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インタビューに答えるノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二氏=17日午後、東京都新宿区、関田航撮影
特許は会社のもの「猛反対」 ノーベル賞の中村修二さん
http://www.asahi.com/articles/ASGBK4RNKGBKULFA00X.html
2014年10月18日03時28分 朝日新聞
ノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(60)は17日、都内で朝日新聞の単独インタビューに応じた。授賞理由になった青色発光ダイオード(LED)の効率をさらに高める研究を進めており、省エネルギーに貢献したい考えを明らかにした。ノーベル賞に値する発明を日本で増やすには、研究環境を大きく見直す必要があるとも指摘。社員が発明した特許を「会社のもの」にする特許法改正には「猛反対する」と述べた。
LEDは白熱電球と違い、電気を直接光に変えるので効率がよく、劣化も少なくて寿命が長い。このため、照明だけでなく、薄型テレビの部材などにも幅広く利用されている。いま取り組んでいる自らの研究については、「製品化されたLEDは、投入電力に対して光として出力する効率が50〜60%。これをなるべく100%に近づけたい」と語った。具体的には、装置の構造や素材の製造方法を変えることで、効率アップをめざしているという。
中村氏は、LEDの発明の対価が少ないとして、研究員として勤めていた日亜化学工業(徳島県阿南市)を相手に訴訟を起こし、約8億円で和解した。中村氏は「私の裁判を通じて(社員の待遇が)良くなってきたのに、大企業の言うことをきいて会社の帰属にするのは問題だ」と述べた。
政府の改正方針では、発明に対する報奨の支払いを企業に義務付けるが、「会社が(報奨を)決めたら会社の好き放題になる」と語った。自らが研究活動をしている米国については、「科学者もみんなベンチャー企業を起こす。そういう機会が与えられている」と述べ、日本と米国とでは、科学者らの研究環境が大きく異なることを強調した。
そのうえで、日本でノーベル賞級の発明を生むためには、研究者が米国のようにベンチャー企業を起こしやすい仕組みづくりの重要性を指摘。具体的には、ベンチャー企業が開発した技術を守る司法制度の改革や、ベンチャー企業に投資する投資家の育成、企業間で研究者が転職しやすい環境づくりを挙げた。
日本の教育制度については「小さいときからどんなものが好きかを見て、個性を伸ばすような教育にした方が良い。日本だと小さいときから全科目、均等にできないといけない」。
中村氏は、12月10日にストックホルムで開かれる授賞式に出席する。記念講演では、「LEDは省エネになるということを訴えたい」と語った。(西尾邦明)
◇
〈なかむら・しゅうじ〉 1954年、愛媛県瀬戸町(現・伊方町)生まれ。徳島大大学院修了。79年に日亜化学工業(徳島県阿南市)入社。青色LEDの材料になる窒化ガリウム結晶の新製法を開発し、実用化につなげた。00年米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授に就任。01年、発明の対価をめぐって日亜化学を提訴。高裁勧告を受け、05年に約8億円で和解した。
ノーベル賞級の発明を増やすには 中村修二さん一問一答
http://www.asahi.com/articles/ASGBK4SQHGBKULFA012.html
2014年10月18日03時27分 朝日新聞
ノーベル賞に値する発明を日本で増やしていくには、どうしたらいいのか。研究者への報奨や大学教育のあり方はどう見直すべきなのか。ノーベル物理学賞の受賞が決まった中村修二・米カリフォルニア大サンタバーバラ校教授(60)に聞いた。
■「米国、優秀な科学者はみな起業」
――特許の権利を「会社のもの」にする政府の方針をどう評価しますか。
「反対というより、猛反対。サラリーマンがかわいそうじゃないですか。(青色LEDめぐる)私の裁判を通じて、(企業の研究者や技術者への待遇が)良くなってきた。それをまた、大企業の言うことをきいて会社の帰属にするのはとんでもないことです」
――なぜですか?
「米国はベンチャー企業の起業が盛ん。科学者であっても、ベンチャーやって、ストックオプション(新株予約権)でお金を稼いでいる。優秀な科学者はみな起業する。日本にはベンチャーの『ベ』の字もない。起業しやすいシステムがないことが問題ですね。米国では、ベンチャー企業に大企業の優秀な研究者もくる。ところが日本では、大手企業からベンチャーにはこないのが実情です」
――「会社のもの」は経済界が強く求めました。
「企業の発明者の待遇は良くなってきたのに、ここで法律を変えてしまっては厳しい。起業のシステムをちゃんと整えてからでないと。首相の安倍(晋三)さんは、大企業ばかりを優遇しているように思う」
――報酬を払うことは義務づける方針です。
「報酬を会社が決められるようになっているのは、問題です。会社が決めたら、会社が決めたことに日本の社員は文句を言えない。みな、おとなしいから。社員は会社と対等に話ができないから、会社の好き放題になりかねません」
――企業側からは、訴訟を起こされるおそれがあるから国際競争力低下につながるとの指摘もあります。
「そんなことはない。それがあるから、企業は発明者にかなり良い待遇をしようとする。私の裁判でどんどん良くなっているんです。これがなくなれば、サラリーマン研究者は最悪です。目的達成のための動機付けを取ってしまうわけですから」
■「日本はガラパゴス化」
――米国の技術者や研究者の報酬は高いのですか。
「ベンチャーはストックオプションです。株ですから、上場したら、何十億、何百億になるんですから。できの悪いのが大手企業に残っている。優秀な人はみんな、スカウトでベンチャーにいくし、自分から進んでベンチャーに行くんですよ」
――企業を移るたびに報酬も良くなっていく。
「米国では、4、5年でどんどん会社を変わります。移動するたびに報酬は良くなりますよ。必ず増える条件で行きますからね」
――日本の研究者はお金ではなく知的好奇心でやっているとの調査結果もあります。
「それ、プロスポーツ選手に聞いてください。ヒットを打った、ホームランいっぱい打った。好奇心だけで野球をやっていますなんて、だれも言いませんよね。米国のサラリーマンもだれも言いません。だから、私は若い人には最低5年以上海外にいなさいと言います」
――よく、日本は文系社会だと指摘されていますが。
「会社では良い仕事したら昇進する。でも昇進して、課長とか部長とかが担う仕事は管理で、文系の仕事です。理系の人は理系の仕事だけをしたいのに、文系にならないと偉くなれない。だから文系社会と言っているんです」
――日本と比べて米国の研究環境はいいですか。
「いいですよ。自由です。責任はもちろんついてきますけどね。非常に自由、何をやっても良いという感じです。米国の工学部の教授だったら、みんなコンサルティングやベンチャーをやっている。日本でそういうこと、今はやれって言っているけど、ほとんどできないでしょ? いろんな規制がまだあって」
――ベンチャーが日本で広がらないのには、日本の文化の影響もありますか。
「昔、でっち奉公と言った時代がありました。死ぬまで長く勤めることが正しいような風潮もあった。私は会社を辞めることは悪いと思っていた。そういう洗脳教育を受けているので。ずっと同じ会社に勤めることを、正義のように教えられたんですよ」
――ほかに日本へのメッセージはありますか。
「日本はグローバリゼーションで失敗していますね。携帯電話も日本国内でガラパゴス化している。太陽電池も国内だけです。言葉の問題が大きい。第1言語を英語、第2言語を日本語にするぐらいの大改革をやらないといけない」
■「個性伸ばす教育を」
――独創的な研究を生むには何が必要ですか。
「私も、日亜化学でできたというのは、入って十数年は良いベンチャー企業だったから。創業者がお金を出し、一切干渉しないという理想の環境だった。大手企業では発明はまずできない。個人で自由にできるから独創的な発明ができる」
――今どのような研究に取り組んでいますか。
「製品化されたLEDは、投入電力に対して光として出力する効率が50〜60%。これをなるべく100%に近づける研究をしています。装置の構造を変えるなどに取り組んでいる」
――開発から受賞まで約20年かかりました。
「過去のノーベル物理学賞の対象はほとんどが理論。物づくりは少ない。今年もらえなかったら、ほとんどないに等しい。そういう意味では今年は可能性があると思っていました」
――なぜ米国籍を取られたのですか。
「米国の大学教授の仕事は研究費を集めること。私のところは年間1億円くらいかかる。その研究費の半分は軍から来る。軍の研究費は機密だから米国人でないともらえない。米国で教授として生きるなら、国籍を得ないといけない」
――初等教育はどう変えれば良いですか。
「小さいときから、何が好きかを見て、個性を伸ばすべきです。でないと、発明でもビジネスでもリーダーシップを取れません」
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〈中村修二氏と特許法〉 中村氏は2001年、青色LEDの発明に対する対価を求め、日亜化学工業を提訴。一審で日亜側に200億円の支払いが命じられ、企業に衝撃を与えた。これを契機に、同様の訴訟が相次ぎ、企業が社員の発明への報奨を見直したり、産業界が特許法改正を求めたりすることになった。
◇
〈ノーベル物理学賞と青色LED〉 中村氏は、赤崎勇・名城大教授、天野浩・名古屋大教授とともに今年のノーベル物理学賞の受賞が決まった。授賞理由は「明るく省エネルギーな白色光源を可能にした効率的な青色LEDの発明」。青色LEDの開発、実用化で光の三原色がそろう道筋がつき、LEDの爆発的な普及につながった。
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