03. 2014年11月20日 07:15:15
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「インタビュー 日本の食の未来」 第3回 年間500万トンを超える食品ロスを減らすには File7 日本の食品ロス 井出留美
2014年11月20日(木) 高橋 盛男 家庭の食品ロスに目を向けてみよう。 農水省の調査によれば、1世帯あたりの1日の食品使用量のうち食品ロス量は約40%を占めるという。また、家庭から出た生ごみの内容のうち、手つかずの食品が約22%を占めていたという京都市の調査もある。 食品ロス削減は、食品業界にのみ課せられた問題ではない。消費者も取り組まねばならない課題なのである。 フードバンクとは? 2HJ広報室長を経て独立し、食と社会貢献の専門家として独立して活動する井出留美さん。(以下撮影:藤谷清美) 買いだめしすぎない、食べ残すほど調理しない、食品期限表示の正しい理解などを、食品ロス対策を啓蒙する消費者庁などがPRしているが、そのひとつにフードバンクの活用がある。
フードバンクは、生産・製造から消費までの間に出る食品ロス、すなわち賞味期限がまだ残っており、食べられるのに廃棄されてしまう食品を企業や個人に寄贈してもらい、食品を必要とする施設や生活困窮世帯などに分配する活動だ。アメリカでは1967年に始まり、今日では全土に普及している。 日本国内では現在、約40団体がフードバンク活動を行っているそうだが、その草分けがセカンドハーベスト・ジャパン(略称2HJ)である。 フードバンクを含め、食べるものに困った人が食品を受け取れる場所の数を都市で比較してみるとは、ニューヨークが1100カ所、シカゴが600カ所。これに対し東京は、2HJが唯一である。 「食品の提供先は、約3割が児童養護施設です。そのほかに、障害者支援施設や母子支援施設、元依存症の方の自立支援施設、生活困窮者向けの食堂など、届け先は多様です」 本誌2014年11月号では2050年、90億人時代に向けた特集「捨てられる食べ物」を掲載しています。世界での状況を紹介したWebでの記事はこちらです。ぜひあわせてご覧ください。 2013年度の実績では、関東エリアで定期的に配送を行っている施設や団体数が300カ所。届けた食品の量は2057トン。食品を寄贈する企業も約580社と協定を結んでいるという。 フードバンク活動のほか、生活困窮者向けに毎週土曜日に炊き出しをする「ハーベストキッチン」や、食べ物を必要とする世帯に食品類を箱詰めで届ける「ハーベストパントリー」、東北の震災被災地支援などの活動も行っている。 62万人に届ける 2HJを訪ねた日、1階の作業場では「ハーベストパントリー」の荷物づくりが行われていた。主食となる米や乾麺類、しょうゆや味噌、酢などの調味料に缶詰やインスタント・レトルト食品、菓子類など、およそ2週間分に相当する食料を箱詰めにし、個人世帯に送るのである。 スタッフの指示で食品の仕分け作業をするのは、2HJの活動に共感を寄せるボランティアたち。週に100名を越えるボランティアが手伝いに来るという。CSRの一環として社員を派遣する企業も少なくない。 2013年に2HJから食品を受け取った人は、延べ62万人。地方のフードバンクや生活支援団体とも連携しており、寄贈された食品を地方に発送したりもしている。 「生活困窮者への支援が活動目的として大きいのですが、もう少し大枠でとらえると、余っている食料を、それを必要とする人々に適正に分配するマッチングが仕事だと思っています。つまり、資源の有効利用でいえば、3Rの2番目、リユースに当たる活動です」 食べ物が必要な世帯に食品類を提供する「ハーベストパントリー」の荷物づくりの様子。 環境負荷の抑制、資源再利用の考え方でよく使われる「3R」は、Reduce(リデュース)、Reuse(リユース)、Recycle(リサイクル)の頭文字だ。リデュースは、無駄を生む必要以上の生産や消費を行わないこと、リユースは、使えるものを廃棄せずに再利用すること、リサイクルは、廃棄されたものを再資源化して利用することである。 この3Rは資源を有効利用するための基本的な方策を並べただけではなく、その行動の優先順位を表してもいる。最も大切なのは無駄なものはつくらない。次に、使えるものは使いまわす。 「食品ロス対策でも、その考え方は同じだと思います。リサイクルは、いわば最後の手段なのですが、日本の場合は、食品廃棄物の利用を見てもリサイクルが優先になっています」 再配分こそ大切 そこがおかしいと井出さんはいう。確かに先述したように、食品廃棄物は再生利用されてはいるものの、その9割は飼料や肥料など、食品以外のものにつくり変えられてしまっている。しかし一方で、繰り返すが、賞味期限が残った食品が大量に廃棄されているのだ。 「先日聞いた講演で、イタリアのパスタメーカーの人は、食品ロス対策の3Rでは『リデュース(発生抑制)』よりも『リディストリビュート(再配分)』が大切だと言っていました。私もそう思います」 無駄をなくすといっても食品の場合、仮に需要と供給が1対1ではギリギリで、食料不安の状態になる。ある程度の余剰・備蓄も必要ではあるのだが、それを無駄にしない利用を優先するのが「リディストリビュート」。フードバンクの活動が、まさにそれにあたる。 食料不安に陥らないために、ある程度余剰や備蓄は必要だ。それを無駄にしない「リディストリビュート(再分配)」が大切。2HJのようなフードバンクの活動がまさしくそれにあたる。 また、生物資源の利用においては「バイオマス5F」といわれるものがある。Food(食物)、Fiber(繊維)、Feed(飼料)、Fertilizer(肥料)、そしてFuel(燃料)で、これも多段階に利用する際の優先順位を表している。 「食物に余剰があれば、そのまま食物として使うことを第一に考える。それが最も社会的に無理のないやり方です。食品生産に労力とエネルギーをかけているのに、リサイクルで再び労力とエネルギーをかけるのはもったいない。そういう考え方が、もっと日本で普及してほしいと思います」 2HJの現況では、缶詰やレトルト食品、飲料、調味料類などの食品を寄贈する企業はメーカーが圧倒的に多い。それは卸売業者や小売業者から返品されてくる製品の廃棄コストを削減したいという意向があるからだ。しかし、最近は大手スーパーなど小売業からの寄贈も少しずつ増えている。 課題は野菜 一方で、野菜などの生鮮食品の取扱量は1割程度と低い。生鮮品には保管設備が必要だし、輸送にも細かい気づかいを要するので、取り扱う食品は加工品に偏りがちになる。 「アメリカでは、野菜の過剰生産分を国が買い上げて生活困窮者に供給することを定めた法律が1970年代にできています。ですから、取扱量の半分が生鮮野菜というフードバンクも、アメリカにはあります」 生鮮野菜の取り扱いをどう増やしていくかが、2HJの課題のひとつとしてあるという。 取り扱う食品が加工品に偏りがちなのは、アメリカでも多くのフードバンクが抱える課題でもある。生鮮品が不足するため、同国では食品の支援を受けている家庭で、肥満が増えていることが問題視されている。 「食品の量を確保することがまず先決なのですが、食品の質も高めていきたい。栄養バランスを整えたかたちで、食品を供給できるようにしていきたいと思っています」と井出さんはいう。 現状では、2HJに集まる食品は加工品が多い。保管設備や輸送に気を使う生鮮食品の取り扱いは課題のひとつだという。 さて、この項の冒頭で家庭における食品ロスの削減について少し触れた。余剰を生まない買い方、食品を使い切る工夫が基本だが、食品の新しさをむやみに求めるのも改めたいことのひとつだ。家庭から出る食品ロスの量が200万〜400万トンにのぼると推定されていることはすでに述べた。食品ロスの削減は、生産、流通、小売など食品を供給する側のみならず、それを消費する側の課題でもある。私たち1人1人はどんなことができるのだろうか。 私たちにできることから 「たとえば、牛乳や菓子パンなど、その日か翌日には飲みきったり、食べきってしまうものなら、賞味期限がそんなに先のものでなくてもいいですね。そんなふうに家庭の生活サイクルに合わせた食品の選び方も、食品ロスの削減につながっていきます」 買いだめを防ぐには、食品の在庫をこまめにチェックするとよい。食べ残すほど調理しないことや、残ったら別の料理に変身させて食べきる。あるいは、毎年9月1日の防災の日に備蓄の食料で夕食をとるようにすれば、備蓄品の期限切れを防げる。 また、食品の余剰が出たら、それを使い回すことも大切。期限内に消費できる食品なら、フードバンクに寄付するのも一案だ。 「余った食品を職場や学校に持ち寄って、福祉団体や施設、フードバンクに寄付する『フードドライブ』という活動も、アメリカでは盛んです。最近は日本でも実施する自治体が出てきていて、2HJが協力しているケースもあります」と井出さん。 食品ロスを減らす取り組み、行政、企業に任せるばかりではなく、個人の生活レベルからも考えてみたい。 おわり ナショナル ジオグラフィック日本版 お得なキャンペーン実施中! 「90億人の食」 2050年には、世界の作物の生産量を、現在の2倍にする必要がある。地球環境に負担をかけずに、充分な食料を確保できるのか? 食の未来を考えるシリーズ「90億人の食」が読める『ナショナル ジオグラフィック日本版』は、定期購読がお得。1冊プレゼントキャンペーンを実施中。この機会に、是非お申込み下さい。詳細はこちら。 このコラムについて インタビュー 日本の食の未来
2050年、世界の人口が90億人を突破する一方で、日本の人口は1億人を下回ると予測されている。ますます多くの食料が世界で求められるなか、日本の食の未来はどうなるのか。そして、いま私たちは何をすべきなのか――。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20141117/273914/?ST=print
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