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《主論と裏読》 原油価格の急降下は何を意味しているのか?(世相を斬る あいば達也)
http://www.asyura2.com/14/hasan91/msg/389.html
投稿者 赤かぶ 日時 2014 年 10 月 30 日 11:53:15: igsppGRN/E9PQ
 

【主論と裏読】原油価格の急降下は何を意味しているのか?
http://blog.goo.ne.jp/aibatatuya/e/30a8a5da9d7a17aafb95abcf338b614b
2014年10月30日 世相を斬る あいば達也


 以下は、エコノミストのコラムを日経ビジネスが邦訳したものである。最近の原油価格の急降下の要因を、オーソドックスに論じた、ありきたりと云うか欧米金融関連メディアらしいコラムである。がしかし、このコラムのような分析を、世間体を気にするならば、口にした方が良いという類のものでもある(笑)。まずはじっくりと読んでいただこう。筆者のゴタクはその後で。

≪ 原油価格の急落は世界経済に朗報か、凶報か

 3カ月間にわたってじりじりと値を下げていた原油価格が10月14日、ほぼ4ドルの大幅な下落を記録した。1日の下落幅としては、この1年余りで最大となった。この結果、原油価格の国際的な指標であるブレント原油の価格は、ピークだった6月の1バレル=115ドルから85ドルにまで低下した。

 通常、原油価格の値下がりは世界の経済成長を押し上げる。原油価格が1バレル当たり10ドル下落すると、世界のGDP(国内総生産)は原油の輸出国から輸入国へおよそ0.5%シフトする。原油輸入国の消費者は、豊かな原油輸出国よりも早くお金を消費する可能性が高い。このため、原油価格の下落は消 費の底上げを通じて、世界経済を押し上げる傾向がある。

 しかしながら今回の原油価格の急落に関して言えば、事態はそれほど簡単明瞭ではない。経済的観点から見て重要な疑問は、原油価格の下落が需要の低 迷を反映しているのか、それとも供給の大幅な増加を反映しているのか、である。もし原油価格の急落が需要が冷え込んだ結果なら経済成長が減速していることを示す兆候であり、懸念すべきだ。

 また、価格低迷の原因が財務問題(過大な債務など)にあるのなら、原油価格が下落しても、経済成長を押し上げる効果はさほど期待できないかもしれ ない。消費者は原油価格の下落がもたらす恩恵を債務返済に回す可能性があるからだ。実際のところ、一部の国では事態を一層悪化させる恐れがある。原油価格の下落はデフレのリスクを高めるからだ。

 他方、供給の増加が原油価格下落の原因なら、朗報となり得る。原油価格の下落は、いずれ世界の経済大国の消費を押し上げると考えられるからである。

・経済成長が世界的に鈍化

 世界経済の足取りは間違いなく弱い。日本のGDPは第2四半期に失速してマイナス成長に陥った 。ドイツも同様であり、もしかすると景気後退に向かっている可能性がある(最近の鉱工業生産や輸出関連指標は恐ろしいほど悪い)。米国の経済成長はここにきて加速しているが、回復のペースは過去の標準的なケースに比べて脆弱だ。

 原油価格が急落する直前の10月7日、国際通貨基金(IMF)は2014年の世界の経済成長率予測を3.3%に引き下げた 。IMFが経済成長率予測を引き下げたのは、今年に入って3度目のこと。2015年には成長が改めて加速するとの予測は変えていないが、ごく小幅な成長を 見込んでいるだけだ。

 経済成長の鈍化はエネルギー需要の低下を意味する。石油輸入国の集まりである国際エネルギー機関(IEA)は今月14日に公表した月報で、今年の世界の原油需要の増加は日量わずか70万バレルにとどまるとの見通しを示した 。これは、わずか1カ月前の予測に比べて日量20万バレルも少ない。しばらく前から需要は低迷していたが、ドイツを中心とする最近の落ち込みがとりわけ市場を驚かせ、価格の急落を呼んだ。

・米ロが供給量を拡大

 原油価格が急落している原因は需要低迷だけにあるのではない。大規模な供給ショックも重なった。昨年4月以降、世界の原油生産はほぼ毎月、前年同 月の水準を日量100万〜200万バレル上回る力強い増加を見せている。9月には生産量が激増、世界の原油生産量は2013年9月の水準を日量280万バレルも上回った。

 供給増加の大半は、石油輸出国の団体である石油輸出国機構(OPEC)加盟国以外の国、特に米国からもたらされた。ひとつにはシェールオイルの生産が増加したため、9月の米国の原油生産量は日量880万バレルに達した。これは1年前の水準を13%上回るもので、2011年の水準と比べても56%多い。サウジアラビアと比べても、さして遜色ない量だ。

 ロシアの原油生産もじり高傾向にあり、ウクライナ問題に関わる対ロ経済制裁の影響が、油田にはまだ及んでいないことを示している。9月の生産量は日量1060万バレルとなり、月間生産量で見てソ連崩壊以降の最高記録まであと一歩に迫った。

・リビアやイラクも増産に走る

 ただし、OPEC非加盟国の生産増加は、何も今に始まったことではない。最近の生産増に最も大きく寄与しているのは、OPEC加盟国だ。例えばリビアは、内戦の影響で4月には日量20万バレルにまで生産を落としていたが、9月末までに日量90万バレルに回復させた。内戦前の水準である日量150万 バレルに向けて着々と増産体制を整えつつある。同様に驚かされるのは、イラクも生産を拡大していることだ。

 ほぼ2年にわたり減少を続けていたOPECの生産量は9月に増加に転じ、OPEC非加盟国が生産を増やしていることの影響を増幅している。

 需要が低迷するなか、生産増加分の大半は豊かな国の原油備蓄の拡大という形で吸収されている。しかしながら、こうした状態は永久に続くわけではな い。世界の需要が上向き始めるか生産が削減されない限り、備蓄拡大のペースが鈍化するにつれ、価格は再び下落に転じる公算が大きい。

 需要の拡大も供給の削減も、実現するのは先のことになりそうだ。IEAで主席石油アナリストを務めるアントワン・ハルフ氏の指摘によれば、たとえ 原油価格が1バレル=80ドルにまで落ち込んでも、採算水準を割り込む生産はごくわずかだ。米国のシェールオイル生産者の大半は、破砕技術の改善などを通じて採算点を引き下げており、今や損益分岐点は70ドルを大幅に下回っている。したがって末端の生産者が撤退を余儀なくされるためには、価格がさらに下落する必要がある。

・石油需要が拡大するのはいつのことか

 新たな取引形態も原油価格に下落圧力を加えている。OPECの原油輸出国はかつて、世界に対する原油の販売割り当てを自分たちで非公式に決めていた。ナイジェリアとベネズエラは米国に、湾岸の中小の国々は日本にそれぞれ売却する、という具合だった。だが米国の原油輸入量は2010年の月間3億 900万バレルから同2億3600万バレルに減少した。欧州の需要は冷え込んでいる。そこですべてのOPEC加盟国がアジアでのシェア拡大を目指してしのぎを削っている。

 サウジアラビアは9月にアジア向け先物価格を引き下げた。さらに、他の石油輸出国が減産を望む中で若干の増産(10万7000バレル)に踏み切り、他のOPEC加盟国を震撼させた。OPEC加盟国は11月に再度会議を開く予定だ。しかし、クウェートの石油相は先頃、「OPEC加盟国が減産に踏み切る可能性は小さい」と述べた。

 いつになれば、そしてどの程度まで価格が下がれば世界の需要が増えるのか、見通しは極めて不透明だ。©2014 The Economist Newspaper Limited. 2014 All rights reserved. 英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。 ≫(日経ビジネス)


 エコノミスト(The Economist Newspaper Limited.)が、英国経済情報誌である以上、経済を基礎にマーケット事情を分析するのは当然なのだが、筆者は今回の原油価格急落の事情を、経済原則だけで論じるには、かなりの無理があるとみている。何が平常時と違うのかは、多くの方がお気づきのように、地政学的、乃至は政治外交上の諸問題を加味せずに議論することは、無謀だとさえ思うのである。

*様々な分析があって然るべきだが、経済的要因だけで、原油価格の推移を分析するのは、現在の地政学的、乃至は政治外交上の諸問題、特にロシアのシリア、ウクライナを挟んでの欧米勢力との確執は加味すべきだと考えている。現況の原油価格の下落で得をしている勢力を考えるのは、今回は適切な分析、推理には適当ではない。今回の場合、原油価格の下落で、損をする勢力に目を向けるべきである。となると、原油又は天然ガス供給の国々がすべて、その対象になる。

 なかでも、メインプレヤーはサウジとロシアだ。ロシアは原油価格の下落で打撃をもろに受けている。EU向けのガス供給も、ウクライナ問題次第では販路から締め出される可能性もあるわけだから、Wパンチを見舞われている。サウジもパンチは受けるが、宿敵シリアのアサド政権打倒とバーターであれば、耐えうるパンチでもある。肉を切らせて骨を断つと考えれば、合理的だ。シリアのアサドを追いつめるには、アサドの守護神のようなロシアの国力を減じることに魅力を感じるに相違ない。

 アメリカも、大国の言うことを聞かないロシア・プーチンこそが、世界平和の元凶だと考えている。ソ連邦崩壊で、我が世の春を永遠に謳歌できると思っていたが、原油ガス価格の高騰がロシアの抬頭を導くとは思いもよらない事態を招いていると気づいたようである。その上、21世紀の世界的政治リーダとして、プーチンが最もカリスマ性を備えており、ロシアの大国度を相乗的に大きなものにした。中国に睨みを利かせるためにも、中露の団結は避けなければならない。これが欧米勢力共通の認識になりつつある。

 BRICSによる開発銀行設立の目的は、アメリカ中心の欧米が世界通貨基金(IMF)や世界銀行で支配的地位を維持し、新興国にほとんど発言権が与えられないといった横暴を打破すると同時に、ドル通貨基軸を揺さぶる目的を包含していることに、アメリカは異様に神経質になっている。つまり、ドル基軸がアメリカを舞台に金融マフィアがのさばれるわけで、ドルの基軸度が3割低下すれば、殆ど元、円、ユーロとの差別化が出来なくなり、金融マジックが通用しなくなるのは、アメリカの覇権国の地位からの即刻の退場を余儀なくされる。

 このような状況を作り上げたのは、歴史の必然というより、プーチンと云う政治家によってもたらされていると、西側陣営は魔女狩り風に思い込んでいる。本質的には、先進諸国経済の成長は鈍化するのが当然の帰結で、驚くに値せず、新興国が追いつくのはごく当たり前のことなのである。しかし、覇権を握っていたり、アメリカが唯一の大国であることで出来上がっている秩序を変えることで、地獄が待っているように思い込むほど、良い思いをしている既存の勢力が存在するという証明の定理が展開していることを我々は考慮しておく方が賢明なのだと思う。無論、上述以上な戦術と云うか、陰謀と云うか、多くの要因が隠されていたり、思惑も絡んでいるのだろう。


 

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コメント
 
01. 2014年10月30日 12:53:27 : vtj6pInXDU
中東原油の決済通貨がドルなんだから、為替がドル高になれば原油安になる。

それ故に、主要な原油輸入国である日本の円が円安に振れれば原油安になるので電力料金に抑えが効いていて助かっている。

イスラム国問題やシリア空爆なんてニュースは昔なら原油高騰に繋がっていたので、戦争と経済は別という認識になったのかもしれない。


02. 2014年10月30日 18:07:47 : E5o9FkBP0U
起こり得ることは

産油国の収入が減る。原油に連動するエネルギーの価格も下がる。ロシアの天然ガスの価格も下がるがいずれも産出原価が安く持ちこたえられないことはない。

最も影響を受けるのは産出コストの高い北海原油、アメリカのシェールガス、こちらは採算割れとなるかもしれない。

資源を輸入に頼る日本は全体にはプラスだろうがゴミ勢力が最も稼働を進めたい原発のコストが相対的にさらに跳ね上がる。話にならないコストとなる。


03. 2014年11月04日 07:31:54 : jXbiWWJBCA


倉都康行の世界金融時評
原油価格下落のプラスとマイナス

様変わりする原油を巡る経済観と市場観

2014年11月4日(火)  倉都 康行

 先月15日の米国市場ではダウが一時460ドル超の下落となり、米国長期金利は1.86%まで急低下、ドル円も105円割れ寸前まで下落して、日本株市場をも揺さぶった。だが、英米金融当局者による緩和継続を示唆する発言や米企業の好調な決算および堅調な米国経済指標などに支えられ、根強い下値拾いの動きに市場はひとまず落ち着きを取り戻している。

 だが、秋以降の世界の金融市場が不安定化してきたのは確かである。世界経済の失速懸念やエボラ熱感染拡大、不透明な地政学リスクなど嫌なムードは払拭されておらず、金融緩和に染まった楽観が剥げ落ちれば、再び市場を株価急落のショックが襲う可能性は残っている。不動産市況の悪化がもたらす中国の成長鈍化など、「リスク・シナリオ」を演出しかねない材料もある。

 ドイツ経済も市場の期待を裏切った。経常黒字や低失業率に加えて財政余力もある同国が景気刺激策を出動しないことに対し、南欧諸国だけでなく米国も強い不満を示している。だが、来年の財政収支黒字化ないしは均衡(いわゆる「ブラック・ゼロ」)という歴史的な偉業達成を最優先に置いている同国政権に、まだ妥協の姿勢は見られない。

 日本に関しても、為替相場に関する官邸と日銀の言い分が食い違うなど、一枚岩の印象が薄れてきている。景気の失速感が目立ってきた中、第二次政権の目玉であった女性大臣が相次いで辞職という逆風も吹き始めており、安倍首相の消費税増税判断もかなり難しくなってきた。海外勢は、懸念リストに日本を加えることを考え始めるかもしれない。

他国と比べ堅調続く米国経済

 もっとも、先月述べたように、堅調に推移している米国の内需が急速に崩れる可能性は乏しい。ドイツが景気後退に陥ったとしても、中国が7%成長へとペースダウンしても、立ち直り始めた米国経済に与える影響は恐らく軽微だろう。利上げを巡る議論が市場を揺さぶることは今後も何度もあるだろうが、その過程で金融緩和への過大な依存度が少しずつ剥げ落ちることになれば、それはむしろ市場正常化への良い兆候である。

 米国経済への評価は飽くまで他国や他地域との比較論に過ぎないが、それでも雇用・住宅・製造業は着実に改善しており、株価のブレが続くにしても、来年半ばの利上げが先送りされることはないだろう。

 但し、気になるのが原油価格動向だ。ここ数カ月で約25%も下落した原油価格の動向は、明らかに需給の崩れを懸念したものである。通常、原油価格の低下は消費国である先進国をはじめとして世界的景気動向にとってプラスであるが、産油国の財政にとってはマイナスだ。そして昨今では、それが米国経済の一部にとってもマイナスになり得ることが指摘され始めている。

 これまで、実体経済や資本市場にとって原油価格の上昇は逆風であり、下落こそが好材料、というのが常識であった。燃料コストの低減は、製造業だけでなく消費者にも減税同様の効果があり、株価の安定材料にもなった。だが最近の市場では、原油価格の低下はエネルギー関連企業の業績懸念や産油国の財政不安、そしてインフレ率の低下といった悪材料としても捉えられている。4年ぶりの低水準にまで下落した油価は、世界的な株価下落を誘引する一要因にすら挙げられている。

地政学リスク拡大で原油価格下落の珍現象

 6月にイスラム国がイラク北部の油田を襲撃してその地域を掌握したとの報道に、ブレント価格は115ドル、WTIも107ドルにまで上昇した。その後、同地域での軍事不安は増すばかりとなったが、原油価格は逆に右肩下がりとなり、10月にはブレントは82ドル台、WTIは一時80ドルを割り込むなど、2010年12月以来の低水準にまで落ち込んでしまった。中東における地政学リスクが拡大する中で原油価格が低下するのは、これまでにない珍現象である。

 原油価格が一定水準以上に下落すればOPECが減産を協議するのが通例であるが、彼等の9月の生産量はむしろ3年ぶりの増産量となったことが判明した。サウジも減産に同意する姿勢を見せず、OPEC盟主自らが「生産シェア維持」に躍起になっている、と市場の見方を裏付けている。

 先週、ゴールドマンサックスは2015年第1四半期の原油価格見通しを下方修正し、WTIは90ドルから75ドルへ、ブレントは100ドルから85ドルへとそれぞれ15ドル引き下げた。シェール革命の順風を受ける米国だけでなく、ブラジルやメキシコ湾岸なども増産基調にあることから、過剰供給が鮮明になればさらに価格が下落する可能性も示唆している。

 こうなると、米国エネルギー関連株にも強い逆風が吹く。生産コストが比較的高いと言われるシェールガス・オイルの採算は悪化するとの見通しで、開発・採掘を行う企業の株からパイプライン関連企業株まで一斉に売り浴びせられ、市場が反発する地合いにおいても、エネルギー・セクターはひとり取り残されている。

 さらに「原油価格下落はインフレ率を低下させる」という一昔前の好材料が、今では懸念材料に転じている。主要国は今インフレ率を引き上げるのに懸命だが、原油価格の低下傾向がその足を引っ張ってしまうからである。欧州ではデフレ懸念が一層強まり、日本では円安インフレが相殺されてしまい、米国では2%ターゲットの達成時期が大幅にずれ込んでしまうかもしれない。原油を巡る経済観や市場観は、まさに様変わりである。

商品市況の悪化と交易への影響

 市況の軟化は、原油市場だけに限定される話ではない。コモディティ主要指数の上昇につられるように、機関投資家のみならず個人投資家も商品に連動するETFに殺到し、資源国経済は活況となってその通貨も人気化したが、その活況は徐々に沈静化してきた。

 2013年にはFRBによる量的緩和の順次縮小、いわゆる「テーパリング」への懸念が新興国経済を襲って資源関連市場は低迷し、今年に入ってからも中国をはじめとして資源需要の減退が鮮明となっている。金を除く主要商品市場は6月以降下落の一途を辿っており、CRB指数は高値から10%超の下落を記録している。

 資源価格の低下は、資源消費国には減税と同じ効果があるが、資源国にとってみれば市況低迷は悪夢以外の何物でもない。財政政策が資源頼みの国家は歳出抑制に迫られ、場合によっては市場の乱流に巻き込まれて為替介入や金利引き締めを余儀なくされる。1970年代以降、そんな歴史が何度も繰り返されてきた。

 現時点の市場動向が、WTI価格が144ドルから33ドルまで暴落した2008年とは大きく異なるのは事実だが、需要低迷の長期化という厄介な局面にあることは否定出来ない。それは商品市場の「スーパーサイクル」の終焉でもある。

 伸びる需要を背景に、資源の有限性が注目されて増産の必要性が叫ばれ、シェールガス採掘などの生産技術が向上し、供給量が確保されたところで需要が崩れる。それは、低金利を背景にした過大なレバレッジで潰れていく金融バブルにも似たところがある。

 WTOに拠れば、国際貿易は2012年に前年比12.8%増加した後、増加率は低下の一途を辿っており、今年も来年も3%台に落ち込む、という。商品市況の悪化はさらに交易へブレーキを掛ける。低調な商品市況が誘発する資本市場変動で苦しむ新興国も増えそうだ。為替市場では、資源国の不振や新興国の低迷といった要因が、ドル高基調の継続という相場観を支えることになるだろう。

産油国では財政不安という影響も

 中でも原油価格の低迷は、産油国に財政不安を掻き立てる可能性がある。産油国にはそれぞれの「財政的均衡価格水準(ブレーク・イーブン)」がある。原油価格がその水準を超えているならば歳入で歳出が賄える、という分水嶺である。

 もっともその水準を計算するのは容易ではない。原油の産出量や輸出量だけでなく、その生産コストや油田使用料、国内人口、国内石油製品需要、為替レートといった数多くのパラメータが必要になるため、その水準は国によって大きな違いが生じることになる、とFT紙は解説している。

 シティグループの試算に拠れば、サウジのブレーク・イーブン・ポイントは2013年以降70ドル台から90ドル前後に上昇している。価格が100ドル近辺で推移していた際には同国には何の懸念もなかった筈だが、均衡点を下回る期間の長期化傾向が見えてくればさすがに問題意識が高まるかもしれない。

 もっともサウジには豊富な準備金が蓄積されており、いきなり財政難に陥るようなリスクは無いに等しい。ドイツ銀行の試算に拠れば、同国はブレント価格が83ドルの水準でも約8年間はその財政赤字を政府の貯蓄で埋めることが出来る、という。

 苦しい立場に立たされるのは、ブレーク・イーブンの水準がより高い国々である。例えば、イランやイラクは100ドルを超えており、リビアは180ドル、ベネズエラも160ドルと厳しい財政状態にある。ロシアの均衡点も100ドルを超えている。

 勿論、ブレーク・イーブンが高いといってもロシアはサウジ同様に石油基金というバッファーがあり、他国も国債発行や国内での原油補助金縮小、歳出削減といった手段で当面の対応は可能である。従って、原油価格が80ドル台へと下落したことが即座に減産に結びつくとは限らない。

 むしろサウジはシェアを維持するために採算点の高い新規参入者がコスト割れで逃げ出すのを待っている、との見方が強まっている。その狙いの一つは米国の新興開発企業だろう。11月下旬に開催予定のOPEC総会に向けて減産が合意されると見る向きは少ない。原油市場は、サウジと米国とのゲームになりつつあるのかもしれない。

 米国にとって、油価の下落が引き続き民間経済に恩恵をもたらすことは明らかだ。ガソリン価格だけでなく暖房用油の費用減も、冬に向かう米家計には朗報である。インフレ期待低下によって金利が低下すれば、モーゲージなどの変動金利支払いの負担が軽くなる。コスト減の部分が他の消費に回り、GDPの70%を占める個人消費を支えることになる。大多数の企業にとってもエネルギー・コストの低減は大歓迎だろう。

消費国から生産国になった米国の新たな問題

 だが米国がエネルギー生産国になった今、新たな問題が発生している。シェール革命に拠るエネルギー生産増で雇用や賃金が改善し投資資金が大量に流入したテキサス州などは、原油価格低下でその成長の勢いが急失速する可能性が浮上している。

 エネルギー産業の隆盛に伴い、周辺産業もそのおこぼれに預かるように活況を呈してきた。雇用増は、石油・ガス関連企業だけで起きているのではない。仮に原油価格の低下が継続するようであれば、投資資金は引き揚げられ、エネルギー生産量は低下し、雇用や成長率にもブレーキが掛かる恐れがある。資源開発の設備投資は、既に計画から下振れしているとの指摘もある。

 株式市場だけでなく、エネルギー関連企業の起債が多いジャンク債市場でも、業績不安が強まっている。市場は、2年前の原油価格低下の際に多くのエネルギー新興企業の経営が行き詰まったことを鮮明に覚えている。OPECのバドリ事務局長は、米国石油開発企業の50%は85ドルで採算割れだと述べている。

 それに対し、米国の石油・ガス業界は「2年前とは違う」と胸を張っている。開発当初の土地リース契約では、採算割れでも掘り続けるか、諦めるかの選択しかなかったが、現在では生産に関する主導権を得たことで価格水準に応じて設備投資を変動させることが可能になり、採算レベルも年々低下傾向にある、という。

 IHSは、北米のシェール開発中堅企業の採算ポイントは、昨年夏の1バレル70ドルから現在では57ドルにまで低下している、と試算している。業界には、原油価格が仮に70ドル台まで下落したとしてもそれほど大きな打撃にはならない、と強気なところもあるようだ。

 但し、1バレル100ドル近辺の頃でも、殆どの開発企業においては設備投資のキャッシュフローが営業キャッシュフローを大きく上回る状況が続いていたことに、市場は不安を抱いている。エネルギー企業が主張する「経営の柔軟性」は、まだ投資家を納得させるには至っていない。

 拙いことに、米国の中堅新興エネルギー企業の財務レバレッジ水準、つまりバランスシートに占める借金の割合はかなり高いと言われている。低金利で活況を呈してきたレバレッジド・ローン市場でも、エネルギー分野に対するリスクプレミアムは上昇中である。

 ジャンク債やレバレッジド・ローン市場は米国株よりもよりバブルに近い、と警戒されてきた。10月中旬の株価急落の際には両市場からも資金流出が見られている。クレジット市場は、一度不安感に火が付けば容易には元に戻らない。

 今後、仮に採算割れによる生産プロジェクトの中止やデフォルト、レイオフといった暗い話題が増えることになれば、米国市場に久々に「不良債権増」という言葉が蘇ってくるかもしれない。それは、順調な回復基調に乗ったかに見える米国の、一つの経済的盲点であろう。

このコラムについて
倉都康行の世界金融時評

日本、そして世界の金融を読み解くコラム。筆者はいわゆる金融商品の先駆けであるデリバティブズの日本導入と、世界での市場作りにいどんだ最初の世代の日本人。2008年7月に出版した『投資銀行バブルの終焉 サブプライム問題のメカニズム』で、サブプライムローン問題を予言した。理屈だけでない、現場を見た筆者ならではの金融時評。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141029/273166/?ST=print


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