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景気回復のもたつきが続いている。景気が持ち直していく道筋や政府・日銀の対応について、専門家に聞く。
(上)
追加緩和を見送りか
JPモルガン・チェース銀行債券為替調査部長 佐々木融氏
――円安が日本経済に与える影響は。
「基本的に日本経済にプラスだ。日本は外貨建てで469兆円の対外純資産を持つ。1%の円安で日本の富は4兆円以上増える。原材料などの輸入コストが高まる分も、企業が海外から受け取る所得が増える分でほぼ相殺される」
「ただ、円安が行き過ぎると悪いインフレを招く恐れがある。日本は貿易赤字となり、円安が物価に与える影響は高まった。前年比10%の円安なら物価を0.5%ほど押し上げる。個人消費の回復が鈍い中でコスト増加によるインフレが進めば経済への悪影響は大きい。いまの為替レートは円安のマイナス面がプラス面を上回る分水嶺に差し掛かりつつある」
――日銀はどう動く。
「金融政策は現状維持が当面続くだろう。すでに長期金利はきわめて低い水準にあり、追加緩和が景気を刺激する効果は限られる。足元の円安を助長し、景気を冷やす恐れも出てくる。昨年まではデフレ脱却に向け、円高是正をもたらすことは必要だったが、いまは緩和の副作用も警戒しなくてはならない。景気と物価への影響を総合的に判断して、追加緩和を見送ると予想している」
「円安の流れは徐々に一服するだろう。この1カ月の円安・ドル高で米国の来年6月ごろの利上げはほぼ織り込んだからだ。円の実質実効為替レートも過去最低の水準にあり、日米の経済・物価情勢に大きな変化が生じない限り、一段の円安は進みづらい。投機筋の取引が増えているため目先は値動きが荒そうだが、来年末までは1ドル=110円を中心とした相場が続くとみている」
節約志向が消費抑制
第一生命経済研究所主席エコノミスト 新家義貴氏
――もたつく景気をどう見る。
「生産と個人消費が想定よりもかなり下振れした。足元で持ち直しているかも確かではない。4月の消費増税前は2014年度の実質経済成長率は1%弱と見ていたが、今は0.2%のマイナス成長と予想している」
「個人消費の動きを見誤った。減税や給付金などの経済対策があるので駆け込み消費も反動減も小さいと見たが、実際はともに大きかった。物価の伸びに賃金の増え方が追いつかなかったためだろう」
「夏場の天候不順がもたつきの理由と考えるのは違和感がある。内閣府の景気ウオッチャー調査を見ると、街角の景況感がさえないのは天候不順だった西日本だけというわけではない。駆け込み消費が少ない外食なども良くない。節約志向が強まり、消費が抑えられたと見るべきだろう。足元の景気は底ばいの状態だ」
――景気はいつ、はっきりと回復するのか。
「反動減はいずれ和らぐ。雇用環境や賃金もまだ悪くなっていない。海外経済も順調に戻るだろう。10〜12月は上向きになる。しかし国内では企業に在庫の積み上がりが目立ち、これを取り崩す過程で生産が伸びなければ、成長率は抑えられる。回復の感覚は乏しいかもしれない」
「実質成長率は下振れしそうだが、日銀は景気に強気な見通しを崩していない。追加の金融緩和があるとすれば、異次元緩和から2年がたつ来年4月に、物価上昇率が2%の目標よりもかなり小さい場合だろう。政府は来秋の消費再増税を予定通り実施すると決断したうえで、5兆〜6兆円の大型の補正予算を編成する可能性が高いと見ている」
[日経新聞10月3日朝刊P.5]
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もたつく景気 専門家の見方は
(下)
労働改革で輸出競争力を
みずほ銀行チーフマーケット・エコノミスト 唐鎌大輔氏
――今後の円相場の見方は。
「心配しても、しなくても円安は進む。貿易黒字だった超円高時とは異なり、今や貿易赤字。米国の利上げ見通しや投機筋の動きだけでなく、輸入企業の円売り・ドル買いという日本に起因する実需の円安要因も効いている。来年は1ドル=115円程度まで円安が進むと見込んでいる」
「これまでは円安をテコに輸出を伸ばすことを狙っていたが『円安のコスト』を意識すべき時期に差し掛かってきた。9月の日銀短観では円安の恩恵を受けるはずの大企業製造業でさえ、先行きの景況感は横ばいにとどまり、今年度の輸出計画は下方修正された。円安が実体経済に与えるプラス効果を見いだしにくくなっている」
――円安コストとは。
「輸入物価が上がる一方、輸出は伸びず、海外に所得が流出する交易損失が生じている。個人レベルでは、円安でガソリンや食料品の価格が上がり、物価上昇率を差し引いた実質賃金が1990年の統計開始以来で最低水準だ。このことが個人消費を押し下げている」
――どう対応すればいいのか。
「円安が進むことを前提に、コストを抑える取り組みが必要だ。交易条件を改善するには、どれだけ輸入物価の上昇を抑え、どれだけ輸出物価を引き上げられるかだ。特に原子力発電所の稼働停止後、エネルギーの輸入コストが膨らんでいる。再稼働も含めて、輸入コストを抑えるエネルギー戦略が求められる」
「輸出物価を引き上げるには、企業自身が輸出競争力を取り戻すことが必要になる。成長戦略で労働市場改革を進めたり、競争環境を整えたりすることが大切だ」
円安は観光などでも恩恵
三菱UFJモルガン・スタンレー証券 景気循環研究所長 嶋中雄二氏
――景気は後退局面にあるのか。
「関東で大雪が降った2月から、生産が落ちている。今年前半は欧州と中国、その他の新興国の経済が総じて弱く、輸出が伸びなかった。8月に雨が多かったという天候不順も大きい。景気が一定の期間、広い分野で深く落ち込んだことを踏まえれば景気後退というところまで追い込まれた」
「しかし、この先を悲観する必要はない。内閣府がまとめ数カ月先の景気を映す景気先行指数は6月から上向きだ。景気の先行指標といえる株価は4月を底に上がってきている。設備投資も増える局面にある。景気は8月に底入れして、9月から再回復に向かっていると思われる」
――円安の景気への影響をどう見るか。
「物価が上がると生活実感が苦しくなるという面はある。負担増は1年限りでの所得減税などをすれば目配りできる。一方で株高の原動力は円安だ。円安を有害と考えてしまうと、デフレからの脱却を目指す動きが逆戻りしてしまう。地方経済も潤している外国人観光客は、円安を前提にしなければ増えない。今や観光は、国内総生産(GDP)で見て自動車や電機を上回る規模がある」
「景気がずるずると悪くなる可能性は小さい。政府は2015年10月に消費税率を10%に上げると決めるだろう。4兆〜5兆円規模の経済対策は必要だ。日銀はマネタリーベース(資金供給量)を14年末に270兆円と前年末より約70兆円増やすとしている。10月31日に経済・物価情勢の展望(展望リポート)を出すタイミングで15年末には340兆円に増やすとの方針を明確にして、今の金融緩和を維持する姿勢を鮮明にすべきだ」
[日経新聞10月4日朝刊P.5]
- アベノミクスで消費者の負担は増すばかり あっしら 2014/10/05 03:50:00
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