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日本企業、なぜ新興国市場で苦戦?ブランド確立と最適な商品開発を阻む内部要因
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141028-00010005-bjournal-bus_all
Business Journal 10月28日(火)6時0分配信
●日本企業に共通する問題
日本の大手企業、特にメーカーは、ほぼすべての企業が「グローバル企業」と呼ぶべき状況となりました。マーケティング分野のコンサルタントである筆者のクライアント企業のメーカーのほとんどが、売り上げ構成に占める海外比率は70%以上です。
現在、日本企業の多くは成長率の高い新興国市場へ注力する姿勢を見せています。中でもアジアは、リーマンショック直後は中国への関心度が高かったものの、その成長スピードが鈍化し政治的リスクも高まる中で、今では東南アジア市場への注目度が高まっています。しかし、その東南アジアで事業を展開する日本企業が数多く存在する一方、すでに大きな実績を上げているケースは少ないのが現状です。
その理由としては、もちろん将来的な経済成長への期待の高まりと実際の市場拡大のタイムラグが挙げられます。しかしそれだけではなく、コンサルティングの現場においては新興国市場における日本企業特有の問題が共通して存在するように思われます。今回は「日本企業における海外販社の位置付けが、新興国市場での展開において足かせになっている」という、日本企業の多くに共通する課題の一つについて考えていきます
●「後進国が先進国に展開する際に適した体制」で海外展開する日本企業
タイやベトナム、インドネシア、マレーシアなど成長著しい東南アジアの新興国。そこでは、日本やアジア、欧米の企業が相次いで多くの分野に参入しており、世界中の企業が多様な商品を展開する百花繚乱の市場となっています。そのような中で日本企業には共通して、特に欧米企業と比べると特徴的ないくつかの課題が存在します。その課題のうちの一つ目は、特に大手メーカーの場合、海外展開をする際の組織体制のつくり方が、海外の「販売会社」として設計されていることによって生まれた課題です。日本企業では、現地法人が有する機能、管理範囲、投入される人材、本社から評価される内容などすべてが、販売会社として設計されているのです。
その背景をたどると、1970年代の高度経済成長期から続く企業組織のつくり方に遡ります。高度成長時代、後進国だった日本は工業力を向上させ、品質を向上させて、工業製品を欧米などの先進国市場で大量に販売し、自社の売り上げを拡大することが重要視されました。その際、当初は後進国の物価の安さを活用した価格的優位性を背景にして、可能な限り大量に商品を販売することが求められました。
そして生産数量が多くなるに従い、日本企業は生産ノウハウを蓄積し、高品質の商品を効率的に大量生産することで、「壊れにくい、安定した良い品質」の商品を低価格で販売し、先進国におけるシェア拡大を追求していきました。生産量が増えれば、原材料の購入量も多くなり、原材料価格を他社よりも低く抑えられるようになり、さらに競争優位性を強めていくことができました。そして、そこで得た利益を技術的な開発に注力することで、先進的商品を開発できるようになっていったのです。これは、当時の日本企業の典型的な成功のパターンでした。
一方、当時日本企業の攻勢を受けた欧米の家電・自動車メーカーは、利益率の低い中・低価格商品を生産しても、利益が出にくい状況になりました。そこで、生産量が少なくなっても、価格が高く、利益率も高い高価格商品に重点を置くようになったのです。その「程度」は企業によりますが、シェアを捨てて利益率の高い商品に絞ろうとする動きは、多くの欧米メーカーに共通していました。
この結果、各企業は利益率が改善し株価が上昇。一部のメーカーは高級品を売る際に重要となる「心理的な付加価値」としてブランディングを効果的に行う事に成功し、そのノウハウを蓄積していきました。しかし長期的に見ると、欧米メーカーの多くは衰退し、市場から姿を消していきました。中・低価格帯の商品は、その商品だけで見ると利益を生み出しているわけではなかったものの、それらのシェアを日本企業に奪われた結果、欧米企業は生産ノウハウや資材調達力などが低下したためです。
こうして日本企業は、大きなシェアと利益を得ることができました。この時代において日本企業にとっての「ブランド」とは、工業製品として安定して無駄なく生産され、壊れにくく、正常に動くという「品質保証」を消費者に約束するものでした。そして、この時代に日本企業の海外販社が多く設置され、その当時の名残が今でも残っているのです。
●新興国における日本企業の位置づけ
現在、日本は先進国の一つとなり、日本企業は新興国では「先進国の企業」となりました。そして現在は、アジアの韓国や台湾、中国などの各メーカーが世界市場の各分野で着実に中・低価格商品のシェアを取って生産数量を増やしつつあり、力をつけています。結果として、価格競争で日本メーカーは優位に立ちにくい状況になりました。
そこで、新興国市場で中・低価格モデルでは利益が出ないため、日本メーカーには高級モデルの販売にシフトしようとする動きが多く出てきます。しかしそれをするなら、かつての生き残った欧米メーカーのように、商品には品質保証の価値だけでなく、高級モデルならではの心理的な付加価値が求められます。
ところが、ここで海外の現地販社の位置付けの問題がボトルネックになるのです。
まずブランドといわれて、多くの日本メーカーが連想するのは「品質保証」というブランド価値です。ブランド価値とは「○○であれば○○」というように、消費者に何かを約束することで価値が生まれます。日本企業にとってのブランド価値とは、その企業の商品であれば「壊れないし、不良品もないし、性能も高い」という、「品質保証」を約束する意味で使われてきたのです。
新興国においては、先進国企業の生産コストは一般的に高くなりますから、その高額商品で、単に品質保証をするだけでは、なかなか売れにくくなっていきます。その商品の普及率が上がる(コモディティ化ともいわれます)するほど、その商品がきちんと動くという品質保証は「当たり前」になっていきます。つまり、工業製品としての品質が高いのは当たり前となり、それだけではブランド価値を発揮しにくくなっていくのです。そこで、一定以上の高級ブランドとして価値を感じられるためには、品質保証の価値だけでなく、心理的な価値を持つ必要があります。
わかりやすく例え話でいえば、かつてスイス製の時計は職人芸の結晶といわれ、高級品の代名詞でした。スイス製の手づくりの時計は、他国の製品を圧倒するほどの精度で正確に時間を刻み、使いやすく、世界中から信頼されるブランドをつくっていたのです。しかし、日本企業がクオーツを開発したことで、「時を正確に、壊れず、刻み続ける」という時計の品質保証は、低価格で簡単に実現できるようになりました。その結果、スイスの時計メーカーの多くは、単に「時間を正確に刻み続ける」という品質保証のブランドだけでは高すぎて、売れなくなったのです。結果として多くの時計メーカーは淘汰されました。しかし一方で、職人芸のストーリーを背景にした高級品や嗜好品の新しい価値や、ファッション性の優れた製品として新しい価値をつくり上げたメーカーは、高い利益率を実現できるブランドをつくっていったのです。このような変化が、工業製品としての基本的な価値を保証するブランドから、心理的な価値を提供するブランドへ変わるということです。
●海外法人が“販売会社”として設計されている課題
ところが日本企業の海外現地法人は、このような心理的な価値としてのブランド・イメージのコントロール機能を有しておらず、さらに、心理的価値やブランドをつくることが、本社から評価される体制にもなっていません。海外の開発拠点も少なく、現地の市場を理解して、それに適したかたちで商品開発とマーケティングを展開することが難しい体制となっている課題があるのです。
具体的に見ていきます。
まず、ブランド価値を高めるためには、商品に込められた思いやストーリーを、感動的・効果的に伝え、まさに消費者の心理を動かすことが必要です。そのためには、現地で自社や競合のブランド・イメージの位置付けを把握することから始まります。そして、多くは本社が「全体的な方向性」を示し、その方向性に沿ったかたちで、その新興国の文化的な背景なども踏まえて、現地で「どのように伝えるか」を考え、効果的に伝える取り組みを実施していくことが必要となります。これらの作業には、いずれも現地での皮膚感覚が必要なため、本社のブランド管理部門だけではできず、現地のマーケティング機能と連動して実施する必要があります。
ところが日本の大手メーカーの場合、現地法人が単なる販売会社として設計されており、流通に商品を供給し、広告管理をするだけの機能しか有していないことが多いのが実情です。すると現地の市場状況を把握しようにも、そのためのスキルを持ち、現地と日本の違いを的確に説明して報告できる社員もいません。
また、商品に心理的価値を付加する活動を行おうとしても、本社から評価されるのは年度の売り上げが中心となっているため、それこそ安売りをしてでも多く売り上げを上げようとしてしまいます。これは、ブランド価値向上とは逆行した取り組みといえます。
そして、特に欧米企業と日本企業を比べると、日本企業は開発機能が日本国内に集中しており、海外との連携も少なく、新興国で市場を理解して開発につなげる機能が弱いのも特徴です。例えば、特許における他国の研究者との共同出願の割合で見ると、欧米各国では特許の10〜20%を占めているのに対し、日本はわずか2.7%(11年度)です。
これは、かつての日本企業では、言葉や文化の壁もない日本人同士で、問題意識を共有して研究・開発をするほうが効率的な方法だったという経緯があるためです。それが現在、海外売り上げが大きくなっているにもかかわらず、海外ユーザーから離れた日本国内に研究開発機能が偏り、海外市場の声は届きにくくなり、その動向や特徴を正しく理解できない状態になっています。特に新興国の開発拠点は、他国の市場と比べてさらに手薄になっています。
これらは、心理的付加価値をも追求することを得意としてきた欧米企業と比べると、大きく異なる点です。欧米企業は、もともと先進国として後進国へ展開する事は、日本市場への展開も含めて、長い歴史とノウハウがあるのです。例えばブランド・イメージのコントロールにしても、どういう調査をどこまで現地化して実施するかまで含めてノウハウが蓄積されています。また、開発拠点の海外分散化も進んでいます。
●体制の設計自体に課題
この体制上の位置づけに関する課題は、多くの日本メーカーに共通している課題です。仮にマーケティング部門やブランド部門がこの課題を理解していても、企業体制そのものの課題であるため、手が付けられないことが多いです。課題解決の方法は個別企業の置かれた状況によって大きく異なります。
例えば、単に欧州の自動車メーカーのブランド・コントロールのアプローチを日本企業が導入しても、詳細は割愛しますが、日本的なメーカーでは現場の士気低下などのデメリットなどが強く出てしまい、うまくいかないでしょう。かといって、現状のままで良い企業というのは少数なのが実情だと思います。だからこそ経営陣が、必要なら企業の組織体制そのものを大きく変えることも含めて、対応を求められる課題なのです。筆者としては現状の課題の共通点を指摘するのは比較的簡単なのですが、その課題を受けて「それぞれの企業がどうするべきか?」を考えるのは、本業で担当して行わなければいけないほどに難しい取り組みのため、本稿では現状の課題を書くにとどめます。
世界中の企業がこぞって競争を繰り広げる新興国市場。そこでは、日本企業の組織の在り方、設計の際の概念が、日本企業が先進国の企業となった現状に適していないという課題が浮き彫りになっている現実があります。この課題に目をつぶり、単に高性能で高価格な商品を投入しても、品質の良い工業製品という価値しかないままでは、長期的な成功は難しいでしょう。「組織や体制が間違っていれば、企業は継続した取り組みはできない」という現実を、改めて認識する必要があるといえるでしょう。
教育学者ローレンス・J・ピーターの言葉に、次のような言葉があります。
「失敗する人には2種類いる。
考えていたけれど実践しなかった人と、
実践したけれど考えていなかった人だ」
実践と同時に、企業が考えて取り組むべき課題が、非常に大きな課題なのです。とどのつまり、日本企業がそこで本当に問われているのは、新興国市場へ展開する“本気度”ではないでしょうか。
福留憲治/ブランド・コア代表取締役
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