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アベノミクス逆風、円安破綻した回転すしネタ会社[日経新聞]
帝国データバンク・藤森徹
2014/10/29 7:00
アベノミクスの余波で円安が急速に進行している。中堅、中小、ベンチャー企業にどのような影響が出ているのか。帝国データバンクの調べでは、輸出依存度の高い自動車や電機関連の製造業の倒産が大きく減少する一方、食品、ファッション、生活雑貨などを扱う輸入企業では経営破綻が増加する気配が見え始めた。懸念をより深刻にしているのが金融機関の過去のトラウマで、為替の大きな変動に対するおびえが企業への金融サービス提供を萎縮させている。
■翻弄された糸魚川市
2013年6月27日、新潟県糸魚川市議会の定例議会は、約2億円の税金を投じた企業誘致計画の頓挫を受けて、後処理の議論に追われていた。これは地元企業であるクリエイトワンフーズ(新潟市)が能生地区で計画していたイカの加工場の建設断念によるもの。50人もの新規雇用が見込める計画で、「地元に大きな経済効果をもたらす」として市議会議員全員が賛成した鳴り物入りのプロジェクトだった。
クリエイト社は2012年2月に工場用地の確保について市に協力を要請。市は同社と基本協定を結んだ後、7000平方メートル近い民有地を用地として購入し、道路の改良などの造成工事を進めていた。
クリエイト社が計画断念を市に伝えてきたのは工事がほぼ終わった13年3月ごろ。地元の期待を打ち砕いた理由は何か。アベノミクスによる「円安」が大きく影響している――。市議会ではこう報告された。
クリエイトワンフーズはイカの加工販売を手がけていた東食品(東京・江東)の実質的な新潟工場として設立されていた。この東食品はモンゴウイカの専門業者として知られており、年間取扱高約1800トンは業界首位の実績だ。最近までは回転すしチェーンで使用されるモンゴウイカの7割はこの東食品の加工品だったとの話もある。
社長の宮路勝信(64)はもともとは新潟県の出身。地元の水産高校を卒業した後、築地の水産会社に入社した。その後独立して、1977年に東食品を設立し、直近ピークには年間売上高43億円の水産加工会社に育て上げた。業績拡大をけん引したのは、独自に開発したイカの加工技術だったという。回転すしのネタは一定時間空気にさらされるため、乾燥への対策が必要。そこで、品質を維持する為のph値を調整する加工を行うことで取引先からの評判を得ていた。
糸魚川市に工場建設計画の話を持ちかけた12年ごろは、東日本大震災の影響が残っていたものの、受注状況は回復していた。モンゴウイカ全量を輸入に頼っていたが、当時の為替レートは1ドル80円を突破する超円高水準。実兄が工場長を務める新潟工場の拡張を意図して新会社を設立したのも無理はない。
しかし、12年秋以降、アベノミクスへの期待の高まりを受けて円相場が急落し始める。13年には1ドル100円の大台になり、イカの輸入の採算が全く合わなくなってきた。さらに需給面でも逆風が吹き始める。世界的に漁獲量が減少する中、アジア、欧州など外国での消費が拡大し、日本への調達が難しい状況へと変わってきた。最大の取引先であった大手回転寿司チェーン店との取引が解消されるなどの事態も経営を悪化させた。
糸魚川市の工場建設を断念するといったリストラを進めても、円安傾向が続く限り、輸入の採算は抜本的には改善しない。東食品は13年の決算では粗利益の段階で数億円の赤字を計上した。そして、とうとう今年5月には全従業員の解雇に追い込まれる。7月には本社不動産を売却し事業活動を停止。事実上の破綻状態となっている。
■円高と円安の双方に苦しむ
為替の変動を巡っては、こんな経営破綻も起きている。
婦人バッグ輸入卸のフカイ(東京・足立)は10月1日、東京地裁から破産手続きの開始決定を受けた。取り扱いバッグの大半を中国にある6ヵ所の協力工場で生産していたが、円安による輸入コストの増加で採算が急激に悪化。さらに中国現地の人件費が年間2ケタも上昇し、ダブルパンチで赤字決算を余儀なくされていた。だが、関係者によると、経営破綻のもともとの端緒は円安ではなく「円高」だという。
円安と円高――。謎かけのような事態を読み解くキーワードは「為替デリバティブ」(金融派生商品)だ。一定金額でドルを取引できる権利を売買することで為替変動のリスクを回避・軽減する仕組みなのだが、買いと売りの権利の比率に差をつければ一転してハイリスク・ハイリターンの金融商品にもなる。
一般にドル建て決済で輸入を行う企業は、円安に為替レートが振れると採算が悪化するため、フカイも円安対策の為替デリバティブを買っていた。ところが2008年のリーマン・ショック後、為替は急激な円高に振れる。為替デリバティブでは、ある一定価格、例えば1ドルを110円で買う権利を得ていた場合、それより円安に振れると利益が出るが、円高が進み1ドル90円になったりすると、その差額分の損失を負担する仕組みとなっている。その結果、フカイでは約1億円もの損失が発生し、債務超過に陥った。立て直しもままならないところに、今度はアベノミクスによる円安で本業の採算が悪化してしまった。円高に泣き、円安にとどめを刺されたわけだ。
帝国データバンクの調べによると2014年上半期(4月〜9月)の輸入関連企業の倒産は前年同期比7%増の260件となった。水産加工業者のほか、アパレル卸、樹脂製雑貨輸入企業などが多い。多くが円安に苦しんだとみられる。
■金融機関、デリバティブに二の足
対策はないのか。輸入業者の場合、目下のような円安が急激に進行する局面では、やはり為替デリバティブが有効な手立ての一つになる。ただ、企業側は急激な為替変動に戸惑いを感じているようで、「また円高に戻るのでは」といった心理から為替デリバティブを敬遠するところも少なくないようだ。
さらに、「銀行側も為替デリバティブ販売に消極的になっている」(メガバンク幹部)。こちらの背景にあるのは過去の呪縛だ。フカイが利用したような円安対策のデリバティブは、2004年から2007年の4年間で約6万件、主に輸入業者に販売された。そして2008年から始まった円高局面で数億円から数十億円の損失を抱えた中小企業が多数生じた経緯がある。これにより企業側から起こされた金融ADR(金融取引に関する裁判外の紛争解決制度)や裁判の多くは銀行側に不利な結果となった。
為替変動の行方は金融のプロでも正確に見通すことはできない。経営判断の正誤も評価しにくい。情報を集め、正しく分析し、柔軟、迅速に動けるか。こうした高度なリスク感覚を経営者に求めているのが、アベノミクスの一つの側面でもある。=敬称略
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO78938630X21C14A0000000/?n_cid=DSTPCS001
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