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狭い日本、リニアで急いでどこへ行く? 夢の巨大プロジェクト始動に潜む不安とはhttp://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141024-00002737-gentosha-ent
幻冬舎plus 10月24日(金)10時35分配信
渋谷 和宏
いよいよリニア中央新幹線のプロジェクトが本格的に動き出す。太田昭宏国土交通相は10月17日、JR東海が2027年の開業を目指すリニア中央新幹線の工事実施計画を認可した。JR東海は着工に向けて沿線住民への説明会開催や用地取得交渉を開始する。(10月17日付の毎日新聞など)
伝えられているようにリニア中央新幹線は2027年に品川・名古屋駅間を開通し、2045年までに大阪まで延伸する。最高時速は500キロ、品川・名古屋間の所要時間は約40分と、新幹線のぞみの約1時間30分の半分以下だ。品川・大阪間も、のぞみの2時間18分から1時間7分と1時間以上短縮される。「速さ」についてはまさに夢の次世代超特急と言うにふさわしい。
総工費は品川・名古屋間で約5兆5000億円、大阪までの全線で何と約9兆円に達する。同社は国の資金援助を求めない方針なので、まさに破格、前代未聞の一民間企業のプロジェクトだ。
それだけに完成までの道のりは決して平たんではない。品川・名古屋間は全長286キロメートル、うち9割近くが南アルプスなどの山岳地帯や都市部の大深度地下を通る予定で、200キロメートルを超えるトンネルの掘削が必要になる。難工事が予想されるだけではない。大量に発生する残土を環境に負荷がかからないようにどう処分するかも大きな課題だ。
さらに開業後にも難題は待ち受けている。9兆円もの巨費を回収できるのかという根本的な問題だ。日本人の人口は減少に転じており、リニア中央新幹線が全線開通する2045年の3年後には1億人を割ると予測されている。市場環境はバラ色どころか不透明と言っていい。期待される訪日外国人旅行者にしても、エアラインとりわけ安いLCC(格安航空会社)との争奪戦が避けられない。
世界の最先端をいく巨大プロジェクト──リニア中央新幹線に本当に死角はないのだろうか。
鉄道の事業計画はよく絵に描いた餅だと批判されたりするが、リニア中央新幹線の計画は一見、堅実に思える。JR東海は、同社の売上高(単体)がリニア中央新幹線開業10年後の2037年には1兆3500億円と、現在の約1兆2000億円から約1500億円増えると見込んでいる。さらに全線開通の2045年には1兆4700億円に達すると予測する。
エアラインの乗客を取り込めるというのがその根拠だ。さらに東海道新幹線の利用者が料金の高いリニアに乗り換える増収効果も加味している。
確かに品川・大阪間が1時間7分で結ばれれば、空港までの移動時間や搭乗手続きを含めるとエアラインよりも時間を短縮できるので、乗客の多くがリニアに流れるに違いない。運賃についても、JR東海はのぞみより品川・名古屋間で700円程度、品川・大阪間で1000円程度上乗せするのにとどめる方針で、この微妙な料金設定からすると相当数の乗客がのぞみからリニアに流れるだろう。
さらにリニアがうまくいけば海外へのインフラ輸出の可能性も開ける。米国や新興国で計画されている高速鉄道にリニアが採用された場合、プロジェクトの規模は数兆円に達するので収支は一気に改善されるはずだ。
とはいえ、それもこれも、日本国内の市場動向が今と変わらないのが前提だ。国内市場の先行きに目を向けると前途には暗雲が漂っていると言わざるを得ない。人口減と高齢化による輸送市場の縮小だ。
国立社会保障・人口問題研究所の推計では、1人の女性が生涯に産む子供の数を示す合計特殊出生率が今とほぼ同じ1.35前後の場合、2013年に1億2720万人だった人口は東京五輪が開催される2020年には1億2410万人に減り、2048年には1億人を割ってしまう。その12年後の2060年には8674万人と今のおよそ3分の2にまで激減する。人口減に伴って高齢化も進み、2060年には65歳以上の割合を示す高齢化率が今の25%から40%へと上昇する。
人口減が乗客の絶対数を減らしてしまううえに、高齢化による就業人口の減少がビジネス客の減少をもたらすので、リニアにとっては強い逆風になりかねない。
頼みの訪日外国人旅行者もLCCとの争奪戦が待ち構えている。政府は2020年に訪日外国人旅行者数を2000万人に増やす計画だが、仮に実現しても、コスト意識の高い彼ら彼女たちがLCCからリニアに乗り換えてくれるだろうか。
さらに僕が最も危惧しているのは「速さ」だけが売り物と言っていいリニアと、僕たちが今、鉄道に求め始めているものとの埋めがたいずれだ。「速さだけならエアラインがある。鉄道には移動時間そのものをゆったりした気分で楽しみたい」──高齢化が進み、経済・社会がゆっくり成熟しつつある今、僕たちは以前よりずっと強く、旅情や安らぎを鉄道に求めるようになっているのではないか。
実際、リニアの対極をいく「遅さ」を売り物にした鉄道が人気を集めている。例えば第三セクターの肥薩おれんじ鉄道が、昨年3月から運行を始めた観光列車「おれんじ食堂」が中高年から支持されている。熊本・新八代(しんやつしろ)から鹿児島・川内(せんだい)まで、新幹線だと30分足らずの距離を3時間もかけてゆっくり走り、沿線の食材を使った昼食をとったり、車窓の風景を眺めたりしてのんびり過ごす列車だ。全国から観光客を集め、運行開始以来、肥薩おれんじ鉄道の運輸収入は前年同月を上回り続けている。
近畿日本鉄道が昨年3月、伊勢神宮の式年遷宮にあわせて運行を始めた「しまかぜ」も連日ほぼ満席の人気が続いている。掘りごたつやカフェのある車内で、名古屋から賢島(かしこじま)まで約2時間、沿線の風景を味わいながらゆっくり過ごす観光列車だ。担当者は人気の理由を「ゆったりしたスピードが列車の設備や景色を楽しんでもらうのにちょうど良い時間の提供につながった」と分析する。
リニアではこのような時間を楽しむすべはないだろう。品川・名古屋間の8割はトンネルの中で、要するに猛スピードで走る地下鉄だ。途中、富士山を見られるのはたった2秒だとも言われている。
観光列車ではないのだからそれでもいいとの意見もあるかもしれない。リニアはビジネスでの利用が中心になるのだからと。しかし先に触れたように就業人口の減少はビジネスでの利用機会を減らしてしまう。観光客をどこまで取り込めるかもリニアの成否を決める重要な課題ではないか。
リニアのプロジェクトはそもそも高度成長期のいわばモーレツ日本の産物だった。1960年代に計画が持ち上がり、田中角栄元首相による列島改造ブームを背景に1973年に基本計画が了承された。その間、日本は高度成長に沸き、東京-大阪間の輸送力増強が喫緊の課題だった。
そして今、スローライフという言葉に代表されるように、速さや効率追求からゆったりした時間の楽しみへと僕たちの志向は変わり始めている。ある専門家はリニアをフランスと英国が共同開発した超音速旅客機コンコルドになぞらえて前途への不安を指摘する。音速の2倍を誇り、1976年に実用化されたコンコルドは燃費が悪く、騒音が機内にも響いて快適な空の旅を提供できず、やがて終焉を迎えた。そうはなってほしくないと僕は切望するが、ではどうすればリニアは快適な陸の旅を提供できるか、まだ見えていない。
超電導磁石を搭載し、磁力で車両を浮かせて走らせるリニアの構想を始めて知ったのは少年時代だった。少年週刊マンガ誌のグラビアページでリニアモーターカーの実験の写真を見て、僕は胸を躍らせた。しかし今、僕たちは少年期にはいない。高齢社会のリニアにはどんな夢があるのだろうか。
■渋谷 和宏
1959年12月、横浜生まれ。作家・経済ジャーナリスト。大正大学表現学部客員教授。1984年4月、日経BP社入社。日経ビジネス副編集長などを経て2002年4月『日経ビジネスアソシエ』を創刊、編集長に。2006年4月18日号では10万部を突破(ABC公査部数)。日経ビジネス発行人、日経BPnet総編集長などを務めた後、2014年3月末、日経BP社を退職、独立。
また、1997年に長編ミステリー『銹色(さびいろ)の警鐘』(中央公論新社)で作家デビューも果たし、以来、渋沢和樹の筆名で『バーチャル・ドリーム』(中央公論新社)や『罪人(とがびと)の愛』(幻冬舎)、井伏洋介の筆名で『月曜の朝、ぼくたちは』(幻冬舎)や『さよならの週末』(幻冬舎)など著書多数。
TVやラジオでコメンテーターとしても活躍し、主な出演番組に『シューイチ』(日本テレビ)、『いま世界は』(BS朝日)、『日本にプラス』(テレ朝チャンネル2)、『森本毅郎・スタンバイ! 』(TBSラジオ)などがある。2014年4月から冠番組『渋谷和宏・ヒント』(TBSラジオ)がスタート。http://www.tbsradio.jp/hint954/
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