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Vestaron社のトップページより
先祖返りするシリコンバレー---科学技術ビジネスに回帰する投資マネーのゆくえ
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40861
2014年10月23日(木) 小林 雅一 現代ビジネス
■基礎的な科学技術分野へ資金が移動し始めている
シリコンバレーのベンチャー・キャピタル(VC)が、高度な科学技術をビジネス化する新興企業への投資を増額しつつあるという。ここ何年にもわたって、ソーシャル・メディアやスマートフォン・アプリなどに大量の資金が集中してきたが、これらアイディア中心の「手っ取り早いビジネス」に投資家がやや飽きてしまい、もっと「ハードコア(本格的)」な科学技術に関心を示し始めたためと見られている。
●"Venture Capitalists Return to Backing Science Start-Ups" The New York Times, OCT. 12, 2014
上記NYT記事がその具体例として列挙しているのが、蜘蛛の分泌液から環境に優しい殺虫剤を開発するVestaron、3Dプリンターを駆使して超小型衛星用のロケット・エンジンを開発するBagaveev、そして次世代の原子炉を開発するTransatomic Powerといった新興企業(ベンチャー企業)だ。
いずれも事業化が困難と見られた科学技術だけに、以前はなかなかVC投資を受けられなかったが、最近、風向きが変わってきた。たとえば今年第1四半期を見ると、Vestaronのようなバイオ分野の事業にVCから注がれた資金は前年同期比で26%増の51億4,000万ドル(約5,400億円)、またTransatomic Powerのようなエネルギー分野に注がれた資金は前年同期比で2倍以上の12億4,000万ドル(約1,300億円)を記録したという。
とはいえ、ウエブやモバイル・アプリなど(これまでのアイディア中心の)ソフトウエア分野への投資が急激に減少したわけではない。同じく今年第1四半期を見ると、ソフトウエア事業にVCから注がれた投資金額は112億ドル(約1兆3,000億円)と他を圧倒している。ただ、そこから少しづつエネルギーやバイオなど基礎的な科学技術分野へも資金が移動し始めているということだろう。
また彼らのような新興ベンチャーだけでなく、IBMやマイクロソフト、グーグルやフェイスブックといった大手企業も近年、「AI(人工知能)」のような基礎科学の研究開発に多額の資金を投じている。グーグルやマイクロソフトに至っては、モノになるかどうか分からない量子コンピュータの自主開発にも乗り出した。
■トランジスターに始まるシリコンバレーの起源
歴史を遡ればシリコンバレーは、1947年にベル研究所で発明されたトランジスタ技術(当時の最先端科学)をビジネス化するために、物理学者のウィリアム・ショックレー氏らがマウンテンビューに立ち上げた「ショックレー半導体研究所」が源流となっている。
ジョン・バーディーン氏、ウォルター・ブラッテン氏と共同でトランジスタを発明したショックレー氏は(この業績でノーベル物理学賞を受賞するなど)科学者としては天才だった。が、一方で人種的な偏見を持ち、「白人の知能は生来的に黒人に勝る」などと主張した。また猜疑心に満ち、ショックレー研究所で働く部下全員に嘘発見器を強要したとも伝えられている。
因みにショックレー氏は日本とも所縁がある。1950年代に量子力学の基本現象である「トンネル効果(電子がポテンシャルの障壁を突き抜けて向こう側に到達してしまう現象)」を世界で初めて実験で実証しながら、その成果が当時の学界から黙殺され、危うく埋もれてしまうところだった江崎玲於奈氏(当時の東京通信工業(現ソニー)の主任研究員)の論文を発掘し、それを絶賛したのはショックレー氏だった。ここから江崎氏の研究成果である「エサキ・ダイオード」は世界的な注目を浴び、1973年のノーベル物理学賞受賞に結び付いたとされる。
性格上の問題を抱えていたショックレー氏だが、本物を見分ける科学的な見識はやはりずば抜けていたのだろう。が、一方で、それを台無しにする同氏の偏見や奇行に愛想を尽かしたロバート・ノイス氏やゴードン・ムーア氏ら8人の部下がショックレー研究所を飛び出し、1950〜60年代にフェアチャイルドやインテルなど気鋭の半導体メーカーを次々と起業した。ここから現在のシリコンバレーへと至る起業文化が始まるのだ。
■新たな金脈を求めて
以上のように元々はトランジスタのようなハードコアの科学技術から始まったシリコンバレーは、その後、1970年代にはアップル・コンピュータを始めとするパソコン、1980年代にはマイクロソフトを中心とするパソコン・ソフト、1990年代にはインターネット、今世紀に入ってからはソーシャル・メディアやスマホ・アプリなど、どんどん上位レイヤーへとシフトしていった。これに伴い、地道な科学研究からアイディア勝負の世界に移り変わって行ったとも言える。
それがここに来て、再び困難で手間のかかる科学技術のビジネス化に先祖返りする傾向が見え始めたのは何故だろうか? トランジスタからソーシャル・メディアへと至る金鉱が粗方掘り尽くされ、もう一度、荒野に新たな金脈を掘り当てようとする動きが始まったのかもしれない。が、それは容易なことではないだろう。
トランジスタやエサキ・ダイオードのようなノーベル賞級の科学業績によって、その後のエレクトロニクス産業や現在のIT産業は形成された。それは半世紀にわたる長期の繁栄を人類にもたらしたが、これら技術の芽が一大産業へと成長するまでには、やはり数十年もの長い期間を要した。
翻って今世紀の基幹産業の一つとなることが確実視されているのは、再生医療を始めとする生命科学だ。その基礎となる山中伸弥・京大教授らの「iPS細胞」が論文発表されたのは、つい数年前の2006年のことだ。これはちょうど1947年に開発されたトランジスタと同じフェーズにあるのではなかろうか。私たちは気長に、そして慎重にその行く末を見守っていく必要があるだろう。
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