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追加緩和を決定した黒田・日銀総裁。しばし上を向きながら、今回の大きな決断を振り返っていたのだろうか(新華社・アフロ)
黒田総裁は天才かつ秀才だが、間違っている なぜ無意味な金融緩和をするのか?
http://toyokeizai.net/articles/-/52286
2014年11月01日 小幡 績:慶應義塾大学准教授 東洋経済
昨日(10月31日)の日銀・黒田東彦総裁の記者会見を見た。じっくり見た。やはり、この人は素晴らしく頭がいい。論理も明快で論旨は一貫している。昨年4月4日の異次元緩和から、何もぶれていない。やはり財務省の大先輩、財務省の歴史に残る大秀才という話は大げさではない。
■天才かつ秀才だが、経済はわかっていない?
しかし、今回の日銀の金融政策決定会合においては、彼の結論も打ち出した政策も間違っている。何のための追加緩和なのか。量的質的緩和の拡大は何のためなのか。何のためにもならない金融緩和策を打ち出したのは、なぜなのか。
彼は経済の基本がわかっていないのではないか。そういう疑問がわいてきた。天才であり、秀才であるが、経済については理解していない。そう思わざるを得ない。
今回の追加緩和は大きなサプライズだった。日経平均株価は755円もの上昇となり、GPIFネタで200円程度上げていたこともあったが、そこからさらに500円上げた。これはまさにサプライズだった。そして、これは、追加緩和を自分の都合で要求していた短期筋の海外投機家にとっても同じだった。まさか、今だって?そういう声が聞こえそうな、金曜の午後1時過ぎの暴騰だった。
黒田総裁は記者会見でいつも通り、質問に丁寧に答えた。いつもに比べれば、自信満々ということではなかったが、いつも通り、ぶれなく筋を通し、また正直な黒田総裁らしい、自分の信念を率直に語る記者会見だった。
しかし、記者の側は、いつもと違った。知的レベルで圧倒されている記者たちは、おそるおそる質問し、黒田氏が高笑いするたびにびくつき、自信満々に全くそんなことはない、と答えられると、それで萎縮してしまい、質問が途絶えてしまうような場面も散見されていた。これまでは。
昨日は違った。記者たちも馬鹿ではない。経済学がわかっていなくとも、黒田氏に議論で論破されようとも、何かがおかしい、と質問を浴びせ続けた。一昨日まで、日本経済は順風満帆と言っていたのに、この豹変ぶりは何事か。何が変わったのか。こういう認識に変わったのはいつだったのか。
市場を見てもサプライズだったことは明らかだが、市場との対話に失敗したと言えるのではないか。次々浴びせられる質問は、黒田氏よりも非常にまっとうで、素直で素朴な疑問で、それゆえに力があった。
■デフレマインドとは何か
黒田総裁は、記者たちの質問にどう答えたか。本質的には、デフレマインドの脱却。これが最優先であり、これの確実な達成にやや懸念が出てきたので、なんとしてもそれは押し戻す。そのためには、先手必勝。やるときは一気にやり、逐次投入しない。昨年4月の緩和は成功だし、そこで流れは完全に変わったが、ここで戻されてはいけないので、とどめを刺すために、デフレ脱却を確実にする。こういうことだった。
「ところで、デフレマインドってなんですか?」
私が記者会見で質問ができたならば、こう聞きたかった。デフレマインドとは何だろう。日本経済悲観論からの脱却。悲観論に基づく、縮小均衡に陥った株価と日本経済を、この落とし穴から引きずり出す。悲観マインド、縮小均衡、悲観均衡からの脱却。それならわかる。そして、100%賛成だ。
昨年4月の異次元緩和はこれに成功した。私は手段には反対だったが、結果的な悲観論からの脱却の成功は素晴らしかったと思う。そして、アベノミクスも、異次元緩和も、そこで役割を終えたのだ。
もはや脱却するものはなにもない。
悲観論から脱却した現在、必要なことは、日本の構造問題の解決だ。経済成長が必要ならば、それは短期的な景気対策ではなく、長期持続的な成長を供給サイドから作り出す政策だ。もはやマインドの問題ではない。そして、インフレ率が1%か2%かは関係ない。
これは黒田氏自身も言っていたことだ。異次元緩和により、日本経済の問題が需要サイドの問題から供給サイドの問題にあることが明らかになった。つまり、短期の需要不足の問題に覆い隠されていたが、量的質的緩和により、それが払拭されたために、日本経済の真の問題は潜在成長力の低下であり、構造改革などによりこれを高めなければならないと言っていた。財政政策ももちろん、構造改革が必要で、消費税引き上げは必要だと言っていた。
そして今回、日本経済は景気が悪化したわけではない。順調だ。依然、潜在成長率を実際のGDP増加率は上回っている。物価は1%まで上昇率は低下したが、依然として流れが崩れたわけではない。日本経済は何の問題もない。こういうとらえ方だった。
では、なぜ追加緩和が必要なのか。それは、景気刺激策ではない。需要喚起でもない。それは、ひとえにデフレマインドの脱却が完全に達成されずに、もとに戻ってしまうリスクがわずかながら出てきたからということだ。そして、彼の言うデフレマインドとは、期待インフレ率の低下に他ならない。それに尽きるのだ。
■期待インフレ率2%だけを最優先させていいのか
つまり、期待インフレ率2%が揺らがないようにするために、米国などと違って、インフレ率2%が期待のアンカーとなっていない日本においては、期待インフレ率が足元のインフレ率に影響される。
したがって、足元のインフレ率が1%へ低下したことは、期待インフレ率の低下、すなわち、デフレマインドから完全に脱却していないので(期待値のアンカーがインフレ率2%にないことの別の言い方、ということだろう)、その再来のリスクがある。だから、インフレにするために、追加緩和をしたということだ。
そして、インフレ率の低下は、原油価格およびその他資源価格などの下落によるものだという認識を示した。そして、コスト安は長期的にはインフレをもたらすが(景気が良くなることにより)、足元ではデフレとなるので、これと断固戦わないといけない。そして、為替を意識したものではなく、国内経済のことだけを考えて緩和をした、と主張した。
しかし、この緩和によって起こることは、急激な円安と、ETFなどの購入による株価暴騰だ。それらは、円安、コスト高で苦しむ中小企業、消費者をむしろ苦しくする。そして、それは認識していると黒田総裁は述べた。それにもかかわらず、思い切った、そしてこの先は何も要らないぐらいの大規模なモノを行った。そういうことになる。
これらをまとめれば、黒田総裁は、何が何でも足元のインフレ率を上げないといけない。それは、期待インフレ率を2%にして、2015年以降のインフレ率2%達成を確実にするためだ。そう考えているらしい。何よりも、期待インフレ率2%が重要なのだ。これには円安によるコストプッシュインフレによるモノだろうが、需要増による短期景気過熱によるインフレだろうが、何でもかまわない、それは関係ない、という認識のようだ。期待インフレ率2%が最優先なのだ。
これは間違っていないか。実体経済は二の次で、期待インフレ率を維持することが最優先というのは、どんな経済学からも、実務の立場からも出てこないはずだ。つまり、彼は実体経済をわかっていないか、重要度が低いと思っているのだ。昨日の記者会見からの結論だ。
私の誤解であることを願いたい。
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