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世の中おかしな事だらけ 三橋貴明の『マスコミに騙されるな!』 第97回 IMFとOECDが警鐘鳴らす問題点
http://wjn.jp/article/detail/6090513/
週刊実話 2014年10月30日 特大号
消費税増税問題が典型だが、現在の日本の経済政策の混迷を理解する際のポイントは、事が我が国のみならず、世界的問題であるという点である。
日本に限らず、世界の主要国の多くは物価上昇率が低迷している状況で緊縮財政(増税、政府支出削減)を実施し、さらに各種の規制緩和で国内の所得格差、資産格差を拡大しているのだ。
そして、ついにIMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力開発機構)が、世界各国の公共投資削減路線や格差拡大政策について警鐘を鳴らし始めた。
IMFは先日、世界経済の成長鈍化を懸念し、
「先進国だけで1兆ドル(約110兆円)の「需要不足」を抱える」
と、極めて重要な事実を指摘した。
すなわち、現在の世界経済の問題について、「物価の上昇」ではなく、「需要の不足」であると明言したのである。
さらに、IMFのクリスティーヌ・ラガルド専務理事は、10月2日にワシントンで講演し、世界経済に対し6兆ドルの公共投資の必要性を提言した。過去に各国で行われた緊縮財政を主導したIMFとしては、驚くべき方向転換である。
ラガルド専務理事が“何”に政府が投資するべきと提言したかといえば、空港やインターネットを含む「インフラストラクチャー(国民福祉の向上と国民経済の発展に必要な公共施設)」である。
「現在、多くの国で輸送やエネルギー供給上の障害があり、発展を妨げている。経済成長と雇用のためにも、投資が欠かせない」
と、専務理事は語ったのだ。
現在の日本は、港湾整備などで諸外国に大幅な遅れをとり、もはや「生産性向上」「国際競争」という面でも、インフラ大国でも何でもない。公共投資を削減し、国民の生命や安全を危険に晒し、虎の子の供給能力を削り取り、さらに「国際競争」でも敗北している。
信じがたいかも知れないが、日本に向かう大型コンテナ船は、一度、韓国の釜山に立ち寄り、小型コンテナ船に積み替えている。日本には、大型コンテナ船が停泊できる能力を持つ港がないためだ。
日本国民、官僚、政治家、学者たちの「公共投資」に対する意味不明な嫌悪感が、結局のところ、日本を壊してきたわけである。
ラガルド専務理事が「公共投資を増やすべき」と提言している以上、公共投資不足は日本だけの病ではないようだ。
もっとも、日本ほど公共投資を減らした愚かな国は、主要国には一カ国もないが、いずれにせよIMF出向中の財務官僚ではなく、トップのラガルド専務理事が「公共投資を増やせ」と言っている点は重要だ。
少子高齢化で生産年齢対総人口比率が下落している我が国にとって、公共投資によるインフラ整備は欠かせない。理由は、生産年齢人口比率が落ちていく以上、生産年齢人口一人当たりの生産性を高めることが必須だからだ。
日本は生産年齢人口一人当たりの生産を増やし、インフレギャップを埋める必要がある。
そして、生産性向上のためには、インフラ整備が欠かせない。人間一人が“努力”により生産を増やそうとしたところで、限界がある。
例えば、運送業で働くドライバーが、A地点からB地点まで8時間かけて、トラックで荷を運んでいたとする。高速道路というインフラが整備されることで、A地点からB地点までの走行時間が2時間に短縮された。すると、ドライバーは残りの6時間を“別の仕事”に充てることが可能になるわけだ。
別に、ドライバーの数が増えたわけではないにもかかわらず、「トラックで荷を運ぶ」というサービスの生産が増加した。これが、典型的なインフラ整備による生産性向上の効果である。
日本国内には思考停止に陥った人が少なくなく、
「人口が減るのだから、これ以上の公共投資は不要だ」
などと、シンプルに考えがちだ。話はまるで逆で、今後の日本は生産年齢人口が減少するからこそ、生産性向上のための公共投資を拡大しなければならないのである。
生産性向上を目指した公共投資の拡大は、国民の実質賃金を引き上げ、国内の所得格差、資産格差の縮小に貢献する。日本経済を再び「分厚い中間層を中心とした経済」に導いてくれる可能性が高いのだ。
10月2日、OECD(経済協力開発機構)が「世界の貧富の格差」を問題視するレポートを出した。OECDによると、世界の富裕層と貧困層の格差の拡大は1820年代と同じ水準にまで悪化しているとのことである。
筆者が特に問題にしたいのは、格差拡大そのものというよりは、
「所得格差が開くことで、経済成長が阻害されていないか?」
という点である。
アメリカのノーベル経済学者ポール・クルーグマン教授も書いていたが、
「低所得者層を中間層に引き上げる政策と、経済成長率を高めることは両立する」
のだ。
逆に言えば、中間層を低所得層に叩き落とすことで、経済成長率は(少なくとも先進国では)確実に落ちる。
特に、現在の日本は実質賃金が“絶賛、下落中”であり、国民の多くが中間層から低所得層に移行している。結果的に、国民は消費という内需を拡大させる購買力を失いつつある。
安定的な経済成長を達成したいならば、この流れを逆転させる政策を打つべきなのだが、現実の安倍晋三政権は「消費税増税(低所得者層の税率が高くなる)」「労働規制の緩和」「外国移民受入」「法人税の無条件減税」「株価至上主義」と、国内の所得格差を拡大する政策を推進している。
安倍政権の経済政策の多くは、世界の趨勢から見ても“時代遅れ”になりつつあることを、日本国民は理解するべきなのである。
三橋貴明(経済評論家・作家)
1969年、熊本県生まれ。外資系企業を経て、中小企業診断士として独立。現在、気鋭の経済評論家として、わかりやすい経済評論が人気を集めている。
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