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パナソニック、テクニクス復活の意味 歴史の学びと愚直なカイゼンで目利き世代獲得なるか
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140928-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 9月28日(日)6時0分配信
シニア世代にとっては「一大事」「時代は変わったな」、インターネット世代にとっては「どうでもいいこと」「いったいそれがどうしたの」と世代により大きく反応が異なるニュースが相次いだ。
一つは、かつてトリオ(現JVCケンウッド)、サンスイ(山水電気)と共に「オーディオ(ステレオ)御三家」「パイ・トリ・サンスイ」の1社として賞されたパイオニアが、家庭用AV(音響・映像)機器事業の分離とディスクジョッキー(DJ)向け機器事業を売却する方針を発表し、AV機器から事実上撤退。今後はカーナビゲーションシステムなどの自動車分野に注力する方針を示したこと。
もう一つは、パナソニックが、1965年から2010年にかけてハイファイオーディオ専用ブランドとして販売してきた「Technics(テクニクス)」を復活、14年12月の欧州市場へのハイファイオーディオシステム新製品導入を皮切りとして順次グローバルに展開する、と発表したことだ。欧州市場に投入するのは、最高レベルの音質を実現するリファレンスシステムの「R1シリーズ」(約4万ユーロ、日本円で500万円弱)と、音楽愛好家のためのプレミアムシステムと位置づける「C700シリーズ」(約4000ユーロ、同約50万円)の2シリーズ。飛び切りの高級ブランドとして再デビューする。
オーディオ(音響)専業メーカー――。この名称を聞き、シニア世代はノスタルジックに青春時代を思い浮かべる。ネットで音楽を聴く世代にとっては「それは、いったい何」と思われる死語かもしれない。今や、自動車と並ぶ日本の基幹産業といわれた電機産業にとって、オーディオ全盛期は輝かしい青春時代であった。その中で台頭してきたのが、元祖戦後ベンチャーのソニーに続く若きオーディオ専業メーカー。まさに現在のアップルに相当するようなベンチャー企業だった。その盟主が、38年にスピーカー部品メーカーの福音商会電機製作所としてスタートし、その後オーディオ専業メーカーに変身したパイオニアである。
これら新興企業のベンチャースピリットを既存の大手電機メーカーが模倣するかの如く、他の家電製品で使っていたブランドとは異なる独自ブランドを展開していった。その代表格がテクニクスであった。そのブランドには社名が出ておらず、独自性を強調した。自動車でいえば、トヨタ自動車の「レクサス」のようなものである。同ブランドでは自動車自体はもちろんのこと、広報・宣伝、販売店も独自色を出し、「TOYOTA」という表記を一切使っていない。パナソニックは、テクニクスの位置づけについて次のように定義している。
「『テクニクス・ブランド』は、テレビの『ビエラ』やノートPCの『タフブック』のようなサブブランドではなく、個別のブランドとして取り扱います。パナソニックが製造社となりますが、『パナソニック』ブランドは使いませんし、併記もしません。『テクニクス』ブランドを付与する製品は、高品位な音を生み出すための素材や部品の選定で当社独自の厳格なガイドラインを設け、専任の開発体制・モノづくりで社内のサウンドコミッティ(音質評価委員会)による総合的な音質評価にパスしたものが対象になります」
●音響専業メーカーの誕生と全盛
そもそも「オーディオ専業メーカー」なる領域が形成されたのは、68年にステレオが真空管からソリッドステート化され、それまで高級な家具として一部の豊かな家庭に置かれていたアンサンブル型(一体型)からセパレート型に流れが変わり、量産体制に入ったからである。アンサンブル型の頃は、日本ビクター(現JVCケンウッド)と日本コロムビアの2社が寡占していたが、セパレート型の時代になり、パイオニア、トリオ、サンスイが急激に台頭する。
72年には、プレーヤー、アンプ、チューナー、スピーカーなどそれぞれのコンポーネント(コンポ)をシステム化したシステム・コンポが登場し、いわゆる「シスコン・ブーム」が巻き起こった。そして、シスコンよりもさらに高性能な製品を欲していたオーディオ・ファイル(オーディオ・マニア)と呼ばれる人たちがオピニオン・リーダーとなり、73年以降、好みによって各メーカーの単品コンポを組み合わせる動きが活発化する。74年にはコンポがステレオセットの売り上げを上回るようになった。
この一連の動きから、趣味の製品であるオーディオは冷蔵庫や洗濯機をつくっている総合電機や総合家電よりもオーディオ専業メーカーの製品のほうが音質は良いというイメージが定着し、「日本が生んだ工業芸術品」として世界市場を席巻した。レコードプレーヤーなら日本コロムビア(デノン)、アンプはサンスイ、チューナーはトリオ、テープデッキはティアック(TEAC)、アカイといったブランド・イメージが確立した。さらには、ナカミチやアキュフェーズといった1台数十万円するカセットデッキやアンプが注目されるようになったのである。松下電器産業(現パナソニック)がナショナル、パナソニックというブランドに加えて、オーディオ製品用にテクニクスというブランドをつくったのをはじめ、東芝が「オーレックス」、日立製作所も「ローディ」というブランドでイメージ戦略に乗り出したのも音響専業メーカーの好調に刺激を受けてのことだった。オーディオはテレビほど海外にライバルメーカーが多くなかったことから、世界市場を日本メーカーが寡占した。こうした音響専業メーカーの全盛時代は75年まで続く。
●工業芸術品からコモディティへ
しかし、最大の市場であったアメリカでオーディオ不況が始まる。第1次オイルショック翌年の75年に出荷金額が激減する。76年には販売店への40%のマージンを法律的に保護する「ファア・トレード」(再販維持法)が撤廃され、出荷減に追い打ちをかけたのだった。77年以降回復に向かうが、値崩れ現象が芽を出してきた。第2次オイルショックのあった80年は予想以上に好調であったので、翌年も輸出を大量に増やしたのにもかかわらずクリスマス商戦が不振で在庫が膨らみ、各社は値引きを断行せざるを得なくなった。
この頃から、オーディオ専業メーカーにとって不安材料が出てくる。ミニコンポのような製品が現れた結果、オーディオがより大衆化され、価格競争の対象になってきたのに加えて、新しい商品として期待されたCDプレーヤーに代表されるデジタル化の波が押し寄せてきたのである。精巧なメカニズムを競争力としていたスイスのアナログウォッチを、あたかも印刷物を刷るかのように量産される日本製や香港製のデジタルウォッチが駆逐したかのように、これまで職人芸的なイメージで微細な音の差を強調してきたオーディオ専業メーカーにとって、どのメーカーがつくっても同じく高音質が得られるCDプレーヤーは他社製品と一味違うことを訴求しにくい製品であった。一方で、オランダ・フィリップスとCDを共同開発したソニーをはじめ、量産技術に一日の長がある松下電器産業などが台頭してくることになる。
さらに、ソニー急成長の牽引車となったヘッドホンステレオ「ウォークマン」の登場がオーディオ専業メーカーに大打撃を与える。音楽は部屋に居て聴くものという常識を打ち破ったからである。むしろ、ヘッドホンステレオ登場後は、音楽は戸外で楽しむものといった風潮が年々高まった。その後に発売されたポータブルCD、ポータブルMDがこの動きに拍車をかけた。同市場には、総合電器、総合家電の多くのメーカーが参入した。
その後、オーディオが工業芸術品からコモディティ(日用品)となり、全盛期に見られた「高音質ブランド」で勝負できる時代は終わった。89年に山水電気が、90年に赤井電機、そして97年にはナカミチがいずれも香港資本傘下に入り、高級オーディオよりもメガ・コンペティションに勝てる価格競争力のある製品を主力にした。ところが、工業芸術品路線から遠ざかっていった日本メーカーとは反対に、高級オーディオの代名詞とされていた「ラックス」を94年に買収した韓国のサムスン電子が1台65万円というパワーアンプB-10(2台1組で使用)を発売しヒットさせた。
●パナソニックの「学びの姿勢」
以上のようなオーディオの経営史を知れば、スマートフォン(スマホ)でしか音楽を聴かない世代も、2つのニュースの重要度がわかるのではないだろうか。経営史を学ぶ意義について、米倉誠一郎・一橋大学大学院教授は、「他人が考えるよりもさらに多くのことを考える、そして他人が考えないことを考えることが経営史学では重要だからである。他人が考えなかったこと、あるいは考えなかったような組み合わせを行うことが差異、すなわち競争力を生み出す源泉だからだ」(『経営学・入門』<宝島社/98年/p.210>)と指摘している。
パイオニアは歴史(祖業のオーディオ)を捨てて未来(カーエレクトロニクス)へ飛んだ。一方、パナソニックはテクニクスの歴史から学ぼうとしている。近年、音楽の楽しみ方が多様化するとともに、CD規格を超えるハイレゾ音源【編註1】が普及し始め、よりリアリティのある高品位な音の表現が求められてきている。この潮流をとらえての復活劇だが、それだけでは競争力は不十分 。パナソニックは、テクニクスにより、他人(他社)が考えるよりもさらに多くのことを考える、そして他人(他社)が考えないことを考えなくてはならない。
ところで、パナソニックは、50〜60代の「目利き世代」へ向けて、これからの日本の暮らしに合った新コンセプト家電「Jコンセプト」シリーズを10月下旬より順次発売する。3万のユーザーの声を聞き、きめ細やかな点を配慮し改良した「モノづくり」における地道な努力は高く評価できる。
同社は13年秋、変革を牽引するキーワードとして「Wonders! by Panasonic」を制定した。ただの驚きではなく、より良い明日につながる、地に足のついた驚きを表している。つまり派手さは求めない愚直なカイゼンとも理解できる。「Jコンセプト」シリーズも、この路線なのだろう。堅実なパナソニックらしいといえばパナソニックらしい。この発想が悪いとはいわないが、変革を牽引するというのであれば、もう一歩も二歩も踏み込んでほしい。
そのヒントについては、9月17日に行われた同シリーズの発表会場で冷蔵庫と掃除機の新製品を説明していた現場の担当者2人に話しておいた。あえて当日登壇した代表取締役専務・アプライアンス社の高見和徳氏や常務役員コンシューマーマーケティング ジャパン本部長の中島幸男氏には提言しなかった。草の根の声が上層部まで届くか、実験してみたかったからである。したがって、本稿の読者には不親切なようだが、後のお楽しみということで今回は提言内容について詳述しない。
テクニクスも「Jコンセプト」シリーズも、主要顧客として想定されるのはシニア層。この層を老人扱いしてはいけない。「地に足のついた驚き」を超える意外性(心から欲しくなるイノベーション)を求めている。テクニクスは一皮むけることができるだろうか。
京都の老舗料亭の当主が言っていた。
「継承と伝統は違います。継承は単に先代と同じことを引き継ぐだけ。伝統とは、担う世代ごとに革新を遂げ、後世に引き継ぐことです」
テクニクスは伝統的ブランドになれるのか。パナソニックは、歴史を深く読み、活かす力が試されることになるだろう。
【編註1】「ハイレゾ」とは「High Resolution」の略。JEITA「ハイレゾオーディオ」基準では、サンプリング周波数、量子化ビット数のいずれかがCDスペック(44.1〜48kHz、16bit)を上回り、もう一方がCDスペックと同等以上(LPCM換算)。
長田貴仁/神戸大学経済経営研究所リサーチフェロー、岡山商科大学教授
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