02. 2014年10月14日 06:36:57
: jXbiWWJBCA
吉崎誠二の「どうする? これからの住まい」 【第7回】 2014年10月14日 吉崎誠二 [ディー・サイン不動産研究所所長、不動産エコノミスト] “40歳代買い替え”を成功させるコツは何か 売り主に取り入る仲介会社に気をつけろ 2回目の購入でぶち当たる 「今の住まいは売れるのか」 40歳前後になると、仕事や家族など様々な要因で環境が変わる人が増えてくる。 大学を卒業して15年。責任のある仕事を任せられたり、数十人の部下を持つ管理職の立場に就いたりする人も現れる頃だ。 家庭を持っている人も多い。30代前半で第一子が生まれた人は、その子が小学生になり、学校の行事で駆り出されることも多く、慌ただしい毎日を過ごす頃でもある。子どもが二人いる家庭では、下の子の保育園や幼稚園の送り迎えが加わり、文字通り目の回るような忙しさのなかにいるかもしれない。 子どもが増え、成長していけば、それに応じて住まいに求める条件も変わることが多い。本連載のテーマは、働き方や収入、環境の変化よって、住まいも柔軟に変えていくことが、賢い生活者の姿だと考え、そのためのヒントを探っていくことだ。40歳代はもっとも変化が起きる世代。したがって、「このまま今の住まいに住み続けるのか」を考えるべき世代だと、筆者は考えている。 一般的に世帯主が30歳代半ばにさしかかる頃、持ち家比率が急に高まる。35〜39歳で46%、40〜44歳で58%、45〜49歳で67%、50歳を超えると70%以上が持ち家に住んでいる。40歳代以上は大半の人が持ち家に住んでいるということだ。 したがって、家庭や仕事の変化によって住まいを変えようとした場合、多くの40歳代が「今住んでいる持ち家をいかに高く売るか」という課題に直面するということだ。 40歳代で持ち家を売却し、新たな住まいを購入した人の多くは「買い替えは、大変だった」と振り返る。同時に、「持ち家の売却をするときに、もっとこうしておけばよかった」という後悔の言葉も聞かれる。 本連載第3回では「40歳代からの住宅購入」を取り上げたが、今回はすでに持ち家に住んでいる40歳代にフォーカスし、「40歳代からの買い替え」を考えてみたい。 増える40歳代の 住宅1次取得者 40歳代で持ち家に住んでいる人の大半は、賃貸住宅から住み替えた人が中心だ。 「住宅1次取得者」という言葉があるが、これは「この5年間に持ち家を購入した人のうち、従前の住居が持ち家以外の人」という意味だ。つまり「初めて持ち家を購入した人」である。 5年ごとに総務省統計局が発表する「住宅・土地統計調査」によると、40歳代の1次取得者の割合は増えている。 拡大画像表示 20歳代と30歳代で住宅1次取得者が90%以上というのはわかる。20歳代ですでに2回以上持ち家の購入を経験した強者は、あまりお目にかかれない。
注目したいのは、40歳代のデータ。住宅1次取得者が、平成15年から25年の10年間で80%から86%へ6%も増えている。この5年間に持ち家を買った40歳代は、大半が初めての購入だったということになる。 減少の一途をたどる 40歳代の2次取得者 今度は40歳代だけを詳しく見てみよう。以下の表は40歳代の住宅1次取得者の、従前の住居形態についてのデータだ。 拡大画像表示 「親族の家」「その他」に大きな変化はない。「借家」が大きく増え、「給与住宅」(社宅)が減っている。これは、大企業などが社宅を手放したことが大きな原因だろう。気になるのは、「持ち家」の割合が減っていることだ。平成15年は約20%だったのが、平成25年では約14%だった。
これはつまり、40歳代で住宅を購入した人のうち、2次取得者が減っていることを示す。 理由はいくつか考えられるが、晩婚化が進んでいることが挙げられる。夫(男性)では2〜3歳、妻(女性)は5歳近くも上がっている。 一般的に、結婚直後は、賃貸住宅に住み、給与が上がるのを待ちながら、住宅購入資金を貯める人が多い。晩婚化すると、このプロセスを踏んでいれば、必然的に40歳を超えるということだ。 次に挙げられるのは、買い替えに対する抵抗感が広がっていることだろう。 今ではほとんど聞かれないが、かつて「住宅双六(すごろく)」という言葉があった。賃貸住宅や社宅からスタートして、マンションを購入。それを手放して一戸建住宅を購入してゴールとなる双六だ。 しかし今では、一度購入したマンションの資産価値が下がりやすいこともあり、それを手放して新しい家を購入することが難しく、「終の棲家」としてマンションを購入する人が増えている。 せっかく築いた近所や地域のコミュニティーから離れること、新たな場所でコミュニティーを築く面倒さから、今の住まいが手狭で古くても、我慢して新たな家を購入しないということもありそうだ。さらに、そもそも 買い替えという行為の面倒さを指摘する人もいる。 不透明な中古物件取引 大口たたく仲介会社 しかし、新しい住まいを探すのは、ワクワクして楽しいものだ。ただ、買い替えのために楽しみながら住まい探しをするためには、「いま住んでいるマンションが売れるのか」という問題をクリアしなければならない。 もちろん、安くすればすぐに売れるだろう。ただ、買い替えるのだから、新たな住まいの購入資金が必要であり、なるべく希望する額で売りたい。特にローンが多く残る人にとっては、少なくともローンの残額+α以上での売却を望むことだろう。 しかし、中古物件の取引は、ほとんどの人にとってはどのような仕組みになって取引価格が決まるのかわからず、不透明感を感じると言われている。そこで、中古物件の取引価格が決まる流れを、簡単に解説しよう。 売り出し価格の決定は、売り主の希望額はあっても、市場価格と折り合いをつけなければならない。これには、仲介会社による売買価格査定を経て、売り出し価格を決める。しかし、査定された金額がそのまま、初出売り出し価格にならないことが多い。どの仲介会社も基準に従い査定をするが、最後に「調整価格」と称して、査定した金額から価格調整をする。これは、その物件を扱おうと競う仲介会社同士のにらみ合い、その仲介会社が持つ市場の需要予測など、さまざまな要素によって上下するのだ。 最終的には、多くの場合、「希望価格>査定価格」となり、初出売り出し価格は、この間の価格が多い。つまり、「希望価格>初出売り出し価格>査定価格」となる。 売り主としては少しでも高く売りたい。したがって「高い査定金額を付ける仲介業者に頼みたい」と考えるはずだ。 どの仲介会社に取引を仲介してもらうか決めるときに注意したいのが、売り主の心情を逆手にとる、ずる賢い業者だ。売り主からの専任媒介契約が欲しいために、妥当な金額よりも上乗せし、その金額で売れる保証などないにもかかわらず、「この金額で売れるように頑張りますので、わが社を仲介会社にしてほしい」と売り主に迫るという。 しかし、売り主の希望通りの価格で売れることは稀だ。 仲介会社が「頑張ります」と言っても、決めた金額が市場での妥当価格でない場合は値下げせざるを得なくなる。初出売り出し価格で売却できない状態が続けば、仲介会社から値下げの提案が来ることになる。 あるいは、「売り出し価格より○○万円安ければ買うというお客様がいますが、どうしますか?」と言われる場合もある。どちらにしても現在の売り出し価格よりも下回る金額での売却となることは避けられない。 だったら初めから妥当な金額で売り出した方が良かったのではないかという疑問を抱く人も多い。その方が早く売却でき、気が楽だということだ。 業界関係者などに聞くと、中古物件にも鮮度があり、価格を下げた物件や長い期間売り出されているような物件は敬遠される傾向にあるという。とくに、ネット上で物件写真などが見られる今は、その傾向が強いという。 つまり、無理に高い金額でスタートすると、結局は相場よりも安く売る羽目になることが多いというのだ。 中古物件の売買成立価格は、もっとも多いケースで「希望価格>初出売り出し価格>査定価格>売買成立価格」となっている。不動産価格上昇局面では、たまに「希望価格>初出売り出し価格≧売買成立価格>査定価格」となる。 もっとも、買う側は「売り出し価格からどこまで安くなるのだろうか」と思い物件概要を見ている。したがって、いつでも価格下落の圧力を受けることになる。 高く売るための無理は禁物 結局は安売りで損をする ここで、実際の事例を見てみよう。 田中氏(仮名)は今年43歳。ベンチャー企業で執行役員を務めている。今年の春、それまで住んでいた分譲マンション(所有)から一戸建て住宅を購入し、引っ越した。東京23区に住んでおり、新たな一戸建て住宅は、かつてのマンションから徒歩で移動できる距離の場所だった。 引っ越そうと思ったきっかけは、2人の子どもが大きくなり、それぞれ一人部屋が欲しいと言い始めたからだった。夫婦の部屋も含めて3LDK以上の間取りの家に引っ越そうと検討を始めた。子どもの学校のこともあり、近所で探したようだ。 しかし、田中氏もぶち当たったのが「今のマンションは、どれくらいの値段で売れるのだろうか」という不安だった。 マンションの住宅ローンはまだ残っていた。売却で得たお金からローンを返し、その残金を新しく購入する一戸建ての資金や諸費用に充てる計画だった。 仲介会社の担当者が査定した金額は、4750万円だった。田中氏の売却希望金額は4800万円。そこで、査定金額と売却希望価格の間をとって4790万円を初出売り出し価格にした。 実はこの初出売り出し価格は、数ヵ月前に他の不動産流通会社に査定依頼して出された4500万円、初出売り出し価格4590万円という金額よりも200万も高い金額だった。しかし、このエリアに強い仲介会社だということと、担当者の「大丈夫」の一言で、それほど熟慮せずに仲介会社と初出売り出し価格を決めてしまった。 一方、新居となる一戸建て住宅の購入は、トントン拍子で話が進んだ。まだマンションが売れていない状況にもかかわらず、契約をしてしまった。一般的には、マンションのローンが残っていると、新たな住宅ローンは組めない。しかし、ローン残高が少ないこと、そしてある程度の年収があるという信用、そして夫婦共働きであり、新たなローンも共同で返済することを条件に、大手都市銀行の住宅ローンを組むことができた。 こうして、田中氏はマンションの売却が決まらない状況下で、新築戸建住宅購入の契約をした。当然だが、マンションの売買成立が長引けば長引くほど、2つの住宅ローンを長期間抱えることになる。 結局、田中氏はマンションの売買が成立する前に、引っ越さざるをえなくなった。「大丈夫」と胸を張った仲介会社の担当者は、2度も価格を下げ、それでも売買成立ができず、「4450万円なら買いたいという方がいるのですが、いかがですか?」と言ってきた。初出売り出し価格から300万円も値下げしなければならない状況になったのである。 さすがの田中氏も、2つのローンを払い続けるのは厳しい。なにより、今か今かと売却を待ち続ける面倒さ。結局、このマンションを買った金額をほんの少し上回っていたこともあり、300万円もの値下げを飲んだ4450万円で売ることにした。 田中氏の買い替えは、決して大成功とは言えない。最大のポイントは仲介会社と初出売り出し価格。高く売りたいという気持ちは誰でも持つものだが、そこで無理は禁物だ。市場価格を無視して、売却希望価格に近づけすぎると、売り出し期間が無駄に長引き、それがさらに値下げ圧力となることがある。結果的に、市場価格よりも安く売らなくてはならないこともあるのだ。 「買い替え」の場合、新たな住宅購入が控える。そこが、1次取得の場合とはまったく違う点であり、難しいところでもある。 http://diamond.jp/articles/print/60429 |