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コラム:為替市場の主役はドル高から円安へシフト=亀岡裕次氏
http://jp.reuters.com/article/jp_forum/idJPKCN0IC0PW20141023
2014年 10月 23日 18:05 JST
亀岡裕次 大和証券 チーフ為替アナリスト
[東京 23日] - ドル円が10月に入り、110円台から105円台まで下落した原因はどこにあるのだろうか。まずは、ドル円の下落に対する「ドルの実効為替」と「非ドル通貨の対円為替」の寄与度を比較すると、圧倒的に後者が大きく、前者はわずかであることがわかる。
つまり、ドル円の下落は、円高が大きく進んだためであり、ドル安による部分は微々たるものなのだ。
「非ドル通貨の対円為替」のピークである9月19日は株価や長期金利がピークをつけた日であり、市場がリスクオンからリスクオフに転換するとともに円高が進み始めたのである。一方、「ドルの実効為替」がピークをつけた10月3日は9月米雇用統計が市場予想を上回る好調さを示した日であり、それ以降は米金利低下とドル安に傾いた。
米金利低下の背景にあるのが、急速なドル高による米国のディスインフレ(物価上昇率の鈍化)圧力だ。ドル実効為替指数は今年7月以降に上昇を続け、米連邦準備理事会(FRB)が公表する広義通貨ベースのドル指数は、2010年6月以来のドル高水準に達していた。それと連動するように進行したのが商品安で、ドル相場と逆相関になりやすい商品総合指数は今年前半の上昇幅を相殺して余りあるほどに下落した。
ドル高も商品安も、米国にとってのディスインフレ要因である。10月8日に公表された9月16―17日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)の議事要旨では、数人の当局者が、ドル高が米国経済の一部に悪影響を及ぼし、長期的なインフレ期待が若干低下する可能性を指摘したことが判明し、米金利低下とドル安を誘った。
<米金利安とリスクオフでドル小動きに>
米国では、現実にインフレ率が伸び悩むとともに、期待インフレ率が低下している。ブレーク・イーブン・インフレ率(BEI、5年物)は7月3日の2.03%から10月15日には1.31%まで低下した。期待インフレ率低下の一方で、名目金利から期待インフレ率を差し引いた期待実質金利を示すインフレ連動国債利回りは上昇してきたが、9月18日の0.29%をピークに低下に転じていた。
これは、期待インフレ率の低下が進んだことにより、市場の利上げ期待が後退し始めていたことを示す。フェデラルファンド(FF)金利先物は足元で大きく低下し、15年12月を限月とする金利が一時0.41%まで低下するなど、15年12月以前を限月とする金利は過去最低を更新した。
つまりは、10月初めまでは他国と比べて好調な米国経済指標を背景にドル高が進んできたが、ドル高・商品安が米国のインフレ期待を低下させるようになり、FRB当局者の一部もドル高が米国経済に与える悪影響やディスインフレ圧力に言及したこともあって、米国金利は急低下したのだ。
利上げ期待はこれまでの変動レンジの下限を更新する動きをみせ、10月入りしてからの米国長期金利の低下幅は、日本やドイツなどと比べても明らかに大きくなった。相対的要因(金利面)からはドル安圧力が働いたことは間違いない。
ではなぜ、ドル実効為替はわずかな下落にとどまったのだろうか。リスクオフのドル高圧力が働き、米金利低下のドル安圧力を相殺したからとみなせる。世界的な株安や金利低下が進み、市場がリスクオフの状況にあるときは、円が最も買われやすい通貨であるが、ドルも比較的買われやすい通貨だ。
ドルは円に対しては下落しても、資源・新興国通貨や欧州通貨に対しては上昇することが多く、ドル実効為替は上昇しやすいのだ。今回は相対的な米金利低下だけでなく、世界的なリスクオフにもなったので、ドル実効為替の下落は限定的にとどまったと言える。
<リスクオフの円高に終息の兆し>
市場がリスクオフに傾いた主な原因は、世界経済の先行き不透明感にあると言えるだろう。FOMC議事要旨で当局者が欧州やアジアの景気減速に懸念を示したことも株安や金利低下を誘う一因となった。
これまでは米国の景気指標が市場予想を上回る傾向にあったのに対し、欧州、日本、中国などは予想を下回る傾向にあり、経済の相対比較がドル高を招いてきた。ただし、各国経済指標は市場予想に対して下振れするものが比較的多く、米国が上振れしても欧州と日本が下振れしたために、先進国(G10)としては下振れしてきた。新興国も同様であるため、世界経済への懸念が強まる方向にあった。このため、相対的な米国経済の強さからドルが買われる動きに代わり、世界経済全体の弱さを懸念して株安、金利低下、円高が進む動きとなったのである。
今後は世界的な景気指標の動向が、市場全体のリスク許容度を左右する要因として注目されるだろう。日本は消費税引き上げの影響から景気指標が落ち込んだが、すでに経済指標は市場予想を下回る割合が減り始めている。ユーロ高是正が進んだユーロ圏でも景気指標が持ち直す可能性は十分にあるだろうし、商品市況が低位にあることが世界景気回復を促す働きも期待できる。先進国全体でも経済指標が予想を下回る割合が減り、上回る割合が増えることになりそうだ。過去のパターンからすれば、新興国の経済指標も若干遅れて改善方向に向かいやすいだろう。
エボラ出血熱の米国での感染拡大懸念もあって急激に高まったVIX指数(市場が予想する先行きの変動リスク)だが、12年6月1日(26.66)以来の高水準となる26.25を14年10月15日につけた後は、反落した。先行き不透明感はこれ以上大幅には高まりにくい状況になったとも言えるだろう。
<金利低下を受けた株価反発で円安へ>
また、米国における金利低下は株価を押し上げる要因になる。米国景気が減速を始めたわけではないので、株安は続きにくいだろうし、過去もそうであったように、金利が低下するといち早く株価が底打ちするだろう。
株価が大幅に下落せずに反発すれば、長期金利上昇が抑制されていることと合わせ、景気回復を促す働きをする。世界的な景気指標改善や、金利低下を受けた米国株の反発をきっかけに、リスクオフからリスクオンに転じる可能性は高い。
米実質金利の上昇がドル高を招く展開が早期に復活するとは考えにくく、当面はドル高・商品安からドル安・商品高へと変わりやすいだろう。米国の期待インフレ率は上昇に転じる可能性が高いが、FRBの物価目標水準でもある2%を超えるほどに高まるまでは、実質金利の上昇を伴う米金利上昇とはなりにくいと考えられるからだ。米金利上昇によるドル高からリスクオンによる円安へと移行するだろう。
2014年度下半期は、クロス円を中心とした上昇が進むなか、ドル円も上昇し、1ドル=105―113円のレンジを形成すると予想する。
*亀岡裕次氏は、大和証券の金融市場調査部部長・チーフ為替アナリスト。東京工業大学大学院修士課程修了後、大和証券に入社し、大和総研や大和証券キャピタル・マーケッツを経て、2012年4月より現職。
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