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「悪い脱デフレ」地方で先行か 首相の円安けん制の裏側
編集委員 清水功哉
2014/9/26 6:00
一昨日、ついに安倍晋三首相の口から「円安けん制発言」が飛び出した。裏側には、円相場の急速な下落が続くと、物価上昇が賃金上昇の度合いを上回る「悪い脱デフレ」が大都市圏より地方で深刻化しかねないことへの懸念がありそうだ。来春の統一地方選挙などの勝利に向け、「地方創生」を重要課題とする安倍政権としては座視しにくい話だろう。とはいえ、金融緩和による円安をテコに株価上昇を促してきたアベノミクスをすぐに変質させれば、景気の足を引っ張るリスクもある。安倍政権は「円安」とどう向き合うのか。今秋の市場の大きなテーマになりそうで、日銀も今後の展開を注視するだろう。
■強力な円買い材料にならず
「円安にはプラスもマイナスもある。燃料代などが高騰しており、地方経済や中小企業に与える影響をしっかり注視していきたい」。訪米中の安倍首相は日本時間24日朝、同行記者団と懇談した際にそんなことを語ったという。市場では「プラスもマイナスもあるという両論併記の発言」(池田雄之輔・野村証券チーフ為替ストラテジスト)とする冷静な受け止め方も多く、強力な円買い材料にはならなかった。
とはいえ、グラフの通り8月下旬以降の円安・ドル高は急ピッチであり、経済界から「もう少し円高に進んだ方が心地よい」(17日、三村明夫日本商工会議所会頭)などの声が出ていた。そこに加わり始めたのが政界からの円安けん制発言だ。まずは連立与党、公明党の山口那津男代表が「今の円安動向は大変気がかりだ。円安はデメリットのほうが大きいとしている中小企業は多く、過度な円安には注意が必要だ」と語ったと報じられた(18日、NHKニュース)。そして、ついに首相までが発言したわけだ。
円安をめぐる議論が一気に政治性を帯びてきた。
円安が政治的な問題になり始めた背景には、来春の統一地方選挙、来秋の自民党総裁選挙という選挙スケジュールを視野に入れる安倍政権が、「地方創生」を重要なテーマにしていることがあるとみられる。選挙をうまく乗り切り長期政権への道筋を整えるためには、アベノミクスの恩恵を地方にくまなく広げることが欠かせない。ところが、実際に地方で起きつつあることは、円安も一因となった「悪い脱デフレ」ともいうべき動きであり、安倍政権としては気がかりなのだろう。
■地方の方が大きい物価上昇率
グラフは西岡純子アール・ビー・エス証券チーフエコノミスト執筆のリポートに記載されたデータをもとに作ったグラフだ。実はデフレ脱却は大都市より地方で進んでいるという興味深い事実がわかる。
消費増税後の4〜6月期平均でみて、消費者物価上昇率(生鮮食品を除き、消費増税の影響を含む)が最も高いのは北海道や東北でいずれも3.9%だ。これに北陸(3.6%)、四国(3.5%)などが続く。「東北は震災の影響が物価を押し上げる方向に作用しており、建築資材の価格上昇の影響で住居関連の物価が上がっているほか、電力会社の値上げで光熱費の上昇が他地域より大きい」(西岡氏)という。ただ、「北海道や北陸、四国では多くの分野で物価上昇率が全国平均を上回っており、人々のインフレ期待が強まるもとで、企業の価格決定の姿勢が変わってきていることが大きく関係している」というのが西岡氏の分析である。
とすれば、地方に広がる脱デフレの動きは必ずしも悪い現象と決めつけられないのかもしれないが、一方で9月23日付日本経済新聞の記事が伝えるように「消費増税後の個人消費を巡り、復調する都市と低迷する地方の格差が鮮明になってきている」のも事実だ。
上述の通り、地方では物価上昇率が大きめになっている。その一方、中小企業が多いため、賃金上昇は大都市圏と比べて遅れ気味とみられる。物価変動を考慮した実質賃金は、地方のほうが大きな減少になっているだろう。これが消費にとってマイナス要因になっている。今後さらなる円安が進み、エネルギーや食品などの輸入価格が上がれば、地方の人々の負担感は増し、「地方創生」への逆風が吹く恐れがある。安倍首相が「(円安が)地方経済や中小企業に与える影響をしっかり注視していきたい」と言うのは自然だろう。
実は、日銀も安倍政権の円安に対する姿勢に関心を持っている。金融緩和は円安をもたらしやすいので、仮に政権サイドが円安に否定的になるなら、金融政策の自由度に影響を及ぼしかねないからだ。
ただし、安倍氏が注意深く言葉を選んで語った通り、円相場が安くなることには「プラスもある」。代表的な「プラス」は何といっても輸出環境の改善を通じて株価上昇要因になることだ。25日の東京株式市場で日経平均株価が年初来高値を更新した一因も、やはり円の下落だった。円安の株価押し上げ効果は昨年ほどないと指摘されるものの、株価を下げる要因になっているわけではない。株高は人々の消費活動を刺激し景気回復を後押しするだけでなく、政権支持率も左右する。円安が株価上昇をもたらすファクターであり続ける限り、安倍政権は円下落に対して明確に「ノー」と言えないのではないか、という見方は当然のごとく出てくる。
■日銀は円安についてどう判断
その点は日銀も同様のとらえ方をしているようで、「2%の物価目標実現に関するリスクが顕在化すれば、追加緩和をためらわない」とする姿勢を今後も維持しそうだ。とはいえ、円安をめぐる政治的な環境が微妙に変わってきている点も理解しているだろう。黒田東彦総裁も先週末、「(現在の円安に)大きな問題があるとは思っていない」と従来と同様の考え方を示す一方で、「為替レートは安定的に推移するのが望ましい」とも述べた。10月20日公表の地域経済報告(さくらリポート)に、円安に関する地方の声をどのような形で反映させるのか。10月31日にまとめる経済・物価情勢の展望(展望リポート)で円安の影響をどう分析するのか。マーケットの関心を集めそうだ。
http://www.nikkei.com/markets/features/27.aspx?g=DGXLMSFK25H26_25092014000000
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