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消費増税への対応に各社工夫を凝らした(写真撮影:大塚一仁)
消費増税、影響が「想定内」でなかったワケ なぜ日本経済の回復は遅れているのか
http://toyokeizai.net/articles/-/50175
2014年10月11日 櫨 浩一:ニッセイ基礎研究所 専務理事 東洋経済
4月からの消費税率引き上げで経済活動は落ち込むものの、夏場には急速に持ち直すという政府や多くのエコノミストの予想は外れ、回復はもたついている。
7月の鉱工業生産指数は前月比0.4%の上昇にとどまり、8月は同1.5%の低下となった(図)。8月の速報と同時に発表された9月の製造工業生産予測指数は、前月比6%の伸びが見込まれているが、この通りになったとしても7〜9月期の生産は4〜6月期に比べて減少となってしまうおそれがある。
在庫が積み上っているため、在庫の削減が優先され、生産は抑制される可能性が高い。秋以降も、生産の回復ペースは緩やかなものにとどまることが予想される。
政府は消費税率を2015年10月から10%に引き上げるかどうかの判断を、7〜9月期の経済成長率の発表を待って12月に行うことにしている。7〜9月期の高成長を材料に、消費税率を予定通りに引き上げるとの決断は難しくないと思われていたが、状況は微妙になっている。
■今、公共事業を増やしても景気浮揚効果はない
増税を見送った場合の国債金利上昇を懸念して、政府は12月に予定通りの増税を決断する可能性が高いと思われる。だが、その際には、次の消費税率引き上げ時に予想される経済の落ち込みに対して、それを相殺するような財政支出を用意するということが考えられる。これまでの景気対策では、需要の不足に対して即効性のある公共事業を増やすということが多かった。
しかし現在の日本では、従来型の公共事業を増加させる景気対策を行っても建設労働者の不足で事業が執行できないという状況になっている。今回の消費税増税後に予想されていた需要不足に対しては、5.5兆円という規模の2013年度補正予算で対策を講じたはずだった。
しかし、GDP(国内総生産)統計を見ると4〜6月期には公共事業は実質で前期比年率2%の減少(寄与度はマイナス0.1%ポイント)となっており、期待されていたような需要の下支え役にはならなかったことがわかる。(図)
東日本大震災の被災地では、建設関連の技能者の不足から復興事業の遅れが問題となっている。日本全体でも建設関連の労働者不足が起こっており、公共事業をこれ以上増やしても大きな景気の下支え効果が期待できない状況になっている。
日本経済の中には、需要が足りない部分と供給力が足りない部分の両方ができている。消費税の増税で大きく落ち込んでいるのは個人消費に関連した領域の需要であり、公共事業の増加で増える分野の需要とズレがあるので、大きな効果を期待することはできないだろう。
■増税の影響は本当に「想定内」だったのか
消費税率引き上げ後の状況について、当初は政府関係者やエコノミスト、企業関係者からも、「売り上げは落ち込んでいるが想定内だ」という反応が多かった。だが、次第にトーンが変わってきた。
想定内、想定外という言い方は、2005年に当時の堀江貴文ライブドア社長が記者会見で連発して同年の新語・流行語大賞を受賞し、それ以来おなじみになった。しかし、「想定内」という言葉が使われるとき、そもそもどういう想定を置いていたのかがわからないことが多い。増税後の売り上げの落ち込みが本当に想定内なのであれば、これほど在庫が積み上がらなかったのではないか。
増税後の回復について、私やニッセイ基礎研究所のスタッフはもともと慎重な見方をして、2014年度の経済成長率を予測していた。しかし、それをも下回りそうな状況になっている。
予想以上に回復がもたついている原因は、第1に、ウクライナ問題や中東情勢など海外情勢が緊迫するといった「想定外」の事態が起こっていることだ。第2の原因は、大幅な円安にも関わらず輸出が低迷を続けていること、第3に、増税に対する駆け込み需要とその反動の規模が予想を上回ったことがある。
「想定内」と「想定外」の話で、一つ指摘しておきたいのは、「駆け込みの反動減」と「増税による直接の影響」とを混同していたのではないか、ということだ。
■「反動減」と「増税の直接の影響」の違い
問題の原因は、増税後の景気動向を説明する際に、しばしば使われる「反動減」という言い方の曖昧さだ。消費増税前には安い間に買っておこうという駆け込み需要が発生し、増税後は駆け込みで購入された分だけ、モノが売れなくなるという反動減が起こる(図の2つの三角形の部分)。
97年の消費税率引き上げの際には予想をはるかに上回る駆け込み需要が発生し、それを増税前の景気の実勢と見誤るという失敗が起こった。
駆け込み需要とその反動減が非常に大きいので、その動きに目を奪われがちだが、そもそも増税分だけ販売価格が上がっているので駆け込み需要とその反動減がなくても、増税後には同じ1万円で買える商品の量が減るという、「実質所得の低下効果」がある(図の赤い矢印)。このため駆け込みと反動減がなくても、経済成長には増税時に道路の段差のような一時的な落ち込みはどうしても起きてしまう。
売り上げの減少について、「増税の反動減で」という説明がよくみられる。しかし、「駆け込み需要の反動減」と「増税による直接の影響」がはっきりと区別されず、混同されているおそれがある。
駆け込み需要が予想以上に大きかったという要因は、反動減も大きなものにするが、時間とともにマイナスの影響は小さくなっていく。しかし、増税によってモノが値上がりした効果は消滅しないので、消費が元の水準に戻るためには所得が増税分を賄うだけ増える必要がある。
混同されたことで、後者についての認識が不十分となり、想定が楽観的となったのではないか。そのために、増税後の在庫の積み上がりが大きくなってしまい、回復を遅らせてしまったと考えられる。
消費増税が短期的には景気にマイナスだからといって、いつまでも先送りすることは、財政破綻のリスクを次第に高めて行ってしまう。増税を進めず現状維持をすると、破綻までのタイムリミットがさらに短くなり、より急ピッチの増税が必要になる。増税による経済へのマイナスはより大きな痛みを伴うものとなり、ますます増税が実現し難くなってしまい、さらに状況が悪化するという悪循環に陥る。これを避けようとすると、どうしても増税後の経済の姿として楽観的なものを提示して増税を前進させようということになる。
■増税のために、楽観的な見通しが示されがち
2010年に23%だった日本の高齢化率(65歳以上人口が総人口に占める割合)は、2060年には39.9%にも達する。日本に残された道は長期間に渡って少しずつ増税と歳出抑制を続けるしかない。政府は一度限りであれば、楽観的な見通しで国民を鼓舞して改革を推し進めることが可能かもしれないが、何度も繰り返して国民の期待を裏切れば、信頼を失うおそれが大きい。
「景気は気から」ということもしばしば言われて、慎重な見通しや予測は、せっかく盛り上がっている世間の雰囲気を悪くするとして批判されることも少なくない。しかし、今回の消費税率引き上げに伴う在庫の増加は、楽観的な見通しが引き起こしたものではないか。
増税の影響により、4月の鉱工業生産指数は前月比マイナス2.8%と低下したが、増税の影響が正しく認識されていれば、もっと大きなマイナスになった可能性がある。しかし、一方で、その後の在庫の積み上がりはこれほど大きくはならず、低迷をより短期間で終わらせることができたかも知れない。
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