04. 2014年10月30日 07:20:52
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2016年卒は売り手市場?「トンガリ学生」探しに企業は躍起 2014年10月30日(木) 西 雄大 「今年のシューカツは楽勝かも」 就職活動を控えた大学3年生に取材すると、こんな答えが返ってきた。この学生曰く、1学年上の先輩に「苦労することなく就職先が決まった」と聞いたからだという。就職氷河期に活動していた身からするとうらやましい気にもなる。 確かに求人環境は改善しつつある。日本経済新聞の10月20日付朝刊によると、2015年度採用状況調査で、主要企業の大卒採用内定者数(2015年春入社)は今春実績比7.3%増え、4年連続で前年実績を上回った。人材不足に悩む小売業は32.6%増を計画していたが10.6%増にとどまるなど、学生優位の売り手市場となっている。 では、本当に楽な就職活動になったのか。日経ビジネスでは「後ろ倒しシューカツの実相」と題して2016年卒向けの就職活動の実態を連載している。人事担当者に取材すると採用意欲は高く、実際に2015年卒に続き2016年卒も募集人数を増やすことを検討しているところが多い。学生優位の売り手市場のようにもみえる。 だからといって楽勝かと言われればどうも違うようだ。各社は選考のハードルを上げようとしている。バブル全盛期にあったような募集人員を確保するためにハードルを下げるようなことはしない。人数が満たなくても採用を打ち切ってしまうケースも出ている。 2016年卒向けの採用では選考方法を見直す動きが出ている。特徴は大手就職サイトを頼らずに自社が欲しい人材だけを狙い撃ちにすることだ。 各社が狙うのは一芸に秀でた「とんがった人材」。既存の枠組みにとらわれず、社内に新しい風を吹き込んでもらえそうな人材を指している。 これまで企業は学生に興味をもってもらうために、大手就職サイトに広告を出稿するのが一般的だった。広告費に数千万円を投じ、優秀な学生を確保するための母数をいかに多くするかに力を入れてきた。大手企業になると数万件の応募が来る。 欲しい人材にだけピンポイント連絡 サイバーエージェントはとんがった人材を採用するために30以上の選考方法を用意している(写真:陶山 勉) とんがった人材を採用するためには、従来の大量採用方式は不向きだ。狙った人材をピンポイントで採用できるように選考方法を多様化しようとしている。
例えば、インターネット広告大手のサイバーエージェントは大手就職サイトへの出稿を取りやめた。その代わり選考方法を30以上用意した。プログラムのコードだけで合否を判定したり、新規事業プランコンテストに参加させてその内容で選考したりするコースなどを新たに設定した。 曽山哲人人事本部長は「募集人員のうち8割を『とんがった人材』にしたいので選考方法も多様にした。筆記試験は得意ではないが能力が高いといった学生を落とさないために様々なメニューを用意している」と話す。 このほかサイバーエージェントは社員も活用してとんがった人材を探す。社員から出身大学やサークルなどで知り合った優秀な後輩を紹介してもらう制度がある。社員から紹介を受けた人事担当者が会い、適性を判断した上で、選考に参加してもらうように促す。曽山本部長は「優秀な人材の周りにはやはり優秀な人が集まっている。類は友を呼ぶので効率がいい」と話す。 ラッパのマークと整腸剤「正露丸」で有名な大幸薬品。同社は2年前に新卒採用を再開するのに合わせて、「逆求人サイト」を利用することにした。同社が利用するのはiplugが提供する逆求人サービス。登録された学生のプロフィールを読んで会いたい学生にメッセージ送る仕組み。待ちの姿勢ではなく、自社が欲しい人材を攻めの姿勢で自ら探す。 大企業だけではなく中小企業もとんがった人材を求めている。新潟県にある菓子メーカー、三幸製菓もユニークな採用方法を取り入れている。なかでも独特なのが、「おせんべい採用」だ。 おせんべい採用とは、せんべいのことだけをエントリーシートに書かせて、その内容で選考するもの。三幸製菓にとって主力製品である米菓を好む人がとんがった人材となる。そこでせんべいに関するプレゼンテーションだけで合否を決める。 プレゼン資料は同社のウェブサイト上で公開されている。せんべいを使ったサラダなど新しいレシピを開発しているほか、動画を提出した学生もいる。こうして米菓に詳しいとんがった人材を見つけ出そうとしている。 全員内定を得るために1年から開始 各大学で就職を支援するキャリアセンターも、学生の楽勝モードを打ち消すために躍起になっている。茨城県にある東日本国際大学はここ数年連続で内定率100%を維持している。2016年卒業生でも100%を維持すべく既に動き始めた。 まず取り組んだのが親向けの説明会だ。今年も10月25日に開催した。緑川浩司理事長は「親が、子供が決めた就職先に注文を付けることがある。子供が就職活動を有利にするためには保護者の意識改革も必要」と話す。 東日本国際大学では1年生からゼミを必須科目にしている。ゼミでキャリアについて考える授業も行っている。それでも3年生になって就職活動が始まっているのに、キャリアセンターに来ない学生が毎年いるという。キャリアセンターの担当者とゼミの担当教授が連絡を取り合って、学生を学校に呼び出し、就職活動に取り組むように促していく。 緑川理事長は「知名度が高くない学校にとって重要なのは就職率を上げること。大学は学生の主体性に任せるのではなく、学生のやる気を引き出すために様々なアシストが必要だ」と話す。手厚いバックアップによって就職率100%を維持したい考えだ。 東日本国際大学では1人残らず内定を得られるようにするために、マンツーマンで支援する 学生間の内定格差は拡大か
2016年卒業生の就職活動は例年と日程が大きく異なる。国の要請により企業が説明会を開催できる時期が大学3年生の3月、つまり2015年3月へと後ろにずれることになった。選考も4年生の8月にずれ込んだ。経団連に加盟している企業は順守するが、外資系やベンチャーなどは例年どおりの日程で行う企業も多く、選考が長引く可能性すらある。 もう既に内々定を得ている優秀な学生もいる。その一方でまだ取り組んでいない学生も大勢いる。たくさんの企業から声がかかる人とそうでない人の格差が広がる学年になりそうだ。 このコラムについて 記者の眼 日経ビジネスに在籍する30人以上の記者が、日々の取材で得た情報を基に、独自の視点で執筆するコラムです。原則平日毎日の公開になります。
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