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期待の6次産業育成、なぜ成功例出ない?生産、販売、規制…立ちはだかる多数の壁
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140930-00010000-bjournal-bus_all
Business Journal 9月30日(火)6時0分配信
農業(1次産業)の高付加価値化を目指して、加工業(2次産業)、流通業(3次産業)まで取り込み、6次産業(=1+2+3)と称し官民協力して育成を図っている。しかし実際には、星の数ほどの失敗例に比べ、成功例はほとんどない。孤軍奮闘している6次産業事業者は、共通する構造的な課題に直面している。ここでは、実例をもとに典型的な仮のストーリーを描いてみた(以下、村名、人名、商品等はすべて仮名)。
中崎村の岩谷さんは、5人の農家に囲まれて大激論になり、怒髪天を衝く怒りに震えていた。そして、情けなくなり泣きたくなった。岩谷さんは、「中崎村のへちま漬け」を製造・販売する6次産業を始め、3年目になってようやく収支とんとん、持ち出しがなくなる目途が立った。その矢先、へちまを供給してきた5軒の農家がやってきて、「へちまの購入単価を1.5倍に上げてくれ。ネット販売価格を見る限り、あんたは利益を取り過ぎだ」と言ってきた。
自分は中崎村のことを思って隣村よりも10%も高く買っており、儲けはかつかつだと真剣に説明してもわかってもらえない。一人の農家は、儲かっているくせにと言わんばかりに、にやにやしているかに見えた。村のためにとヘトヘトへになって働いていたのに、それを彼らは「がめつく稼ぐのに必死」だと見ていたのかと思うと泣きたくなった。
材料費が1.5倍になると、赤字でとても事業を続けられない。一方で、それなりにブランドになった「中崎村のへちま漬け」は、中崎村産のへちまを使わないと虚偽表示になってしまう。最後は、「つまり僕が事業を続けられなくなるというのを承知で言っているのですね」「そうだ」と互いに言い放って、もの分かれとなった。
岩谷さんは、これまでの苦労が走馬灯のように思い出されてきた。最初は、自分で徹夜してつくったホームページでネット通販を行った。しかし、一日10アクセス、受注ゼロといった日が続いた。だからといってECモールの事業者が勧める、成果報酬広告、検索連動広告、モールの販促イベントなどに全部乗っていると、とても資金が続かない。直販は、中間の流通事業者がいないので利益率が高いように見えるが、広告・販促に多額の費用がかかる。つまり、ECの壁であり、販売面の壁に直面した。
そこで、都心の百貨店や高級スーパーに売りに行くと、百貨店に卸す値段は上代(消費者向け価格)の半分の値段だといわれた。野菜の流通マージンは低いのに、加工品となると50%も取るのかとびっくりした。交渉して百貨店の流通マージンを15%にしてもらったが、まったく売れなかった。消費者は、「キャベツ」「きゅうり」は知っているが、「中崎村のへちま漬け」は知らない。だから、店頭の人が売る気にならないと、知名度のない商品はまったく売れない。それで、自分の取り分を削って泣く泣く百貨店のマージンを30%にしたら、少しずつだが売れ始めた。つまり、流通事業者の機能を過小評価し、流通マージンを低く見積もりすぎた。一言でいうと、値建(ねだて)の壁だ。
そうして決まった値段がネットで見られるので、農家は自分の売った材料の価格の何倍にもなっている価格を見て、岩谷さんが儲け過ぎだと感じたのである。地域のやっかみと嫉妬の壁ともいえる。
つまり、農家も6次産業事業者も、流通業という3次産業の機能とコストを低く見過ぎてしまいがちなのである。3次産業の理解の壁だ。
●規制や生産面での壁も
さらに、第2次産業の理解の壁もある。以前から近所の店に少しだけ売っていた「へちまの浅漬け」をネットで売り出すと、浅漬けでは消毒効果が少なく食中毒を起こしかねないと、安全面の問題を指摘された。食品加工の壁だ。
また、農家が知り合いにへちまをあげるときに言っていたのと同じ調子で、ネットで「お肌をきれいにします。シミもとれます」などと書くと、とたんに効果・効能を訴えるのは薬事法違反だと役人が問題視してくる。一般的に、加工品は規模の大きな企業が製造販売しているので、当局も目を光らせていて規制が厳しい。そこに、小規模事業者がかかわると、規制への対応だけで大わらわになってしまう。これが、規制の壁だ。
百貨店にごっそりマージンを落としてようやく売れ始めてみると、今度は農家の生産数量が追いつかない。そもそも植物は成長するのに時間がかかるし、過疎と人手不足のため兼業農家が多く、生産余力が少ない。だからといって、「中崎村」ブランドなので隣の村からへちまを買えない。結局、生産能力の迅速な拡大ができない。生産面の壁である。
さらに、経営の思考方法の壁がある。農家から出てきた事業者は、何かと補助金漬けの思考回路に染まっており、それがビジネスの判断を歪めがちだ。6次産業事業者の認定を受けて補助金を受けるために、余計なことをしてしまう。そして困ると、政府からの支援を得るためにはどうすればいいかということばかりに思考がいってしまう。補助金思考の壁だ。また、地域振興、農業発展を目指して6次産業事業を起こすような人は、志の高い人が多い。「日本の農産物の輸出を増やすべきだ」「二酸化炭素の量も気になる」と、さまざまな運動を始める。素晴らしいことだが、限られた経営資源では、まずは「中崎村のへちま漬け」を売ってからにしたほうがいい。理念先行の壁だ。
●「餅屋は餅屋」
こうして数え上げてきた6次産業の壁をもう一度振り返ると、農業をやってきた者が高付加価値を狙って2次産業、3次産業に進もうとするのは、不慣れなゆえに時間もコストもかかり、かえって効率が悪い。大手企業でも、企業間分業をやめ垂直統合するのは、多額の資金と人的資源が必要なので相当の覚悟がいる。それを小規模の事業者が2次産業、3次産業まで小規模のまま進出しようとするのは、無理が多い。それよりも一次産業に特化し、競争力のある農産物の生産に集中したほうがいいだろう。「餅屋は餅屋」なのだ。
もちろん、業界構造上の既得権益を得る事業者が出ないように、外部から自由に参入できるようにしておいたほうがいい。しかし、その困難な道を、経営資源の限られている地方の事業者に周囲が煽り立てて勧めるのは、いかがなものだろう。
小林敬幸/『ビジネスをつくる仕事』著者
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