01. 2014年10月21日 06:58:47
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世紀の悪法が雇用の現場をかき回す(上) 現行派遣法がもたらした雇用崩壊
トンデモ人事部が会社を壊す 【第9回】 2014年10月21日 山口 博 [マーバルパートナーズ?プラクティスオペレーションズ ディレクター] ?人事部長間で、「世紀の悪法」という代名詞で語られる法律がある。現行の「労働者派遣法」(以下、派遣法。正式には「労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律」)である。 ?そもそも、「派遣労働者の保護」を図るという、法律名称にも記載されている本来の目的を果たしていないばかりか、真逆の影響すら与えかねない、悪法ぶりを解説していこう。 ?現行派遣法下にあっては、専門26業務(後に28業務。以下、専門業務)に従事する場合は、派遣就業期間無期限とし、専門業務以外に従事する場合は、就業できる期間制限は3年とされている。つまり、専門業務に該当すれば派遣就業期間は無制限で派遣社員の保護、ひいては雇用安定につながる。逆に専門業務に該当しなければ、期限が限定されたままというわけだ。 ビジネス実態から著しく乖離した 机上の専門業務概念 ?しかし、この専門業務の定義こそが、大変なくせ者なのだ。例えば、事務用機器を使用した書類作成は専門業務、その書類の梱包・発送は非専門業務。一度でも梱包・発送業務に手をふれると、派遣就業期間が3年で終了してしまう。書類作成の延長でその書類の発送を依頼すると、「私、発送業務を行うと、契約期間が縛られてしまうので、できないのです」という回答が返ってくることになる。 ?専門業務という名称がついていながら、高度な業務は対象外であるという点も混乱を招く。例えば、エクセルによる表作成は専門業務だが、より専門性が高いはずのピボットを使った途端に専門業務から外れる。ピボットを勉強して活用してもらおうと思っても、「ピボットを使うと、契約期間がしばられてしまうので、できないのです」という回答が返ってくるわけだ。 ?メインの仕事の後工程にも業務範囲を拡大したり、能力を高めてより大きな貢献したりすることは、社員の能力開発と企業の発展のために不可欠なものだ。派遣社員のスキルアップを邪魔することが、「派遣労働者の保護」になるとは、私には思えない。派遣社員の役割を一定範囲の中に括り付け、現在の正社員の権益保護という別の目的があったと言われても致し方ないだろう。 厚生労働省の規制強化は 派遣社員数の減少につながった ?この専門業務の概念は、実態に合致していなかったために、浸透しなかった。多くの派遣社員や企業が、専門業務に従事する契約をした派遣社員に対して、専門業務以外の業務に少し関わることを是認せざるを得なかった。 ?しかし、専門業務に従事することを前提に期間無期限で契約した派遣社員が、本来であれば期間が3年に制限される専門業務以外の業務に従事している実態を問題視した厚生労働省は、規制を強化する。 ?専門業務に関する73項目にも及ぶ「疑義応答集」を作成し、それを徹底させようとする。専門業務に従事することを契約で定めた派遣社員が、実際に専門業務に従事しているかどうかを、派遣会社に取り締まらせ、報告させ、監査する。専門業務に従事していない状況を放置した派遣会社数社には業務停止命令を出す。ムキになっているとしか、思えなかった。 ?疑問や不明瞭な点をクリアにすることが目的の、疑義応答集まであるが、それは73項目にも及び、業務分類や経験を積んだ人事部門スタッフをしても難解で、疑義応答集の解釈を説明いただくセミナーが盛況になるという笑えない状況が続いた。 ?実際に専門業務に従事しているかどうかの確認については、派遣会社のマネジャーは、契約期間毎に、ひとりひとりの派遣社員にヒアリングをし、業務内容を克明に記録する。 ?その内容を知らせずに、同じことを企業の管理責任者にも行い、齟齬がないかどうかをチェックする。裏をとるための取り調べである。そのうちに派遣社員に対するヒアリングを行うことを企業の管理責任者へ伝えると、事前に口裏合わせをするかもしれぬということで、抜き打ちで実施されるようになった。 ?実際に、齟齬があった場合に、眼光するどい派遣会社マネジャーから、何度も問いただされ、詰問されたことがあった。派遣サービスを提供することを目的とする派遣会社から、なにゆえに、取り締まりを受けなければならないのか、理解に窮した。そして、専門業務以外の業務に従事していれば、契約更新しないという対応が行われるに至った。 ?このことが、派遣会社、派遣社員、企業との間で、相互の関係の質を悪化させた。派遣社員は派遣会社を信頼しなくなったし、企業の担当者もこうしたやり取りをするたびに、その派遣会社との取引を考え直したくなったものだ。 ?実際、総務省の労働力調査によれば、2008年には146万人(全雇用者の2.6%)いた派遣社員が、現在では113万人(同2.0%)に留まる水準にまで落ちてしまった。 行政に従った派遣会社は 売り上げ半減の憂き目に遭った ?規制に忠実に従おうとする派遣会社や企業は、専門業務以外に従事する派遣社員を期間3年で契約終了する。これはもちろん派遣社員保護とは逆行する。 ?中には、派遣社員を直接雇用に切り替えるケースもあった。しかし、人事部長間の情報交換結果をふまえれば、ほとんどのケースで、従来と同様の給与水準で、同様の更新期間の期間限定契約社員としての直接雇用に過ぎなかった。それが派遣社員保護、雇用の安定につながったとは言えない。 ?一方、規制をふまえて、ソリューションを打ち出そうとする派遣会社や企業は、専門業務外で契約した派遣社員が期間3年の期限に直面すると、派遣契約を終了させて、半年程度経過してから、新たな派遣契約を開始し、同じ派遣社員による就業を再開させている。これでは、法規制に派遣社員たちが振り回されているだけだ。 ?業務停止処分を受け、行政の指導に従い、真面目に取り締まりを行った派遣会社は売り上げを半減させ、派遣会社自体のリストラクチャリングに直面している。 ?派遣会社は事業縮小する、派遣社員雇用者数が減少する、企業は雇用形態変更に労力を費やすが派遣社員にとって雇用条件は変わらない――。これらが派遣社員保護を目的とした現行派遣法、特に専門業務の概念がもたらした結末だったのだ。 たったの2年半で法改正 あの大混乱は何だったのか ?そして、なんともやるせないことに、これほど関係者全員を混乱に陥れた現行派遣法が、施行からわずか数年後の2015年4月には改正され、専門業務の概念が撤廃されようとしている。 ?あの大混乱は何のためだったのだろうか。その労苦が、派遣社員保護という本来目的を、今度こそ実現する糧となっているのであれば、まだ救いがある。試行錯誤なきところに進歩はないからだ。 ?しかし、私には、2015年4月施行の改正派遣法の内容が、派遣社員保護の目的を果たしているとは、どうしても思えない。そして、現行派遣法がもたらしたこれらの混乱や、改正派遣法に変わらず見られる行政の管理体制が、人事部門の保守性・閉鎖性を増長し、日本企業の発展を阻害していると言わざるを得ない。それらの点を次回以降に示していきたい。? http://diamond.jp/articles/-/60829 |