央銀行(ECB)が学び取るべき教訓はどんなものになるのだろうか。答えは「あのような状況からスタートしないこと」である。 日本が今のような状況に置かれている理由は3つある。第1に、日銀はバブル経済の悪行を罰するために、金融を引き締めすぎた。1990年代初めは特にそうだった。第2に、日本政府が1997年に実行した財政緊縮はあまりにも急激だった。 第3に、日本は民間部門の構造的な貯蓄過剰という問題に手をつけてこなかった。日銀が死にものぐるいで終わらせようとしているディスインフレ圧力は、こうした誤りによって強化されてきたのだ。 今日のユーロ圏にとって、これらの誤りは思い当たる節があるものばかりだ。特に、今日のユーロ圏では、不必要なほど懲罰的な姿勢が支配的になっている。また、ユーロ圏は債権国の構造的な貯蓄過剰にメスを入れることにも消極的だ。 しかし、ユーロ圏がぜひ覚えておくべきなのは、今回の日銀の取り組みが経済にどのような結果をもたらすかにかかわらず、日本は非常に誠実な市民が暮らす、ちゃんと機能する国であり続けるだろうということだ。ユーロ圏には、そのような強力な優位性はない。 その意味では、日本のデフレに少しでも近い状態に陥るリスクを冒すゆとりさえない。だがユーロ圏は、現にそのような状態に陥りつつある。 By Martin Wolf http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42148
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