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(撮影:尾形文繁)
中東混乱、原油価格の安定はいつまで?畑中美樹・インスペックス特別顧問に聞く(下)
http://toyokeizai.net/articles/-/50313
2014年10月13日 中村 稔:東洋経済 編集局記者
※前編はこちらhttp://toyokeizai.net/articles/-/50287
――一方、中東の地政学リスクが原油市場に与える影響をどう見るか。
最近、ウクライナやイラク、リビア、ナイジェリアなど地政学リスクは存在しているけれども、原油価格は下がっている。つまり、地政学リスクと原油価格はリンクしていない。
理由は二つある。一つはシェール革命だ。米国の石油の生産量が増え、輸入量が減少している。過去4年間ぐらいで日量220万バレル程度も輸入量が減った。米国が買わない分が他国へ流れるわけで、それだけ需給が緩んでいる。
もうひとつは、地政学リスクが高まっているとはいえ、原油の生産、供給にほとんど支障が出ていないことだ。イスラム国はイラク中央部やシリアで活動しているが、イラク南部の主要油田などには行けないことがはっきりしている。そのため、原油価格が上がらない状況になっている。
■シェールの供給量は2020年以降減っていく
問題は、それがいつまで続くかだ。シェール革命にはいろいろな見方があるが、2020年以降になるとシェールガスやシェールオイルの供給が減り、オイルに余剰感がなくなるというのが一般的な見方。小さいガス田や油田が多く、寿命が7〜8年程度なので、次から次へと掘っているが、だんだんと採掘が難しくコストのかかる井戸が増えてくる。採算が悪くなるので、生産量も落ちていくと見られている。
また、イラクでは、欧米系の石油会社が投資先から撤退したり、従業員を一時避難させたりしている。5〜7年先を見ると、当初想定されていた石油の増産計画が未達に終わる可能性がある。特にイラクは2020年以降、世界の石油需要が増加する分の6割ぐらいを賄うと予想されている。それがその通りにいかなくなれば、シェールの頭打ちと合わせて供給が伸び悩み、地政学リスクが原油価格に効きやすくなる可能性がある。
短期的に言えば、今回サウジアラビアが空爆に加わったことで、イスラム国は必ず復讐する、と言っている。サウジの場合、かなり強固にガードはしているものの、製油所や積み出し基地、油田、パイプラインなどの石油施設に対するテロの可能性が以前より高まっており、それが石油価格に影響を与えかねない。
――イラクの石油積み出し基地がある南部のバスラが攻撃されるリスクはあるか。
南部はシーア派の人たちの地域なので、スンニ派のイスラム国が入っていくことはかなり難しいと見られる。北部から南部に通じるパイプラインなどへの攻撃はありうるが、パイプラインは3〜4日で修復は可能なので、何回も攻撃が続かない限り、短期的な影響にとどまろう。
■混迷の発端はアラブの春、サウジに波及も
――スンニ派同士が対立したり、「敵の敵は味方」といったねじれ現象もあったり、混迷を極めているように見える。
発端は11年にチュニジアで始まった「アラブの春」。エジプト、リビア、イエメンの4カ国で政権が交代した。アラブの春は長期独裁政権に対する民主化要求が発端で、独裁政権は倒れた。その後に出てきたのがイスラム原理主義政権。世俗派とリベラル派がその政権を引きずり下ろしたのがエジプトとチュニジアだった。リビアとイエメンはまだ決着がついておらず、そうしたイスラム原理主義派と世俗派との対立がほかの国にも影響している。加えて、イスラム原理主義の中でも対立があり、さらにシーア派とスンニ派という宗派の対立もある。
スンニ派のサウジは君主独裁制が続いており、民主化要求にも直面している。イスラム国を叩いたとしても、その後のイラクやシリアはどうするのかという展望はない。そうした状況で米国に加担することが、後々国内の反発を招く可能性がある。サウジのリスクも今までより確実に高まっている。
――欧米との核開発問題の交渉を延長したイランについてどう見るか。
国内経済や社会の不満の状況から、いずれ欧米と妥協して核開発の交渉を仕上げないと国内が持たないというのが指導層の判断だと思う。最高指導者のハメネイ氏もそれには同意している。あとはどこまで妥協するかで、現実派のロウハニ大統領やザリフ外相とは違うので、そこを詰める必要がある。
11月24日が当面の交渉期限だが、イランと米国、それぞれが100%歩み寄るとは考えられない。対立点としては、濃縮ウランの遠心分離機の数をどうするか、IAEA(国際原子力機関)による査察をどう受け、疑問点にどう答えるか、弾道ミサイルの開発をどうするか、などいくつかある。部分合意に終わり、残りの対立点はまた何カ月かかけて交渉するということを何度か繰り返すことになるのではないか。
その過程で、イランが石油収入を得られるようにしてやり、現政権の維持を保証する。オバマ大統領としても任期中にイランとの核開発交渉をまとめて、低落した自らの評価を上げる成果にしたいのではないか。
■不透明な対シリア政策の行方
――欧米とはとりあえず休戦状況ともいえるシリアの見通しは。
米国は、アサド大統領がいなくなれば、現政権が残ってもいいと考えているだろう。だからこそ、去年から今年初めにかけて、和平交渉をやっていた。しかし、アサド大統領は居座り、交渉は決裂した。
米国はいま、新たな戦略を練っており、最近は化学兵器による自国民の殺害の問題を持ち出している。この問題をハーグ司法裁判所へ提訴することで、圧力をかけ、アサドを辞めさせる。ただ、バース党政権は残さないとシリア国内が混乱するので、アサドなき現政権を欧米が支援する形に持って行こうと考えているようだ。もっとも、それがうまく行くかどうかは不透明だ。
――リビアは石油生産がかなり回復してきている。
日量100万バレル強程度までは行くと思う。ただ、リビアでは今、議会が2つ、内閣も2つ、首相も2人いて、イスラム派と反イスラム派が併存状態にある。これがどこかで融合しない限り、国としての統一が保てない。今は両派ともに資金不足なので石油生産を始めたが、ここから大幅に増えることはなく、両派の力関係がはっきりするまで、内紛が続くことになろう。
■中東の人たちも中国情勢を気にしている
――停戦合意したロシア・ウクライナ情勢についてはどう見ているか。
ロシアの専門家ではないが、ロシアには経済制裁が効いていると思う。そのため、プーチン大統領もある程度のところで妥協しないとまずいと、考えている。あとは、ウクライナの東部をどこまでロシアの勢力圏として国際社会に認知させられるかどうかということだろう。
米国としては、かつてソ連のアフガン侵攻後にサウジを引っ張り込んで原油価格を急落させ、ソ連経済を窮地に追い込んだように、今回も原油価格を下落させる可能性がある。昨今の石油価格下落もそうした動きによるものかもしれない。
――そのほかに注目している地政学リスクは。
チャイナリスクだ。これは原油価格の下落要因となる。不動産価格の下落を見ても、バブル崩壊の兆候が顕著だ。一方で、共産党の中で汚職摘発などを通じた権力闘争が激化している。政治的な混乱と経済的な混乱が重なると、中国経済が大混乱して失速するおそれがある。そうなれば、世界の景気が後退して原油価格が急落する可能性が高まる。中東の人たちも中国に対して大量の原油を売り、原油価格に及ぼす影響が大きいため、中国情勢を非常に気にしている。
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