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米国市場の株価下落が引き金となって日経平均も大幅下落 photo Getty Images
「弾切れ」アベノミクスで日経平均株価1万5000円割れ 「個人投資家」がそれでも買い支える条件とは
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40749
2014年10月15日(水) 磯山 友幸「経済ニュースの裏側」 現代ビジネス
10月14日の東京市場で、日経平均株価がおよそ2ヵ月ぶりに1万5000円台を割り込んだ。前日の米国市場でダウ工業株30種平均が大きく下げたのが引き金だが、国内景気の減速懸念もくすぶっている。2012年末の安倍晋三政権発足以来進めてきたアベノミクスの効果が問われるタイミングでの大幅な株価下落は、何を意味するのだろうか。
■海外投資家の売りを個人投資家が買い支えてきた
アベノミクス開始後の日経平均の高値は昨年2013年12月末の1万6320円だった。その後4月には一時1万3885円まで下げたが、6月頃からジリジリと値を上げ、9月25日には1万6374円とアベノミクス後の高値を更新した。
1万5000円から1万6000円を超えて高値を付けるまでには実に4ヵ月近くを要したが、これがわずか12営業日で帳消しになった。それだけ下げがきつかったということだ。
年明けから3月にかけて日経平均が大きく下がった際、売っていたのは海外投資家だった。なにせ2013年1年間で15兆円も日本株を買い越しただけに、いったん利益を確定しておこうという動きが広がった。逆にこのタイミングで買っていたのは個人投資家である。
日本取引所グループがまとめている投資主体別売買動向によると、個人投資家は1-3月に東証名証一二部合算で1兆5000億円を買っていた。この間の海外投資家の売りは1兆8000億円だったから、かなりの部分を個人の買いで吸収したことになる。
1-3月の海外投資家の売りに敏感に反応したのが安倍政権である。海外投資家がアベノミクスに失望すれば、10兆円以上買い越していた日本株を一気に売り浴びせてくるかもしれない。それでなくとも4月からの消費税増税で盛り上がっていた消費に水を差す可能性が高い。そこに株安が加われば、一気に景気好転ムードが雲散霧消してしまう。3月後半の官邸周辺の危機感は相当なものだった。
■日本の個人投資家はセンスが非常に良い
そんな安倍首相が見せたリーダーシップはなかなかのものだった。3月には抵抗勢力の反対を押し切って「国家戦略特区」を指定。農業や医療、雇用制度など自らが「岩盤規制」と名指ししてきた分野に斬り込む姿勢を打ち出した。
また、財務省が抵抗し続けていた法人税率の引き下げ方針を明示、その一方で経団連などの抵抗を封じる格好で企業にコーポレートガバナンスの強化を求めた。
6月24日に閣議決定した安倍政権の成長戦略の改訂版である「日本再興戦略 改訂2014」への海外投資家の評価は上々で、その後、株価は上昇過程に入っていった。6月から9月までの4カ月間に海外投資家は1兆2000億円以上を買い越した。アベノミクスの見直し買いとも言えるだろう。
これに対して個人投資家はまったく逆の動きをした。4月以降9月まで、わずかながらの買い越しだった8月を除いて、すべて売り越したのである。6月以降だけで合計2兆2000億円、4月以降の合算だと3兆円近い売り越しだ。4月の消費税率引き上げによる景気の減速をより深刻に考える個人が値上がりした株を早々に手じまったとみることもできる。
歴史的に見て、日本の個人投資家の投資センスは非常に良い。大きく下げて、機関投資家や法人などが売り始めると、下値で買う。逆に値段が上がり始めて機関投資家が買いに転じると今度はせっせと売りに回る。そんな傾向が続いている。はからずも2014年の年初から9月までの動きもこれに当てはまった。
個人投資家の行動を見る限り、安倍首相の「口先」にはあまり捉われていないようにみえる。アベノミクスに過度に期待はしていないのだ。それよりも、足下の消費の行方など景況感に敏感に反応している可能性が高い。この点、海外投資家と大きく違う。
欧米はリーダーである政治家の「言葉」をより重く受け取る傾向にあるのかもしれない。そして、政治家が具体的な対策を取ろうとすることに強い関心を向ける。成否を先取りする形で投資に踏み切るのだ。
■規制緩和法案がない今国会は低調
問題は、この10月に入ってからの下落局面で、海外投資家や個人投資家がどう動いているか、あるいは、今後動いていくかである。海外投資家の中でも長期の資金を運用する年金基金などは、アベノミクスの改革の行方に注目している。安倍首相が言うように、日本経済の構造だが大きく変われば、保有している日本株が長期的に上昇することになる。
ところが、9月末に開幕した国会論戦は今ひとつ盛り上がらない。そもそも国会に提出されている重要法案があまりないのだ。野党が強く反発している労働者派遣法改正案も、もともとは前の通常国会に出されていた法案に、事務上のミスが発見されたため、先送りされたもの。ミスを修正しただけの法案が再提出されている。
加えて、女性の活躍を推進する法案を出す意向を示しているほか、地方創生法案も出すとしている。だが、いずれも安倍首相が第3の矢の柱と位置づけてきた規制改革からは遠いテーマだ。
民間に新規分野での投資を起こさせるような規制の緩和を進めることで、日本の構造を変えていこうというのがアベノミクスであるはずだが、この臨時国会を見る限り、具体的な「弾」に乏しい。
昨年秋の臨時国会ではタクシー減車法や、薬のネット販売を規定する薬事法、公務員制度改革関連法などが審議され、既得権を守ろうとする反改革派と、それに斬り込もうとする改革派の間で、それなりに激しい議論が繰り広げられた。
今年はそうした議論にのぼる法律案がほとんど目に付かない。国家戦略特区を「突破口」にするとしているものの、規制緩和項目の追加や、認定地域の追加などはまだ俎上にのぼっていない。当然、既得権層があって、簡単には切り込めないのである。そんな「弾切れ」状態が続けば、6月以降、買い越すことが多かった海外投資家にそっぽを向かれることになりかねない。
■個人投資家は「消費税10%」でも買い姿勢を続けられるのか?
では、個人投資家は逆をついて買いに回ってくるのかどうか。週ごとの売買動向をみると、9月最終週は340億円の買い越し、10月第1週は3542億円の買い越しだった。「下がったら買おう」という意欲が個人の間で強いことを示しているようだが、その後も株価が下落を続けている中で、下値を買い続けることができるのかどうか。
個人投資家が本格的に買い越しに転じるようならば、相場がそんなに深押しすることはないと見ることもできる。
だが一方で、安倍内閣最大の難関とも言える消費税率再引き上げの判断をどう下すかが12月上旬に迫る。予定通り来年10月からの税率引き上げが決まることになれば、景気への影響は避けられない。足下の景気に敏感な個人投資家がそんな状況の中で買い姿勢を続けられるかどうか。
消費税率再引き上げの影響を吸収して株式相場が力強さを保ち続けるには、安倍内閣の改革姿勢が目に見えて強まり、日本経済の構造を変えていくという実感が海外投資家にも、個人投資家にも共有されることが不可欠だろう。
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