08. 2014年10月24日 07:45:09
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原油価格の急落は世界経済に朗報か、凶報か2014年10月24日(金) The Economist 3カ月間にわたってじりじりと値を下げていた原油価格が10月14日、ほぼ4ドルの大幅な下落を記録した。1日の下落幅としては、この1年余りで最大となった。この結果、原油価格の国際的な指標であるブレント原油の価格は、ピークだった6月の1バレル=115ドルから85ドルにまで低下した。
通常、原油価格の値下がりは世界の経済成長を押し上げる。原油価格が1バレル当たり10ドル下落すると、世界のGDP(国内総生産)は原油の輸出国から輸入国へおよそ0.5%シフトする。原油輸入国の消費者は、豊かな原油輸出国よりも早くお金を消費する可能性が高い。このため、原油価格の下落は消費の底上げを通じて、世界経済を押し上げる傾向がある。 しかしながら今回の原油価格の急落に関して言えば、事態はそれほど簡単明瞭ではない。経済的観点から見て重要な疑問は、原油価格の下落が需要の低迷を反映しているのか、それとも供給の大幅な増加を反映しているのか、である。もし原油価格の急落が需要が冷え込んだ結果なら経済成長が減速していることを示す兆候であり、懸念すべきだ。 また、価格低迷の原因が財務問題(過大な債務など)にあるのなら、原油価格が下落しても、経済成長を押し上げる効果はさほど期待できないかもしれない。消費者は原油価格の下落がもたらす恩恵を債務返済に回す可能性があるからだ。実際のところ、一部の国では事態を一層悪化させる恐れがある。原油価格の下落はデフレのリスクを高めるからだ。 他方、供給の増加が原油価格下落の原因なら、朗報となり得る。原油価格の下落は、いずれ世界の経済大国の消費を押し上げると考えられるからである。 経済成長が世界的に鈍化 世界経済の足取りは間違いなく弱い。日本のGDPは第2四半期に失速してマイナス成長に陥った 。ドイツも同様であり、もしかすると景気後退に向かっている可能性がある(最近の鉱工業生産や輸出関連指標は恐ろしいほど悪い)。米国の経済成長はここにきて加速しているが、回復のペースは過去の標準的なケースに比べて脆弱だ。 原油価格が急落する直前の10月7日、国際通貨基金(IMF)は2014年の世界の経済成長率予測を3.3%に引き下げた 。IMFが経済成長率予測を引き下げたのは、今年に入って3度目のこと。2015年には成長が改めて加速するとの予測は変えていないが、ごく小幅な成長を見込んでいるだけだ。 経済成長の鈍化はエネルギー需要の低下を意味する。石油輸入国の集まりである国際エネルギー機関(IEA)は今月14日に公表した月報で、今年の世界の原油需要の増加は日量わずか70万バレルにとどまるとの見通しを示した 。これは、わずか1カ月前の予測に比べて日量20万バレルも少ない。しばらく前から需要は低迷していたが、ドイツを中心とする最近の落ち込みがとりわけ市場を驚かせ、価格の急落を呼んだ。 米ロが供給量を拡大 原油価格が急落している原因は需要低迷だけにあるのではない。大規模な供給ショックも重なった。昨年4月以降、世界の原油生産はほぼ毎月、前年同月の水準を日量100万〜200万バレル上回る力強い増加を見せている。9月には生産量が激増、世界の原油生産量は2013年9月の水準を日量280万バレルも上回った。 供給増加の大半は、石油輸出国の団体である石油輸出国機構(OPEC)加盟国以外の国、特に米国からもたらされた。ひとつにはシェールオイルの生産が増加したため、9月の米国の原油生産量は日量880万バレルに達した。これは1年前の水準を13%上回るもので、2011年の水準と比べても56%多い。サウジアラビアと比べても、さして遜色ない量だ。 ロシアの原油生産もじり高傾向にあり、ウクライナ問題に関わる対ロ経済制裁の影響が、油田にはまだ及んでいないことを示している。9月の生産量は日量1060万バレルとなり、月間生産量で見てソ連崩壊以降の最高記録まであと一歩に迫った。 リビアやイラクも増産に走る ただし、OPEC非加盟国の生産増加は、何も今に始まったことではない。最近の生産増に最も大きく寄与しているのは、OPEC加盟国だ。例えばリビアは、内戦の影響で4月には日量20万バレルにまで生産を落としていたが、9月末までに日量90万バレルに回復させた。内戦前の水準である日量150万バレルに向けて着々と増産体制を整えつつある。同様に驚かされるのは、イラクも生産を拡大していることだ。 ほぼ2年にわたり減少を続けていたOPECの生産量は9月に増加に転じ、OPEC非加盟国が生産を増やしていることの影響を増幅している。 需要が低迷するなか、生産増加分の大半は豊かな国の原油備蓄の拡大という形で吸収されている。しかしながら、こうした状態は永久に続くわけではない。世界の需要が上向き始めるか生産が削減されない限り、備蓄拡大のペースが鈍化するにつれ、価格は再び下落に転じる公算が大きい。 需要の拡大も供給の削減も、実現するのは先のことになりそうだ。IEAで主席石油アナリストを務めるアントワン・ハルフ氏の指摘によれば、たとえ原油価格が1バレル=80ドルにまで落ち込んでも、採算水準を割り込む生産はごくわずかだ。米国のシェールオイル生産者の大半は、破砕技術の改善などを通じて採算点を引き下げており、今や損益分岐点は70ドルを大幅に下回っている。したがって末端の生産者が撤退を余儀なくされるためには、価格がさらに下落する必要がある。 石油需要が拡大するのはいつのことか 新たな取引形態も原油価格に下落圧力を加えている。OPECの原油輸出国はかつて、世界に対する原油の販売割り当てを自分たちで非公式に決めていた。ナイジェリアとベネズエラは米国に、湾岸の中小の国々は日本にそれぞれ売却する、という具合だった。だが米国の原油輸入量は2010年の月間3億900万バレルから同2億3600万バレルに減少した。欧州の需要は冷え込んでいる。そこですべてのOPEC加盟国がアジアでのシェア拡大を目指してしのぎを削っている。 サウジアラビアは9月にアジア向け先物価格を引き下げた。さらに、他の石油輸出国が減産を望む中で若干の増産(10万7000バレル)に踏み切り、他のOPEC加盟国を震撼させた。OPEC加盟国は11月に再度会議を開く予定だ。しかし、クウェートの石油相は先頃、「OPEC加盟国が減産に踏み切る可能性は小さい」と述べた。 いつになれば、そしてどの程度まで価格が下がれば世界の需要が増えるのか、見通しは極めて不透明だ。 ©2014 The Economist Newspaper Limited. 2014 All rights reserved. 英エコノミスト誌の記事は、日経ビジネスがライセンス契約に基づき翻訳したものです。英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。 このコラムについて The Economist Economistは約400万人の読者が購読する週刊誌です。 世界中で起こる出来事に対する洞察力ある分析と論説に定評があります。 記事は、「地域」ごとのニュースのほか、「科学・技術」「本・芸術」などで構成されています。 このコラムではEconomistから厳選した記事を選び日本語でお届けします。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/report/20141023/272950/?ST=print |