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安値に近づくドイツ株式 とロシア・中国(NEVADAブログ)
http://www.asyura2.com/14/hasan91/msg/348.html
投稿者 赤かぶ 日時 2014 年 10 月 28 日 09:39:25: igsppGRN/E9PQ
 

安値に近づくドイツ株式 とロシア・中国
http://blog.livedoor.jp/nevada_report-investment/archives/4767135.html
2014年10月28日 NEVADAブログ


ドイツ株式は−0.95%の8902で終わり、年初来高値から11%余り下落となり、年初来安値に接近してきています。

金融緩和で株式市場は下がったとは言えまだ高値を維持していますが、それでもじわりじわりと下落傾向となっており、この先、景況感の悪化もあり企業決算の赤字や下方修正が相次げば、株式は今の水準を維持できるものではありません。

また、ロシアルーブルが再度売られ、1ドル42.17ルーブルまで売られていますが、底抜けてはいません。
格付け会社がまだ『BBB−』(ジャンク債まであと1ランク)を維持していることがその理由となっていますが、いつまで今の格付けを¨維持する¨のかが注目されます。

格付け会社は機関投資家にはそれなりの情報を与えているもので(だからこそ、もの凄い金額を情報料として機関投資家は払っています)、機関投資家はその情報を自分なりに分析をして投資行動に使っているのです。

情報はただではなく、しかもその情報をどのように利用するのかは投資家に任されています。

1000万円の情報料を払って100万円しか儲けられないディーラーもいるでしょうし、何十億円も稼ぐディーラーもいますし、反対に何億円も損をするディーラーもいます。
情報をどのように利用するのかはその人のスキルにより、利用出来ない(儲けられない)者は淘汰されていくだけです。


スイスのトップクラスのプライベートバンカーの間で今後、ロシアルーブルが暴落してヨーロッパ株が暴落して、原油、金が暴落して、そして最後にニューヨークダウが暴落すると言われていますがそれで一体誰が儲かるでしょうか?


全てが『仕組まれて』いるとすれば、今後ロシア・中国からは目が離せませんし、香港の学生による道路封鎖問題でも、実際に現場をみて分かったことは、情報が作られているということでした。
即ち、『何故警察はバリケードを撤去しないのか?』でした。
誰もいないバリケードが多くあり、これで封鎖?デモ?と思える場所が沢山あったからです。


混乱が起こるという理由では説明がつかないほど緊張感のない封鎖だったのです。

この謎解きはある中国政府に通じている香港人の一言で解決しました。

『彼らは何も知らない無垢の学生だよ。やらされているだけなのだから』

香港政庁の公務員達(幹部)は昼間から高級飲茶を食べながら談笑している姿を見れば、『やらされている』というのは納得がいきます。


ロシア・中国の戦略は果たして今後どのように展開していくでしょうか?


 

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01. 2014年10月28日 11:24:33 : xEBOc6ttRg
独アウディCEOも不安を抱く欧州経済

「地政学リスクによる買い控えを懸念」

2014年10月28日(火)  蛯谷 敏


 高級自動車市場の中で、今最も勢いのあるメーカーと言っていいのが、ドイツのアウディ・グループだ。2014年1〜9月世界新車販売は、前年同期比10.0%増の129万8650台と過去最高を記録。同分野で首位を走るBMWを猛追している。
 業績も手堅い。2014年中間期の売上高は前年同期比5.8%増の267億ユーロ(3兆6045億円)、営業利益は同1%増の27億ユーロ(3645億円)。フォルクスワーゲングループの自動車部門の営業利益の5割を稼ぎ出す大黒柱である。だが、好調を維持する同社も、ここに来て急速に減速懸念が浮上してきた欧州経済には不安の色を隠さない。ルパート・スタドラーCEO(最高経営責任者)に欧州経済と事業の見通しを聞いた。
(聞き手は 蛯谷 敏)
今年9月に上方修正した2014年の年間販売台数170万台の達成はほぼ射程圏内ですね。

スタドラー:そうでなければ、公言しませんよ(笑)。欧州、北米、南米、中国とアウディのブランドは着実に成長しています。日本でも好評いただいているようです。

2014年は世界新車販売数で過去最高記録を更新し続けています。上期の業績も堅調です。これまでの状況を見る限り、アウディ・グループは好調を維持していると言っていいですね。

スタドラー:………(いきなり神妙な顔つきに)。

スタドラー:確かに、新車の販売台数や業績を見れば好調と言っても支障ないと思います。しかし、我々が将来に対して楽観しているかと言えば、決して違います。むしろ、危機意識の方が強い。

危機意識ですか?

スタドラー:大局的に見れば、自動車産業は過去40年でも最も大きな変革期に置かれていると考えています。いわば、試練の時期ですよ。

 何が試練なのか。まず何よりも、目の前の厳しい環境規制への対応があります。欧州委員会は、自動車メーカーに販売する新車の二酸化炭素(CO2)排出量の平均を2021年までに1km当たり95gまで削減することを義務づけています。

 これがいかに困難なことか。欧州でビジネスをする自動車メーカーでなければ理解し難いかも知れませんが、とにかくこれまでの発想の延長で自動車を開発していてもビジネスは永続できません。別次元の対応が求められているのです。そのために、莫大な投資と技術を投入して、新車開発に取り組む必要があります。

 従来のガソリンエンジンはもちろん、ディーゼル、電気自動車などあらゆる車種を活用して、この厳しいCO2規制を乗り越えようとしています。繰り返しになりますが、規制に対応するには、とてつもない投資が必要です。もちろん、これはBMWやダイムラーにとっても同様の課題ですが、1つだけ言えるのは、その投資の対価を得られるまでには相当の時間がかかるということです。

自動運転技術など、様々な技術革新にも対応していく必要がありますね。


ルパート・スタドラー(Rupert Stadler)氏
1963年3月生まれ。アウグスブルグ応用科学大学卒業後、蘭フィリップスのドイツ法人を経て、1990年にアウディに入社。その後、フォルクスワーゲンのスペイン法人、フォルクスワーゲン本体を経て2003年にアウディの役員に昇格。財務・人事部門の責任者を務めた。2007年に会長、2010年からはフォルクスワーゲンの役員も兼務する。
スタドラー:自動運転の実現には、運転補助システム、カメラ、センサーなど、従来の自動車産業とはあまり関連のなかった技術を大量に導入する必要があります。これらへの開発も本格化させています。

 難しいのは、こうした技術を搭載したとしても、絶対に顧客がついてくるかどうかという保証はないことです。技術革新も大事ですが、それにも増して重要なのは、技術を顧客が付加価値と捉えてくれるかどうかです。その意味で、マーケティングも非常に重要になる。

 特に、クルマ離れが進んでいると言われる若い世代に対して、ステータスシンボルでありつづけるためのマーケティングを展開していく必要があるわけです。さじ加減を誤れば、顧客はついてきてくれません。

 次の時代の自動車産業に生き残るためには、これらすべての条件を満たす必要があると考えています。相当に大変なことだと思います。本当に強いブランド、エンジニア集団、そして技術力がなければ生き残れない。消費者の感性を揺さぶる、セクシーなクルマを開発できるメーカーだけが、次の時代に進むことができます。

 そのために、アウディは2014年から2018年の5年で総額220億ユーロ(約3兆円)を環境技術や新車開発のために充てることを決めています。これは、過去最大の規模です。

「今は買い時ではない」とならないか…

欧州の経済状況はどう見ていますか?

スタドラー:全体の状況について言えば、やや不安をもって見ています。それは、ここ最近急速に不安定になってきた政治情勢に起因します。ウクライナを巡る欧米とロシアの対立はまだ解決に至っていませんし、中東情勢も今後さらに悪化する可能性がある。

 こうした地政学リスクは、経済への直接的な影響だけでなく、消費者の購買心理にも微妙に影を落とします。「今は買い時ではない。もう少し様子を見てみようか」と、消費者が買い控えに動くことを心配しています。

再びユーロ危機のような状況になりかねないと。

スタドラー:ただ、欧州も国によって、かなり経済環境が異なりますから、それぞれの市場についてより詳細に見ていくのが大事だとも思っています。

 英国は今のところ、経済は堅調です。コンディションはよく、消費意欲も高い。一方で、フランスは国全体が、財政問題などの政治課題を抱えていて、労働市場改革などの渦中にある。景気が回復するまでには時間がかかるでしょう。さらに厳しいのはスペインやイタリアで、これらの国々は最近、再び債務問題がクローズアップされています。経済成長もほとんどしていません。

 我々の母国ドイツも、しばらく劇的な成長は難しいでしょう。物価上昇率も、ここ最近は低迷しています。いわゆるデフレーションの気配も感じられる。もちろん、底堅いとは思っていますが、現状を見る限り、欧州の成長率は今後鈍化すると見ざるを得ません。

 加えて、ユーロ危機の構造問題は完全に解決していない。ここ数年は景気回復ムードに湧いていましたが、減速懸念が広がれば、再び南欧などの債務問題に焦点があたるでしょう。そうなると、消費意欲にも影響を与えかねません。それが経済にどう影響するか…。そこは注意して見守っています。

一方、今や中国が最大の成長市場です。中国市場はどうみていますか?

スタドラー:中国が最大の市場となるのは疑いない事実です。人口が12億ですから、当面は世界最大の市場として君臨することになるのは間違いない。彼らがビジネスを主導するでしょう。アウディは25年以上も中国でビジネスを展開してきました。良好な関係を築けていると思います。

8月には自動車部品の価格を不正につり上げているとして当局に独占禁止法違反を指摘されました(アウディは自主的に独禁法違反を承認)。

スタドラー:我々も、この事態にはすぐ対応しました。考えてもみてください。ドイツ、米国で(価格拘束を)許していないのに、なぜ中国だけ許すのか? 自由な価格競争こそが、我々が目指している状況です。

 もちろん、これは単純に価格を下げるということではありません。プレミアムブランドを志向するメーカーとして、プレミアム価格で販売したいという方針に変わりはありません。しかし、すべては健全な市場あっての話です。

日本市場はまだ伸びシロがある

日本市場についてはどう見ていますか?

スタドラー:日本市場は長年、攻めあぐねていましたが、体制を変えて、再投資を決めた後は、状況が上向いています。もちろん、これで満足しているわけではありません。日本はまだ成長の余地があると考えています。

技術の進化と共に、従来の自動車産業ではない領域から競争相手が参入してくる可能性が出てきました。米グーグルや、米テスラ・モーターズなどですが、彼らは従来の自動車メーカーにとってどのような存在になると考えていますか?

スタドラー:彼らが競争相手になる可能性を言いたいのでしょうが、私から見れば彼らは協調相手です。ITの領域と自動車産業が近づいているのは間違いありませんから、彼らとは必ず接点を持つことになる。アウディはそれを機会ととらえて、積極的に連携をすすめています。

 米ラスベガスで毎年開催される家電の展示会「CES」への参加もそうですが、アウディは彼らから学べる点が沢山あると考えています。それは、自動運転に限らず、今後のモビリティ社会を考える上での様々な要素です。

 逆に、彼らも自動車メーカーから学びたいし、可能な限り連携していきたいと考えています。

 テスラについて? もちろん、良いクルマだと思いますよ。いくつか問題があることは指摘されていますが、総じて良いプロダクトを作っているという印象です。しかし、単純に我々と比較できないのは、規模が違うからです。年間3万台を生産するメーカーと、年間170万台を販売するアウディでは、おのずとビジネスモデルも違ってきます。だから、簡単には比較はできません。もちろん、面白い会社だと思っていますが。

このコラムについて
ニュースを斬る

日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20141024/273017/?ST=print

 
ギリシャ:緊縮から脱しても利益誘導と賄賂は残る
2014年10月28日(Tue) Financial Times
(2014年10月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

「メイドに現金盗まれた」、通報した実業家に税務調査 ギリシャ
ギリシャがEUとIMFによる支援策からの脱却を急いでいる〔AFPBB News〕

 2010年以降、欧州連合(EU)と国際通貨基金(IMF)による支援を頼りにしているギリシャが、この支援からの脱却を急いでいるという話は一見不可解に思われる。

 数週間前には、ギリシャ国債10年物の利回りが市場で急上昇し、9%を超える場面があった。

 現在の利回りは7%だが、この水準でも、ギリシャ政府が公的機関から受けている融資の金利に比べればはるかに高い。最後のハードルで転んでしまうランナーのように、ギリシャは遅れたくないがためによろけてしまう恐れがある。

 しかし、ギリシャのアントニス・サマラス首相とその同僚たちにしてみれば、これはどちらかと言えば財政の問題ではない。国の威信の問題であり、民主主義国では当然予想される政治的な計算の問題なのだ。

ギリシャ国民に大国に支配された歴史を思い出させる支援策

 EUとIMFの支援策に対するギリシャ側の態度には、国の威信を回復したいという気持ちが満ちている。大量失業から企業の倒産に至るまで、支援策がもたらしてきた社会的・経済的コストは極めて大きい。

 ギリシャ国民はこの支援策を見て、オスマン帝国からの独立戦争(1821〜32年)以降に列強の支配をたびたび受けた自国の歴史を思い出している。高齢の国民は、ナチスによる占領(1941〜44年)や第2次大戦後に英米が行使した影響力を鮮明に覚えている。

 自己決定権を求める戦いは、ギリシャ人のアイデンティティーにおいて非常に重要な位置を占めているのだ。

 一方、現在の政権には、EUとIMFのくびきから逃れることができれば、来年2月に予想される次の国家元首を選ぶ議会内投票で勝利できるとの計算がある。そこで勝利を収めれば、現政権は4年の任期を全うでき、次の総選挙(2016年6月)で選挙戦を有利に展開できるだろう。

ギリシャ第1党が組閣を断念、第2党の急進左派連合が連立協議へ
新民主主義党を率いるアレクシス・サマラス首相〔AFPBB News〕

 問題は、サマラス首相の政権は連立政権で、議会の300議席のうち154議席を支配するにとどまることだ。ギリシャの憲法の規定では、新大統領の候補者は180人の議員の支持を得なければならない。

 政権がこの180人の支持を確保できない場合は、議会を解散して総選挙を行うことになる。

 サマラス氏はこの展開を望んでいないが、政権がEU・IMFの支援からの早期脱却を果たしたと有権者が認知してくれれば、自らが率いる保守派の新民主主義党は好成績を収めるかもしれないと考えている。

急進左派連合(SYRIZA)が政権を握る可能性

 しかし、最新の世論調査によれば、解散総選挙で勝利を収めるのは野党の急進左派連合(SYRIZA)になるという。SYRIZAは、EU・IMF主導の財政緊縮策やサマラス政権が推進する経済改革に強く反対している。

 SYRIZAが政権を握った時に、これまでの主張通りの政策を強力に実行するかどうかは定かでない。また、解散総選挙でSYRIZAが圧倒的過半数を獲得することは考えにくい。

 恐らく、SYRIZAが第1党になれば同党のアレクシス・ツィプラス党首は連立政権の首相になり、連立を組むほかの政党や金融市場から圧力を受けて、ギリシャの債権者との和解に傾くことになるだろう。

ギリシャ第2党も連立断念、融資打ち切りの恐れも浮上
急進左派連合(SYRIZA)のアレクシス・ツィプラス党首〔AFPBB News〕

 そうなった場合、SYRIZAに率いられたギリシャは、無謀な財政でも終わりの見えない緊縮財政でもない、責任感にある程度影響された政策を経験することになるだろう。

 ツィプラス氏は常々、ギリシャがユーロ圏にとどまることを望むと発言している。このスタンスは、正真正銘の左派の政策に自動的に歯止めをかけるものだ。

 しかし、サマラス氏にしてみれば、もしSYRIZAが総選挙で勝利すれば、外国におけるギリシャの評判を回復するとの名目で自分の政権が取り組んできたことが、すべて台無しになる恐れが出てくる。

 結局のところ、ギリシャにとって重要なのは、サマラス氏が首相の座にとどまるかツィプラス氏がその座を奪うのかということではない。

 重要なのは、5年近くに及ぶギリシャ国内の苦境と「トロイカ」――欧州中央銀行(ECB)と欧州委員会、そしてIMFの3者――への従属が、ギリシャの政治風土を、そしてギリシャという国家に対する国民の態度を本当に近代化してきたのか、ということである。

世界大戦や外国の占領でも滅びなかった恩顧主義と賄賂

 全ギリシャ社会主義運動(PASOK)と新民主主義党が政権を担ってきた1980年代初め以降のギリシャで勢いを取り戻したあの歴史あるシステム――クライエンテリズム(恩顧主義)、賄賂、そして私腹を肥やす行動――は、金融危機で打撃を受けた。しかし、公的セクターに汚職や利益誘導がまだ残っていることを否定するのは無意味だ。

 また民間セクターにおいても、富裕層は、困っている国を助けるための犠牲を全く払わなかった。おかげで、中間層や貧困層が危機の打撃を被ることになってしまった。

 ギリシャの恩顧主義、そして富裕層の身勝手さは、20世紀に入って何度も困難に遭遇したが、そのいずれにも屈しなかった。2度の世界大戦にも、外国による占領にも、内戦にも、軍の独裁にも滅ぼされなかった。今度も、つまりトロイカという名の外国人領主がこの地を去った後に生き残ったとしても、決して驚いてはいけない。

By Tony Barber
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42071


 


日経平均は年内に1万8000円へ日本株に懸念はない

2014年10月28日(火)  田村 賢司

9月半ばから世界中で急落した株価。日本株も大きく下げ、不安感に包まれた。消費税再引き上げの決断も間近に迫り、景気の先行きを含め、懸念が広がる。武者リサーチ代表の武者陵司氏に株価と景気の見通しを聞いた。
(聞き手は田村賢司)

8月初めに続いて9月半ばから10月にかけて、再び世界で株価が急落した。足下ではやや戻したが、日本株に懸念はないのか。

武者:基本的に懸念はない。一種のテクニカル的な下落だと思っている。日本株は、昨年1年で約35%も上がり、今年も堅調に推移している。一種のテクニカル的な下落ではないか。

 10月という月は、海外では年末の納税や11月のヘッジファンドの決算に備えた売りが出やすい側面がある。元々、上昇を続けてきて売りやすいタイミングでもあった。連関性はともかく、歴史的に見ても、大恐慌は1929年10月、ブラックマンデーは1987年10月、リーマンショックは2008年9月から10月のショックだ。

欧州、中国経済には懸念が強い

考えられる理由の1つに、米国の金融緩和縮小への動きがある。株式市場に流れ込んだマネーの逆流はどうか。


武者 陵司(むしゃ・りょうじ)氏
武者リサーチ代表。1973年横浜国立大学経済学部卒業後、大和証券に入社。1997年ドイツ証券調査部長兼チーフストラテジスト、2005年ドイツ証券副会長を経て、2009年武者リサーチを設立。著書に『超金融緩和の時代 「最強のアメリカ」復活と経済悲観主義の終わり』(日本実業出版社)などがある


武者:確かに市場に大量のマネーを供給してきた量的緩和(QE)政策の変更は、株式市場にとってはフォローの風ではない。しかし、株式市場に逆風となるようなら、ただちに緩和は継続されるはずだ。米FRB(連邦準備理事会)が、株価下落やデフレ圧力を高めるような金融政策を取ることはないと見ている。

 ジェームズ・ブラード・セントルイス連邦準備銀行総裁も最近、「FRBはQEの終了を遅らせることを検討すべき」と発言しているが、金融緩和の縮小は、(市場や経済にとって)ハッピーエンドになるものでなければ行わないというのがFRBの考え方だ。過去の例を見ても、金融引き締めが始まった時点で株価が下落したことはない。

世界経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)自体はどうか。例えば、欧州はEU(欧州連合)域内の銀行行政を一元化する銀行同盟が11月に発足するなど金融不安への対応はしてきたが、景気は回復しない。

武者:ひと言で言えば、確かに景気は失速している。いわゆるリフレ政策(緩慢なインフレに導く政策)が不十分だ。銀行同盟でも足りない。

 まず欧州の周辺国は、放漫財政の結果、巨額の財政赤字、経常赤字に陥り、それが国債の信用力を失墜させて2009年以降の欧州債務危機を招いた。そのため、ギリシャ、ポルトガル、スペイン、イタリア、アイルランドなどの諸国は緊縮財政をとり、債務と経常赤字は急速に縮小した。

 しかし、その結果、南欧など周辺国の過剰消費・投資に支えられた欧州景気は停滞し、需要不足になった。個人消費は落ち、南欧・周辺国の失業率は高くなり続けている。

 ドイツだけが失業率も低く、過剰貯蓄を続けている。まず、ドイツが財政出動をして国内に需要を作り出す必要がある。さらに、EUではユーロへの参加条件として、財政赤字をGDP(国内総生産)比3%以内に抑えるマーストリヒト条約を順守することとされている。イタリア、フランスなどは現在、それ以上の赤字となっているが、当面順守の先送りをするといったことも重要になる。これらがなければ、欧州景気の停滞は避けられないだろう。

中国はどうか。今年7〜9月期はまだ“停滞”しているが。

武者:実質GDP成長率が前年同期比7.3%となった。水準としては危ういほど低くはないが、やはり懸念は多い。鉄道貨物の輸送量や、発電量、輸出の動きはいずれも右下がりから脱していない。不動産開発投資も伸びは低下傾向を示している。

 つまり、内需は停滞から脱しきれない状況だ。過剰な不動産投資などで発生している不良債権問題も、これまで覆い隠されてきたが、それが見えてくる時期が迫ろうとしているのではないか。ただ、こうした見方もまだ一部。あと1〜2年もすれば、より深刻な危機が見えてくると思う。

消費税引き上げ自体が問題ではない

欧州も中国も良くないとなると、米国だけが世界経済を支える構図ということか。

武者:米国の経済は正常な拡大軌道に戻りつつあると見ていい。しかも、これまでは、ペントアップデマンド(不況期に控えていた支出が景気回復局面で一気に出てくること)に支えられた拡大だった。今後はさらに様々な分野で需要が拡大すると見ている。


 例えば住宅は、2007年以降のサブプライムショックでバブルが崩壊し、融資規制を行ってきた。このため、ショック前にはGDP比で6%を超えていた民間の住宅投資が2010〜2011年頃には半分に落ち込んだ。今、それが回復し始めたところだが、まだまだこれからだ。

 また、企業の利益が大きく回復する一方、労働者への分配率は低下してきたが、これも労働需給が厳しくなり、賃金は上がり始めた。さらには、家計部門の負債の伸び率も、今年第1四半期には前年比プラスにあと一息のところまできた。

 つまり、総合すれば米国経済が回復を続けるのは間違いないはずだ。

日本では消費税を来年秋、再引き上げするかどうかを今年12月初めに判断すると見られる。景気回復と、この秋以降の株価に影響は。

武者:識者の多くはアベノミクスへの見方がおかしい。これは、日本経済がデフレ脱却からインフレへ転換するという期待を醸成するようにものだ。インフレとなれば、マネーを持ったままにするより、投資した方がいいということになる。それが経済の拡大、株式市場の上昇を生み出す構図だ。とすれば、消費税にカギがあるのではなく、期待の転換ができるかどうかにポイントがある。

 円安になっても輸出が増えないとの見方があるが、そもそも円安は短期的に需要創造に結びつくものではない。ただ、円安は日本企業の海外子会社が稼いだ利益の換算益を含め、日本企業の利益を押し上げている。企業は、これをかつては値下げ原資に使い、価格競争をしてきたが、今はそういう行動をとらなくなっている。輸出が増えない裏にはそれもあると見ている。

 重要なのは、企業が利益増を賃金や配当、投資の積み増しに使うかどうかだが、今年夏の大手企業の賞与は既に前年比で約8%増加しており、徐々にいい方向に向かい始めている。

日経平均のこれからの見通しを言うとするとどうか。

武者:端的に言えば、年内に1万8000円、来年は2万円を目指す展開だと見ている。もし安倍晋三政権が消費税の再引き上げを実行するとすれば、それでも景気が腰折れをしないという見通しでやるはずだ。仮に先送りをすれば、さらに大きく上がると考えている。

このコラムについて
キーパーソンに聞く

日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20141027/273051/?ST=print

 


「次の消費増税は1年以上延期」という予想の根拠
2014年10月28日(火)  上野 泰也


 2015年10月に予定されている8%から10%への消費税率引き上げ。安倍首相は12月上旬に下す政治判断でこれを少なくとも1年は延期するだろうと、筆者は以前から予想している。
 エコノミストの中でそう予想している向きは依然としてごく少数だが、この予想を補強する材料がこのところ増えている。政府・与党内の増税延期派の主張内容や、歳末商戦への悪影響を避けてほしいという小売業界の声を考慮すると、17年4月まで1年半の増税延期が最も可能性が高いシナリオになる。
 政治と経済という2つの面から、筆者のそうした予想の根拠を整理してみよう。
15年中の選挙でしくじると憲法改正が遠のく
(1)政治面 〜 国政選挙2つを含む今後の政治スケジュールとのかね合い
■16年7月の参院選は、15年10月の増税予定時期から1年未満というタイミングである。また、衆院の解散総選挙は16年12月の任期満了よりも前に行われる可能性が高い(近年のパターンから考えると16年春が有力か)。
 増税を予定通り15年10月に実施した結果、景気が大幅に悪化すると、選挙で自民党の議席が減り、安倍首相の政治家としての宿願である「憲法改正」の実現が遠のいてしまう恐れがある。
■直近の世論調査では、増税の延期・中止を求める声が7割前後に達している。不人気な政策を強行する場合には内閣支持率が低下して、選挙結果にも当然、悪影響が出てくる。
■公明党が主張する軽減税率の導入が難航している。集団的自衛権の行使容認問題で同党は自民党に譲った形になっており、15年4月の統一地方選など一連の選挙を控え、軽減税率の問題では妥協できる余地は限られるというのが一般的な見方である。
 そうした中、10%への消費増税自体を延期して、軽減税率導入問題の決着を一連の選挙の後まで先送りする案が浮上しやすいという見方ができる(当コラム8月19日配信「次回消費税率引き上げに『先送り論』」参照)。
■増税を延期するには、国会での法改正が必要になる。野党が攻勢に出て1月召集の通常国会が「消費税国会」と化してしまい、安倍内閣は多大な政治的エネルギーを使わざるを得なくなることが増税延期の障害だ、という指摘が聞かれる。関連するものも含め数多くの法律改正が必要というのはその通りだろう。
 だが、野党のほとんどが予定通りの税率引き上げに反対していることは見逃せない。最大野党である民主党はマスコミ報道で「態度未定」と形容されたりしているが、海江田万里代表が述べているように、@経済環境整備、A社会保障充実、B国会議員定数削減という3つの条件が満たされない場合には、3党合意の当事者であるにもかかわらず、予定通りの増税に反対する姿勢である(上記のうち@は結局のところ安倍内閣の姿勢と共通している)。
(2)経済面 〜 「けん引役」不在で景気のバランスは不安定、地方の景況感は下振れ
■力強く持続性がある「けん引役」が見当たらなくなっており、景気のバランスは不安定である。円安が進んでも、海外現地生産など経済の構造変化をうけて、輸出の数量は伸びにくい。
 個人消費は、賃金増加よりも物価上昇(消費増税+電気代・ガソリンなど「悪い物価上昇」)のインパクトが大きいため実質可処分所得が水準を切り下げたことを主因に低迷。人口減・少子高齢化で日本の消費市場が長期的に縮小方向であることを考えると、企業の設備投資にも大きな期待はできない。
 「14年4月の消費増税で個人消費が伸びを落としても円安進行から時間差を置いて輸出が伸びるから大丈夫だ」としていた楽観論は、現実の経済統計の数字によって明確に否定された(「バトンタッチ」は失敗)。
新規求人数が下を向き始めた
 14年4月の消費増税から1年半というインターバルは短すぎる感も漂う。景気強気派が引き合いに出すことが多い雇用面では、先行指標の1つである新規求人数が下を向き始めている点は見逃せない。
■景気動向指数の基調判断は8月分で「下方への局面変化」に下方修正されており、景気がすでに後退局面に陥っている可能性が少なからずある。また、政府は10月の月例経済報告で、景気の基調判断を2カ月連続で下方修正した。
 過去2回の消費税率引き上げの場合は、引き上げの1年前の時点で判断のベクトルが下を向いていたことはなかった。毎日新聞の10月22日の報道によると、景気の下降を示す経済指標が目立ち始めたことで、「増税判断はより慎重に行わざるを得ない」(政府筋)との見方が広がっているという。
■「飛行機の後輪」に例えられることがある地方の景気が良くない。景気ウォッチャー調査にある景気の現状水準判断DI(家計動向関連)を加工して、「地方」と「大都市圏」の推移を見ると、「アベノミクス」が開始された頃から「地方」の下振れが目立っている。今後予定される一連の選挙をにらみつつ「地方創生」を掲げている安倍内閣にとって、大きな懸念材料である。(当コラム10月21日配信「『アベノミクス』と無縁なまま沈んでいる地方経済」参照)
■金融政策面で「アベノミクス」の支柱になっている「リフレ派」の人たちの間では、デフレからの脱却を実現しないうちに消費増税をもう一度実行するのはリスクが高いという考え方が根強いようである。
 だが、生鮮食品を除く全国消費者物価指数(消費税率引き上げ要因を除くベース)は、8月分で前年同月比+1.1%までプラス幅を縮小。このまま+1%を割り込む可能性が高くなっている。しかも、政府が「デフレ脱却宣言」を行うには、デフレに逆戻りしないことを確認する必要があるため、ハードルはかなり高い。(当コラム10月7日配信「政府が『デフレ脱却』を宣言できない理由」参照)
■米国のルー財務長官は、欧州に加えて日本の景気下振れも危惧している模様。国際通貨金融委員会(IMFC)における声明で財務長官は日本に対し、「財政健全化全体のペースを注意深く調整」するよう求めた。これは消費増税を予定通り行うかどうかの判断は景気への悪影響を考慮してきわめて慎重に行うべきだというメッセージだと解される。
■「予定通りの増税とセットで景気てこ入れ策を打てばよい」との声もあるが、具体的に何をするのか、景気刺激効果が本当にあるのかというところまで、十分に考える必要がある。金融政策、財政政策ともに「手詰まり感」があることは否めない。
 既に長期金利が低水準にあることなどから考えて、日銀の追加緩和が景気・物価を直接刺激する効果は乏しい。仮に追加緩和がサプライズになり、110円を超えて為替市場で円安ドル高が進む場合でも、それが差し引きで日本経済にプラスなのかマイナスなのかは微妙。補正予算で公共事業を上積みしても、人手不足・資材高騰が景気刺激効果を減殺しているのが実情である。
(3)延期でも「悪い金利上昇」は一時的・限定的、株価下落には「GPIFカード」
■増税を延期する場合にはいわゆる「悪い金利上昇」が警戒されるという教科書的な議論は、債券市場の実情にそぐわない。これが、市場に近いところで日々仕事をしている筆者の予想であり実感である。
 現場の運用担当者の間でもそうした見方が少なくない。日銀が長期国債の大量買い入れを続けていることを主因に、普通の市場には備わっているはずの機能が、国内の債券市場ではほとんど消えてしまっている。
 したがって、次の消費増税が延期されても、財政規律の緩みを警告して長期金利が上昇するという「シグナル機能」が平時のように発揮されるとは予想し難い。金利の上昇はあっても一時的・限定的なものにとどまるとみる(当コラム8月19日配信「次回消費税率引き上げに『先送り論』」ご参照)。
 10年物国債利回りはじわじわ低下しており<図>、10月24日には一時0.460%をつけた。「悪い金利上昇」が発生するとしてもせいぜい、水準を一時的に0.10〜0.15%程度切り上げるところまでだろう。そして、そうした水準では国内の投資家がこぞって国債の購入に動き、金利はほどなく反転低下すると見込まれる。
<図>低下を続けている10年物国債利回り

(出所)日本相互証券
■増税が延期される場合に売られやすいのは、むしろ日本株ではないか。経済再生と財政健全化の二兎を追ってきた「アベノミクス」が行き詰まったと、海外投資家が受け止めると予想されるからである。もっとも、政府はいわゆる「GPIFカード」を保持している。
日経平均は1万4000円前後で下げ止まり
 GPIFと略称される年金積立金管理運用独立行政法人による公的年金の運用で、国内株式の比率を従来よりも高くする方向の運用改革は、「アベノミクス」の成長戦略の一環に位置付けられており、年内に実施される見通しである。
 株価が下落した際には買いに動く可能性が高く、結果的に株価の下落を抑制する役回りを担うとみられる。したがって、増税延期の場合でも株価の下落余地には限りがありそう。日経平均株価はおそらく1万4000円前後では下げ止まるだろう。



上野泰也のエコノミック・ソナー
景気の流れが今後、どう変わっていくのか?先行きを占うのはなかなか難しい。だが、予兆はどこかに必ず現れてくるもの。その小さな変化を見逃さず、確かな情報をキャッチし、いかに分析して将来に備えるか?著名エコノミストの上野泰也氏が独自の視点と勘所を披露しながら、経済の行く末を読み解いていく。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141027/273050/?ST=print 

 
 小宮一慶:株価急落、乱高下の原因とこれからの動きは?
小宮一慶の「スイスイわかる経済!“数字力”トレーニング」

株価急落、乱高下の原因とこれからの動きは?2014.10.24
•  このところ、NYダウも日経平均株価も乱高下をしています。9月下旬から10月中旬にかけては、NYダウが急落していました。世界経済の先行き不安に加え、米国の小売りや製造業の指標が予想を下回り、市場が警戒感を示したのです。この動きにつられて、日経平均株価も急落。9月末に1万6000円台前半をつけていたのが、10月中旬には1万5000円を割る水準まで落ち込みました。22日現在も乱高下が続いています。

 このような株式市場の不安定な動きは、いつまで続くのでしょうか。実際の景気動向と急落の原因を分析しながら、考えてみたいと思います。また、今年年末に予想されている消費税率の2度目の上げに対する安倍首相の判断にも触れます。
”頼みの綱”の米国にも先行き不安が広がった
 10月初旬から、NYダウ、日経平均株価ともに乱高下を続けています。世界経済の先行きの不透明感が強まり、市場が非常にナーバスになっているのです。
 そこで、安全資産とされている日本国債が買われ、長期金利が0.5%を切る水準で推移しています。同様に米国債も買われ、一時は米長期国債の利回りが2%を下回る水準まで低下しました。
 為替相場も大きく動きました。安全通貨と考えられている日本円が買われたため、円高ドル安が進んだのです。10月1日に、約6年ぶりに1ドル=110円台まで下落したことが話題になりましたが、その後急速に円高が進み、16日には1ドル=105円台をつけました。
 この引き金となったのは、米国のいくつかの経済指標が予想を下回ったことでした。一つめは、9月の「小売売上高」が8カ月ぶりに減少し、消費が弱いのではないかとの憶測が広がったのです。ただ、市場予測を下回ったと言っても、予測値は前月比マイナス0.2%、実際の数値は同マイナス0.3%という比較的小さな差でした。このことからも、市場が過敏に反応していることが窺えます。それも、弱気にです。
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なぜ、市場のセンチメントが変わってしまったか
 もう一つは、「製造業景況指数」が悪化したことです。これにも市場は敏感に反応しました。
 9月初旬に8月の雇用統計が発表された時、「非農業部門増減数」が18.0万人と市場予測を下回ることがありました。それにも関わらず、株価はそれほど落ちず、円高にも振れなかったのです。この時は、米国経済に対する確信が強かったのです。
 しかし、今は逆で、少しでも悪い指標が発表されると、株価が大きく下げてしまう状況です。市場のセンチメントが9月初旬とは変わってしまっているのでしょう。
 では、なぜ、市場のセンチメントが変わってしまったかといいますと、欧州経済、中国経済、新興国経済が弱いのです。以前からこの傾向はありましたが、その傾向が続いています。米国以外の地域の景気が弱含んでいるのです。
 こうした状況は、資源価格にも現れています。例えば、ドバイ原油は21日現在で1バレル=83ドル台まで下落していますし、WTI原油も10月半ばには1バレル=80ドル台まで落ち込みました。世界全体の需要が落ち込んでいるため、資源価格が下落しているのです。
 もちろん、景気の落ち込みに対しては、中国も小刻みに景気対策を行い、欧州では欧州中央銀行が量的緩和を行うのではないかという憶測がありますが、いずれにしても、トレンドとしては、中国経済も欧州経済も強さは感じられません。
 このように、米国を除いた地域の経済が軒並み弱いことから、唯一の頼みの綱である米国で悪い指標が発表されると、市場は過剰に反応してしまうのです。
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日本経済は踊り場から後退へ
 こうした背景の中、日経平均株価が急落したわけですが、企業業績自体はそれほど悪くありません。日経平均採用銘柄の「PER(株価収益率)」を見ますと、14.31倍(10月21日現在)でした。あまり過熱感はありませんから、企業業績という点から見ると、株価は高くないと言えます。これから大きく下落していくとは思えません。
 以上のことを考えますと、今は株価が過剰に動いていると感じます。
 ただ、日本経済はトレンドとして弱含んでいると私は考えています。それが最も顕著に現れているのが、「鉱工業指数 生産指数」です。

 4月以降、徐々に落ち込んできていて、8月は95.2まで悪化しました。これは民主党政権時代の2012年度とほぼ同じ水準です。
 さらに、設備投資に関係する「機械受注」も、消費増税後は5月、6月と前年比マイナスの数字が続き、7月に少し戻したものの、8月は前年比マイナス3.3%と再び落ち込みました。この推移を見ると、企業は先行きが不透明なことから、設備投資を今も抑え気味であると考えられます。

 もう一つ、「景気動向指数」も今一つの動きです。景気にほぼ連動する「一致指数」は、4月以降わずかずつ弱含んでいて、8月は108.5(※速報値)まで落ちました。景気に対して先行して動く「先行指数」も、8月は前月より1.4ポイント悪化の104.0(※速報値)となりました。こちらも弱含んでいます。また、家計の支出も4月以降、前年比マイナスの状況が続いています。また、輸出にも強さが見られません。
 以上の点から、国内景気は踊り場から下降局面に差し掛かっていると私は判断しています。
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為替レートはどこで落ち着く?
 こういう状況の中、日本独自のプラス材料はあるのでしょうか。非常に難しいところですが、唯一あるとすれば、円安に振れているということです。円安に振れると、グローバル企業の利益を押し上げますから、プラス材料になります。
 しかし、あまりにも円安が進みすぎますと、輸入物価が上昇し、コストプッシュ型のインフレが起こってしまいます。4月の消費税率上げの影響もあり、消費者物価は前年比3%強上昇していますが、給与の伸びがそれに追いついていない中でのさらなる物価上昇は景気を悪化させます。
 これらの点を考えますと、1ドル=105〜106円台という水準は、当面は落ち着きやすい相場ではないでしょうか。逆に1ドル=110円台まで下落し、それが続いてしまうと、弊害がかなり出てくると思います。輸入額がどんどん増えてしまうわけですから、ただでさえ貿易赤字が続いていたところに、さらに赤字額が膨らんでしまいます。
 9月末にかけて、1ドル=110円台まで急速に円安が進みましたから、今は少し調整されたというところだと思います。為替レートというのは、結局は通貨の売り手と買い手の需給バランスですから、1ドル=105円を大きく切って、再び円高水準に戻ることも考えにくいでしょう。
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二度目の消費増税はどうなる?
 株価が乱高下し、国内景気も弱含んでいる状況を考えると、政府はこれから難しい判断を迫られるのではないかと感じます。これまで安倍内閣は、国民に対して「株価が上がっているのだから、景気は順調に回復している」という見せ方をしていましたから、株価の下落は何としてでも抑えたいと考えているはずです。当然、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)に株式を買わせるでしょうし、日銀もETFを購入しています。日本株に投資するETFを買えば、株価を押し上げる効果がありますから、政府はこのような手段で株価を下支えするのではないかと思います。しかし、それでもこの乱高下には十分には対応できません。
 しかも、日銀はそろそろ異次元緩和の出口戦略を考えなければなりませんから、いつまでも資産を膨らませ続けることもできません。そこで政府はどうするのか。公共事業をさらに増やすのでしょうか。
 こうした状況は、来年10月に行われる予定の消費増税にも影響してくる可能性があります。11月半ばに発表予定の7〜9月期のGDPをベースにして、12月には増税を行うかどうかの判断をするとのことですが、今の景気の状況では、判断が難しいでしょう。来年4月には統一地方選も控えています。
 一部では、消費増税を先送りした方がいいのではないかとの声が上がっています。その一方で、増税を先送りにすれば、国債の格付けが下がる可能性もあります。
 私は、一時延期すること自体は、それほど大きなインパクトを与えないと思います。ここまで巨額の借金を抱えているわけですから、多少延期したところで、当面は大きなインパクトはないのではないでしょうか。
 ですから、景気の動向によっては、増税の判断を半年か1年先送りにするという手もあるでしょう。その場合は、法律を改正する必要がありますが、やろうと思えば難しい話ではありません。もし、政府がその判断をすれば、経済界や市場は結構好感するのではないかと私は思っています。
 財務省は消費増税を何としても実行したいと思っているでしょうが、安倍首相には景気の状況を冷静に見極めて、慎重に判断してほしいと思います。(つづく)
小宮一慶(こみや・かずよし)
経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。最新刊『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』(日経BP社)――絶賛発売中!
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皆様からお寄せいただいたご意見(1件)
1. 米国FRBは、2009年以来金融緩和を続け、5年間で行なったQE1〜QE3の総額は3兆ドルを超す。この間米国の経常収支赤字累計は2兆ドル以上で、FRBが金融緩和で発行したドル札の大半は米国の経常収支赤字埋めに使われ、最終の行き先は商品や為替の市場だと推察される。このほか、ECと日銀も金融緩和を行ったから、世界の各種市場を駆け巡る投機マネーは総額4兆ドル以上だろう。
世界の景気が膨張傾向なら投機マネーは値上がり益狙いで迅速な動きはしないが、景気が頭打ちなら鞘取り目的の短期売買が増えるだろう。そうなれば市場は当然乱高下する。
好調に見えた米国の経済指標が予想より下向いた。中国の高度成長は終わって明確に頭打ちだ。日本の経済指標も増税後芳しくない。欧州は元々成長が止まっている。
世界中の投機マネーは行き先を探しているが、長期に投資できる成長しつつある経済圏がなく、投機マネーはやむなく各種市場に乱高下を仕掛けて鞘取りを狙う。投機筋が仕掛ける経済実態と無関係な相場変動だから、理由を詮索しても無駄だ。 (富士 望) (2014年10月25日 23:43)
http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20141023/421303/?P=5

 


地方再生に寄与するトリガー条項の発動
2014年10月28日(火)  永濱 利廣


 ガソリン価格が一定以上の水準で推移した場合に自動的に税率を下げる「トリガー条項」は、東日本大震災の復興財源の確保に支障をきたすとして発動は凍結されている。
 そもそもトリガー条項とは、総務省が発表する小売物価統計調査において、ガソリンの平均価格が3カ月連続で1リットル160円を超えた場合、揮発油税の上乗せ税率分である25.1円の課税を停止するというものである。そして、停止後に3カ月連続でガソリンの平均価格が1リットル130円を下回った場合に、課税停止が解除される仕組みになっている。
 導入の背景には、2009年の衆院選で民主党が政権公約の一つにガソリン税等の暫定税率廃止を掲げたことがある。その後、政権与党となった民主党は、財源不足から暫定税率廃止を見送らざるを得なくなり、その代わりの燃料価格高騰対策として2010年に「所得税法等の一部を改正する法律」を成立させ、トリガー条項が盛り込まれた。
 しかし、2011年に発生した東日本大震災を受けて、適用されると復興財源となる税収を大幅に減らし、被災地でのガソリン不足を引き起こす可能性があるとして、トリガー条項は2011年4月27日から凍結されている。
 ただ、アベノミクスの効果が地方や中小企業にまで十分波及する前に、消費増税に加えガソリン価格の高騰が続けば、日本経済の足を引っ張りかねない。このまま価格高騰が続けば、発動を求める声がさらに高まる可能性がある。
トリガー条項1年発動は1.8兆円の減税効果
 仮にトリガー条項が凍結されていなければ、今年7月から発動される状況にまでガソリン価格は上昇している。
 仮にトリガー条項が発動されれば、様々な税目を通じて税収に影響を及ぼす。資料1は、2014年度予算をもとにトリガー条項が年間を通じて発動された場合の影響を示したものである。
 まずトリガー条項の発動は、ガソリンに課せられる揮発油税と地方揮発油税をそれぞれ1リットル24.3円、0.8円引き下げる。そして、トータル25.1円のカソリン値下げを通じて、国税を約1.3兆円、地方税を400億円程度それぞれ減らすことになる。またトリガー条項の発動は、軽油引取税の1リットル17.1円引き下げを通じて地方税を0.5兆円程度抑える。
 以上より、トリガー条項が1年間発動されれば、2014年度予算を基にすれば、国・地方分を合計して1.8兆円以上の減税効果があることになる。

1世帯当たり平均1.6万円の負担減
 続いて、トリガー条項発動の影響のうち、各部門別の収支に及ぼす影響について検証する。トリガー条項発動に伴う政府の税収減は、家計や企業の税負担を軽減することにより、公的部門から民間部門への所得移転を意味する。そこで、先に試算した各税目の影響額とガソリンや軽油の部門別需要比率等を用いて企業と家計の減税規模を推計すると、家計はトリガー条項の発動によって2014年度当初予算を基にすれば0.9兆円弱の減税となる一方、企業は約1.0兆円弱の減税規模となる。

 この結果に、地域別のガソリン消費額や世帯数、自動車保有比率等を用いて1世帯当たりの負担減額を試算すると、年間減税額は全国平均で1.6万円となることがわかる。特に、地域別では北陸、東北、東海、中国といったガソリンの支出が高い地域では減税額が大きく、ガソリンの支出額が低い関東、近畿の大都市圏では減税額が小さいといった特徴が見られる(資料3)。このように、地域の違いによって1世帯当たりの負担減少額が1.1万円も変わってくることになる。

発動期間の違いで異なる影響
 以下では、これまでの結果をもとに、トリガー条項発動がマクロ経済に及ぼす影響を試算した。具体的には、トリガー条項発動が実質GDP(国内総生産)に与える影響を、3年間発動する(ケース1)、2年間発動する(ケース2)、1年間発動する(ケース3)、についてそれぞれ先行き3年間の影響を試算した(資料4)。
 まずケース1について見ると、1年目には実質GDPを0.6兆円程度押し上げる効果を持つ。すなわち、トリガー条項を発動すれば、初年度は0.1%程度の実質GDP押し上げが期待できることになる。さらに2年目には実質GDPが1.6兆円、そして3年目には企業の減税効果が拡大することにより実質GDPは2.2兆円程度押し上げられることになる。こうした乗数効果も加味すれば、民間部門の減税効果は3年目の実質GDPを0.4%程度押し上げる効果を持つ。
 しかし、2年間でトリガー条項の発動が終わるケース2について見ると、2年目まではケース1と同等の効果が得られるものの、3年目には家計と企業の負担増の顕在化で、実質GDPへの影響は0.3%(1.6兆円)程度の押し上げ効果にとどまる。
 そして、トリガー条項の発動が1年間にとどまるケース3の影響を試算すると、2年目には家計と企業の負担増の顕在化により実質GDPは0.2%(1.0兆円)程度の押し上げ効果にとどまる。そして3年目には負の乗数効果の顕在化で、その効果は0.1%(0.6兆円)程度にまで縮小することになる。
 以上より、トリガー条項発動がマクロ経済に及ぼす影響を見るには、民間部門の減税効果の一方で発動期間がどれだけ続くかが重要と言える。

経済活性化とトレードオフの関係にある財政収支悪化
 一方、トリガー条項発動の効果は財政収支の動向と切り離して評価することはできない。そこで続いては、民間需要動向に左右される一般政府の消費税、所得税、法人税について、近年の家計支出や雇用者報酬、法人企業経常利益との関係を用い、トリガー条項発動に伴う民間需要の変動により事後的な財政収支に及ぼす影響を試算した(資料5)。
 まずケース1の前提をもとに得られた結果によれば、トリガー条項発動に伴う民間需要拡大効果は、家計や法人の所得税、消費税の自然増収をもたらすことから、1年目1.7兆円、2年目1.5兆円、3年目1.4兆円の財政赤字拡大要因となる。しかし、ケース2では発動期間は2年にとどまる。このため、財政収支への影響は3年目にプラス0.3兆円となり、財政赤字をやや改善させることになる。そしてケース3では、2年目以降はそれぞれ0.2兆円、0.1兆円の財政赤字改善要因となる。
 すなわち、トリガー条項の発動は財政赤字の拡大要因となるが、民間部門からの自然増収の効果で直接的な税収減少額ほどは財政赤字を悪化させないことになる。

求められる他の歳出入も含めた視点
 以上見てきたとおり、トリガー条項の発動は短期的な地方経済活性化策として検討に値する効果がある。特に、これまで地方経済活性化に効果的とされてきた公共事業が人手不足等により効果が小さくなっていることも勘案すれば、来年10月の消費税率引き上げに向けて実施される可能性のある景気対策の項目としてトリガー条項の一時的発動を組み入れることも検討に値する。
 いずれにしても、トリガー条項の発動が東日本大震災の復興財源の確保に支障をきたすために凍結されていることを勘案すれば、トリガー条項の発動を国民に十分に納得させるには、財源を含めた議論が不可欠と言える。従って、政府は復興財源を人質にトリガー条項の凍結を固持するのではなく、他の歳出入策とのセットで効果等を含めて議論し、国民に審判を問うべきであろう。例えば、多くの問題を抱える軽減税率の導入を考えるのであれば、アベノミクスに伴う自然増収分を一部使ってトリガー条項を一時的に発動することも検討に値する。



永濱利廣の経済政策のツボ
アベノミクスの登場で経済政策から目が離せなくなりました。政府や日銀の動き方次第で仕事や暮らしは大きく変わります。独自の経済分析に定評のあるエコノミストが、常識や定説にとらわれない経済政策の読み解き方を伝授します。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20141024/272996/?ST=print 



あなたは払えますか? 再エネ賦課金2.7兆円1人2.3万円×20年、これは冗談ではない
2014年10月28日(火)  竹内 純子


 「あなたの消費税はもう上がっている」。
 そう言われたら何のことかと思うだろう。消費税が上がっているというのは冗談だ。しかし、それに相当する負担が決まっているというのは残念ながら事実である。
 政府が先日示した試算(注1)によれば、今年6月末までに認定を受けた再生可能エネルギー発電設備がすべて運転を開始した場合、単年度の国民負担が2兆7000億円を超えるというのだ。
注1 新エネルギー小委員会第4回配布資料8
「直近の認定量が全て運転開始した場合の賦課金等について」
 日本の消費税税率は現在8%、今年度の税収予算は15兆円超である。税率を1%上げれば税収が2兆円程度増えると想定される(注2)ので、2兆7000億円の負担は消費税に換算すれば1.35%分の負担増である。
注2 財務省HP「税制について考えてみよう」
「兆」という金額は、現実感が沸きづらい。そこで私たち1人ひとりがいくら負担すればよいかに落とし込んで考えてみるとどうか。
 2兆7000億円を国民の数(1億2000万人)で割ると、なんと約2万3000円にもなるのだ。赤ちゃんからお年寄りまで含めて、1人1年間に2万3000万円である。これが20年間続くとなるとさすがにげんなりする。
 我々はいつの間にこんなに大きな負担を背負うことになったのか。改めて、いま日本が採る再エネ普及策の問題点を、消費者のコスト負担という観点からできるだけ平易に整理したい。
消費者負担うなぎ登りの構造

竹内純子(たけうち・すみこ)
NPO法人 国際環境経済研究所 理事・主席研究員/産業構造審議会産業技術環境分科会地球環境小委員会委員
慶応義塾大学法学部法律学科卒業。1994年東京電力入社。2012年より現職。水芭蕉で有名な国立公園「尾瀬」の自然保護に10年以上携わり、農林水産省生物多様性戦略検討会委員や21世紀東通村環境デザイン検討委員等を歴任。その後、地球温暖化の国際交渉や環境・エネルギー政策への提言活動等に関与し、国連の気候変動枠組条約交渉にも参加。自然保護から原子力損害賠償制度を含むエネルギー政策論まで幅広く、活動・提言を行なっている。消費生活アドバイザー。著書に『みんなの自然をみんなで守る20のヒント』(山と渓谷社)、『誤解だらけの電力問題』(ウェッジ社)。日経ビジネスオンライン「アベノミクスをコケさせない処方箋」。
 FITは、再エネの電気を全量(10kW未満の住宅用太陽光は自家消費分を除いた余剰電力)、固定の価格で長期間買い取ることを約束することで再エネ発電への投資を促すことを目的とする制度だ。簡単に言えば、「あなたが生産した商品(=発電した電気)はすべて、この値段で買い取ります。それを20年間続けます。」と保証することで、「再エネビジネスは儲かりそうだから、一丁やってみるか」という人を増やす制度だ。したがって、この制度の下で始める再エネ事業には、「売りはぐれ」や「不良在庫」、「販売努力」、「価格競争」、「値下げ圧力」といった言葉は、基本的に存在しない。
 再エネ事業者が発電した電気は、法律によって電力会社が買い取りを義務付けられている。電力会社は、買い取った再エネの電気と、自社が発電した電気を合わせて消費者に販売する。
 再エネの買い取り価格は政府の委員会での議論を受けて、経済産業大臣が定める。例えば2012年度に太陽光発電事業を始めた事業者は、その後20年間、発電した電気のすべてを1kWh当たり42円(税込み)で買い取ってもらえると定められた。しかし、電力会社が発電する電気の原価はもっとずっと安い。電源によって単価が違うが、平均して例えば1kWh当たり20円だったとしよう。政府は電力会社にわざわざ高い商品を仕入れて来ることを義務付けるのだから、その差額(1kWh当たり42−20円)は再エネの導入を望んだ国民(=電力の消費者)が負担する。この負担が「賦課金」と言われるものだ。
 みなさんの家庭の検針票にも2014年7月以降は「再エネ発電賦課金」の欄が1行設けられており、その月に使用した電力量に応じて算出された金額が表示されている。一度ご自身がどれくらいの金額を再エネに対して支払っているのか、確認していただきたい。
 この買い取り単価は、技術が普及し、設備の価格が下がるのに合わせて、段階的に下げることが決まっている。テレビなどの電化製品と同じく、太陽光パネルなども普及するにつれて値段が下がっている。2012年に事業を始めた人が例えば300万円かかり、翌年事業を始めた人が250万円かかったとすれば、その両者が発電する電気の原価は異なるので、買い取り価格に反映させるのは当然のことだ。
 2012年度に大規模な太陽光発電事業をスタートすれば1kWh当たり 42円で20年間、電気を買い取ってもらえるが、2013年度にスタートした場合は37.8円で20年間買い取られるといった具合だ。
 買い取り単価が下がっていくため、消費者負担も減っていくと誤解している人が多いが、買い取り費用の総額は、買い取り単価と再エネによる発電量を掛け算した金額の合計だという事実に気がついて欲しい。

出所:資源エネルギー庁「再生可能エネルギー固定価格買取制度ガイドブック」に筆者加筆
 制度導入からの年月経過に伴って、図のように層が積み重なる。そのため、需要家が負担する総額は、うなぎ登りに増える。長期の買い取りを約束する制度であるため、今後、例えば制度導入から5年目に制度を廃止したとしても、高い買い取り価格で電気を売る権利を確保した事業者に対する国民負担は、20年間続くことが前提である。
 実はスペインでは、消費者負担が膨らみすぎたために、過去にさかのぼってこの買い取り価格を修正する荒技も行われている。イタリアも今年8月、200kW以上の太陽光発電を対象に、この「遡及的改正」を行うことを決めたと報道されている(注3)。
注3 The renewables international “Italy imposes retroactive changes to the feed-in tariff for PV”
負担はこれだけではない
 追い打ちをかけるようだが、これは6月末までに約束された負担だけを基に試算した数字だ。その後もこの制度は全く変更されていないので、今もこの負担は膨み続けている。
 さらに追い打ちをかけると、これは再エネを拡大するために必要な直接的コストのみの話だ。再エネを拡大するために必要な送電網整備のコストや、太陽光や風力が発電しない時(太陽も照らず風も吹かない時)に備えて火力発電設備を維持し続けるコスト、再エネの変動にあわせて火力発電を運用することで火力発電の運用が非効率となることなどの間接的コストも発生する。
 送電網整備コストの一部に過ぎないが、政府の試算によると、風力発電の適地とされる北海道や東北の一部に、仮に590万kWの風力と太陽光が導入された場合、基幹送電網を整備するためには1兆1700億円程度が必要とされている。
 送電網の整備は、FITのように国民が負担するのではなく国が負担せよという論もある。しかし、電気代から税金に、徴収ルートが変わるだけだ。再エネの導入に伴って必要となるコストとして、我々国民が負担せざるを得ないことに変わりはない。
技術や地域の偏りは防ぎようがない
 この制度をよく知る人なら、できるだけ早く、高い価格で電気を買い取ってもらう権利を確保しようとするだろう。そう考えれば、この制度が始まってから認定された再エネ設備の96%が太陽光という状況も理解していただけるのではないだろうか。太陽光は風力と異なり環境アセスメントも不要、設置工事も非常にシンプルであるため、事業開始までのリードタイムが非常に短いのだ。住宅用の太陽光で2〜3カ月、メガソーラーでも1年程度である。それに対し、地熱は9〜13年、陸上風力は4〜5年程度とされている。
 今になって、「太陽が出ている時や、風が吹いている時にしか発電できない太陽光や風力ではなく、安定している地熱発電の導入を促進するべき」などという意見を聞くこともあるが、このFITという制度は価格付けによるインセンティブ付与策なので、そうした電源の偏りを直接的に防ぐことはできない。
 また、導入量の地域的な偏りを防ぐ手段もない。風況・日照の条件が良く、土地の価格が安い、再エネ事業者にとって魅力的な場所は、電気の需要が少なく十分な送電設備が無い場合が多い。再エネ事業の地域的な偏在が生じ、送電線の容量の制約が問題として浮上することは当然予想されたのである。
日本のFIT――そのガラパゴス的問題点
 FITはドイツやスペインなど各国で、「地球温暖化対策」として導入された制度だ。しかしながら、例えばドイツでは再エネの導入量は拡大したが、温室効果ガス排出量の削減にはつながっておらず、「FITはなんのための政策だったのか」という指摘もされている。そして、制度導入から増え続ける国民負担に上限を設けるため、認定する再エネの上限量を設定したり、買い取り価格を引き下げたりする方策を導入するなど、制度を変更している。
 しかし、日本はそれら諸外国に比べても、制度導入からその問題点が明らかになるまでの期間が短い。それはなぜか。私は、日本では、温暖化対策なのか脱原発のためなのか、制度目的すらはっきりせず、再エネの導入拡大が目的化したからだと理解している。そのために下記のような問題だらけの制度設計になってしまったのだ。
 まず、諸外国に比べて買い取り単価が非常に高い。先ほど述べた通り、買い取り価格は、調達価格等算定委員会の意見を反映して経済産業大臣が決定することになっているが、再エネ事業者へのヒアリング、すなわち「言い値」で決められていると言っても過言ではない。究極の「総括原価主義」なのである。
 例えばメガソーラーの買い取り価格はドイツなどと比較して2倍に近い価格に設定されている。太陽光パネルなど、設備は世界のどこから買ってきても良く(そのため、ドイツはこれほど太陽光発電の導入量が増えたにも関わらず、その設備の多くは中国製で、国内の太陽電池メーカーの倒産が相次いでいる)、施工の人件費や土地代の差以上に海外と比べて高い買い取り価格を設定する理由はない。
 また、FITを導入している諸外国では、設備が実際に稼働を始めるタイミングによって、適用される買い取り単価が決定されるが、日本においては書類申請によってその認定がなされてしまう。とりあえず書類申請を先行させ、高い買い取り単価で買い取ってもらえる権利を確保しておき、太陽光パネル等の値下がりを待って事業を開始すれば「儲け幅」が大きくなる。そうした枠取りのような行為も見られるとして、経済産業省は土地も設備も確保していない事業者の認定を取り消す措置に出たが、設備認定が書類申請によってなされる制度そのものは改正されていない。適用される買い取り単価が定まっていないと、再エネ事業者の資金調達がしづらいのは確かだが、枠取りによって「悪貨が良貨を駆逐する」事態になっていることもまた事実だ。
 さらに、一般の方には余り知られていない細かいルールの穴があり、違法とは言えないものの、制度の趣旨に照らして逸脱とも言えるケースも見られる。現場で様々な問題が生じていることは、10月15日に経済産業省が開催した「新エネルギー小委員会」で九州経済産業局が説明した資料(注4)に例示があるので、ぜひ参照していただきたい。そして、これを是正するだけでも至急実施すべきとの声を上げていただきたい。こうしている間にも国民負担は膨らんでいくのだから。
注4 新エネルギー小委員会第5回配布資料4「固定価格買取制度における運用と課題」
こんなFITに誰がした
 これほどの負担になることが明らかになり、報道は「政府の制度設計の甘さだ」と批判の大合唱だ。しかしこんなFITにしたのは誰か。確かに法律の文言に、この法律施行後3年間は買い取り価格を決めるにあたり「再エネ事業者が受けるべき利潤に特に配慮する」とまで書かれているのは異様であるが、そうした文言を入れさせたのは誰か。
 所管官庁である経済産業省の責任にするのは簡単だが、当時政権与党だった民主党はもちろん、自民党、公明党といった当時の野党もこぞって再エネ推進の姿勢を打ち出した。マスコミも有識者と言われる方々も、「再エネは善。その善を応援するのは当然」と、再エネ事業者に有利にすべきとは主張すれど、消費者負担を考えるべきといった声はほとんど皆無だった。当時の世論は原発を主とする従来型電源への嫌悪感と再エネへの好感一色になっていたから致し方なかったのかもしれないが、いまになって自分には全く責任がないような顔をするのは無責任というものだろう。
 日本がこのFITを導入したのは2012年7月。その半年前の2月には、ドイツ環境省がFITの大幅見直しを発表している(参照:先人に学ぶ2 ドイツの挫折〜太陽光発電の「全量」買取制度、廃止へ〜)。冷静に先例を見て議論すれば現在のような事態は避けられたはずだ。再エネも発電方法の1つに過ぎないのだから、あくまで経済性、環境性、エネルギー安全保障・安定供給というエネルギー基本の「3E」の中で考えなければならない。エネルギーに善悪といった色を付け、イメージで議論することから我々日本人はいい加減に脱却せねばならない。そのつけは結局自分に回ってくるのだから。



エネルギー論壇
激変する日本のエネルギー事情。エネルギーをいかに調達し、活用していくべきか。専門家が独自の視点で展開する「エネルギー論」を紹介する。環境専門誌「日経エコロジー」が提供する連載です。
http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141024/272988/?ST=print 


 

 

原油安の勝者と敗者(上)
2014年10月28日(Tue) The Economist
(英エコノミスト誌 2014年10月25日号)
米国とその友好国は原油価格の下落から恩恵を受ける。その批判の急先鋒はそうではない。
 国際通貨基金(IMF)は10月初め、イラクの紛争が石油ショックを招いた場合に、世界経済に起こり得ることについて考察した。過激派組織「イスラム国(IS)」の戦闘員がイラク北部に攻め込んでおり、IMFは年間20%に上る価格急落を心配していた。
 そうなれば、世界の国内総生産(GDP)は0.5〜1.5%下落するとIMFは結論付けた。さらに、先進諸国の株価は3〜7%下落し、インフレ率は少なくとも0.5ポイント上昇すると予測した。
 ISの進軍は今も続いている。世界第3位の産油国であるロシアは、ウクライナ問題に巻き込まれている。やはり産油国であるイラク、シリア、ナイジェリア、リビアは混乱状態にある。
 だが、6月中旬に1バレル115ドルで取引されていたブレント原油の価格は、後に若干持ち直す前に一時25%以上下落して85ドルを割り込んだ(下図参照)。このような変化は世界に影響を与える。誰が勝者で、誰が敗者だろうか?
最初の勝者は世界経済
 最初の勝者は、世界経済そのものだ。IMFのトーマス・ヘルブリング氏によると、原油価格が10%変動すると、世界のGDPは約0.2%変動するという。価格下落は通常、産油国から消費国に資金を移転させることでGDPを押し上げる。消費国の方が豊かなアラブ諸国よりも、得た利益を支出に回す可能性が高いからだ。
 供給増加が原油安の原動力であれば、効果はより大きくなる可能性が高い。米国がその一例で、IMFによると、シェールガスの生産が欧州と比較した価格を押し下げ、諸外国に比べて米国の工業製品の輸出を6%押し上げたという。だが、価格下落が需要低迷を反映している場合は、消費国はその思いがけない収入を貯蓄に回すかもしれない。
 現在の価格下落は、供給と需要双方の変化に起因している。世界経済の減速と、欧州と日本の回復の行き詰まりが石油需要を抑制している。だが、供給面でも大きなショックがあった。主に米国のおかげで、2013年初め以降、原油生産は前年比で日量100万〜200万バレル増加している。それ以外の要因は、世界経済にブレーキをかける働きをしている。
 だが、25%の原油価格下落は、それが維持された場合、そうでない場合に比べて世界のGDPが約0.5%増加することを意味するはずだ。

 一部の国はその平均よりも大きな恩恵を受ける立場にあるが、それ以外の国は損失を被る立場にある。
 世界の原油生産量は日量9000万バレル余りだ。1バレル115ドルとすると、その価値は年間約3兆8000億ドルに相当する。85ドルだと、わずか2兆8000億ドルだ。生産量より消費量の方が多い国あるいはグループは、その1兆ドルの移転から利益を得る。中でも輸入国が恩恵を受ける。
 中国は世界第2位の石油純輸入国だ。2013年の数字に基づくと、原油価格が1ドル下落するたびに、中国は年間21億ドルを節約できる。最近の価格下落は、それが維持された場合、中国の輸入代金を600億ドル、率にして3%減少させる。
 中国の輸出の大部分は、価格が下落していない工業製品だ。需要低迷によってそれが変化しなければ、中国の外貨は従来より多くのものを買えるようになり、生活水準が向上するはずだ。
 原油安は、ディーゼルのような質の悪い自動車燃料を徐々になくすことで、政府が中国の汚れた空気を浄化する助けにもなるだろう。軽質燃料の方が高価で、現在の計画では、ドライバーはそれによる追加料金の70%を支払う可能性がある。価格下落は、その打撃を和らげるだろう。
 厦門大学の林伯強氏は、より一般的には、価格下落は補助金を減らす政府の取り組みを支援するはずだと言う(政府はすでに一部のガス価格を自由化しており、電気料金も来年その後に続くと見られている)。
一様ではない米国への影響
 米国は世界最大の石油消費国、輸入国であると同時に、世界最大の産油国でもあるため、原油安の影響は一様ではない。
 全体として見ると、原油安は助けになるが、かつてほどではない。ゴールドマン・サックスのアナリストらは、原油安と金利低下が2015年の成長率を約0.1%上振れさせるはずだと見ている。だが、それは、ドル高、世界の成長鈍化、株式市場の軟化によって完全に相殺されてしまう。

米ペンシルベニア州にあるシェールガス採掘現場〔AFPBB News〕
 シェールから石油を抽出するコストは高い。そのため、原油価格が下落した場合、米国は生産を控える可能性が最も高い場所の1つだ(北極圏とカナダのタールサンド生産者はそれよりさらに脆弱だ)。
 バークレイズ銀行のマイケル・コーエン氏によると、世界の原油価格が20ドル下落すると、米国の生産者の利益が20%減少し、ブレント原油が約85ドルの水準では、現行技術を使って抽出するのが経済的なのはシェール埋蔵量の8割程度だという。
 だが、その結果、どれだけ早く生産が減少するかは不透明だ。というのも、生産者のコストは様々で、中にはヘッジによって価格を固定しているところもあるからだ。
 影響は地域によっても異なる。「カリフォルニアにいれば、これが明るい話題であるのは極めて明確だ」。シンクタンク、外交問題評議会(CFR)のマイケル・レビ氏はこう言う。「ノースダコタ(全米最大のシェールオイル生産量を誇る州)にいれば、もっと神経を尖らせるだろう」
 米国は石油の純輸入国であるため、価格下落は、米国人の懐が温かくなり、国内の支出が増えることを意味する。だが、この景気刺激効果は以前より小さい。というのは、輸入の重要性が低下しており、経済に占める石油の割合が低下しているからだ。
 独立政府機関のエネルギー情報局(EIA)は、来年は石油の純輸入量が消費量全体の20%まで低下すると予想している。これは1968年以降最も低い比率だ。
 石油がGDPの4%強を占めていた1980年代初めは、原油価格が1%下落すると、GDPが0.04%押し上げられた、とネバダ大学ラスベガス校のスティーブン・ブラウン氏は言う。それが2008年には0.018%まで低下しており、現在は0.01%程度だと同氏は見ている。

ワシントンの米連邦準備理事会(FRB)本部〔AFPBB News〕
 原油安は、金融政策にもより大きな変化をもたらす可能性がある。インフレ期待は1980年代から比較的安定するようになった。このことは原油価格が変動した際に、米連邦準備理事会(FRB)が行動する必要をあまり感じなくなることを意味する。
 だが、インフレ率がFRBの目標である2%を割り込んでいる状況下では、FRBは、原油価格の下落がインフレ期待を押し下げ、インフレを目標通りに維持するのが難しくなることを恐れる。その結果、FRBはより長期にわたって金利をゼロに維持したり、債券買い取りプログラム(「量的緩和」)を拡大することを決める可能性さえある。
欧州では恩恵が相殺
 欧州では、デフレ懸念がもっと力強く当てはまる。欧州連合(EU)のエネルギー輸入のコストは、2013年は年間5000億ドルで、その75%が石油だった。そのため、原油価格が85ドルにとどまれば、全体の輸入コストは年間4000億ドルを切るところまで減少する可能性がある。
 だが、その恩恵は二重の意味で弱められる。まず、ユーロ圏のインフレ率は米国以上に低い。欧州中央銀行(ECB)のマリオ・ドラギ総裁は、2011年から2014年9月にかけてのインフレ率低下の80%は原油価格と食品価格の低下によってもたらされたと主張している。85ドルの原油価格はデフレにつながり、消費者に一段と支出を控えるよう促す恐れがある。
 第2に、欧州のエネルギー政策は、部分的にしか価格と効率性に関係していない。欧州諸国は、ロシアへの依存度を減らしたり、化石燃料に背を向けることで炭素排出量を減らしたりすることも試みている。原油安は、そうした目標の達成を少し難しくするだろう。
 だが、紛れもなく恩恵を受ける国のグループがある。農業への依存度が最も大きな国々である。農業は製造業よりエネルギー集約的だ。エネルギーは肥料の主な投入要素であり、多くの国では、農家が地下深くの帯水層や、遠く離れた枯渇した川から水をくみ上げるために大量の電気を使っている。
 世界銀行のジョン・バフェス氏によると、1ドル相当の農産物の生産には、1ドル相当の工業製品の生産の4〜5倍のエネルギーが必要だという。農家は原油安から恩恵を受ける。そして、世界の農家のほとんどは貧しいため、原油安は全体として貧しい国々にとってプラスだ。
三重の恩恵を受けるインド

インド北東部アッサム州で茶葉を摘む女性たち〔AFPBB News〕
 1日1.25ドル以下で生活する世界の人口の約3分の1が暮らすインドを例にとってみよう。原油安はインドに三重の恩恵をもたらす。
 第1に、中国と同様、輸出品に比べて輸入品が安くなる。石油はインドの輸入の約3分の1を占めるが、輸出は中身が多様なため(食品からコンピューターサービスまで多岐にわたる)、輸出価格が全面的に下落することはない。
 第2に、エネルギー価格の下落はインフレを和らげる。インドの物価上昇率はすでに2013年初めの10%超から6.5%まで低下し、中央銀行の非公式の目標レンジ内に収まっている。インフレ低下は金利低下につながり、投資を押し上げるはずだ。
 第3に、原油安は、燃料と肥料の補助金を減らすことで、現在GDP比4.5%に上るインドの財政赤字を減らす。これらの補助金は巨額だ。食料補助金を加えると、2015年3月期の総額は2兆5000億ルピー(410億ドル)に達する。公共支出の14%、GDPの2.5%に相当する金額である。
 政府は、ディーゼル燃料の価格を統制しており、販売業者に損失を補填している。だが、販売業者は何年かぶりに利益を上げている。中国と同様、原油安は補助金削減の痛みを和らげてくれるはずだ。インドのナレンドラ・モディ首相は10月19日、ついにディーゼル燃料補助金に終止符を打ち、ディーゼル燃料価格を自由化し、天然ガス価格を引き上げると述べた。
明日の「原油安の勝者と敗者(下)」へ続く

© 2014 The Economist Newspaper Limited. All rights reserved.
英エコノミスト誌の記事は、JBプレスがライセンス契約 に基づき翻訳したものです。
英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。

【もっと知りたい! こちらもあわせてお読みください】
・「原油安と世界経済:症状と鎮静薬」
( 2014.10.21、The Economist )
・「ベネズエラ、原油安でデフォルト懸念に拍車」
( 2014.10.2、Financial Times )
・「『逆オイルショック』が再来? シェールオイルがもたらすエネルギー情勢の激変」
( 2014.09.12、藤 和彦 )
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42063 

 


雇用市場の成功が告げる量的緩和の終焉
2014年10月28日(Tue) Financial Times
(2014年10月27日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

 米連邦準備理事会(FRB)の資産購入が今週終わる。これは前代未聞の金融政策のクライマックスとなるが、意気揚々と勝利宣言する余裕はない。

 大きなショックがない限り、FRBは月間150億ドルの最後の資産購入をゼロに減らし、2012年9月に始まった量的緩和第3弾(QE3)を完了する。

歴史的なプログラムの静かな終わり

米FRB、ゼロ金利継続
ワシントンにある米連邦準備理事会(FRB)本部〔AFPBB News〕

 しかし、10月29日には記者会見がないため、FRBの唯一のメッセージは声明の発表となる。声明では、変更は小幅なものになる可能性が高い。

 これは、米国経済を再び軌道に乗せるのを後押しし、FRBのバランスシートに数兆ドルの資産を追加した歴史的な資産購入プログラムの静かな終焉となる。

 FRBは最近の株式市場の乱高下や世界経済の成長に対する懸念にもかかわらず、資産購入――長期金利の引き下げを目的とした政策――を打ち切る予定だ。QE3の元来の目標は、労働市場の見通しを大幅に改善させることだった。FRBは任務の達成を宣言できる。

 FRBが2年以上前にQE3を開始し、月間850億ドルのペースで資産を購入し始めた時、失業率は8.1%だった。今では5.9%に下がっている。最新の雇用統計は堅調で、雇用者数が24万8000人増加した。労働市場の改善に疑念を挟む余地はほとんどない。

 そのような理由がなければ、FRBの当局者は、セントルイス地区連銀のジェームズ・ブラード総裁の提案に従い、12月の会合まで資産購入を延長することで、QE3の動機を混乱させることを嫌がる。万一新たなQEプログラムが必要になるようなことがあれば、FRBには新たな動機と新たな説明が必要になる。

量的緩和の動機と説明

 「インフレが間違った方向に向かうように見え、その傾向が持続しそうな場合、我々は何が適切な金融政策なのか再考しなければならない」。ボストン地区連銀のエリック・ローゼングレン総裁は最近の本紙(英フィナンシャル・タイムズ)とのインタビューでこう語った。同氏は予定通りQEを終了すべきだと示唆した。

 「だが、その時点で、我々が政策を変更する理由は、労働市場に大幅な改善が見られなかったためではなく、我々がインフレ率の上昇傾向を望んでいる時に下落傾向にあることを懸念するようになったためだということを示す必要がある」

 金利を設定する連邦公開市場委員会(FOMC)におけるもう1つの問題は、「資産購入プログラムが終了した後、相当な期間」にわたって低金利を維持するという約束をどう扱うか、だ。QE3が完了した際に変更する必要のあるこの言葉遣いは、それがあまりに柔軟性に欠けると考えるFRB当局者の間で高まる不満の源となっている。

「相当な期間」という文言を巡る議論

 FRBはすでに、「相当な期間」を弱めるために多くのことをやってきた。スタンレー・フィッシャーFRB副議長は今月、「相当な時期」を2カ月から1年までと広く定義することで、この言葉をほとんど無意味なものにした。

 また、最近の市場の混乱は、ガイダンスでの複雑な戦略に対するFRBの意欲をそいだ。ローゼングレン氏は、ガイダンスの変更は市場の状況に影響されると述べた。シカゴ地区連銀のチャールズ・エバンズ総裁は、QE3の終了を説明する「厳密に必要な文言変更」を支持すると語っている。

 最も単純な選択肢は、ただ単に資産購入への言及を削除することだ。その場合、「相当な期間」には固定された起点がなくなる。それより若干タカ派的な選択肢は、「相当な期間」が10月に始まり、時間が刻々と過ぎていることをはっきりさせることだ。

 一方、FRB内部では、まだ使われることはないにせよ、より永続的な文言変更に関する多くの選択肢が浮上している。1つのアイデアは、例えば「相当な期間」を「しばらくの間」へと変えることだ。しかし、これは、そのような言葉はコミットメントと正確性の錯覚を与えると考える当局者に忌み嫌われるものだ。

 関心の大半は引き続き、金利上昇のタイミングとスピードの双方を、完全雇用と2%のインフレ目標達成に向かう前進のペースと関連付ける言葉遣いに集中している。現在のFOMCの声明はすでに、FRBが監視しているほとんどの要素を掲げている。これには大きな修正は必要ないかもしれない。

By Robin Harding in Washington
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42072


02. 2014年10月30日 06:45:59 : jXbiWWJBCA
本当はよくわかっていない人の2時間で読む教養入門 やりなおす経済史
【第5回】 2014年10月30日 蔭山克秀
この10年で世界を変えた出来事とは?
教養として知っておきたい2000年以降の世界経済史
第5回 ITバブル崩壊からリーマン・ショック、ギリシア危機まで
アメリカのITバブル、不動産バブルが崩壊し、リーマン・ショックを引き金に世界同時不況へと陥った世界経済。なぜバブルは弾けたのか? わかっているようでなかなか説明できない、2000年代の混迷する世界の経済史を、代ゼミの人気1講師が面白く教える、社会人のための学びなおし講義。

なぜ、親分のもとに世界中から投機資金が流れ込んだのか?

 2000年代のアメリカのITバブルに触れる前に、1990年代の時代背景について少し振り返ってみよう。

 1993年に大統領となったクリントンは、レーガン ─ ブッシュと続いた財政赤字と貿易赤字の「双子の赤字」路線から決別し、“アメリカ経済の再生”をめざした。クリントンは、高額所得者に対する所得税増税などを実施して財政赤字の削減をめざす一方、産業構造を「製造業や重工業中心」から「金融やIT中心」へとシフトしていった。その結果、アメリカで活躍する企業は、「GMよりもメリルリンチやヘッジファンド」になり、アメリカのイメージは大きく変わった。

 そうなると、アメリカは輸出メインの国ではなくなる。だからアメリカは、ドル安よりむしろドル高の方が儲かるとの判断が生まれ、1995年から久々にドル高政策が実行された。

 つまり、「ドル高=アメリカの株式や債券の価値が高い」だから、そうなると外国の投資家もアメリカの株や国債をほしがるようになり、結果的に世界中の投機マネーがアメリカに集まってくるという寸法だ。

 そして、そんな流れの中で、「ITバブル」も発生した。ITバブルの流れそのものが生まれたのは、ちょうどクリントン政権発足と同じ時期だ。アメリカでは1993年から今日型のウェブサイトが登場し、1994年にはネット上の仮想書店アマゾンがeコマース(電子商取引)の先駆として現れた。そして1995年には「Windows95」の発売とネット株取引が始まり、ここで一気に火が点いた。

 ちょうどアメリカでドル高政策が始まったのもこの時期だから、この流れで世界中の人々が、新しいツールであるインターネットを通じて成長産業であるIT企業の株を買い、アメリカに投機資金を集中させ始めたことになる。

 さらにこの後、パソコンがさらに安価になり、パソコンユーザー数とウェブサイトの数は急増していった。しかも1997年には“異端の天才”スティーブ・ジョブズがアップルに復帰し、ITへの注目と期待は高まる一方となった。

 そしてそんな中、1997年のアジア通貨危機と1998年のLTCM(大手ヘッジファンド)破綻などで、行き場を失った投機マネーが世界中にあふれ始めた。しかもその時期には、アメリカで低金利政策も始まった。

 もうここまで条件が整えば、ITでバブルにならないはずがない。結局、1999から2000年にかけてIT関連ベンチャーの株価が急上昇し、アメリカでは「ITのおかげで“インフレなき経済成長”が半永久的に続く」という「ニューエコノミー論」が囁かれるに至ったのだ。

 確かにIT化が進めば、人減らしやオフィス縮小が可能になって企業のコストが削減され、商品代を安く(インフレなしに)抑えることができる。しかもその企業を人員整理でクビになった労働者も、世の中ではIT関連の別企業がどんどん生まれ続けているから、すぐに新たな雇用にありつくことができる。なるほど、この通りいくなら確かに“インフレなき経済成長”だ。

 しかし、アラン・グリーンスパン議長(米中央銀行制度であるFRB〈連邦準備制度理事会〉議長)は、この頃アメリカの状況を“根拠なき熱狂”と呼び、日本のバブルと同種のものである可能性を警戒していた。

 だから彼は、景気の過度の過熱を恐れて、2001年にアメリカの公定歩合にあたるフェデラルファンド金利を上昇させた。そしてその年、エンロンの破綻、9.11の同時多発テロなどもあって、アメリカのITバブルは崩壊した。

人類がこれまでシャブをうまく使えたことはない

 しかしこのITバブル、確かに崩壊したにもかかわらず、ずいぶんとひっそりした崩壊だった。この年は、話題が豊富だったというのもあるだろうな。21世紀のスタート、ジョージ・W・ブッシュ大統領の政権誕生、9.11の同時多発テロで世界貿易センタービルが大破、首謀者ビンラディンとテロ組織アルカイダ、そのアルカイダをかくまうアフガニスタンのタリバン政権討伐、日本で小泉内閣が大人気等々……。さすがにこれだけ話題に事欠かないと、ITバブル崩壊に注目が集まらないのもわかる。

 でも、注目されない理由は、それだけじゃなかった。実はITバブル崩壊後、アメリカは日本みたいな深刻な不況には陥らなかったのだ。なぜか? それは不況対策・テロ対策でFRBが行った低金利政策がもとで、アメリカはカネがだぶつき、今度は不動産を中心としたバブルへと移行したのだ。

 バブルに続くバブル──。もう呆れるべきか羨ましいのかわからん。でも何にせよ二種類のバブルを連続させたおかげで、アメリカは「クリントン→ブッシュ期の最後」まで、切れ目なく好況が続いているように見えたんだ。

 でも、バブルは必ず弾ける。歴史上バブルは何度もあったが、弾けなかったバブルは一つもない。格言みたいだが、“カネ余りあるところバブルは起こり、期待感しぼむところバブルは弾ける”だ。

 僕ら日本も経験したが、不況対策に不自然な低金利を継続させてバブルを誘発するパターンは、肉体的苦痛に耐えかねてシャブに手を出すようなものだ。効き目はバツグンだが、後には必ず地獄が待っている。

「麻薬もクスリの一種なんだから、うまく使えば問題ないでしょ」

 政府や通貨当局はそう考えて、ある意味確信犯的に“バブルで不況脱出”を図ることもあるようだが、今まで人類が「うまく使えた」ためしはない。無理なんだよ。うまく使えていたら“弾ける”なんて表現、生まれないんだ。バブルをコントロールするなんて芸当、人類にはできない。「シャブを適量使えるヤツ」なんて聞いたことがない。そんな小器用なマネ、浅ましい欲望まみれの人類にはとうてい不可能だ。

 どの国の政府筋も、一度はそれを夢見るらしい。だからアメリカも中国も、日本がのたうち回っている禁断症状をさんざん横目で見てきたくせに、「うちは同じ轍は踏まない」とか言いながら、同じ轍を踏みにいく。

 シャブは破滅への片道切符だ。買うときにプッシャー(売人)が説明した薬としての効能は、全部ウソだ。日米中がそれぞれどんな神様に祈っても、ゴールは必ず同じ“地獄”だ。後に来るのが地獄とわかっているなら、せめて多少なりともマシな地獄にしたい。よく言われる“バブルからの軟着陸”、果たしてアメリカにやれるのか!?

40代の独身ニートに4000万円の住宅ローンを組めるか?

 アメリカは、ITバブルと同時多発テロの後始末のため、2000年代前半から低金利政策を継続した。そしてそのせいで、今度は不動産でバブルが起こった。ここまでは、さっき見た通りだ。

 その不動産バブルの目玉商品となったのが「サブプライム・ローン」だ。サブプライムとは、直訳すると“優良より下”、つまりこれは「低所得者向けの住宅ローン」という、今までにない画期的な住宅ローンだ。

 ふつうありえんでしょ。だって低所得者を相手に、よりによって人生最高の高額商品を売るんだよ。例えば、親の年金をあてにしている40歳独身ニート男に4000万円の住宅ローンを組んでやる度胸、みなさんが銀行員ならありますか? ないでしょ。当たり前だ。こんなの度胸じゃない。“無謀”か“シャブによる錯乱”だ。

 アメリカは今、政府がプッシャーとなって国民をシャブ漬けにしている最中だから、これもその過程で発生した錯乱か……と思いきや、そうではなかった。実はこのサブプライム・ローン、ちゃんといろいろ考えられていたのだ。

 まずこのローン、貸すときの基本は「譲渡担保」だ。譲渡担保とは、バブルのところで南青山の億ションを転がす人がやってたやつ、つまり「今から買う10億円のマンションを担保にするから10億円貸してくれ」というやり方だ。

 サブプライム・ローンでも同じ担保設定にしておく。そうすれば、低所得者が返済不能になっても家をぶん取ればすむだけだし、このローンで家を買う人が増えれば、ますます住宅価格が高騰して担保価値も上がっていくから、いいことだらけだ。

 それから、「貸出金利」。低所得者は信用ならないから、将来的な返済不能に備えとかないといけない。そこで、ふだんから高金利で貸す。これならば早い段階で利益の回収ができるから安心だ。よしんばその高金利がアダとなって返済不可になっても、そのときは家をぶん捕りゃ大丈夫ってやつね。

 でもやっぱり、低所得者は返済能力が不安だ。そこで念のため、住宅ローンそのものを小口債券化して、多くの投資家に買ってもらうことにした。これは例えば「4800万円+金利」という住宅ローンの返済受け取り権を、100人で分割所有するようなやり方だ。

 そうすると一人当たりの受け取りは「48万円+金利」になる。これなら、受け取り額を独り占めして丸儲けはできない代わりに、一人で低所得者を相手にするリスクを避けることができる。

 そして、その小口債券を、ファンド(投資信託会社)や証券会社、生命保険会社などが扱っている“高利回り商品が詰まった福袋”みたいな金融商品パッケージに混ぜてもらって、一般投資家に売ってもらえれば完成だ。これで、高利回りでリスク分散も完璧な人気商品の誕生だ。

 こうしてサブプライム・ローンは、大人気の金融商品となった。おかげで住宅もどんどん売れ、住宅価格は上がり続けた。これで担保価値も万全だ。ところが、ここで誤算があった。住宅価格が上がりすぎたせいで、今度は逆に買い手が減り始めてしまったのだ。

 考えてみれば、当たり前の話だ。だってさっきの年金依存型独身ニート40に、いきなり「1億円の家を買え」って言うようなもんだよ。100%ひるむぞ。無職無収入のニートが、そんな大それた買い物するもんか。

 そして買い手が減ると、住宅価格も当然下がり始める。これはヤバい。譲渡担保の価値が、どんどん目減りしてしまう。しかもそれに加えて、先に貸し付けた低所得者たちが、案の定どんどん返済不能になっていった。だからやっぱり無理だったんだって。

 バブルのときってこんなふうに“ないところに市場を掘り起こす”ことで金儲けのチャンスを広げようとしがちだけど、バブル脳の無根拠なポジティブさで市場拡大を図ったら、原野も一等地に見えちゃうって。冷静な人なら誰でも気づけることに、酔っぱらいだけが気づかない。当たり前だけど、低所得者に高い物を買わせるのは無理だ。

 これは相当ヤバくなってきたぞ。今の状況を整理すると、「返済不能者から担保の家を取り上げても、住宅価格が下がっているから、売ると損失がどんどん出る」状態だ。これは投資家が不安になるね。

 だって、せっかく買った楽しい福袋の中に、腐ったミカンが一つ入っているんだよ。こんな福袋を持っていると、金儲けどころか大損だ。だから投資家たちは、福袋をパッケージごと売った。そしてそのせいで……。

 世界的な株安が発生した。なぜなら、サブプライムの小口債券がパッケージングされた金融商品には、株式や他の金融商品も入っていたからだ。つまり「パッケージごと大量に売る=株を大量に売る」にもなり、収拾がつかない株安へと波及したのだ。

リーマンブラザーズが「即死」した理由とは?

 サブプライム・ローンの破綻、これは正確には、2007年から問題化し、2008年に破綻した。まず2007年、アメリカの大手証券会社・ベアスターンズの傘下にあるヘッジファンドが、サブプライムで巨額の損失を出し、経営破綻した。これがきっかけで、世界的な金融不安が始まった。

 そして翌2008年、例のパッケージングを多く扱っていたリーマンブラザーズとAIG生命(米最大手の証券会社と生命保険会社)が経営破綻した。いわゆる「リーマン・ショック」だ。今度こそ掛け値なしに、アメリカのバブル崩壊だ。

 サブプライム・ローンの怖いところは、その運用に「レバレッジ」(てこの原理)が使われていたということだ。レバレッジとは、先物系の信用取引などで使われる手法だ。先物取引とは、金融商品や現物商品の将来的な値動きを予測し、「数ヵ月後の売買契約」をあらかじめ行う。

 そしてその数ヵ月後、自分の“売り予想”や“買い予想”が世の動きと合致していれば、利益を得られるという取引だ。そしてその取引では、レバレッジが使われる。いや正確には、その証拠金取引でレバレッジを利かせることができる。証拠金取引とは、少ない金を手付金として大きな額の売買契約を結ぶことで、例えば10倍のレバレッジが利いた証拠金取引なら、100万円を証拠金にすれば、1000万円の売買契約を結んだことになる。

 そうすると、予想通りに利益を得られるときには10倍の金がもらえるが、予想に反して損失が出たときには10倍の支払いを強いられることになる。実はこのレバレッジ、ヘッジファンドに対しては、すでに規制があった。1998年にヘッジファンド最大手のLTCMがロシア国債に大きなレバレッジを利かせて経営破綻したため、それを機にレバレッジ規制がかけられていたのだ。だから今回のサブプライムでは、レバレッジはせいぜい3〜4倍と傷は浅めだった。

 ところがその規制、投資銀行や生保、証券にはかけられていなかった。だから多くの金融機関は、なんと20〜40倍ものレバレッジを利かせて信用取引していたのだ。そしてそのせいで、金融界の巨人ともいえるリーマンブラザーズやAIG生命といった大手金融機関が、あっという間に即死したのだ。

 ブッシュから政権を引き継いだ直後のバラク・オバマ大統領は、就任早々困難な局面に立たされた。バブル後の処理は、下手に対応を誤ればアメリカ経済は撃沈し、日本で言うところの“失われた10年”とやらの戦犯扱いされてしまうぞ。

 でも、オバマの判断は速かった。オバマは、リーマンブラザーズは救済せず、AIG生命を公的資金投入で救済した。いろいろ批判されることも多い決定だが、決断が遅いと手遅れになるという日本の失敗から学んだ迅速さではあった。

 結局アメリカは、対処の速さも功を奏して、日本のバブル後よりはるかに速く、株価の方は持ち直した。しかし、実体経済に与えたダメージも大きく、こちらの回復にはまだまだ時間がかかりそうだ。

 そして、ここでもたもたしている間に、中国に経済力で急迫されてきた。つまり、リーマン・ショックは、世界経済の覇権がアメリカから中国に移る転換点となった可能性があるのだ。どうする? オヤジが慣れないビジネスヤクザ路線で大ヤケドして、のたうち回っているところへ、すごいガタイの大男がにじり寄ってきたぞ。いよいよ世界経済の組長交代劇か!?

リーマン・ショックは世界をどう混乱させたか?

 このリーマン・ショックが、世界に与えた影響は甚大だった。まず欧州では、アメリカ系投資ファンドを利用していた金融機関が、すべて深刻なダメージを受けた。

 例えば、ドイツやスイスでは銀行に公的資金が投入されたし、イギリスでは数行の銀行が国有化された。さらにすごいのはアイスランドで、ここではなんと全銀行が国有化されたのだ。ほんの十数年前までは静かな漁村みたいな国だったアイスランド、ここんとこ急に羽振りがよくなったって聞いていたけど、それはアメリカ型の金融に特化していたってことか。そしてそれが全部パーになったんだな。

 それから、サブプライム・ローンに入ってきていた巨額の投資資金、これらが行き場を失って、原油や農産物などの一次産品に流入してきた。そのせいでガソリンがバカみたいに高くなって、ガソリンスタンドに長蛇の列ができていたのを今でも覚えている。

 さらにはドル安。これは困る。アメリカの信用低下でドルの価値が下がると、相対的に円高になってしまう。2011年に「1ドル=75円」なんて円高が進んだのも、元を正せば出発点はリーマン・ショックからだ。

 あと、消費。あれだけ消費大好きだったアメリカ人がモノを買わなくなったせいで、日本は非常に困った。日本のモノは現状まだ「いいモノだけど、アジアには高すぎ」だ。結局、日本の製造業は、アメリカ頼みだったということだ。中国の富裕層も買ってくれるようにはなってきているけど、そちらの市場はまだまだ小さい。

ギリシア問題でズタボロになった日米欧の“最弱争い”

 アメリカのリーマン・ショックのせいで、2009年は「世界同時株安から世界同時不況」が発生する、最悪な年だった。この年は、日米欧ともマイナス成長を記録した。三役揃い踏みで負け越しなんて、史上初だ。

 でも、いちばん傷を負っているのは、間違いなくオヤジだ。オヤジは華麗なるビジネスヤクザに転身したと思い込んで慣れないマネーゲームに酔い、そのせいで全身を焼かれ、ただ今大ヤケドで入院中だ。

 こんなときこそ、身内筋が、組織を盛り上げていかないといけない。若頭である日本も、まだ20年前の大ヤケドの傷が癒えていないが、湿布や包帯でごまかしつつ、欧州のオジキたちがわりかし元気なのに期待して、何とか頑張っていくつもりだ。

 ところが、そのオジキたちが、いきなり身内に撃たれた。ギリシア問題だ。ギリシアでは2009年に政権交代があり、首相がカラマンリスからパパンドレウへと代わった。その新政権が国の財政状況を調べたところ、旧政権の隠ぺいが発覚したのだ。

 実はギリシアの財政赤字、公表額よりはるかに多かったのだ。公表額はGDP比5%だった赤字が、実際は12%。これは日本で言うなら、「国債発行額は25兆円分と発表しておきながら、実は60兆円分でした」というのと同じくらいの大ウソだ。

 これはマズい! EU加盟国の場合、一国の信用低下は、ユーロ全体の信用低下につながる。だって、ふつうならギリシアだけの信用低下で終わる問題も、使っている通貨が共通通貨のユーロじゃ、ユーロ全体がマイナス方向に引っ張られちゃうからね。

 つまり、諸外国が「ギリシアと関わりたくない=ユーロと関わりたくない」と思うわけだ。リーマン・ショックのたとえでいうなら、今度はギリシアがサブプライム証券、つまり“腐ったミカン”状態になったわけだ。

 この後、当然ユーロの価値は下落し、そのせいで円が相対的に押し上げられてしまった。その結果、日本は2011年に「1ドル=75円」なんていう超円高になったんだ。

 こんなのありえないでしょ。だってバブル後の“失われた10年”がそろそろ“20年”になり、東日本大震災でさらに景気がド凹みした国の、一体どこが良くて円が高いの? 円が高いってことは、みんなが円をほしがるから価値が上がるってことだよ。これでは全然説明がつかないでしょ。

 これは簡単に言うと、三大通貨のうちの二つが虫の息になったから、それよりは満身創痍若頭の方がわずかにマシという判断だ。なにが三大通貨だ、ただの最弱争いじゃん。

 オヤジは全身大ヤケドで入院中、オジキたちは組織の内紛で身内にマシンガンを乱射され虫の息、そして若頭は全身包帯だらけのミイラ若頭で、こいつが一番マシ。なんだこの組織、もう終ってんじゃん。

 あとは、欧米が揃ってズタボロになったから、貿易黒字で国力回復を図ろうと、日本に円高を意図的に押しつけてきたのもあるだろうな。いわゆる「近隣窮乏化政策」だ。これ困るんだよ。これされたら、日本と欧米の関係が悪化する上、円高誘導を狙った欧米の為替介入に投機筋も乗っかってくるから、円高に歯止めが利かなくなる。実際その結果が「1ドル=75円」。ひどいもんだ。

(※この原稿は書籍『やりなおす経済史』から一部を抜粋・修正して掲載しています)
http://diamond.jp/articles/-/60478


03. 2014年10月30日 06:52:13 : jXbiWWJBCA

莫邦富の中国ビジネスおどろき新発見
【第230回】 2014年10月30日 莫 邦富 [作家・ジャーナリスト]
中国崩壊という他力本願に走る日本
求められる睡眠薬からの覚醒と冷静
 先日、大阪のとあるテレビ局の番組に出演した。番組の内容は「中国崩壊への3つのシナリオ」をテーマに設定している。いただいた番組の概要には、「APEC首脳会議を前にまことしやかに語られ始めた『中国崩壊』について、徹底的に大討論します」と書かれている。しかも、出演するゲストにその「中国崩壊」に関するアンケート調査をとっている。調査内容は次の質問のようなものだ。


「第2の天安門事件が中国を崩壊させる!?」
「経済悪化が中国を崩壊させる!?」
「中国人のモラルの無さが中国を崩壊させる!?」

 ちなみに、第2の天安門事件は学生ら一時10万人を集めた香港の民主化デモのことを指すものだ。

強まる他力本願

 バラエティ番組の性質を考えると、その内容については別にあれこれ批判を加えるつもりはない。ただやはりかなり前に自分の書いたものを想起せざるを得なくなった。2010年8月26日、このコラムに、私は「他力本願の日本が好む 中国経済崩壊論という自己矛盾」という一文を書いた。文中、下記のように論じている。

「1995年、日本の一部の政治家や学者は『中国を封じ込めよ』と元気のいいスローガンを口にしていた。現実性がどれほどあるかはさておき、空いばりとは言ってもそこにはまだ元気さがあった。しかし、いつの間にか、そんなことを言える体力も今の日本にはなくなり、相手が自ら都合よく崩壊してくれるのを首を長くして待ち望むばかりだ。日本はここまで他力本願の国になるとは思いもよらなかった。情けないと言うほかない。

 中国経済にあるバブル的要素は看過できない。経済の軟着陸を目指しているその中国のことはむしろ応援すべきだ。中国経済が崩壊したら、その中国市場に依存度を増している日本はたちまち『失われる30年』に突入する。しかし、それでも中国経済崩壊を期待する声が日本に根強くある。これでは、広告のない駅や空き店舗ばかりの町がこれからも増え続けるだろう。」

 1995年以降、日本のメディアでは、さまざまな中国崩壊論が予測されており、中には何月何日崩壊するといったご託宣のようなものもあった。笑止千万と聞き流してきたが、当のメディアと一部のコメンテーターがますますその予測に本気になっていくのを見て、これではまるで日本の視聴者に睡眠薬を投与し続けているようなものだと思えてしまう。

もう一つの重要ニュースは無視

 今回の番組も、不動産取引は中国のGDPの2割弱を占めており、成長を続ける中国経済の象徴でもあった、と決めつけたうえ、その不動産価格の下落傾向が鮮明になってきたことに焦点を当てて、「全国の主な都市の70都市のうち、不動産価格が下落したのが68都市にも上った。……その不動産バブルの崩壊に伴って、待ち受けるのが『金融危機』。金融市場で大きなシェアを占める『信託商品』が、今年から来年にかけて返済期のピークに達し、約5兆元(約82兆円)程度の貸し出しが返済期限を迎えることになるという。この信託商品は高い利回りと引き換えに、元金の保証は全くないリスクの高い金融商品であり、中国経済に大きな影響を与えるという『シャドーバンキング』の核となる存在。リーマンショックを引き起こしたサブプライムローンの中国版と言われるシャドーバンキングだけに、5兆元規模の信託投資が返ってくるのか、その結果次第では、中国経済は破たんという名の地獄へ落ちていくことに……」といった内容を報じた。

 論点の飛躍と根拠の無理さを指摘すれば、きりがない。ここでも目をつぶる。問題はその番組を収録する当日、北京では、中国主導のアジアインフラ投資銀行(AIIB)の設立をめぐって、中国と東南アジアの国々、それにインドなど設立を支持する21ヵ国の代表が集まり、覚書を取り交わした。法定資本金は1000億ドル(約10兆8000億円)で、アジア開発銀行(ADB)の約6割に相当する規模となるが、このアジアインフラ投資銀行を通して中国がアジアの経済的覇権を狙おうとしている、と日本やアメリカなど一部の国々が見ている。そのため、米国が自ら前面に出てきて、韓国やオーストラリアの加盟にブレーキをかけたりした。内容の重要さから見れば、明らかに当日に発生したこのニュースを番組に取り入れるべきだったが、都合よく無視された。

 中国崩壊論が氾濫する背景には、中国脅威論というものがある。経済力も軍事力もますます強くなってきた中国が怖い(脅威論)。かといって、自らの力ではその中国の発展を阻止することはもはやできない。だから、その崩壊を期待する方向へ疾走する。つまり私が4年前に指摘したように、日本人はますます“他力本願”に依存するようになった。

 中国脅威論といった視点から見れば、中国主導のアジアインフラ投資銀行のスタートは国際金融の世界にも中国が首を突っ込んだことになる。数ヵ月前のもう一つのニュースと合わせて読むと、中国のこの新しい動きと傾向がはっきりと判読できる。今年の7月に、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの新興5ヵ国(BRICs)はBRICs開発銀行の設立を宣言し、その本部を上海に置くことに合意した。発足時点の資本金が1000億ドルというBRICs開発銀行も、見方によっては中国の勢力基盤を作るために、世界金融に打ち込んだ杭と見ることが可能だろう。

 しかし、この種のニュースも中国崩壊論主張者にとっては都合が悪い。自然に無視される対象となった。だから、中国崩壊論を主張するメディアは、まるで日本国民に睡眠薬を投与し続けるようなものだとこの頃、思うようになった。かつての気概と自信と冷静さはどこに行ったのだろうか。
http://diamond.jp/articles/-/61367


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