02. 2014年9月26日 04:51:16
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多くの中流の実質可処分所得は下がったが、失業率も自殺率も下がったというところかhttp://diamond.jp/articles/-/59645 宅森昭吉の景気の「気」を読む 【第14回】 2014年9月26日 宅森昭吉 [三井住友アセットマネジメント理事・チーフエコノミスト] 増税負担で消費は本当に弱いのか 増えた、減った? 二つの統計で7月分ボーナスに10%超の開き 天候不順が夏の景気を下押したことなどから、「今年の漢字」の現時点での候補は「天」と考える。8月、広島県の自殺者は前年比+44%だが、全国では減少を維持している。大相撲秋場所では、企業の広告費の代理変数と言える大相撲懸賞本数の史上最高更新が見込めるなど、天候要因以外の身近なデータはしっかりしている。7月分のボーナスは家計調査と毎月勤労統計では前年同月比で10%超もの開きがある。統計の読み方に注意が肝要だろう。 8月豪雨が 景気回復に水をさす 7月30日から8月26日の期間の異常気象は、台風11号(8月10日上陸)・12号(8月上旬接近)が連続して接近するとともに前線が日本付近に停滞し、そこへ暖かく非常に湿った空気が連続して流れ込み、各地で大雨となったためだ。 気象庁により「平成26年8月豪雨」と命名された。8月分降水量は異常で、近畿地方は平年の3.85倍、四国地方は同3.74倍と1946年の月次統計開始以降最高となった。また広島で土砂災害の被害が出た中国地方は、同2.76倍で第3位の記録である。8月19日夜から20日明け方にかけて広島市を中心に猛烈な雨となった。 「平成26年8月豪雨」は消費増税後の反動減からの景気回復に水をさした。8月分の景気ウォッチャー調査の現状判断で、雨・台風・土砂災害についてコメントした人(気温についての天候コメントを除く)を数えると、全体の回答者1860人中1割強の191人だった。約1ポイント分8月分の現状判断DIを下押しした。 消費税引き上げ後も、限界的な雇用関連データと言える自殺者数は、前年同月比減少率が4月分の▲6.8%から7月分の▲11.9%まで順調に自殺者数を減らしていた。 しかし8月分では減少基調を継続したものの▲1.1%の小幅マイナスになった。中でも広島県は、前年比増加数が17人で兵庫県の26人に次いで2位。また前年比増加率は+43.6%で、+50.0%の高知県、+45.5%の熊本県に次いで第3位である。広島県警に問い合わせたところ自殺者の詳細はまだ把握していないとのことで、土砂災害との関係はわからないが、なにがしかの関係はありそうだ(表1)。 (出所)警察庁 東北四大まつりのひとつ山形花笠祭りは雨で3日目が中止になったことで、人出が昨年の90万人から63万人に落ち込んだ。
富士吉田市が発表している富士登山者数(7月3日〜8月31日)は今年17.6万人、前年比▲24.2%で、データのある2000年からの15年間では過去8番目の多さだが、07年以来の10万人台になった。減少要因は今シーズンはじめに残雪が多かったこと、マイカー規制の日数が増えたことなどもあるが、台風等による天候不順が影響したようだ。 天候以外の身近なデータはしっかり 秋場所の懸賞、史上最高更新へ 天候要因による悪影響を除けば、身近な社会現象は景気の底堅さを示唆するものが依然多いようだ。 日曜夕方の放送の「笑点」視聴率が、今年は「その他の娯楽番組」で第1位になる週がほとんどなく、日曜の夕方には出かけている人が多いことを示唆している。さらに7月から9月14日まででは1度も首位にならず、7〜9月期の消費の底堅さを示唆している。 7月の金融機関店舗強盗は昨年4件発生したが、今年は31日に発生した1件だけだ。昨年2件だった8月は、今年は20日までで0件だ。生活が苦しく包丁を持って郵便局などに押し入る人は減っているようだ。 中央競馬の売上(売得金)は、年初から9月21日までの累計前年比が+2.6%である。8月10日までの週から6週連続で+2.4%で安定した動きとなっていたが直近で増加した。3年連続増加に向けて前進していると言える状況だ。 大相撲の懸賞は初場所1198本(過去最高)、春場所1166本。夏場所1165本、名古屋場所1166本になった。4場所連続1100本台は史上初である。夏場所での1本6万2000円への値上げの影響はなかった。秋場所は事前に懸賞係に確認したところ、予定では1300本程度と過去最高更新が見込まれるという。 初日の結びの一番である白鵬と千代大龍に39本が懸り、全体では115本で前年比+38.9%だった。 家計調査と勤労統計では 7月分ボーナスで10%超の開き 問題なのは、7月分の家計調査のおそらく実体以上の弱さである。これを基礎データのひとつとするGDPの実質個人消費の類似データの消費総合指数は、7月分で前月比▲0.6%となってしまった。このため7〜9月期の実質GDPが前年比年率4%台の増加になるのは難しくなったという見立てになっている。 7月分の二人以上世帯の実質消費支出は、前年同月比で▲5.9%の減少だ。6月分の▲3.0%より減少率が拡大した。消費税率引き上げの負担増が効いているという解釈がなされている。しかし、他の統計と比べると家計調査は弱すぎる感じがする。供給側の統計では7月分の商業販売額・小売業は前年同月比+0.6%と4ヵ月ぶりの増加となった。 家計調査は項目別の日次データがわかるなど、極めて有用なデータである。しかし、二人以上の調査世帯数が8076であり、サンプル数の少なさから振れやすい統計である。また毎日例えば「さんま」何グラム、何円まで記入する負担は大変であり、長い期間回答をお願いすることは難しい。二人以上の世帯では同じ世帯が6ヵ月間しか回答しない。このため1年後に前年同月比を比較する際には全く別の世帯と比較するという問題がある。 最近の回答世帯では比較的低所得層が多いのではないかと、考えられる内容である。家計調査は支出に注目が集まるが、勤労者世帯の収入のデータもある。足元では収入の悪化が目立つ。いわゆる税込み収入であり、世帯員全員の現金収入を合計したものである「実収入」(名目ベース)の7月分前年同月比は▲2.1%の減少だ。世帯主の収入は名目の前年同月比で見ると、定期収入が▲1.9%の減少、臨時収入・賞与も前年同月比▲2.9%とマイナスだった。今年はボーナスが前年より伸びたところが多いと報じられている状況とは全く異なる内容である(表2)。 (注1)「非消費支出」とは、税金や社会保険料など、世帯の自由にならない支出である。「可処分所得」とは、実収入から非消費支出を差し引いた額で、いわゆる手取り収入のことである。 (注2)実収入には、勤め先収入(世帯主収入、配偶者の収入及び他の世帯員収入)のほか、事業・内職収入や社会保障給付などが含まれる。 (出所)総務省 7月分の毎月勤労統計によると、労働者1人当たりの平均賃金を示す「現金給与総額」は前年同月比+2.4%で、5ヵ月連続の増加となった。これまで+1%以内で推移していた伸び率が2%台になったのは04年11月分以来、約10年ぶりのことだ。
春闘でのベースアップの影響で基本給などの「所定内給与」は同+0.3%となり、2ヵ月連続の増加だ。残業代などの「所定外給与」は同+3.6%で16ヵ月連続の増加。ボーナスや一時金の「特別給与」は+7.3%の増加だった。4月からのベースアップ分の追加支給なども含まれている面はあるが、家計調査の▲2.9%と+7.3ではその差が10%超もある。毎月勤労統計との比較でも家計調査の収入面のあまりの弱さが目立つ。 統計数字は様々な材料から 総合的に解釈することが肝要 3ヵ月連続低下したと報じられている8月分景気ウォッチャー調査・先行き判断DIは、季節調整値では前月比上昇に転じている。百貨店売上高はMNI社サーベイでは8月分と9月分前半は気温低下で秋物衣料が伸びたこともあり、前年比プラスに回復している。こうした動きからみて、今後出てくる景気指標の改善を期待したいところだ。 景気ウォッチャー調査の8月分では「GDPの落ち込みが報道されたことから、消費が慎重になっていることが心配される」(北海道、商店街・代表者)といったコメントも出てきており、統計の振れが実際の消費行動に与える影響が気がかりだ。 4〜6月期の実質GDPの第2次速報値が前期比年率▲7.1%になったが、下方修正の主因は、設備投資の前期比が▲2.5%から▲5.1%になったことだ。名目ベースでは前期比▲1.8%が▲4.3%になった。主に法人企業統計を加えたことによる。ただし、オリジナルの法人企業統計の設備投資・前期比は▲1.8%であるという不思議なことが起こっている。断層補正(注1)などの統計技術的要因が影響したようだ。 実質ベースの輸出が伸びていると言われているが、どうやら輸送機械工業などで円安への対応が変わった感がある。輸出に関し為替変動にかかわらず、現地価格を維持し、「数量より価格」を稼ごうとしているようだ。法人企業統計の4〜6月期で製造業の売上高経常利益率をみると6.0%で、1〜3月期の5.2%から上昇している。 輸送用機械の契約通貨ベースの輸出物価指数をみると、05年初から07年にかけ、15%前後の円安になった時は3%台の下落となったが、今回12年秋より30%程度の円安になっても1%強の下落にとどまっている(表3)。 (出所)日本銀行など そのままの統計数字をみるだけだと、実体を見誤るかもしれない。現在出ている14年度に関するGDP統計はQEと言われる速報値であり、コモディティフロー法(注2)で推計される確報値とは異なることがある。12年度もQEベースで前年比マイナスだった設備投資が、確報値ではプラスに転じた。幅を持って様々な材料から、総合的に解釈することが肝要な局面だろう。
(注1)設備投資を法人企業統計季報の設備投資(有形固定資産新設額)から推計する時、季報の年度ごとのサンプル替えに伴う断層や、回答企業数の差の影響を軽減するために行う調整。 (注2)消費,資本形成等の支出面を推計する方法のひとつ。産業が生産する個別の財貨・サービスについて,あらかじめ設定した流通経路に沿って供給と需要の流れを追い、中間需要、最終消費、固定資本形成などに配分することにより推計する方法。 「今年の漢字」候補として 「天」を考える 少し気が早いが、12月12日に清水寺で日本漢字能力検定協会が発表する「今年の漢字」は、現時点での私の予想では「天」だと思う。 @2月の大雪、8月の豪雨と景気に大きな影響を及ぼす天候だった。 A今年大ヒットしたディズニー映画「アナと雪の女王」にも雪という天候に関する言葉が入っている。 B今年のNHK大河ドラマは秀吉の天下取りを支えた「軍師官兵衛」だった。 C小学生の間で人気がある「妖怪ウォッチ」の主人公の名前は天野景太である。 D今夏、話題だった映画のひとつに「るろうに剣心」がある。主人公の緋村剣心が強敵・志々雄真実に最後に放った技刀術が飛天御剣流の奥義「天翔龍閃(あまかけるりゅうのひらめき)」である。 E女子レスリングの吉田沙保里選手が9月11日に世界大会(五輪+世界選手権)で、前人未到の15連覇を達成した。その日は今年3月に亡くなられ天国で見守る父・栄勝さんの祥月命日だった。 F錦織圭選手が全米オープンで日本人初の四大大会準優勝。“天晴れ”な活躍だった。 といったことが理由として挙げられよう。 「今年の漢字」はその年の年末の景況感と一致することが多い。もし「天」が選ばれれば、悪い意味だけの文字ではないので、悪天候をはね返し、年末には世の中が明るい見通しを持つようになってほしいところだ。 |