02. 2014年10月16日 07:51:00
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【あゝ人手不足】もう全飲食店、「タッチパネル注文」でいいよね?HT‐Solutionsの田村久則社長に聞く 2014年10月16日(木) 鈴木 信行 人口減少や少子高齢化が進む中、企業現場での人手不足が深刻化している。中でも顕著なのが飲食業で、アルバイト店員が集まらず、営業時間の短縮や一部店舗の閉鎖に追い込まれる業者も続出。かろうじて営業を続行している店舗でも、スタッフ不足から注文業務に支障が出るなど顧客満足度の低下につながりかねない状況となってきた。 そんな中、改めて注目を浴びてきているのが、人手を介さないタッチパネル式の注文システムだ。従来は、専用端末が必要で導入費が高く、中小零細店には手の届かない仕組みだったが、最近は、タブレットを活用し格安でシステムを提供するサービスも増えてきた。その中の1つ、HT‐Solutionsの田村久則社長に、飲食業界の人手不足の現状と、格安タッチパネル注文システムのメリットを聞いた。 (聞き手は鈴木 信行) 田村 久則(たむら・ひさのり) 株式会社HT‐Solutions代表取締役。1960年山口県生まれ。54才。1984年に法政大学工学部卒業、IT会社に入社しシステムエンジニア、業務コンサルとして活躍。2006年に株式会社HT‐Solutionsを設立、「個人店の味方!飲食店向けセルフオーダーシステム(orderSmart)」の普及に尽力。 まずは会社概要を教えてください。 田村:HT‐Solutionsは2006年11月設立の企業で、技術者の派遣を主力に事業を展開してきました。派遣業は現在も収益の柱ではあるのですが、会社の規模が大きくなる中で、フロー型ではない、より安定性の高いストック型ビジネスにも着手して会社の基盤を固めたい、という思いもずっと持っていたんです。そんな流れから、3年ほど前に、タッチパネル式メニューシステムへの進出を決断し、今年春から販売を本格化しました。 なぜタッチパネル式メニューに鉱脈ありと判断されたのですか。もともと飲食業のご出身とか? “個室化”が加速させた飲食店でのイライラ 田村:いえ。実は私自身、お酒が好きでよく飲みに行くのですが、数年前から様々なお店で、注文したくても店員がなかなか来てくれない事態に出くわすようになったんです。最初は、飲み放題の店などは故意に顧客を無視して利益を確保しようとしているのではなどとも考えたのですが、普通のお店でも同じ現象が見受けられる。これは、業界全体で今後、人手不足が一気に進行する予兆と考え、「注文業務のIT化」に大きなビジネスチャンスがあるのではないかと思うようになりました。 確かに、最近は、飲食業界の人手不足を痛感させられる局面が増えました。注文の際に顧客を待たせないよう「呼び鈴システム」を導入するお店も増えていますが、呼び鈴を押しても店員が来ないケースもあります。呼び鈴がない店より、余計イライラしてしまいます。 田村:背景には、人手不足だけでなく、居酒屋などを中心に個室化が進んだこともあると思います。店舗の構造が複雑化したことで、1人の店員が店全体に気を配ることが難しくなっているんです。 全国的に急増する恐怖の“店員隠れ居酒屋” 分かります。私自身、先日、上野の“隠れ家風個室居酒屋”に行ったんですが、それはもう完全な人手不足で、「隠れ家風居酒屋はいいけれど、店員まで隠れてどうする!」と思わず指摘したくなるような有様でした。呼び鈴を多少鳴らしたところで素早く注文を取りに来る気配は全くなく、閉口したのを覚えています。 田村:そうした人手不足の店は都心部だけでなく、地方でも増えています。先日、佐賀県の方から引き合いがあり現地を視察したのですが、佐賀は、都心部でブームになる前から個室の居酒屋が多いそうです。都心に違わず飲食業における人手不足は深刻化していて、そのお客様は新たにお店を始めるに当たり、最初からお客様のためタッチパネル式メニューを導入したい、ということで私どもに連絡を下さったんです。 大手居酒屋チェーンや回転寿司の大型店などでは、随分前からタッチパネル式を導入する動きがありました。 田村:はい。ただ、私が調査し始めた頃は、専用端末を活用したシステムが主流で、導入費がとても高かった。各テーブルと厨房側に専用端末を置き、POSレジとつなげると、店の規模にもよりますが、数百万円の費用が必要でした。これではチェーンならまだしも、個人店の多くはまず手が届きません。そんな状況を一変させたのがタブレットの登場でした。汎用型のタブレットを端末代わりに使えば、システム全体を当時の水準より格安で提供できる、と考えました。 そこで3年前に開発を開始した、と。 田村:インドのIT企業と“レベニューシェア”の契約を結びました。設計は当社が担当し、開発はインド側に任せます。費用はそれぞれが負担し、利益が上がれば配分するという方法です。こうして完成したのが当社の電子メニューシステム「orderSmart」です。簡単に言えば、テーブル端末、キッチン端末、POSをクラウドサーバーで接続したシステムで、来店客はテーブルから気軽に、ストレスなく料理をオーダーできます。お店にしてみれば注文取り業務が無くなり、人件費を大幅に削減することが可能です。端末から注文することで会計業務も簡略化されますから、“レジ渋滞”なども起きません。 導入費はどのくらいなのでしょう。 田村:汎用端末を活用することで導入費も格安で、初期費用10万円、月額使用料1万4500円から。例えば、端末を20台導入するなら月6万〜7万円といった水準です。 それって、注文取りのアルバイトを1人雇うより安くないですか。場所にもよるとは思いますが。 田村:場合によっては、そうなります。実際、焼き鳥屋さんを経営しているあるお客様は、「orderSmart」を導入した結果、現在、注文取りから調理、会計まで平日はほぼお一人での店舗運営が可能になりました。 飲食業界でも経営者の高齢化は進んでいると思われますが、「orderSmart」の操作は難しくありませんか。 田村:至って簡単です。導入時のカスタマイズも、料理の撮影まで当社が支援しますのでITが苦手な方でも問題はないと考えています。 「Face to face」がなくても顧客満足度は上がる 古くから飲食店を経営している職人肌の経営者の中には、注文業務をIT化し「Face to face」での接客がなくなると、顧客満足度が落ちるのではないかと心配される方もいると思われますが。 田村:そこは考え方次第です。飲食業におけるお店と顧客の接触場面は必ずしも、注文業務だけではありません。「orderSmart」を導入し注文業務を簡略化すれば、片付けやお客様とのコミュニケーションなど他の業務にこれまで以上に力を入れることが可能です。一般的な飲食業では、ホールスタッフの作業の6割は「オーダーテイク」が占めていると言われています。 そんなになりますか。 田村:例えば、お客様と言っても色々で、注文が決まっていないのにとりあえず店員を呼ぶ人もいます。あるいは周りはまだ決まっていないのに、自分が決まった段階で呼び鈴を押す人もいる。 いるいる。高級店でメニューを読んでも訳が分からず、料理の説明を直接聞きたいと言うなら分かります。が、たまにファミレスでも、それをやっている人いますよね。ドリンクバー付ける付けないで家族で揉めたり…。 田村:そうやって無駄になる時間の1つ1つは短い。でも積み重なると、店員が業務時間のほとんどを注文取りに費やす事態になってしまうんです。その点、「orderSmart」を導入し、注文業務に追われているスタッフに別の作業をやらせれば、顧客満足をむしろ押し上げることも可能になります。実際、一般論として、タッチパネル式注文を導入すると、多くの店では利益率の向上に加え、売り上げが伸びるんですよ。 そうなんですか。注文や会計の際のストレスがなくなり気をよくしたお客様の来店頻度が増えるとか? 田村:それに加え、単純に注文量が増えるという側面もあります。注文したい時に注文が出来るからです。「もう一品ぐらい注文したいが、店員を呼ぶのが面倒なので今日はいいや」と思うことってありませんか。 よくあります。 もう勘でカクテルを頼む必要もなし 田村:そんな時にもタッチパネル式であれば、手軽ですから追加注文につながりやすい。それにフレンチなどでは、「興味はあるけど、メニューの料理名からはどんな料理か分からず躊躇してしまう」といったケースもあるでしょう。 いちいちお店の人に聞くのも面倒ですし、見識のなさを人前で晒す事になりかねません。 田村:その点、「orderSmart」であれば、鮮明な料理の写真をあらかじめ確認できますし、説明を読むことでどんな料理か知ることも可能ですから、オーダー率は高確率で上がります。特にカクテルなんかは効果的です。 大半の男性はカクテルなんて、正直、格好付けて勘で頼んでいるのが実情ですもんね。 田村:さらにタッチパネル式メニューの導入がお店にもたらす大きなメリットがもう1つあります。国際化対応です。「orderSmart」でも現在、英語版、中国語版、韓国語版を開発中ですが、導入すれば、外国人観光客に対する対応力がぐんと上がります。つまり、単なる人手不足対策や人件費抑制のみならず、顧客満足度の向上や売り上げ増加にまでつながる可能性も秘める。それがタッチパネル式注文システムと言えるんです。 だったらもう全飲食店、「タッチパネル注文」でいいじゃないですか。今の地合いなら、消費者に「それでいいよね?」と聞いても納得してもらえると思いますが。 田村:全飲食店まで行くかはともかく、今後、人手不足が進行すれば、料亭など一部の高級店を除き多くの店で導入が進む可能性があると見ています。今の引き合い状況を見ると9割は個人の飲食店で、寿司、焼肉、中華、焼き鳥などこまめに注文を受ける業態に限らず、ホテルや漫画喫茶など様々な業種から問い合わせが舞い込んでいます。それも国内に限らず、先日は、ある中南米の国での案件が寄せられました。ある日本人経営者がその国でラーメンバーをオープンするので、「orderSmart」を導入したいという話でした。 中南米? それはちょっと解せません。新興国なら日本より労働力を確保しやすいはずです。ホールスタッフも過不足なく採用できるのでは? 田村:実は、経営者の方がその国に店を出すにあたり、「orderSmart」の活用を考えたのは人手不足が理由ではありません。その中南米の国で真っ先に連想する事案と言えば…。 治安? 田村:そうです。その国ではPOSレジも危なくて店内に置けない状況なのだそうです。 『デスペラード』の世界でも飲食店経営が可能 話が見えてきました。その国は別に人手不足でなく、雇おうと思えばホールスタッフも雇える。しかし治安が悪化していて、のんきに店内を回遊し注文取りなどをしていると不測の事態に遭いかねない。そこでテーブルには「orderSmart」の端末だけを固定し、例えば防弾ガラスなどを設置した厨房側にレジとキッチン端末を置けばよい、と。端末が盗まれたり、壊されたりするかもしれませんが…。 田村:命を取られることに比べれば、安いものです。ただ、当社としてもさすがにスタッフの安全を最優先し、この案件についてはペンディングとなっています。 なるほど。しかし理屈の上では「orderSmart」があれば、アントニオ・バンデラス主演『デスペラード』のような世界でも、飲食業の安全な運営が可能になる、というわけですね。他に意外な問い合わせはありませんか。 田村:先日は、キャバクラから問い合わせがありました。 それは中南米のラーメンバー以上に解せません。料理や飲み物を注文したければ、同席するキャバクラ嬢に直接伝えれば済むのでは。なぜわざわざ「orderSmart」を各テーブルに配置する必要があるのでしょう? 田村:経営者の方にお話を伺うと、狙いは2つありました。一つは、入店後、端末でキャバクラ嬢を指名してもらう仕組みにしたいからだそうです。 「キャバクラには行きたいが、口頭で指名するのは恥ずかしい」という顧客が増えている、ということですか。草食なんだか肉食なんだか、最近の男心は複雑ですね。 「複雑な男心」「黒服不足」もタッチパネルで対応 田村:加えて、その経営者の方が「orderSmart」に関心を持つ第2の理由は、トラブル回避だそうです。最近は、会計の際に「まだ時間が余っている」「こんな注文はしていない」というクレームを付ける客が増えているそうです。その点、時間については、例えば「orderSmart」をカスタマイズして、サービス開始から時間の経過を表示するようにすれば、完全な明瞭会計が可能になります。さらに注文トラブルについても、端末を通じて、キャバクラ嬢と共に目視しながらタッチパネルで注文する仕組みにすれば、トラブルは大きく減ることが予想されます。 例えばフルーツの注文を打診されても、舞い上がって言われるがまま頼むのではなく、端末を通じて「料理の内容」や「料金、値ごろ感」を自分の目でしっかり確認し、納得してからオーダーを出してもらう仕組みにする、というわけですか。どの業界も今は色々大変なんですね。 田村:そうです。その経営者の方に言わせると、そのような指導が最近当局からもあったとのこと。そして実は、こうした現象の背景にも、人手不足があります。お店の現場でセキュリティを担当する人材が今、枯渇している、というんです。 なんと、今の話にも、根底には、「黒服不足」という人手不足現象があるわけですか。なんだか大変な時代になってきちゃいましたね。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20141015/272572/?ST=print |