01. 2014年10月10日 07:18:48
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ノーベル賞、4人に1人が「移民」中村修二教授の受賞が示した米国の磁力 2014年10月10日(金) 細田 孝宏 今年のノーベル物理学賞受賞を伝える米ニューヨークタイムズ紙(電子版) 「2 Japanese and 1 American Share Nobel in Physics(日本人2人と米国人1人がノーベル物理学賞を分け合った)」。米ニューヨークタイムズ紙の記事の見出しはこうだった。英経済紙のフィナンシャルタイムズも次のように書き出している。「Two Japanese scientists and a Japanese-American have won the 2014 Nobel Prize for Physics(日本人2人と日系アメリカ人1人が2014年のノーベル物理学賞を受賞した)」。
ノーベル物理学賞、日本人は「3人」ではなく「2人」 青色LEDの研究で3人の「日本人」がノーベル物理学賞に決まったことを受けて、様々なニュースが流れた。3人のうち特に話題になったのが、中村修二・米カリフォルニア大学サンタバーバラ校教授ではないだろうか。日亜化学工業時代の開発の対価を巡って会社と裁判を争った経緯が再び取り上げられたこともあるが、受賞後のインタビューで本人が述べているように、米国籍を取得していたからだ。それゆえ欧米メディアでは「日本人2人」という表記になったわけだ。 日本は二重国籍を認めていない。よって文部科学省がノーベル賞受賞者を国別で数える場合、中村教授は日本人に含まれない。だから今回の日本人受賞者は、国の記録としても2人ということになる。2008年にシカゴ大学の南部陽一郎・名誉教授がノーベル物理学賞を受賞したときと同じ扱いだ。 ネット上では、日本に対する辛辣な言動も相まって、日本より米国を選んだ中村教授に批判的な意見も少なくない。だが、考えるべきは中村教授によって、またリストに1人の受賞者を加えた米国の強みではないだろうか。 2000年以降も移民の受賞比率変わらず たまたまではあるが、10月8日に米連邦準備理事会(FRB)のベン・バーナンキ前議長の講演を聞く機会があった。バーナンキ氏は、米国は経済成長を続けるとの考えを示し、その理由の1つとして「移民の流入があること」を挙げていた。中村教授もその米国に流入した「移民」の1人ということになる。 そこで思いついたのが、米国では移民によるノーベル賞受賞数がどのくらいあるのかということだ。ウィキペディア(英語版)で調べてみた。 10月8日の化学賞発表時点までのノーベル賞を数えると米国は353。これは日本で流布されている数字とは異なるかもしれない。まず、二重国籍の受賞者をどうカウントするかで違いがあるのだろう。また、根岸英一・米パデュー大学特別教授(2010年に化学賞)や下村脩・米ボストン大学名誉教授(2008年に化学賞)という日本国籍の研究者もリストに見受けられるから、若干いい加減な資料であることは考慮に入れる必要がある。その点、あらかじめ断っておく。 リストでは、外国生まれの受賞者には「born in( 国名・地域名)」と注釈がついている。これを数えると90人となった。全体のおよそ4人に1人が移民ということだ。イスラエル、南アフリカ共和国、オーストリア、ドイツ、カナダ、インド、中国、ロシア、エジプト、メキシコ、ハンガリー…、出身は様々だ。もちろん日本もある。中村教授と南部教授がこれに該当する。 もっとも、そもそもが移民でできた国である。そこで最近の傾向を見るために、2000年以降に絞って数えてみた。対象期間の受賞者は99人。うち25人に「born in 〜」とある。前述したように、これには根岸教授、下村名誉教授が含まれるので、実際はここから少なくなるが、おおむね4人に1人が移民という傾向は変わらない。移民が原動力の1つなのは健在だということになる。 ノーベル賞の国別受賞者総数には、政治的な色彩の濃い平和賞や地域間の持ち回りとも揶揄される文学賞も含まれるので、必ずしもその国に対する学術的な評価と一致するとは限らない。それでも外国出身の研究者がどれだけ受賞するかは、優秀な研究者を引きつける磁力があるかどうかを示しているだろう。 「誰も来ない国」でいいのか 筆者は昨年、米国に活動の場を移している中村教授に、「日本が有能な人材を引きつけるには何が必要か」というテーマでインタビューした(前編、後編)。 「日本は規制天国ですな」 「一回完全に沈没して古いシステムをがらっと変えないといかんでしょう」 「司法制度、教育制度、ありとあらゆるシステムをすべて壊して今の時代にあったシステムにしないと存在していけない」 こう日本をなで切りにした。インタビューの趣旨に対する結論としては、「日本が海外の人材の引きつけるのは無理」ということだ。 移民問題へのアレルギーもあるので難しいのかもしれないが、日本がなすべきことは、ノーベル賞候補となれる日本人を育てると同時に、外国生まれの研究者が日本で活動しやすい環境を整備することではないか。 中村教授が言う「誰も来ない国」でいいのか。2008年の南部教授に続く“日系アメリカ人”によるノーベル賞受賞は、日本の課題を映し出している。 このコラムについて ニュースを斬る 日々、生み出される膨大なニュース。その本質と意味するところは何か。そこから何を学び取るべきなのか――。本コラムでは、日経ビジネス編集部が選んだ注目のニュースを、その道のプロフェッショナルである執筆陣が独自の視点で鋭く解説。ニュースの裏側に潜む意外な事実、一歩踏み込んだ読み筋を引き出します。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/topics/20141009/272365/?ST=print |