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ノーベル賞中村氏も激怒! 国と財界の発明特許「訴訟封じ」許せるか
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20141024-00013717-president-bus_all
プレジデント 10月24日(金)8時45分配信
■ノーベル物理学賞・中村修二氏も激怒
「反対というより、猛反対。サラリーマンがかわいそうじゃないですか。(青色LEDをめぐる)私の裁判を通じて、(企業の研究者や技術者への待遇が)良くなってきたのに、それをまた、大企業の言うことをきいて会社の帰属にするのはとんでもないことです」(『朝日新聞』2014年10月18日朝刊)
こう語るのは、青色発光ダイオード(LED)の開発でノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授である。
中村氏が憤るのも無理はない。
政府は社員が仕事で発明した特許を「社員のもの」から「会社のもの」にする特許法の改正案をこの臨時国会に提出する方針を固めたからだ。その背景には安倍政権と親密な関係にある経済界の強い要望がある。
日本の特許法(35条)では、発明者が特許を受ける権利はあるが、研究設備や開発資金を会社が負担する社員の発明は会社側に特許の使用権を与えている。ただし、会社は特許を社員から譲り受ける代わりに「相当の対価」を支払わなければならない、とされている。
だが、この法律は一般的にあまり知られておらず、たとえ知っていても勤務先の会社を訴える社員は少なかった。ところが、2001年中村氏が青色LEDの対価を求めて勤務先だった日亜化学工業を提訴。一審の東京地裁が200億円の支払いを命じたことで大きな話題となった(その後8億4000万円で和解)。
当時は社員研究者に勇気と夢を与える「会社と戦うサラリーマン出身の研究者」として世間の支持を集めた。その後も日立製作所の光ピックアップに関する特許訴訟や味の素の人工甘味料に関する特許訴訟など、従業員が会社に対価を求める訴訟が相次いだ。
■発明対価引き上げの動きが広まっていたが……
あわてたのは経済界である。
高額訴訟の増大に驚きと反発を露わにする経営者もいた。当時取材した大手企業の知財部長は「経営陣からうちはどうするんだ、と再三再四対応策を求められるが、現状では解決策は見つからない。訴訟を起こしそうな不満分子だけを対象に報奨金を出すわけにはいかないし、さりとて今の報奨制度の上限を倍にしても根本的に解決するわけではない」と頭を抱えていた。
経営者にしてみれば、お金に関心がなく、研究一筋で働く従順な社員がまさか会社を訴えることはありえないと高を括っていただけに、衝撃も大きかったのだろう。
ただし、経済界の言い分にも一理はあった。
35条の「相当の対価」は発明で受ける企業の利益と、発明者の貢献度で決めると定められているだけで具体的な算定基準を示していない。したがって「発明者の貢献度」をどのように計るかは裁判官の判断に委ねられ、企業にとってはいくらの支払いを命じられるのかまったく予測がつかないのである。支払い金額がわからなければ、企業活動にも支障が生じる。
たとえば、青色発光ダイオード訴訟の判決では、裁判所は予想される会社の売上高の20%、約1200億円を特許料収入と算定。これに対する会社と開発した中村氏の貢献度をそれぞれ50%と認定し、中村氏の発明対価を半分の約600億円とした。だが、中村氏は会社に200億円しか請求していなかったために、裁判所は請求どおり、会社に200億円の支払いを命じる判決を下した。
一方、日立製作所の訴訟判決は発明者の貢献度を20%、味の素判決は5%とした。だが、特許料収入の算定、発明者の貢献度をどのように算定するのかを示していない。
特許問題に詳しい弁護士は当時「裁判所が後づけで根拠のない仮想的な数字を積み上げて相当対価を算定し、ある日突然企業に支払いを命じる。企業にとって予測可能性は皆無だ」と批判していた。
ただし、企業経営に素人の裁判官が人事評価の領域に踏み込み、5人の開発者がいたら「あなたの貢献度はいくら」と一人ずつ査定するのは土台無理な話だ。
そこで妥協の産物として生まれたのが04年の特許法改正だ。職務発明に対する相当対価の請求権を残しながらも、
【1】 報奨金制度の策定にあたっては社内手続きが合理的なものであれば、裁判所は報奨金額を尊重する。
【2】社内手続きの不備や対価の額が不合理な場合は、現行どおり裁判所が対価の額を決定する。
というもの。
社内手続きには「対価を決定するための基準の策定に際して使用者と従業員の間で行われる協議の状況」「策定された支払い基準の開示の状況」「対価の額の算定について行われる従業員の意見聴取の状況」の3つが含まれる。
この改正によって一部の企業は独自の報奨金制度を設けて、従業員の発明対価を引き上げる動きが広まった。たとえば三菱化学は営業利益を指標に総額で最高2億5000万円を支払う報奨制度を設けた。すでに2億5000万円をはじめ1億円以上の支給実績がある。また、法改正によって訴訟件数が減ったといわれる
■社員から特許権を完全に奪い取る魂胆
ところが、そんないきさつがあるにもかかわらず今回の特許法改正である。特許庁の特許制度小委員会の制度見直し案では「職務発明に関する特許を受ける権利については、初めから法人帰属とする」とし、完全に社員から特許権を奪い取る仕組みに変更する。ただし、「現行の法定対価請求権又はそれと同等の権利を保障する」としている。
譲渡対価の権利は残っているように見えるが、特許権を会社に奪われては、おそらく訴訟に踏み切る社員はいなくなるだろう。政府は報奨金制度の創設を促すことにしているが、要するに今回の改正は社員の訴訟封じが最大の目的と言ってもよいだろう。
経済界は04年の法改正審議のときに現行の35条を廃止し、企業内で定める報奨規定や従業員との個別契約など、自主的な取り決めに委ねるべきと主張していた。いわゆるアメリカ方式である。アメリカは特許法に規定がなく、企業と研究者があらかじめ報酬を個別の契約で決定するのが一般的だ。
しかし、経済界の主張に対し、当時の特許庁の担当者や専門家の学者からは、日本の雇用関係の下では、契約といっても必ずしも従業員の意思が反映されているとは限らない、といった意見が出された。また、多くの従業員を抱える大企業で個々に契約を行うのは現実問題として制度運用を行うのは困難という意見が大勢を占め、一蹴されたという経緯がある。
そこへきて今回の法改正が実現すれば、経済界にとっては、面倒くさいアメリカの個別契約をする必要もなくなり、いわば企業の裁量で報奨金が決められるようになる。
たとえば特許権が法人帰属になった場合、「報奨金原資を現行より減額する」と答えた企業は27%を占めるというアンケート結果もある(「職務発明に関するアンケート結果」知財管理vo.64)。
今回の経済界の大逆転劇を支えたのはいうまでもなく安倍政権である。
中村氏もこう述べている。
「首相の安倍(晋三)さんは、大企業ばかりを優遇しているように思う。……報奨を会社が決められるようになっているのは問題です。会社が決めたことに日本の社員は文句を言えない。みな、おとなしいから。社員は会社と対等に話ができないから、会社の好き放題になります」(前掲・『朝日新聞』)
溝上憲文=文
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