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「消費増税で財政再建できる」は大間違い
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141030-00061359-diamond-bus_all
ダイヤモンド・オンライン 10月30日(木)8時0分配信 高橋洋一
最近、消費増税で景気が悪くなったことが広く認識されるようになった。そのため、来年10月の消費増税を先送りする考えが出てきている。
消費増税の弊害をいち早く警告した筆者としては、ようやくという感じだ。
しかし、まだ消費増税は財政再建のために仕方ないと考える人もいる。そうした人たちに、「増税で財政再建できる」は大間違いで、増税しなくても財政再建できることを示そう。
● 財政再建の目標とは何か
まず、実際、小泉政権時代に増税なしで財政再建に成功しかかった実績がある。その時を振り返ると、2001年に「骨太の方針」で基礎的財政収支(プライマリーバランス)の黒字化を掲げた。「プライマリーバランス(=以下PB)」という財政指標が使われ始めるようになったのは、これがきっかけだ。その後06年に11年度PB黒字化目標を掲げた。
財政状況をたどってみると、03年度のPBは28兆円の赤字で名目GDP比マイナス5.6%だったが、08年度には6兆円の赤字、マイナス1.1%にまで下がった。あとひと息で黒字化できる予定(07年1月の中期試算では、10年度のプライマリー収支はプラス0.2%)だったが、08年9月のリーマンショックで景気が悪化し、黒字化にはならなかった。しかし、11年度目標をかなり上回るペースで再建が進んでいたのだから、7年ぐらいで黒字化できるというのはそれほど非現実的な話ではない。
そもそもPBを黒字化するだけで財政を再建したと言えるのか、という疑問があるかもしれない。そうした疑問を持つ人は、国の借金(債務残高)は1000兆円を超えていることを言う。財政再建というなら、債務を減らす努力が必要なのではないかと心配する。
こうした疑問に対しては、財政再建とは何を目標としているのかをはっきりさせておきたい。それは財政破綻を避けることだ。1000兆円という数字は確かに気分を落ち込ませるが、破綻回避という目標の達成に債務全額を返済する必要があるだろうか。私たちは、無借金国になることを目指しているわけではない。
無借金とまではいかなくても、財政黒字を目標とすべきという人もいるだろう。実際、財務省の首脳はかつて財政収支を黒字にしなければいけないと発言したことがある。2014年度予算を財政黒字にするには税収がどれだけ必要かというと、国債の利払いも含めた全歳出が95兆8800億円だから、現在の税収等見込み(54兆6300億円)では41兆2500億円足りない。過去最高の税収額でも60兆円(90年度)だったから、それを考えると実現が難しそうだ。しかし、財政黒字に転換する必要もない。PBを均衡させれば財政破綻は避けられるからだ。
● 危険水準は国によって異なる
その理由を順を追って説明していくが、まず議論の前提として財政破綻の意味をきちんと定義しておこう。結論を先に言うと、財政破綻とは、債務残高/GDPが発散する(比率が上昇し続けること)ことだ。
国債暴落(長期金利の急上昇)を財政破綻とみなす人がいるが、それは違う。マーケットは変動するもので、暴落したものが再び値を戻すことはありうる。また、債務残高が1000兆円もの巨額に膨らむと、それ自体が財政破綻の証拠とみなす人がいるだろうが、それも違う。もちろん債務残高は重要なのだが、国民総生産(GDP)とセットで考える必要がある。
当たり前のことだが、債務を返済するには稼ぎが必要だ。国の稼ぐ力を示しているのはGDPで、GDPが大きければ少々の債務は問題ない。10年に起きたギリシャ債務危機では、ギリシャの債務残高は3300億ユーロ(約43兆円)で、日本の経済力からすれば全く問題にならない債務額だが、ギリシャのGDPは1940億ユーロ(約25兆円)で神奈川県程度の規模だったので負担が重かった。だから債務が過大かどうかの判断はGDPとの割合で下す必要がある。つまり、債務残高/GDPの割合が重要になってくるのだ。
ただ、注意してもらいたいのは、その大小では財政が破綻に向かっているかどうかは判断できないことだ。重要なのは、債務残高/GDPが増えているか、減っているかであり、変化の方向性なのだ。増加が続くとデフォルト(債務不履行)が予想されるようになり、危険な財政状況とみなされる。ここらあたりまでは、国内外の経済学者の間でも異論はないはずだ。
債務残高/GDPは、日本は200%を超えて世界ワーストワンだが、毎年数%ずつでも減っていくならば破綻の可能性はない。しかし、200%という水準の高さは問題という人もいるが、今でも破綻していない。水準は問題ではなく、どういう方向に向かっているかが重要だ。過去のデータを見ても破綻するかしないかは国によって水準が違う。150%で大丈夫な国もあれば、120%でアウトになる国もある。英国はナポレオン戦争のとき250%だったが破綻しなかった。債務残高/GDPが増加していくのが危ないのであって、高い水準でも減っていけば問題ない。
例の有名なラインハート=ロゴフの論文で、債務残高/GDPが90%を超えると破綻の可能性が高まるという説も水準に関するものだった。しかし、水準で判断するのは間違いだった。その部分はわかりやすかったので流布して、一部の国の財政政策にも影響を与えたようだ。結果としては、他の研究者から計算の誤りを指摘された。
実際、いくつかの特定国を除いて計算すると、危険の水準が変わってくる。このことは、危険水準は国によって異なるということで、各国共通の一律な水準はいえない。
● プライマリーバランス黒字化を目標にする意味
そこで、どうすれば債務残高/GDPの増加を食い止め、減少させられるのかという問題になり、PBが出てくる。債務残高/GDPを減少させることが財政再建を考えるすべての出発点になるわけで、だったら、債務残高/GDPの動きを決める要因は何なのか。その要因を抑えれば財政破綻を避けられる――と考えが進むだろう。その結果、探り出した式がこれで、06年3月の経済財政諮問会議に提出した。
(債務残高÷GDP)の変化分=-(プライマリーバランス<PB>÷GDP)-(名目成長率-国債金利)×前年の債務残高/前年のGDP
この式は誰でも導き出せるはずだが、不思議と経済学の教科書には載っていない。左辺の債務残高/GDPを減らせばいいのだが、左辺がどういう要素で成り立っているのかを示したのが右辺だ。右辺は左辺をいわば因数分解したような結果であり、誰が検証しても同じ結果になる。導き出すのもそれほど難しい数学を使っていない。微分の基本等、高校の数学の知識があれば理解できるレベルだ。
しかし、この式を見れば財政再建するためには何が必要で、何が不要かがわかる。破綻を避けるために左辺の債務残高/GDP比を減少させようと思ったら、右辺をマイナスにすればいいことがわかるだろう。右辺第1項をマイナスにするにはPBを黒字にする必要がある。第2項は、成長率が金利よりも高くなければならない。ただ、成長率と金利の関係は、年によって成長率>金利になったり、成長率<金利になったりするが、長く均して見ると大体同じ数字になりプラスマイナスゼロになる。だから左辺をマイナスにするのはPBであり、PBを黒字にすればいいということになる。
これまでの話から、PBがすぐに黒字化しなくても、年々赤字が減れば、左辺も減り続けるので財政破綻の心配はないということになる。黒字化するのが理想だが、すぐには実現できないのならば、その場合は赤字を減らすことが重要だ。
ひとつ言っておきたいのは、PBは債務残高/GDPをコントロールするから重要なのだ。債務残高そのものをコントロールするのはPBではなく財政収支であり、財政黒字をずーっと続ければ債務残高はなくなる。そんなことは目標にしていない。国の債務がなくなれば国債市場も消えてしまう。財政収支ではなくPB収支を使う意味を確認しておきたい。
債務残高/GDPの増加がどれくらい続くと破綻に近づくのかという疑問もわいてくるが、これは簡単な答えはない。ずっと増え続ければ危ないが、「ずっと」がどれくらいの期間を指すのか、5年続いたら危ないと思うのか、10年続いたら危ないと思うのか、それは、いずれ回復する話なのか、回復不可能な話なのかは認識の問題だ。
そこで、PBを黒字にするにはどうすればいいのか。図1-1を見てもらいたい。赤線がPB/GDP比で先ほどの式の右辺第1項に当たる。黒線が1年前の名目成長率を表している。両者はほぼ相関している。1年前の名目成長率が翌年のPB/GDP比をほとんど決めているということがわかる。つまり、1年前の名目成長率が財政再建の成否を決めているのだ。
こうした、1年前の成長率とPBの相関は、他の先進国でもみられる(図1-2、図1-3)。
そして、改めて強調しておきたいのは、これまでの説明に増税の話など出てこないことだ。前出の式にも増税の項目などはない。だから、「増税で財政再建できる」という言葉はウソだとわかる。増税と財政再建には因果性がないのだ。むしろ増税が経済成長を阻害したら、財政再建の障害にすらなってしまう。安倍首相が言うように、増税して景気が悪くなって減収になったら元も子もないのだ。
● 増税スキップは本当に危ないか
しばしば社会保障が大変だからという人があるが、PBはそれも含めてみている。年間1兆円程度増加すると脅す人もいるが、名目の経済規模が5兆円、年に1%増えるだけでそれはまかなえる。
なお、ミクロ的な個別論をすれば、社会保障費の中でで伸びの高いのは医療であるが、それを国民が納得する伸びにするためには、地方分権で人口2000万人くらいの行政単位にして、医療(特に終末期医療)を工夫すべきだ。夕張市は財政破綻したが、医療費を劇的に減少させ、なおかつ地域住民の満足度も高い。これは是非参考にすべきだ。地方分権の他に、歳入庁を創設して、年10兆円とも推計されている徴収漏れをなくすことでも社会保障費の増大に対応できる。いずれにしても、こうしたミクロ議論も重要だが、マクロとしてPBをよくすることを心がければいい。
また、名目成長率を高めるにはどうしたらいいのか。名目成長率は、実質成長率+インフレ率で、インフレ率はマネーの供給量で何とかコントロールできる。インフレ率はどれぐらいが適当かと言うと2%ぐらいだ。高すぎると社会コストが高くなるが、2%ぐらいが社会コストが最小限に収まる水準と見られている。インフレターゲットを採用している先進国が2%を目標しているのは、そういうことを知っているからだ。
インフレ率が2%になると実質成長率も2%ぐらいになるということが経験則でわかっている。経済環境がいいとそれなりに実質成長率も伸びるのだ。両者合わせて名目成長率4%を達成できる。この水準ならば増税なし、少しの歳出カットでPB黒字化が可能だろう。名目成長率5%ならば、増税も歳出カットもなしに黒字化できるだろう。
しかし、名目で4%成長を続けるのは、ずっと低迷してきた日本経済にとってはハードルが高く見える。
確かに黒田日銀以前の日本経済は、10年間の名目成長率の平均はゼロだった。しかし、日本を除いたG7は4.3%だった。OECD加盟国の過去10年でも名目成長率は日本が一番ビリだ。しかし、実質成長率の平均は、日本は1.2%で、日本を除いたG7は2.1%と、その差は縮まる。日銀の大規模金融緩和で消費者物価指数が目標の2%に達すれば、名目4%成長のハードルはそれほど高くない。
最後に、日銀の黒田東彦総裁は、9月4日の記者会見で、消費税率を10%に引き上げない場合のリスクについて、「市場から(財政再建の姿勢に)疑念を持たれると政府・日銀としても、対応のしようがないということにもなりかねない」「確率は低くても、その影響は甚大なものになる可能性があるという意味では、リスクが大きい」と発言している。その後も、自民党の谷垣禎一幹事長もテレビ番組で税率10%引き上げについて、「(税率を)上げた時のリスクは、まだいろんな手で乗り越えられるが、上げない時のリスクは打つ手が難しい」と語った。引き上げを見送っても大丈夫なのかという疑問があるだろう。
これらは、消費増税をやらないと財政破綻を想起し「国債が暴落する」という主張だろう。それは心配するほどのことではない。短期的に考えても、国債が価格低下しても、日銀が買いに回っているので、価格は大丈夫だろう。
また、中期的に見ても、心配ない。というのは、4〜6月期のGDPを見ればわかるとおり、増税は経済成長率を大きく落ち込ませる。10%増税をスキップして、適切な金融政策を取れば名目経済成長が高まるだろう。そうすれば次の年のPBが改善し、債務残高/GDPは減るから財政への懸念は薄まる。増税スキップした方が財政再建のチャンスが大きくなり、逆に財政破綻の可能性は小さくなると見ている。
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