01. 2014年9月30日 13:56:57
: jXbiWWJBCA
年末には1ドル113円へ円安は黙っていても進む 2014年9月30日(火) 田村 賢司 急激な円安が日本経済を直撃している。背景にあるのが日米金融政策の違いと、投機筋・実需筋“一体となった投売り”だけに、円安への流れはしばらく止まりそうにない。みずほ銀行チーフマーケットエコノミストの唐鎌大輔氏に、円安の先行きと日本経済への影響、予想水準などを聞いた。 (聞き手は田村賢司) 円安が急速に進んでいる。まだ続くのか。 唐鎌 大輔(からかま・だいすけ)氏 2004年慶應義塾大学経済学部卒業後、JETRO入構、貿易投資白書の執筆などを務める。2006年、日本経済研究センターへ出向し、日本経済の短期予測などを担当。2007年、欧州委員会経済金融総局(ベルギー)に出向。2008年10月、みずほコーポレート銀行(現・みずほ銀行)入行。国際為替部で為替分析を担当している。著書は『欧州リスク: 日本化・円化・日銀化』(東洋経済新報社、2014年7月) 唐鎌:今の円安の要因は2つある。1つは、日米の金融政策が逆側を向いているということだ。日本は「日銀が再度、金融緩和を行うのはいつか」が焦点になっている。緩和政策が続くだけでなく、さらに拡大する方向だ。
一方、米国については、8月ごろから日銀に当たる米連邦準備理事会(FRB)が連邦公開市場委員会(FOMC)で、いよいよ金融緩和の終了を決めると見られ始めた。そして遠くない先には利上げに踏み切ると見られ出した。 米国は利上げ、日本は金融緩和継続だから日米の金利差は今後さらに拡大することになる。米国の金利上昇への動きはドル買いを促し、一方の日本はゼロ金利継続+緩和の拡大なのでドル買い円売りとなる。つまり、ドル高円安の加速である。 これが8月末から急速な円安をもたらした理由の1つだ。 8月末から急速に円安へ傾いた ●ドル円相場の推移 もう1つの理由は、為替市場参加者の売買の動き、いわゆる需給の状況か。 唐鎌:その通り。例えば、輸入企業に代表される実需筋においては、想定外の円安進行を警戒してドルの手当て(ドル買い円売り)に走った向きもありそうだ。投機筋の動きはもちろん大きいが、こうした実需筋の動きが追い討ちをかける格好で、円の投売り状態になった面もありそうである。先ほどの話が円安の米国要因なら、こちらは日本要因と言えるだろう。既に日本が巨額の貿易赤字国になっていることを思えば自然な動きとも言える。 2011年に1ドル=75円台という超円高水準に達した時には、輸出企業が想定外の円高進行を警戒して円の手当て(ドル売り円買い)に走ったことが影響したと言われた。あれから3年で需給の風景が全く反対になった。 米国は来年、利上げへ しかし、米国では株価も上がっている。利上げ方向なら、本来は下がってもいいはず。 唐鎌:FOMCの8月会合の議事要旨、9月会合の声明とも、実は金融緩和の終了を強く言っているわけではない。それでも、メンバーそれぞれが個人として適切と考えている時期などを総合すれば、緩和終了が近いのは間違いない。しかし、株式市場はそれを、「すぐに金融緩和が終了するわけではない」と捉え、買いに入ったようだ。 元々、FOMCでは金融緩和終了後もゼロ金利政策は「相当な期間」維持するとしていたが、それがそう短くはないと考えて、安心したのだろう。為替市場との間で見れば、同床異夢とも言うべきものだ。 FOMCのメンバーは、FRBの理事や米地区連銀総裁ら。彼らが個人として適切と考える利上げ時期は近くなっているというが。 唐鎌:例えば、最初の利上げ時期について昨年末は「2014年」とするメンバーが2人、「2015年」が12人、「2016年」は3人だった。それが今年9月には、それぞれ1人、14人、2人になっている。メンバーの予想が2015年に寄っているのは間違いない。 急速な円安で経済への負の影響を懸念する「悪い円安論」が強まっている。 唐鎌:今の時点での円安の“効果”は2つあるのだろう。1つは、「円安→株高→資産価値上昇→消費拡大」と言われるものだ。しかし、個人の金融資産の中に占める株式・投資信託の比率が30%以上に及ぶ米国と10%弱の日本では状況は違う。私は日本の場合、そう大きな影響はないと思っている。 むしろ問題は、輸入価格に対する輸出価格の比率(指数)である交易条件だ。円安になると輸入価格が上がるから輸出価格が高くならなければ、交易条件は悪化する。この悪化は、輸入物価の上昇の悪影響をもたらす。これが今、特に厳しくなっている。 貿易収支を要因別に見ると、2013年の第2四半期以降、円安による為替要因が貿易赤字の主因になっている。2005〜2007年の前回円安時には、これがプラスに効いていた事を思い起こすと、その差は大きい。 円相場は交易条件よりも低くなっている ●実質実効為替レートと交易条件の推移 注:実質実効為替レートは、円と他通貨の2国間レートを、貿易額などを元に平均化し、基準年を100として指数化したもの。数字が大きいほど円高を示す。交易条件、実質実効為替レートとも2010年を100とした。円ドルなど2国間の通貨関係だけを見るより、他国通貨全体に対する強弱を表す。 ※理論的には、交易条件は実質実効為替レートの落ち着く均衡水準を示す。現在の円レートの低さは、交易条件がさらに低くてもいいといったことを示す可能性がある 日銀の再緩和、難題は実質賃金下落 日本企業などが海外に持つ資産(対外純資産)は増えている。そこからの収入も大きい。円買い要因では。 唐鎌:そこにも盲点がある。確かに対外純資産は325兆円にも上るが、その約3分の2は、工場など直接投資と政府が持つ外貨準備だ。つまり、外貨(資産)を売って円に転換することを想定したものではない。巨大な対外純資産の積み上がりは円買い要因というよりも円相場を急落させない要因と考えるべきだろう。 では、円安はどこまで行くと見るか。時期と水準は。 唐鎌:私は以前から「心配しなくても円安は進む」と話してきた。ここまでお話したように円安が進む材料が目白押しだからだ。 端的に言って、今年年末には113円程度を想定している。こう言うと驚かれるが、今年のドル円相場の触れ幅は、まだ9円程度。ここ10年で最もその幅が小さかった2011年でも10円18銭あったが、それよりまだ動いていない。まだ動くと見ていいはずだ。 輸出が増えない状況の中では、再度の金融緩和は難しくなってきたか。 唐鎌:円安と共に、安倍晋三政権下で明確になっているのは実質賃金の下落だ。円安の影響もあって物価が上昇し、少なくとも表面的な物価上昇という意味でデフレ脱却は確実の勢いとなったが、その分実質賃金は低下した。企業が物価上昇以上に賃金を上げていかないと、それは変わらないが、今のところそこには至っていない。 この状況でさらに緩和をすると輸入物価の上昇を通じて、実質賃金の一段の下落を招きかねず、政権としてはつらいところだろう。ただ、再緩和は株価上昇にはつながる可能性があるだろうから、そこを重視すればありえるが…。 このコラムについて キーパーソンに聞く 日経ビジネスのデスクが、話題の人、旬の人にインタビューします。このコラムを開けば毎日1人、新しいキーパーソンに出会えます。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/interview/20140929/271828/?ST=print |