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BLOGOSから
http://blogos.com/article/96381/
藻谷浩介が、日刊ゲンダイで「安倍政権は経済的な反日の極み」と主張している。これを「過激なようで論理的」と持ち上げている一部のマスコミは、論理的と言えるだけのデータの検証を行ったのだろうか(http://www.nikkan-gendai.com/articles/view/news/153666)。藻谷のあげている間違いだらけのデータと主張を鵜呑みにしただけだろう。
経済とエネルギーに関するデータを基に藻谷の主張を検証すると、主張にデータの裏付けはなく、藻谷の主張に都合の良いように話を変えていることが分かる。筋道と過程が無茶だから、最後の結論にいたっては、とんでもないことになっている。藻谷の主張は経済的なデータに基づくものではなく、単に「原発も、経済成長も不要、里山を活かせ」という思想・心情を披歴したものに過ぎないと言っていい。経済の話として主張することにより、一部のマスコミを含め経済データの詳細を知らない人間を騙すことにもなっている。
根拠なき藻谷の主張
藻谷の主張の骨子は次の通りだ。何箇所か数字が出てくるが、その裏付けデータは示されていない。燃料代の上昇から対中貿易赤字までを円安が引き起こしたとして、円安を作り出した安倍首相の経済政策を非難しているが、その根拠はない。研究所に勤務する人間がデータをよく調べないで理論を構成するというのは、にわかには信じ難いが、調べると、藻谷の主張の根拠となるデータや数字は間違っていることが分かる。どこが違うのか、まず箇条書きで簡単に説明する。
・燃料代の輸入が増えているが、原発の停止が理由ではない。円安が理由だ。原発再稼働というのは、相手をけがさせて、薬を買えというような話だ。
⇒原発の停止により燃料の輸入数量は増え、円高だった11年、12年にも輸入代金は増加している。円安が原因ではない。円安にして再稼働しろと言っているという主張は成立しない。
・輸出も増えている。日本のものづくりの国際競争力が落ちているというのは、とんでもない誤解。ハイテク部品や高機能素材が売れ続けている。
⇒世界の貿易は日本の輸出以上に伸びている。日本の世界貿易に占める比率は落ち続けている。デフレ時代に日本が相対的な国際競争力を失ってきたからだ。
・円安政策が対中貿易の赤字を招いている。対中貿易赤字を招く政策を経済的な反日政策とすると「安倍政権は反日の極み」だ。
⇒対中貿易の赤字額は傾向的に増えている。円安であれば輸出も増えるので、円安と対中貿易の赤字とは関係がない。日本の対中輸出の競争力が落ちているのが赤字増の原因だ。
・日本の1人当たりGDPは20年前から世界20位以内。「もっと稼いでGDPを増やさなければならない」と政治家は叫び、刹那的な「マネー資本主義」に走っている。
⇒日本の1人当たりGDPは20年前世界一だった。今は20位以内にはない。データによっては韓国にも抜かれている。平均給与は97年から実質10%減った。
・原発の廃炉費用を上乗せするだけでも、電気料金はさらに上がっていく。負担が発生するのは2,3年後。メーカーの社長は再稼働で目先の電気料金が下がればいいと考える。
⇒廃炉、核燃料処理費用などは、原発のコスト計算に含まれており、既に回収されている。廃炉が始まっても負担が増えることはない。再稼働とは関係がない。
・イタリア、フランスも対日貿易黒字。両国が売り込んでいるのは、ブランドと田舎の食品であるワインなど。日本だって里山の恵みを生かして同じような路線を追求できるはず。
⇒イタリアもフランスも輸出で稼いでいる商品は、機械類、自動車、化学薬品などで、ワインなどの占める比率はごく僅か。先進国が農産品で生きていける筈はない。
以下では藻谷の主張を一つひとつ、データに基づき詳細に検証してみたい。
先進国が農業で生きていけるわけがない
藻谷の主張の結論を最初に検証しておきたい。藻谷の主張の間違いがはっきり分かる結論になっている。経済成長は不要という水野和夫の主張を検証した『「資本主義の終焉?」脱成長路線では世界を救えない』で、元経済産業大臣の枝野幸男の主張「これからはニッチ産業で輸出すべき、例えば盆栽」に触れたが、藻谷の結論は経済音痴と言っていい枝野並だ。
藻谷は、「フランス、イタリアに注目している。ブランド衣料宝飾品、田舎の産品のワイン、チーズ、パスタにオリーブオイル。ハイテクではなく、デザインと食文化を売っている。日本だって里山の恵みをもっと生かして、同じような路線を追求すべき」と言っているが、フランスとイタリアの輸出品目を調べると、両国ともに大きく外貨を稼いでいるのは機械、自動車などの工業製品であり、ブランド品でもワインでもチーズでもない。先進国の産業構造からすれば、農産物で十分な外貨を稼げないのは経済学の常識だ。日本向けには工業製品を売るのが難しく、偶々ブランド品や農産物しかないということだ。他国向けには工業製品の輸出で稼いでいる。
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フランス国内を鉄道で旅すると、農地が広がる姿に驚く。フランスが農業大国と言われる所以だ。しかし、フランスが作り出す付加価値額のうち農林水産業の占める比率は2.5%。先進国が農業で生きているわけはないし、農産物の輸出で大きく稼いでいる筈がないことは経済の常識だろう。フランス、イタリアの輸出品目を表-1に示した。藻谷の、「フランス、イタリアを見習って、里山を活かした路線を」という主張は枝野の盆栽輸出と同レベルの経済学的にはありえない主張だ。盆栽を買ってくれる国も量も限られている。経済の解説をする人間が行う主張ではない。データを調べたうえで、主張しているとすれば、もっとひどい。
原発の発電量の落ち込みを、
火力発電所の稼働率向上で賄った
原発が停止したが、エネルギー消費は増えておらず、影響はないと藻谷は主張している。「震災前も今も原油と天然ガスの輸入量は2億5000万キロリットルで変わらないので、エネルギーの輸入代金が増えたのは、安倍政権による円安のせい」というのがその主張だ。原発は震災前全電力需要の30%を賄っていた。停止によってもエネルギー輸入が増えていないという藻谷の主張が正しいとすれば、電力需要、あるいはエネルギー消費が大きく落ち込んだということしか考えられない。
図1
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輸入実績を見れば、藻谷の説明の間違いはすぐに分かる。震災前2010年に原油は2億1462万キロリットル(KL)、石油製品2795万KL、燃料用の一般炭1億161万トン、天然ガス7001万トンが輸入されていた。13年の輸入量は原油2億1175万KL、石油製品2717万KL、一般炭1億888万トン、天然ガス8749万トンだ。石油系は365万KL減少しているが、石炭は727万トン、天然ガスは1748万トンも増えている。電力需要は大きく落ち込んでおらず、電力業界は原発の発電量の落ち込みを、火力発電所の稼働率向上で賄った。電力業界の化石燃料の消費量の推移は図‐1の通りだ。
景気が低迷していたために、エネルギー消費も低迷しているが、電力業界の燃料消費量増を穴埋めするほど減少しているわけではない。輸入量が増えていないという藻谷の主張の元になるデータは何だろうか。
図2
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さらに、藻谷の説明が間違っているのは輸入代金の増加を全て円安のせいにしていることだ。量の増加に加え、化石燃料価格の上昇も大きな要因である。特に、震災により原子力というオプションを失い、天然ガスが必要になった日本は足元を見られ高い天然ガスでも買わざるを得なかった。日本の燃料輸入額の推移と円・ドルの為替の推移は図‐2に示されている。13年の円安が輸入額の増加を招いたのは事実だが、円高時の輸入額の増加から円安よりも量と価格が大きな要因であることが分かる。
量の増加と価格の上昇を無視し、円安が貿易赤字を作り出しているという藻谷の主張は、完全に誤りだ。藻谷が量と価格という基礎データを調べていないとすれば、研究機関に勤める立場としては釈明できないミスだろう。もし、調べた上で、量、価格という基礎データを無視したのであれば、それはまるで扇動家の行いだ。
中国からの輸入が増えているのは円安のため?
安倍政権になって、中国との貿易が1兆円の赤字になった。これは円安のためだとして「経済的反日」と安倍政権を藻谷は攻撃している。鳩山政権時代には4兆円近い黒字だったので、鳩山政権がもっとも「親日的政権」としている。バカバカしいにも程がある。円安になれば、輸入額も増えるが、輸出額も増える筈だ。円安が中国との貿易赤字の原因になる訳がない。第一、貿易赤字になれば、反日になるのか。鳩山内閣時代も対中国では貿易赤字だ。藻谷は常に日本が3兆円から4兆円の貿易黒字額になる香港を中国に含め計算しているだけだ。
図3
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藻谷は、企業がコストを下げるために中国から安い原材料を購入するから赤字が膨らんでいるとも主張しているが、まったく馬鹿げた説明だ。中国との貿易額の推移は図‐3の通りだ。11年、12年の円高の時代も日本の輸入が増え、その上貿易赤字は拡大している。原因は日本の輸出が伸びず、減少していることだ。特に、輸出額1位と2位の電気機器、機械類の輸出額は、11年から13年にかけ、それぞれ15%減、36%減と大きく落ち込み、中国の輸入額に占める日本のシェアは11年11.2%、12年9.8%、13年8.3%と減少を続けている。藻谷は日本の製造業の競争力は強いとし、リーマンショック前に輸出額は過去最高になったとしているが、ここでも藻谷はデータを読んでいない。
競争力を失う日本の製造業
図4
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1979年に発売されたハーバード大学のヴォ―ゲル教授の著書「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が示す通り、80年代には米国の経済覇権を日本が脅かしたが、それは日本の製造業が米国の製造業を脅かしたということだった。図‐4は日米独の製造業の付加価値額の推移だ。80年代から90年代初めにかけ、日本の製造業は米国に迫った。危機感を持った米国の議員は日本製の車、家電製品をハンマーで壊すパフォーマンスさえ見せ、日本製品の対米輸出増を阻止しようとした。
図5
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しかし、米国の危機感はその後霧消した。90年代後半から日本の製造業が全く成長しなくなったからだ。この最大の原因はデフレにより、企業が借入金の返済を優先するようになり、工場設備更新、研究開発投資を行わなくなったからだ。藻谷は日本の製造業の輸出額はリーマンショック前に過去最高だったというが、先月の連載でも示した図‐5の通り世界に占める日本の輸出額のシェアは波を打ちながら下がっている。これは、グローバル化が進む世界のなかで日本の製造業が相対的に競争力を失っていることを示している。
対中輸出でも日本は残念ながら競争力を失っているということだ。安倍政権が反日の極みであり円安が対中貿易赤字の理由という主張は、経済学の理屈から出てくるはずがない。
日本経済は成長する必要がないのか
藻谷はまた不思議な議論を展開している。日本の1人当たり国内総生産(GDP)はこの20年間を通し世界20位以内であり、成長には借金と汚染物質が残るから、経済成長の必要はないと示唆しているのだ。ここでも藻谷はどんなデータをみているのだろうか。
図6
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国際通貨基金(IMF)のデータでは、20年前1994年の日本の1人当たりGDPは、179カ国中1位だった。13年のデータでは24位になっている。米国の公務員のために作られている米国中央情報局(CIA)のワールド・ファクト・ブックでは消費者物価指数で調整された購買力平価(PPP)ベースの日本の13年の1人当たりGDPは世界36位だ。CIAのデータでは、まだ韓国を上回っているが、OECDのPPPの1人当たりGDPを示すデータでは、日本は既に韓国に抜かれている。12年の1人当たりGDPは日本35317ドル、韓国38267ドルだ。
この20年間日本だけ経済成長が止まっている間に、他の多くの国が成長を続けた結果だ。20年前に日本の半分しか1人当たりGDPがなかったシンガポールも豪州も、いまは日本より大きな数字になった。図‐6が示す通り、他の主要国の1人当たりGDPも伸びている。
「金融緩和を止められない自分の無力を懺悔」?
図7
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藻谷は、「フランス、イタリアで日本ほど働いているという話は聞いたことがないが、日本のほうが赤字」というが、二国間の貿易を比べて黒字の方が優れているという主張は経済学では意味がない。例えば、日本と中国では黒字の中国が優れている訳ではなく、偶々お互いに必要するものがあったということだ。まして、日本ほど働いていないというのは本当だろうか。どの国でも稼ぐために一所懸命に働いている人ばかりだ。楽して儲けている国があるはずもない。OECDの統計でG8諸国の年間実質労働時間をみると、図-7の通りイタリア人は日本人よりも働き者だ。
図8
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日本人の1人当たりGDPと平均給与の推移は図‐8の通りだ。1997年をピークに平均給与は下がっている。消費者物価指数で調整しても実質10%下落している。いま、毎月のやり繰りを考えずに生活している日本人は何人いるのだろうか。フランスとイタリアではあまり働かず稼いでいると、ありもしない姿を示し、里山を利用すればよいと主張することに藻谷は心が痛まないのだろうか。
藻谷は「大企業は人員を減らすことで給与の総額を減らし、原材料を安くするために中国からの輸入量を増やして配当を確保する」と言う。藻谷は、一体どういう経営者と付き合っているのだろうか。私の知っている経営者のなかには、そんなことをやりそうな人はいない。もちろん、儲けるためであれば、法律違反でない限り何をやってもよいと考える経営者もいるだろう。しかし、大手企業の経営者を一括りにして論じるのは乱暴だ。
藻谷は金融緩和を止められない自分の無力を懺悔しなければならないと言っているが、過去20年間の経済の不調と給与の下落はデフレがもたらしたものだ。デフレをまず止めようとする政策を、間違った経済データと思い込みで批判し、無力を嘆くのは滑稽だ。今でもまだデフレが続いていれば、経済情勢は今よりもはるかに悪い状態だっただろう。
安倍政権を嫌うのは自由だが、経済の観点から根拠なく政策を批判するのはいかがなものか。里山資本主義は「バックアップの手段」と言いながら、現在の経済を「やくざ」「マッチョ」「マネー資本主義」と批判し、里山の恵みを生かす路線を追求できると主張する姿勢は理解できない。
こんな感情的な主張で、反日と呼ばれるのは安倍首相もたまったものではないだろう。日本経済をダメにし、結果国民を貧しくするのは、藻谷の路線だ。
シェール革命の米国に対抗し製造業の復活を
日本復活のカギは、製造業だ。再度米国に追いつくべく新技術の研究開発、設備更新に力を入れることで、経済成長を図ることが重要だ。シェール革命の米国に対抗するためには安価で安定的なエネルギー供給も欠かせない。製造業は日本のGDPの20%を稼ぎ、物流などの周辺の業種を含めると、GDPの3分の1になる。地に足のついた経済成長と生活向上のためには、まずデフレからの脱却が必要だ。
いま、EU委員会も20年にGDPの20%を製造業にする目標を掲げ、新技術支援を柱にEUの製造業復活戦略を実行している。これからの日米欧の競争は製造業が中心だ。政権はデフレ脱却戦略に加え、早く製造業の具体的成長戦略を描くことが必要だ。そうでなければ、失われた20年がさらに長引くことになってしまう。
<参考リンク>
■火力燃料費、震災後4年で12兆円増 経産省試算
http://www.nikkei.com/article/DGXLASDF23H01_T21C14A0MM0000/
経済産業省は原子力発電所の停止に伴う火力発電用の燃料費について、2011年度から14年度の累計で12兆7000億円増えるとの試算をまとめた。原発の停止で、コストの高い液化天然ガス(LNG)や石油などを使う火力発電所の稼働が増えたためだ。
14年度の追加燃料費は約3兆7000億円に上る見通しだ。すべての原発が止まったままと想定しているため、大飯原発3、4号機が一時稼働した13年度よりも1500億円…
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