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「タマ」はまだ取っておきます! photo Getty Images
政府もIMFも弱気なのに、日銀だけはなぜ強気なのか?現状維持政策の読み方
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/40720
2014年10月10日(金) 長谷川 幸洋「ニュースの深層」 現代ビジネス
日銀が10月7日に開いた金融政策決定会合で、景気は「緩やかな回復を続けている」という基調判断を据え置いた。
■日銀の強気は突出して異様
一方、内閣府は同日に発表した景気の現状を示す指数の低下を受けて、基調判断を「下方への局面変化を示している」と引き下げた。政府が弱気なのに、日銀はなぜ強気なのか。
弱気なのは日本政府だけではない。国際通貨基金(IMF)も2014年の日本を0.9%成長と予想し、7月時点の見通しから0.7%ポイントも引き下げた。4月の消費税引き上げで4〜6月期の成長率が予想以上に落ち込んだためだ。さらに言えば、15年についても0.8%成長と同じく0.2%ポイント引き下げた。
私はよく各地の中小、零細企業経営者たちと話をする機会がある。8日には兵庫県姫路市で税理士たちの話を聞いたが、彼らは異口同音に「私たちの顧客である中小、零細企業には景気回復の実感がありません。厳しい状況ですね」と言っていた。
田園風景が広がる田舎に行けば、道を走っているのは軽自動車ばかりだ。生活の足になっている軽自動車のガソリン代値上がりが可処分所得を直撃している。家族数にもよるが、一世帯当たりでトータルの所得減は1万円を超える場合もあるという。これは物価上昇を加味した実質ではなく名目の話である。目の前で現金が消えていくのだ。
そういう肌感覚や政府、IMFの発表と比べると、日銀の強気は突出していて、やや異様な感じさえある。
■10%消費増税がどちらに転んでも「いま緩和する必要はない」
日銀内の事情に詳しいウォッチャーに話を聞くと、実は日銀の中でも意見が割れているらしい。それはそうだろう。「景気の先行きについて、事務方ではこの数週間で急速に弱気派が増えました。日銀は上司の顔色をうかがう“ヒラメ集団”でもあるので、トップの黒田東彦総裁が強気だと、あえて表で異論を唱える人はいませんが…」という。
事務方だけではない。岩田規久男副総裁と黒田総裁の間でも意見が割れている、という説もある。岩田本人に確かめたわけではないから、それはひとまず措くとしよう。
私は金融政策決定会合がまだ続いていた7日午後、テレビの生番組(BSスカパーの『チャンネル生回転TV Newsザップ!』)に出演していた。景気判断と金融政策の据え置き決定を聞いて「あ、これはタマを出し惜しみしたな」と直感し、番組でそう解説した。
黒田総裁はこの先に控えている消費税増税問題をにらんで景気判断の変更と追加緩和を先送りした。私はそう思う。本来なら、ここで追加緩和に踏み切ってもおかしくない局面なのに、緩和どころか景気判断も現状維持にしてしまったのだ。
ご承知のように、安倍晋三政権は消費税を10%に引き上げるかどうか、7〜9月期の国内総生産(GDP)の数字をみて12月に判断する方針だ。ここで増税断行を決断すれば、政権は増税による一段の景気悪化を防ぐために、政策でテコ入れしなければならない。本当は増税しなくてもテコ入れが必要なくらいの局面だ。補正予算の編成と追加金融緩和である。
補正予算編成は政府の裁量で可能だが、金融緩和は日銀の仕事である。建前はそうだが、政府は日銀に意見を述べることができる。当然、日銀に緩和圧力がかかる。黒田総裁とすれば、それはいまから十分に予想できるから、そのときに備えていまは緩和に踏み切らない。つまりタマをとっておいた。
逆に増税を先送りした場合、露骨な緩和圧力はなくなるので、日銀には裁量の余地が広がる。そうであれば、緩和を急ぐ必要はない。増税先送りは前向きなサプライズになって、景気にプラス効果さえ生むかもしれない。それなら、なおさらいま緩和する必要はない、という話になる。
■日銀と朝日新聞の発想は同じ!?
政府やIMFが言うように、景気が下向いているのは間違いないので、本来なら日銀は7日の金融政策決定会合で追加緩和してもおかしくなかった。景気が本当に落ち込んでしまってから緩和しても遅い。むしろ、景気の方向を先取りして緩和するくらいでちょうどいいのだ。
それなのに、緩和どころか日銀の景況感は「緩やかな回復を続けている」だった。これはおかしくないか。なぜそうなったかといえば「増税に備えて追加緩和を先送りしたい」という政策判断が先にあって、それに合わせて「景気は大丈夫」と言っているのではないか。そうだとしたら、話が逆だ。
黒田総裁はかねて「消費税は10%に増税すべき」という立場である。だから黒田にしてみれば、増税実施を前提に金融政策を考えるのは当然である。そうすると、いずれ増税になる(すべきだ)→そのときは追加緩和で後押しが必要になる→だから緩和ダマはとっておく→むしろ、いま緩和したら景気悪化を認める結果になって、増税が先送りされかねない→だから景気判断は現状維持で当然、緩和もしない。そういう話ではないか。
本来は現状認識に基づいて政策を判断すべきなのに、政策判断が増税優先だから現状は大丈夫と強弁しているように聞こえる。判断が先にありきという話だとすると、朝日新聞問題とそっくりである。自分たちのスタンスが先にありきで、肝心の事実をつまみ食いして報道したのが朝日新聞だった。日銀も同じ発想なのか。
■中国発で経済が動く局面
もう1つ、消費税以外でも景気への懸念材料がある。それは中国だ。中国は7%成長とか言っているが、実はそんな高成長はとっくに幻になっていて、いまやゼロ%成長くらいに落ち込んでいるのではないか。信頼できない公式のGDP統計ではなく、石炭の生産や販売量を基に、そういう観測が中国専門家から出ている。
ゴーストタウン化した各地のマンション街やショッピングセンターが雄弁に物語るように、中国ではすでに不動産バブルが弾けた。不動産投資はシャドーバンキングで集めた資金が高利回りを生み出す「金の卵」だった。卵が壊れてしまったから、もう高利回りは実現しない。つまりシャドーバンキングの破綻は必至である。
そういうプロセスが足元で始まっている可能性が高い。11月には北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)を控えているから、それまでは何がなんでも経済破綻を抑えこむだろうが、その後は何が起きるか分からない。中国が沈めば、対中輸出で持ちこたえている韓国も沈む。
先の日銀ウォッチャーも「黒田総裁の頭には消費税だけでなく、中国の景気後退懸念もあるでしょう。ゼロ成長に落ち込んだ欧州に加えて中国まで沈んでしまったら、日本は大打撃です。日銀は否応なく緩和せざるをえなくなります。それを見越して緩和ダマは残しておく、という判断もあるでしょう」と言った。
ここから先は経済が動く可能性が高い局面だ。残念ながら下向きに。
(一部敬称略)
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