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［真相深層］携帯「現金還元」が再燃
ｉＰｈｏｎｅ６発売で顧客争奪 総務省、募るいらだち
米アップルが新型スマートフォン（スマホ）「ｉＰｈｏｎｅ（アイフォーン）6/6プラス」を発売したのを機に、携帯電話会社の間で販売競争が激しくなっている。各社は下取り価格を競い合い、一部では今春に下火となった高額の現金還元も復活した。総務省は携帯各社の競争の適正化に苦心してきたが決め手を欠き、いらだちを募らせている。
店頭に並んだ「ｉＰｈｏｎｅ６」(左)と「ｉＰｈｏｎｅ６プラス」（９月19日、東京・丸の内）
原資は通信料
10月初めの東京・新橋。ＮＴＴドコモやＫＤＤＩ（ａｕ）などのロゴを大きく描いた看板が掲げられている携帯販売店に足を踏み入れてみた。
「番号持ち運び制度（ＭＮＰ）での乗り換えを考えているんですけれど」。近寄ってきた店員にそう言うと、「ａｕのｉＰｈｏｎｅ５ｃへ２人一緒に乗り換えるのであれば、４万円の現金還元がありますよ」と教えてくれた。
携帯各社による現金還元の原資は元をたどれば、利用者が毎月払う通信料に行き着く。総務省はかねて「携帯会社を頻繁に乗り換える一部利用者だけが得をして、長期利用者があおりを食う構図は不健全」と主張。今春には事実上の指導が入り、販売店の店頭から一斉に姿を消した。新橋の販売店に目立つポスターはない。しかし「１カ月ほど前から実施している」と店員は語った。
ｉＰｈｏｎｅは国内の利用者が2400万人程度にのぼる。新製品が登場すると買い替え需要を取り込もうと、携帯各社による顧客争奪戦は激しさを増すが、その手法は現金還元ばかりではない。
2013年にｉＰｈｏｎｅに参入したドコモは今回、発売当日から全店で取り扱うなど万全の体制で商戦に臨んだ。「ドコモがｉＰｈｏｎｅを取り扱っていなかったために、他社へ乗り換えたという顧客に戻ってきてほしい」。加藤薫社長はそう語り、他社の契約者が保有するｉＰｈｏｎｅを最大４万3200円で引き取る破格のキャンペーンを打ち出した。
すかさずソフトバンクモバイルが追随。ＫＤＤＩは当初、「ネットワーク（のつながりやすさや速度）が重要だ」（石川雄三専務）と様子見を決め込んでいたが、発売２日前になって同様のキャンペーンの実施を決めた。
下取りについてドコモの加藤社長は「価値のあるものを引き取り、再利用する」と話し、現金還元とは異なると主張する。だが各社のキャンペーンの中には、１世代前の「５ｓ」より２世代前の「５」の方が下取り価格が高いという不思議な現象も起きている。「５」の発売時期はちょうど２年前。保有者が買い替えて、他社に乗り換える可能性が高いためだ。
大手携帯販売会社の首脳はこうした競争を「形を変えた現金還元。進みすぎると（規制強化につながりかねず）怖い」と語る。実際、総務省が９月25日に開いた通信関連の有識者会議では現金還元への非難が相次ぎ、委員の一人で消費者団体幹部の長田三紀氏が「これまでの競争の適正化議論は何だったのか」と声を荒らげる場面もあった。
料金再規制論も
総務省には現金還元や高額の下取りが一部の利用者を利しているという問題意識のほか、「資金力のない格安スマホ会社の新規参入を妨げ、日本の携帯料金の高止まりが是正されない」（幹部）との思いがある。
しかし、いくら歯ぎしりしても打つ手はあまりない。1985年の通信自由化以降、通信料は認可制から届け出制に変わった。04年には新規参入が増えて競争が十分に進んでいるとの判断から、届け出制も廃止している。その後、設備投資競争で中下位企業が次々とふるい落とされ、携帯３社の寡占状態になった。総務省の思惑は外れ、顧客争奪戦を鎮める手段を欠いている状態だ。
携帯会社も現金還元などは財務を傷めるため、「可能なら避けたいところだが、競争上、続けざるを得ない」（大手首脳）。各社はやめるにやめられない囚人のジレンマに陥っている。
激しい顧客獲得競争は最終的に消費者の利益にならないばかりでなく、各社の首を絞めかねない。総務省では「料金規制の復活もやむを得ないのではないか」との強硬論さえささやかれ始めている。
（奥平和行、江渕智弘）
［日経新聞１０月４日朝刊Ｐ．２］
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