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日銀、なぜ“予想外”追加金融緩和?消費増税で急激な経済悪化、政府に投げられたボール
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141102-00010004-bjournal-bus_all
Business Journal 11月2日(日)13時22分配信
まさにサプライズだった。ハロウィンに当たる10月31日、日本銀行が金融政策決定会合で追加金融緩和を決めたことは、多くの市場関係者やエコノミストたちにとって予想外だった。株式市場はすぐに反応し、日経平均株価は一時800円以上も上昇。前日より755円56銭高い1万6413円76銭で終わった。また為替レートも対ドル、ユーロともに円安が急速に進行した。
今回の追加緩和の中味は次の2点からなる。
(1)マネタリーベース(資金供給量)の増加額拡大
(2)資産買入額の拡大と長期国債買い入れの平均残存年限の長期化
黒田東彦総裁就任以降の日銀の政策スタンスである「量的・質的金融緩和」の「量」「質」両面でのてこ入れがなされたといっていい。
日銀は2015年の終盤までに2%のインフレ目標を達成するとして、黒田総裁をはじめ首脳陣は強気のシナリオを変更することはなかった。日銀の説明によると、今回の追加緩和の理由は、特に4月の5%から8%への消費増税の影響と原油価格の大幅な下落による物価下押しリスクがあることだ。31日の黒田総裁の記者会見では、長年続いたデフレ期待の定着を払しょくするためにも、この物価下押しリスクを未然に防ぎたかったことが強調されていた。石油価格の大幅な低下は、足元では確かにデフレリスクをもたらしてしまうかもしれないが、日銀も認めているように中長期的には日本経済にプラスに寄与し、むしろインフレ要因に転換する可能性が大きい。そのため、今回の追加緩和が重視したのは、石油価格の下落よりも、消費増税がもたらした日本経済の減速のほうだといってよい。
●深刻化する日本経済
実際に消費増税が日本経済に与えた悪影響は、以下の3点が示すように極めて深刻だ。
ひとつは経済成長率が大きく減速したことである。例えば、実質経済成長率はマイナス7.1%(4-6月期)の落ち込みであった。特に消費や投資といった内需の減少幅はマイナス11%を超え、この数字は前回の消費増税(1998年、マイナス5.8%)、リーマンショック(08年、同1.1%)、東日本大震災(11年、同5.7%)などの過去の経済危機的な状況に比較してもはるかに厳しい下落だ。注意すべきは、低所得者層ほど家計への負担が深刻なことである。4月から8月にかけての消費(対前年比)は、最も所得の低い層で同12.1%と大幅な下落である。これは今後、深刻な経済格差をもたらす可能性が大きい。
2つ目は、日銀が指摘したように物価面のリスクである。消費者物価指数は消費増税以後低迷を続けており、最近では下落傾向をみせていた。また、将来の物価水準予測をみても、低迷ないし下降の兆しをみせ始めていた。
3番目は、賃金や低所得層に与える影響である。賃金については、消費増税が特に実質賃金の上昇を著しく妨げた。日本経済は12年後半から回復基調に乗り、それが確実になったのは13年前半からであった。安倍政権の経済政策であるアベノミクスの目的は、第一にデフレ脱却にあった。
実質賃金とは、物価水準で名目賃金を割ったものである。デフレを脱却すると分母の物価水準が上昇するので、実質賃金は当初低下することにより企業にとっては採用コストが低下し、失業率が低下していく。やがて雇用状況が改善していくと、人手不足などの現象が目につくようになり、今度は実質賃金が上昇に転じていく。
以上が経済学に基づくシナリオだが、消費増税がこれを妨げた。簡単な試算では、実質賃金は一般労働者、パート労働者ともに初夏にはプラス領域に突入していたはずだったが、現時点では消費増税の影響で実質賃金は大幅に低下している。ちなみに経済が大きく落ち込む中での実質賃金の低下は、雇用の増加にはつながらない。
このような情勢の中で、日銀の姿勢は前述の通り今回の追加緩和までは「強気」のように市場関係者には映っていた。正確にいえば、追加緩和するにしてもそれは安倍晋三首相が消費再増税を決断した後になるのではないか、という見方が有力だった。これは、一貫して政府に消費再増税を計画通り実行することを求めていた黒田総裁が、その「駆け引き」の材料として追加緩和を利用するという見方だ。つまり日銀が早急に緩和してしまうと、消費増税による経済の悪化を認めたことになる。日銀の追加緩和が政府の再増税の決断を鈍らせてしまう可能性を黒田総裁は避けたいという、政治的な解釈だった。
もちろん日本経済の状況は一刻も早い追加緩和を求めていたし、筆者も昨年から一貫して追加緩和などの積極的な景気対策の必要を訴えてきた。今回、かなり遅れてではあるが、日銀が追加緩和したことは日本経済にとって喜ばしい出来事だろう。
●消費再増税への影響
今回の追加緩和をめぐり日銀内部もかなり議論が紛糾したらしく、金融政策決定会合での票決は5対4と割れた。しかし追加緩和が行われたとしても、その効果は株価や為替レートなどには比較的早く反映されるが、今問題になっている国内需要や物価、賃金動向に好影響をもたらすまではラグ(時間の遅れ)が生じる。このことは消費再増税に重要な意味を持つ。なぜなら政府の消費再増税の判断は、早くて11月中、遅くても12月初旬にかけて行われるが、その時に参考となる判断材料はおそらく悪い数値のオンパレードである。日銀の今回の判断もその「悪い素材」のひとつになる。再増税を実行したいに政府とっては不利な状況にも思える。
だが、別な見方も可能だ。「追加緩和の手当をしたから増税は問題なし」という理屈も成り立つからだ。もちろんあくまでも今回の追加緩和は、現在の経済の落ち込みに対して行われた処置である。たとえ来年末に再増税される時に経済が再び好循環に入っていても、再増税による経済の落ち込みを防ぐものではない。むしろ今回の追加緩和の好影響をすべて台なしにする可能性が再増税にはある。
いずれにせよ、日本経済の命運を決するボールは完全に政府に渡った。
文=田中秀臣/上武大学ビジネス情報学部教授
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