02. 2014年10月14日 06:40:32
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組織の病気〜成長を止める真犯人〜 秋山進 【第5回】 2014年10月14日 秋山進 [プリンシプル・コンサルティング・グループ株式会社 代表取締役] 失われた20年で大企業から“本当の商売人”が消滅!? 日本企業を覆う「お金を使えない病」 “お金を使った経験”のない取締役が飛びつく 安易なM&Aは悲惨な結果に 皆さんのなかに、会社のお金を“どーん”と使った経験のある人はどのくらいいるだろうか。実は、かなり少ないのではないかと思う。さらに、「いま10億円使えるとしたら、何に使う?」(1億円でも5000万円でも構わないが)と聞かれて、即答できる人はいるだろうか。これまたほとんどいないと思う。 一部の業種を除いて、日本企業のほとんどが、現在、“お金を使えない病”にかかっている。お金を稼ぐ人も、倹約する人もたくさんいるのだけども、“お金を使う人”がいないのである。明日の成果を得るためには、今日そのための準備をしなくてはならない。にもかかわらず、あらゆるレベルで無駄が削られ、お金を使う経験をせずに管理職、そして経営幹部になっていく。経験が乏しいと、何が生きたお金の使い方で、何が死に金かの区別さえつかない。実体験に基づいたお金を適切に使う技術を習得する機会がなかったのだから仕方がないとも言える。 ここで言う、お金を使うとは、定常的な業務以外のところの、将来性のあるビジネスに“張ってみる”ことや、大きな投資で“賭けてみる”、世間の耳目を集めるプロモーションなどで“傾(かぶ)いてみる”ことだ。新しい事業や顧客の新しい欲望を生み出すためには、市場に新たな旗を立てるべく、何らかの形でお金を使っていかないとことには始まらない。 ある大手企業の取締役には、事業の立ち上げや新商品開発、注目を浴びる仕事をした人が誰もいない。バブル崩壊後の20年は、後ろ向きの仕事や守りの事業展開が長かったために、既存事業を堅実に実行してきた人や管理系の人達ばかりが出世したのである。 しかしあるとき、さすがに新規事業に乗り出さないとマズイということになり、巨額の予算をつけ事業開発担当役員を選任すると決めた。そこまでは良かったものの、どうしたら事業が生まれるか、何に投資すればよいか誰もわからないため、全員が担当役員になるのを嫌がった。事業開発担当役員というのは、ババ抜きの“ババ”のような存在になったのである。 そんな彼らのような人たちにとっていいネタがある。M&Aである。すでに存在する企業を買収するのだから、何もないところに投資するよりは実態があり、確実なように見える。数字などいくらでも作れるので、実は意思決定のハードルはそれほど高くない。仮に失敗したとしても、それが明らかになるころには役員を退任しているから、それほど強く非難されることもない。そんなことから、○○分野の強化を図るとか、業界で有力な存在になるといったような漠然とした目標のもとに、安易にM&Aが実行されてしまう。残念ながらその多くは悲惨な結果となる。 一方で、きちんと買収後のことを考え戦略的にM&Aに臨む、生き金を使う企業もある。ただ、その多くは、自らのリスクでお金を使い成長してきたオーナー企業である。 “本当の商売人”は多重人格!? 慎重かつ大胆、実直かつ抜け目ない かつて大坂商人は、「商いに三法あり」として商人に求められる3つの素養「始末」「算用」「才覚」を身につけることを奨励していた。 1つ目の「始末」とは、経理上の数字が合うこと。しっかりした会計を行い、状況を把握し処理することである。2つ目の「算用」とは、儲かるようにビジネスの採算を組み立てて、管理実行することを指す。ここまでは、“真面目”に取り組めば、どんな人でもある程度は身につけることができる。優秀な人材が集う大企業にはいくらでもいる。問題は最後の「才覚」だ。才覚とは一言でいうなら商売のセンスのことをいう。 商売における「センス」とは一体どんなものだろうか。それは“他人がしないことをする……いい意味で不真面目である”ということに尽きる。創造性や革新性で世間をうならせる。タイミングをはかり、世間の注目を引きつけるような面白いことをする。期待を裏切るサプライズをする……。彼らはそうして目立ったお金の使い方をするから世間の注目を浴び、面白い情報が舞い込むし、アイデアがアイデアを呼び、利益もついてくる。面白い情報を雪だるまのように膨らませていく中で、また新しい事業が生まれるし、もっと大きな利益も生まれる。 面白い情報は、面白いことをしている人のところに集まるものだ。「面白い情報ありませんか?」などと言ってくる人のところに、いい情報はやって来ない。商売センスのある人は、情報感度が高いので、いろいろなところで勝負を“張る”ことができる。ニーズがわかるから、人やビジネスを“つなぐ”こともできる。情報をもとに“賭ける”こともできるし、逆に雲行きが怪しくなればいち早く“逃げる”こともできる。 つまり、本来の商人とは、「始末」「算用」という地道で確実な真面目な面と、「才覚」という賭け要素も強く不真面目な面とを併せ持った人のことなのである。言い換えれば、慎重かつ大胆、実直かつ抜け目ない、ちょっとした多重人格性が必要なのだ。今の大企業の組織では、こういう多重人格性を持つ人は生き残れない仕組みになっている。 「お金は使ったら無くなる」のか、 「お金は使わないと入ってこない」のか このように偉そうに言ってはみても、私自身もいまだに、張れないし、傾けないし、(そもそも無いからではあるが)賭けられない。やはり「お金を使えない」のである。どうも我が家がサラリーマン家庭であり、「お金は使うと無くなるから倹約しなさい」と教わって育ったことが大きいのではないかと考えている。 30代前半に独立したころ、すでに起業し成功していた先輩に会社の数字を見てもらったことがある。パッと見て言われたのは、「お金を使っていないからダメだ」という言葉だった。コンサルティングのような仕事をしていると、資料代以外にはあまり大きな額が出ていくことはないから、最初は意味がわからなかった。先輩が言うには、「人と食事したり、いろんな地域を見て回ったり、自己研鑽に励むべく研修に出るようなことにお金を使ってないということは、投資してないということだからすぐに行き詰まる」というのである。確かにそうだと思った。 サラリーマンだったときは、研究開発投資が必要だ!などと偉そうに言っていたが、それはあくまで本で勉強したことであって、実際には子どものころに聞いた「使ったらなくなる」が体に染みついていたのである。一方、先輩が言う商業の基本思想は「使わないと(お金は)入ってこない」である。 日本においては、給与所得者の比率が8割を越え、サラリーマンが社会の圧倒的マジョリティになっている。そうなると「使わないと入ってこない」という商業の基本思想は根本のところで失われているから、お金を使う技術を身につける機会を無理にでも作らないと永遠に習得できないのではないだろうか。 では、どうすれば良いか、ということなのだが、すぐには答えがない。当面の方法としては、新興国で“張ったり”、“賭けたり”する経験をしてもらうか、勢いのある業種でお金を使った経験のある人を獲得するしかないであろう。失われた20年の間に失われたものの中でも、「お金を使うことのできる人」というのは案外大きいのではないかと思う。 (構成/大高志帆) http://diamond.jp/articles/print/60416
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