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04. 2014年9月03日 05:59:56 : jXbiWWJBCA 100ドルスマホで急成長、 台湾メディアテックの「逆行」戦略とは 分かっていてもできなかった日本DRAM産業 2014年09月02日(Tue) 湯之上 隆 トップ10入り間近のメディアテック 100ドルスマホ用プロセッサで躍進を続ける台湾のファブレス、メディアテック(MediaTek)が、2014年上期の世界半導体売上高ランキングで12位に入った(図1)。また、2013年上期から2014年上期にかけては、トップ20の半導体メーカーの中で、断トツの38%の成長率となっている。 図1 2013年上期〜2014年上期の半導体売上高トップ20と同期間の成長率 出所: IC Inshights のデータをもとに筆者作成 メディアテックのすぐ上にランクされている8位・東芝(-9.1%)、9位・Broadcom(0.4%)、10位・ルネサス(0.8%)、11位・STMicroelectronics(ST、-9.2%)の成長率が低いことから、1年後にはこれらをごぼう抜きにして、メディアテックがトップ10入りする可能性が高い。
さらに、2013年の半導体売上高と営業利益率の関係を見てみると、メディアテックは18%の営業利益率をあげており、もう少しで20%以上の高収益半導体メーカーの仲間入りをしそうな勢いである(図2)。 図2 2013年の半導体売上高と営業利益率の関係 出所: 各社のIRデータを基にして筆者作成 ここで、世界半導体ビッグ3の中では、台湾TSMCが相変わらずの高収益35.1%をあげているのに対して、これまで30%以上が当たり前だったインテルおよびサムスン電子は、それぞれ、23.3%および18.4%と大きく利益率を下げている。
一方、ファブレスのQualcomm、メモリの SK Hynix、DSP(Digital Signal Processor)の Texas Instruments(TI)が20%以上の利益率をあげている。また、売上高規模は大きくないが、Linear Technology が何と45%の利益率をあげるなど、アナログとFPGA(Field Programmable Gate Array)メーカーに高収益メーカーが複数存在する。 分業を嫌ったから日本は衰退した? 最近、日経新聞の電子版に掲載された記事「日の丸半導体 衰退招いた『分業嫌い』の真相、電子立国は、なぜ凋落したか(4)」(2014年8月21日)には、垂直統合型(IDM)よりファンドリやファブレスの方が成長率が高く、また日本半導体メーカーはファブレス-ファンドリへの分業を嫌い続けたことが、衰退の一因となったと書かれている。 しかし、これには大きな違和感を覚える。実際に、図1および図2を見れば、ファブレスだから、またはファンドリだから、成長率や利益率が高いというわけではないことが分かる。 例えば、ファンドリにおいてはTSMCだけが成長率も利益率も高いが、UMC、Global Foundry、などは成長率や利益率は高くない。同様に、ファブレスでは、Qualcommやメディアテックの成長率や利益率は高いが、BroadcomやAMDは必ずしも高くない。またIDMにおいても、ルネサスやSTは成長率も利益率も低いが、メモリ(IDM)の SK Hynix は成長率も利益率も高い。いくつかのアナログメーカー(IDM)の利益率も抜群に高い。 つまり、ファブレスやファンドリになれば成功するとか、IDMだからダメだとかいうことは一概には言えない。したがって、分業しなかったから日本半導体産業が衰退したという主張には納得できない。日本が衰退した要因は別にある。 2000年に日本がDRAMから撤退したのは、コンピュータ業界がメインフレームからPCへパラダイムシフトしたにもかかわらず、相変わらずPC用に25年保証の過剰品質のDRAMを作り続けていたことに原因がある(「日本半導体産業が冒されている病気 技術者たちへのインタビューで明らかに」)。 2000年以降、日本がSoC(System on a Chip)で壊滅的になったのは、SoCの本質がシステムにあるにもかかわらず、システム設計に注力しなかった(あるいはシステム設計ができなかった)ことが原因だ(「雑誌のせいにされた日本半導体の凋落 SoCへ舵を切ったのは実は間違っていなかった」)。 メディアテックの成長の原動力 話をメディアテックに戻そう。ファブレスとしてメディアテックが急成長している。成長率は断トツで、ファブレスにおける営業利益率はQualcommに次ぐ高さである。その原動力はどこにあるのか? Qualcommもメディアテックも、現在はスマホのアプリケーションプロセッサ(AP)を基幹事業としている。 2014年第1四半期の営業利益率は、Qualcommが31.3%、メディアテックが24.4%だった。まだ両社に差はあるものの、どちらも高収益率をあげている。しかし、そのビジネスモデルは大きく異なる。 図3に、Qualcommとメディアテックが販売している半導体チップの四半期ごとの平均価格推移を示す。Qualcommが20ドル前後であるのに対して、メディアテックは5ドル前後である。この平均価格には、AP以外の半導体チップも含まれているので、純粋にAPの価格比較にはならないが、メディアテックがいかに安価な半導体チップでビジネスを行っているかが分かる。一説によれば、メディアテックのAPは、Qualcommより3〜5割以上安いという。 図3 QualcommとメディアテックのLSI平均販売価格の推移 出所: ガートナーのデータをもとに筆者作成 これほど安価なチップであるのにもかかわらず、なぜ、メディアテックは24.4%もの高利益率をあげることができるのか?
図4に、Qualcommとメディアテックの半導体チップの四半期ごとの出荷個数推移を示す。メディアテックの出荷個数は、常にQualcommより多い。直近では、Qualcommが約2億個であるのに対して、メディアテックは1.75倍の約3.5億個を四半期に出荷している。 図4 QualcommとメディアテックのLSI出荷個数の推移 出所: ガートナーのデータをもとに筆者作成 つまり、メディアテックの半導体チップは安価だが、出荷個数が膨大であり、ここに規模の経済が働いて、利益率を向上させていると思われる。
しかし、メディアテックが高収益率をあげている要因はこれだけではない。関係者への取材から、「わざと遅れて市場に参入」「決してハイエンドにはいかない」という実にユニークな戦略を採用していることが分かった。 この戦略を紹介する前に、新製品がどのように普及するかを説明する。 ロジャースのイノベーションの普及理論 新製品がどのように普及していくかについては、1962年に米スタンフォード大学の社会学者であるエベレット・ロジャース教授によって提唱された「イノベーションの普及理論」がよく知られている。ロジャースは、様々な新製品がどのように普及していくかを研究した。その結果、あらゆるものの普及は、S字曲線を描くこと、新製品の購買層は5つに分類されることを示した(図5)。 図5 ロジャースのイノベーションの普及理論 (1)イノベーター(Innovators: 冒険者)
ある新製品が発売された時、真っ先にこれを買い求める層のことである。例えば、2007年にiPhoneが発売されたとき、何日も前から店頭に野宿をして並んでこれを買い求めたような人たちである。市場全体の2.5%を構成する。 (2)アーリーアダプター(Early Adopters: 挑戦者) 彼らは社会と価値観を共有しながら、流行に敏感で、情報収集を自ら行い、自分で判断する人たちである。市場全体の13.5%を構成している。アーリーアダプター層は他の消費層への影響力が高く、それゆえ「オピニオンリーダー」と呼ばれる。彼らの意見が、商品普及の大きな鍵を握っている。 イノベーターとアーリーアダプターの合計16%の壁を突破すると、拡大普及期に入る。16%の壁のことを「キャズム」と言う。新製品の多くがこのキャズムを越えられずに消滅していくことが知られている。 (3)アーリーマジョリティ(Early Majority: 実用採用者) 新しいものの採用には比較的慎重であるが、平均より早く新しいものは取り入れる層である。市場全体の34.0%を構成している。アーリーアダプターの影響を強く受けて、新商品が市場へ浸透するための媒体層となるため「ブリッジピープル」と呼ばれる。 (4)レイトマジョリティ(Late Majority: 追従採用者) アーリーマジョリティまでに普及率は50%に達するが、その後に購入する層をレイトマジョリティと呼ぶ。彼らは、新しいものの採用には比較的懐疑的で、周囲の大多数が使用しているということを確認してから、同じ選択をする。市場全体の34.0%を構成している。普及率50%を超えてから導入を始めるため「フォロワーズ」と呼ばれる。 (5)ラガード(Laggards: 伝統主義者、もしくは“まぬけ”) 最も保守的な人々の層で、流行や世の中の動きに関心が薄い層をラガードと言う。伝統主義者(または“まぬけ”)とも言われ、イノベーションが伝統になるまで採用しない。市場全体の16.0%を構成する。中には最後まで採用しない者もいる。 あえて遅れて市場に参入 このような新製品の普及過程において、Qualcommなどは、イノベーターやアーリーアダプターの時期から市場に参入し、新技術や新製品の開発に邁進しているだろう。 しかし、メディアテックは、あえてこの時期には参入しない。新製品の普及が、レイトマジョリティの段階に入ったあたりで市場に参入する。その理由は次の通りである。 まず、イノベーターやアーリーアダプターあたりで参入すると、キャズムの壁を越えられず、それまでの苦労がすべて水の泡になる可能性がある。 また、アーリーマジョリティまでは、技術革新が次々と生じる。したがって、この時期に参入すると、相当な開発費がかかる。しかし、普及率50%を超えたあたりから技術は飽和してくる。したがって、これ以降の開発費はあまりかからない。 そこでこの段階で満を持して、メディアテックは市場に参入するのである。その際、コストパフォーマンス(つまり安さ)で他社との差異化を図る。メディアテックが100ドルスマホで躍進し始めたのは、このような背景がある。 ハイエンドはやらない こうしてメディアテックは、普及率50%を超えたあたりで市場参入するが、その後も、ユニークな戦略で突き進む。その特徴を、製品の性能を軸に説明しよう(図6)。 図6 メディアテックの戦略 スマホの性能を、ハイエンド、ミドルエンド、ローエンドに分類したとすると、メディアテックは、まず、ミドルエンドの下位、つまり、ミッド・ローからスタートする。その後、ミッド・ミッド、ミッド・ハイと、少しずつ、性能の高い製品群へ移行する。
ところが、ミッド・ハイに到達した後、ハイエンドには行かずに、ローエンドを攻める。スマホで言えば、100ドルスマホで少しずつ性能の高い製品をリリースして行った後、その次は、決してハイエンドへは行かずに、25ドルの超低価格スマホを攻略する。 多くのエレクトロニクス関連企業が、ミドルエンドからハイエンドへ、そして超ハイエンドへと、ひたすら上を向いて製品開発や技術開発をしている。その中にあって、ミドルエンドからローエンドへ移行するメディアテックの戦略は実にユニークである。 しかし、この戦略は極めて合理的である。ロジャースの新製品の普及理論で言えば、メディアテックは、レイトマジョリティを攻略した後、次にターゲットにするのはラガードである。そして、ラガードにとっては、ローエンドこそが相応しいからだ。 実は難しいグレードダウン 実は、性能や品質をグレードダウンするのは、簡単なことではない。日本のDRAM産業は、コンピュータ業界がメインフレームからPCへパラダイムシフトしたにもかかわらず、相変わらず25年保証の超高品質DRAMを作り続けてしまったために、韓国メーカーなどの安く大量生産する技術に駆逐されてしまった。 日本DRAM産業は、コンピュータ業界のパラダイムシフトも分かっていたし、韓国メーカーがマスク枚数を減らした安価なDRAMを製造していることも知っていた。しかし分かっていても、グレードダウン、スペックダウンすることができなかった。それほど、上から下に降りるのは困難なのだ。それを、会社の戦略として、メディアテックはいとも簡単にやってのけるのである。 日本の半導体や電機メーカーは、高付加価値のハイエンドばかりを攻める傾向がある。そして、営業利益率は10%にも届かない。一方、メディアテックはハイエンドを避け、ミドル〜ローエンドだけで、約25%もの高利益率をあげている。 高利益率をあげるには、メディアテックのような戦略もあるということを学ぶべきである。 |