03. 2014年10月21日 13:37:39
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ユーロ圏、債務よりも怖い長期停滞の脅威 2014年10月21日(Tue) Financial Times (2014年10月20日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)ユーロ防衛に89兆円、緊急支援基金を新設へ EU ユーロ圏経済にまた暗雲が垂れ込めている〔AFPBB News〕 先週の世界市場の乱高下はユーロ圏の債務危機が再発する前兆だと考えるのは間違いだ。ユーロ圏のソブリン債のスプレッドは、ギリシャを除き、大きくは変動しなかった。 先週起きたことは、債務危機とはかなり異なるものだ。金融市場は、今後10年から20年にわたり非常に低いインフレ率が続くユーロ圏全域の経済不況の可能性に目覚めたのだ。 インフレ期待を測るさまざまな指標の低下が物語っているのは、これだ。投資家はユーロ加盟国の支払い能力を懸念していない。2年前は状況が明らかに違っていた。 10〜20年も低インフレが続く深刻な不況の可能性 だが、現在のシナリオは以前と変わらず憂慮すべきものだ。このような経済的な窮状のうちに暮らす人たちへの影響は一目瞭然だ。高い失業率、貧困の拡大、実質および名目賃金の停滞、実質ベースで減らない債務負担、公共部門のサービス低下と公共投資の減少といったものだ。 ショッキングな事例がドイツの軍用装備の老朽化だ。ドイツ空軍が所有している戦闘機254機のうち、150機が飛行できないのだ。 ユーロ圏の停滞はさまざまな度合いで諸外国に影響を与える。英国は何とか同じ運命を免れることができるかもしれないが、ユーロ圏経済は英国を道連れにするほど規模が大きい。最も大きな打撃を被るのは、通貨ユーロを使用していない中東欧地域の一部諸国だ。これらの国は、内部崩壊するロシアと停滞する欧州の板挟みになっている。 低成長が恒久的に続く環境にあって、一体どうすれば石油価格が回復し得るのか分からない。どうすればロシアが永続的に落ち込んだ石油価格に耐えられるのかは、それ以上に分からない。 長期停滞――慢性的な投資不足が長期的に需要の弱い時期を生みかねないという概念――は、金融界の投資家にとっても不穏な意味合いを持っている。 最近までの株高は、考えられる最良のシナリオを前提としていた。生産性の伸び率が歴史的な平均水準に戻り、国内総生産(GDP)の水準がいずれ危機前の経済成長の軌道に追いつくとのシナリオだ。投資家は今、どちらも現実にならないことに気づき始めた。GDPはまだ2007年の水準に近く、成長は鈍い。 また、利益で説明できるGDPの割合も、これ以上大きく上昇しようがない。したがって、生産性の伸びが低いままであれば、株式投資が大きな実質リターンをもたらすことは想像し難い。 金融政策は短期的に市場を押し上げることができるが、永遠に持続することは不可能だ。このような環境では、無リスクの証券の利回りは低くなる。 為替レートが解決策にならない理由 長期停滞に伴うのが、2%のインフレ目標をいつまでも下回る恒久的なインフレ率低下だ。このため、公的部門および民間部門の債務の実質価値は、本来あるべき速さで低下しない。その結果、政府、企業、個人が債務を削減するのが一層難しくなる。 このような環境では、デフォルト(債務不履行)率が高くなると思った方がいい。ドイツのソブリン債は、投資家が多かれ少なかれ無リスクと見なすユーロ圏唯一の資産となる。 このようなシナリオは、例えば通貨安などの対抗作用を生み出すと思われるかもしれない。残念ながら、必ずしもそうはならない。ユーロ圏の経常黒字は今年、GDP比3%に近い水準で推移している。通常、一貫して経常黒字を出す経済の通貨は強いと考えられる。 いずれにせよ、為替レートは、米国やユーロ圏のような大きな経済よりも中小規模の経済国にとっての方がはるかに重要だ。小国より大国の方が、GDPに占める貿易の割合が小さい傾向があるからだ。 ユーロ圏は規模が大きく、半ば閉ざされた経済圏であり、モノとサービスの大半が域内でユーロ建てで取引されている。何がユーロ圏を救済するにせよ、ユーロが極端なレベルまで下落しない限り、それは為替レートではあり得ない。 つまり、長期停滞は債務危機よりはるかに劇的な出来事だということだ。そのような脅威がつきまとう中、冷静な政策立案者は皆、そうした災難を避けようとすると思うだろう。実際、危機が普通の国で起きたとしたら、そうなっていたはずだ。 だが、政策が調整されておらず、政策立案者が国の立場で物事を考える通貨同盟では、長期停滞のリスクは大きい。 ユーロ圏全体に対する権限を持つ唯一の主体である欧州中央銀行(ECB)でさえ、法的な制約に縛られる。ECBが量的緩和の実施に消極的な理由はこれで説明できるかもしれない。量的緩和を支持する筆者でさえ、我々が法的なグレーゾーンを歩んでいることは否定できない。 政策立案者の3つの選択肢 ユーロ圏の政策立案者は、3つの選択肢に直面している。第1に、ユーロ圏を政治同盟に発展させ、必要なことを何でもすることができる。ユーロ共通債、小規模な財政同盟、移転メカニズム、その名に値する銀行同盟といったものだ。第2に、長期停滞を受け入れることもできる。そして最後の選択肢がユーロ圏の解体だ。 2番目と3番目の選択肢は、互いに相容れないものではない。政治同盟の見込みが全くない以上、我々に残されているのは、不況か破綻かという選択肢、あるいは、両方が相次ぎ起きる事態だ。 By Wolfgang Münchau http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42006 原油安と世界経済:症状と鎮静薬 2014年10月21日(Tue) The Economist(英エコノミスト誌 2014年10月18日号) 原油価格が大きく下落している。それは世界経済にとって良い知らせか悪い知らせか? 原油相場が下げ足を速めている〔AFPBB News〕 石油価格は3カ月間かけて徐々に下落した後、10月14日だけでいきなり4ドル近く急落した。 1日の下げ幅としては1年以上なかった大幅な下げとなり、国際的な指標であるブレント原油の価格は1バレル85ドルとなった。6月のピーク時には、1バレル115ドルをつけていた。 通常、石油価格の下落は世界の成長を押し上げる。石油価格が1バレル10ドル下落すると、世界の国内総生産(GDP)の約0.5%が石油輸出国から石油輸入国に移転する。輸入国の消費者の方が、豊富な資金を持つ石油輸出国よりすぐにお金を使う可能性が高い。そのため、安い石油は支出を押し上げることによって世界のGDPを増やす傾向があるわけだ。 原油安の原因は、需要の低迷か供給の増加か? しかし、今回は状況がそれほど明確ではない。大きな経済問題は、価格の下落が需要の低迷を反映しているのか、それとも原油供給量の急増によって起きているのか、という疑問だ。需要の低迷が原因であれば、気掛かりな事態だ。それは石油価格が成長鈍化の症状であることを示唆しているからだ。 市況の軟化の原因が金融的なもの(過剰債務などの問題)であれば、安い石油はそれほど成長を押し上げないかもしれない。消費者が原油安によって得した分を債務の返済に回すだけかもしれないからだ。実際、国によっては、安い石油がデフレのリスクを高めることで状況を悪化させる恐れさえある。 一方で、豊富な供給が価格を押し下げているのであれば、それは潜在的に良い知らせだ。安い石油が最終的には世界最大級の経済大国で支出を増やすはずだからだ。 世界経済は確かに弱い。日本のGDPは第2四半期に減少した。ドイツのGDPも減少し、同国は景気後退に向かっている可能性がある(工業生産と輸出に関する最近の統計は惨憺たるものだ)。米国の成長は最近加速しているが、景気回復は歴史的な基準からすると弱い。 10月半ばに石油価格が急落する直前、国際通貨基金(IMF)は2014年の世界成長見通しを今年3度目となる下方修正で3.3%まで引き下げた。IMFはまだ2015年に成長が上向くと見ているが、それもごくわずかだ。 成長の鈍化はエネルギー需要の低下につながる。石油輸入国の組織である国際エネルギー機関(IEA)は先日、今年は世界の需要が日量70万バレルしか増加しないと予想していると述べた。これは、先月発表したばかりのIEAの予想を日量20万バレル下回っている。 需要はしばらく低調に推移してきたが、最近の鈍化――特にドイツでの鈍化――は市場を驚かせた。価格が急落したのは、このためだ。 だが、需要の低迷だけが原因ではない。供給面の大きな衝撃もあった。昨年4月以来、世界の石油総産出量は大幅に増加してきた。 ほぼ毎月のように、産油量が前年同月を日量100万〜200万バレル上回った。9月はこの増加幅が劇的に膨らみ、世界の産油量は2013年9月の水準を日量280万バレル上回った(図参照)。 供給増加の大部分は、石油輸出国機構(OPEC)の非加盟国によってもたらされている。中でも米国が大きく貢献した。 シェールオイルの産出量増加のおかげもあって、米国の産油量は9月に日量880万バレルと、前年比で13%増加。2011年の水準を56%上回り、サウジアラビアとほとんど変わらなかった。 ロシアの産出量も徐々に増加しており、ロシアの油田では制裁がまだ感じられていないことを示唆している。ロシアの産出量は9月に日量1060万バレルまで増加し、ソ連崩壊後の最大の月間産出量に迫っている。 OPEC内での異変 だが、OPEC非加盟国の生産量はしばらく前から増加していた。最近の最大の変化はOPEC内で起きた。内戦で打撃を受けたリビアの産油量は4月、日量わずか20万バレルまで落ち込んだ。それが9月末には日量90万バレルまで回復し、内戦前の水準である日量150万バレルに向かっている。 それに劣らず驚くべきは、イラクの生産量も増加していることだ。その結果、OPECの生産量は2年近い減少を経て9月に再び増加に転じ、OPEC非加盟国の供給増加の影響を増幅させている。 需要が低迷しているため、追加産出量の多くは先進国での石油備蓄の構築に回っている。だが、それはいつまでも続くはずがない。備蓄が減速すれば、価格は再び軟化する可能性が高い――世界の需要が上向くか、あるいは石油生産が削減されない限りは。 どちらもすぐに起きるようには思えない。IEAのチーフ石油アナリスト、アントワーヌ・アルフ氏は、現在は1バレル80ドルでも生産が非経済的になるところはほとんどないと指摘する。 米国のシェールオイル生産者がフラッキング(水圧破砕)技術に磨きをかけているため、大半の生産者では損益分岐点が下落してきており、今は1バレル70ドルを大きく下回っている。そのため、石油価格が小規模生産者を廃業に追い込むとすれば、価格がさらに大きく下がるしかない。 新たな貿易パターンは、価格に対する下落圧力を強めている。OPECに加盟する輸出国はかつて、ナイジェリアやベネズエラが米国に石油を販売し、比較的小さな湾岸諸国が日本に売るといった具合に、世界を非公式に分け合っていた。 だが、米国の月間石油輸入量は2010年の3億900万バレルから現在は2億3600万バレルまで減少している。欧州の需要は低迷している。そのため、すべての産油国がアジアで市場シェアを奪い合っている。 次回会合での減産は見込み薄 サウジアラビアは9月、アジア向けの先物価格を引き下げる一方、他の輸出国が生産を減らしたいと思っている時に生産を若干(10万7000バレル)増やして、他のOPEC諸国に衝撃を与えた。 OPECは11月に再び会合を開く予定だが、クウェートの石油相が最近述べたように、「今は(OPEC)各国が生産を減らす可能性はないように思える」。しかし、価格下落がどれだけ早く――そしてどれほどの規模の――世界の需要拡大につながるかは、それよりはるかに不透明だ。 英語の原文記事はwww.economist.comで読むことができます。
【もっと知りたい! こちらも併せてお読みください】 ・「なぜか増えていく石油『埋蔵量』の秘密 」 (2014.10.09、鶴岡 弘之) ・「『逆オイルショック』が再来? シェールオイルがもたらすエネルギー情勢の激変」 (2014.09.12、藤 和彦) http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/42002 中国成長率は7.3%に減速、6年ぶり低水準:識者はこうみる 2014年 10月 21日 13:15 JST [北京 21日 ロイター] - 中国国家統計局が発表した第3・四半期の国内総生産(GDP)伸び率は前年同期比+7.3%となり、市場予想の+7.2%を上回った。
前期比では+1.9%、予想は+1.8%だった。各経済指標に関する市場関係者の見方は以下のとおり。 <ING(シンガポール)のアジア調査部門責任者、ティム・コンドン氏> (政府が掲げる通年の成長率目標を達成する)可能性は低い。困難になってくる。(通年で7.4%という)独自の予想を変更はしない。 製造業が恐らくネック。輸出の伸び鈍化の影響を受けている。 大規模な刺激策の導入はない。きょうの数字は大規模な刺激策の必要性を示唆していない。的を絞った措置を続けることができる。 過去2─3週間でも措置を講じているが、おそらくそれで十分だ。 <UBS(香港)のアナリスト、ワン・タオ氏> 鉱工業生産・投資・消費の数値は予想通りだった。GDPは予想を上回ったが、サービスセクターの成長が好調だったためだろう。 最も弱いのは依然として不動産セクターだ。政府は最近規制を一部緩和しており、第4・四半期には上向くだろう。 しかし重工業セクターなどは改善しないと思われ、景気鈍化は続くと見込んでいる。通年の成長率は7.2%に鈍化するだろう。 人民銀行(中央銀行)は流動性供給に他の手段をとっているため、預金準備率引き下げの可能性は非常にわずかだが、われわれは年末までに1回の利下げを見込んでいる。 <PNCフィナンシャル・サービシズのシニアエコノミスト、ビル・アダムス氏> 貿易黒字とインフラ投資の拡大が住宅市場の低迷を埋め合わせ、実質成長率を7%以上に押し上げている。 このような減速トレンドが続けば、世界のコモディティ価格上昇は難しく、ブラジルやオーストラリアなどの生産国にとって逆風が続くだろう。 中国経済の減速は他の新興国市場の調整や世界的金融危機から遅れてやってきたが、本質は同じで過度の信用拡大と不動産市場の過熱が原因だ。 要するに目新しいことはない。景気は減速はしているが破たんはなく、バランスシートの弱さに関する疑問は2014年も解消されないままだ。 <キャピタル・エコノミクス(シンガポール)の中国担当エコノミスト、ジュリアン・エバンズ・プリチャード氏> 成長率はかなり健全な数字で、多くの予想を上回った。月次データを見ると、経済活動は9月に幾分回復したようだ。 政策当局者はデータについてそれほど懸念しないとみられる。おそらく7.3%はかなり心地よい水準になるだろう。 <クレディアグリコル・コーポレート・アンド・インベストメント・バンク(香港)のエコノミスト、ダリウス・コワルツィク氏> 中国経済の底堅さを示した。景気下振れの深度はそれほど懸念してなくてもいいようだ。政策当局者も大きくは懸念しないだろう。 広範な緩和政策の余地はそれほどないと思われる。ただ弱い内需に対応するための政策調整や一定の目標を定めた刺激策は取られる可能性がある。 われわれは年間成長率見通し7.4%を維持する。 <安信証券(北京)のアナリスト、YOU HONGYE氏> 中国指標は力強い内容となったが、予想通りだった。 預金準備率引き下げと利下げは確実に行われるが、いつ実施されるかを見極めるのは困難だ。 経済に対するリスクは、主に不動産市場に起因している。 <国泰君安証券(上海)のチーフエコノミスト、LIN CAIYI氏> 予想以上だった。ただ、今年の成長率目標の7.5%を達成できないことは確実。 今年これまでの最高値は(第2・四半期の)7.5%で、年間の成長率は全四半期の平均だ。 7.5%という数字は何の意味もない。失業率と消費者物価指数(CPI)は、現在の健全な経済状況を反映している。 労働市場、依然弱いがやや安定=豪中銀議事録 2014年 10月 21日 13:10 JST [シドニー 21日 ロイター] - オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)が21日に公表した前回金融政策会合の議事録では、労働市場は依然として弱いものの、今年に入って幾分安定したと当局者が認識していることが明らかになった。中銀は10月7日の政策会合で、政策金利の据え置きを決定した。 議事録では、金利の安定期間を設けるのが最も賢明な道、との見方があらためて示された。「現時点で出ている指標を踏まえると、現在の金融政策スタンスは、需要の持続可能な伸びと目標に沿ったインフレの達成に向けて引き続き適切に設定されていると判断している」とした。 労働市場については、先行指標では、向こう数カ月の緩やかな雇用増加が示唆されているものの、労働市場にはなお一定の緩みがあり、失業率が一貫して低下するまでにはまだ時間がかかるとの認識を示した。 また、議事録によると、複数の理事会メンバーが、ここ数カ月間で住宅融資が一段と拡大したことを指摘した。会合では、金融機関が厳格な融資基準を維持することの重要性について、議論が行われたという。 中銀は、緩和的な金融政策の継続が需要を支援し、成長加速に寄与するとの認識を示した。議事録は「現時点では、これは住宅市場において最も顕著。住宅価格が急上昇し(融資の)承認が高水準で推移するなか、住宅投資は上向いており、堅調な状態が続く見通し」としている。 豪ドルについては、主要なコモディティー(商品)の価格が最近下落していることを踏まえると、歴史的に見てまだ高水準、と指摘した。 議事録によると、理事会では鉄鉱石価格の下落が議論された。「ここ1年の(鉄鉱石価格の)下落は、オーストラリアや海外で供給が増加していることに加え、住宅市場の低迷が一部要因となり中国で鉄鋼需要の伸びが鈍化していることを表している」とした。 その上で、理事会メンバーは、国内の鉄鉱石生産の大半は、現在の低価格でも引き続き収益があると判断しているとし、世界の高コスト鉱山に対する圧力が見込まれ、やがて生産の減少につながる、とした。 また議事録では、主要貿易相手国の大半はここ1年、長期平均ペースで成長しているが、一部の主要国では四半期ごとに成長の変動がみられたとの見方が明らかになった。 さらに、一部の経済指標は中国経済が若干減速していることを示しているが、理事会メンバーは中国当局が必要に応じて成長支援に向け緩和策を行う余地があると認識していることが示された。 http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKCN0IA07J20141021 アベノミクスの挫折で深まる安倍政権の危機 消費増税の先送りは国債暴落への道 2014年10月21日(Tue) 池田 信夫 小渕優子経済産業相に続いて、松島みどり法相も辞任し、安倍内閣の危機が深まっている。第1次安倍内閣でも、政治資金について国会で追及された松岡利勝農水相が答弁に窮して「なんとか還元水を使っていた」などと答えた後、自殺したことが政権の大きなダメージになった。 それよりも深刻なのは、経済の悪化だ。IMF(国際通貨基金)は今月、日本の成長率の見通しを大幅に下方修正し、今年から来年にかけて0.8〜0.9%と予測した。これは民主党政権の時代を下回り、日本は不況に逆戻りだ。 景気悪化の原因は消費増税ではない これについて安倍首相は、「フィナンシャル・タイムズ」のインタビューで、今年中に消費税率を8%から10%に引き上げる決定を延期する可能性を示唆した。彼は「増税は次世代のための財源だ」と言いつつ、こう述べている。 今がデフレを脱却するチャンスなので、これを逃すわけにはいかない。消費税を引き上げることによって、もし経済が軌道をはずれて減速したら、税収も増えなくなる。それではすべての[次世代のための]政策に意味がなくなる。 このように消費税の影響を過大評価するのは、彼の側近のリフレ派経済学者の唱える誤った理論だ。 第1に、今回の不況の原因は増税ではない。前回のコラムでも指摘したように、鉱工業生産指数は今年の1月から10%以上も低下しており、景気悪化は増税前から始まっている。 第2に、1997年に消費税率が3%から5%に上がった翌年からGDPが低下した最大の原因は、97年11月に始まった金融危機である。消費増税の影響は一時的なもので、税収が減ることはあり得ない(消費税収は増えている)。 今回の景気悪化の最大の原因は、アベノミクスによるコストプッシュ・インフレと円安である。しかし安倍首相がアベノミクスの失敗を認めることは政治的に困難だから、消費税のせいにして増税を延期するおそれも強まってきた。 アベノミクスで日本人は貧しくなった 安倍氏は「日本はデフレ脱却の途上にあり、もう少し時間をかければ景気は回復する」と信じているようだが、これは逆である。景気が悪化した原因は、アベノミクスなのだ。 その最大の原因は、以前のコラムでも書いた交易条件の悪化である。これは政治家にはほとんど理解されていないが、今の状況を理解する上で重要な指標なので、くり返し説明しておこう。 交易条件というのは輸出物価指数/輸入物価指数、つまり「輸出品1単位で輸入品が何単位買えるか」という指標である。これが下がると、円で買える輸入品が少なくなる。 日本の交易条件(2010年基準)、日本銀行調べ 図のように2000年以降、交易条件は1.5から0.86に約40%下がっている。これは石油危機を上回る大幅な悪化である。1円で買える輸入品が4割減り、日本人は貧しくなったのだ。その原因は、大きくわけると次の3つある。
・円安 ・輸入物価の上昇 ・輸出物価の低下 「円安になると輸出が増えて景気は回復する」と思う人が多いが、それは実物ベースの輸出/輸入価格が一定の場合の話で、2000年代のように第1次産品の価格が大幅に上がった(例えば原油価格は3倍)場合には、円安でその影響が増幅され、貿易赤字が増えてしまう。 他方、円安になっても輸出はほとんど増えない。これは外貨建ての価格が下がっても、輸出するものが少ないからだ。日本の製造業は2009年以降の円高局面で生産拠点の海外移転を進めたので、例えば半導体を台湾で生産してアメリカに輸出する場合、ドル/円レートの影響はまったく受けない。 ソフトランディングへの出口を示せ この状況で、首相が示唆したように消費税の増税を先送りすると何が起こるだろうか。日銀の黒田総裁は、衆議院の財務金融委員会で「万が一先送りされ、確率は低いが財政への信認が失われば対応が極めて困難」との見解を明らかにした。彼が財政への懸念を表明するのは珍しい。 日銀は約165兆円の国債を保有しているが、これは史上最高値圏で買っているので、金利が上がる(債券価格が下がる)と多額の評価損を抱える。例えば金利が今のアメリカ並みの2%台になると、日銀は20兆円以上の評価損をこうむる。日銀は86兆円の紙幣をもっているので、それを発行すればいくらでも債務を埋めることができるが、高率のインフレが起こる。 こういう「ハードランディング」のリスクは小さくない。政府債務は、あと2年で個人金融資産を上回る。FRB(米連邦準備制度理事会)もテーパリング(緩和縮小)を開始して、金利が上がり始めた。 黒田総裁は「2%のインフレ目標達成は2015年にこだわらない」と実質的に延期したので、量的緩和を続ける必要はない。今や完全失業率が3.5%まで下がった日本経済は「超完全雇用」ともいうべき状態で、人手不足や建設資材の不足、エネルギー価格の上昇など、供給制約が表面化している。 ここで財政・金融政策で需要を追加しても、供給不足が悪化してコストプッシュ・インフレになるだけだ。内閣府の浜田宏一参与もいうように、今や2%にこだわる意味は何もないのだ。今のうちなら日銀がテーパリングの計画を示しても、すぐ金利が上昇するとは考えにくい。 しかしこのまま日銀が毎月7兆円の国債を買い続け、おまけに政府が消費税の増税を延期すると、それを引き金にして市場が反乱を起こすおそれがある。首相は財政再建の断固とした決意を示し、日銀はソフトランディングへの出口を示すべきだ。 【こちらも併せてお読みください】 ・「アベノミクスで「円安不況」がやってくる」 ( 2014.10.07、池田 信夫 ) ・「アベノミクス持続の条件」 ( 2014.09.24、浜田 宏一 ) ・「アベノミクス:的を外す矢」 ( 2014.08.28、Financial Times ) ・「アベノミクスで国際競争力が下がった」 ( 2014.07.01、池田 信夫 ) http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/42014 http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/42014
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