02. 2014年9月25日 12:27:04
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正規雇用者が安泰なわけではないhttp://diamond.jp/articles/-/59587 野口悠紀雄 2040年「超高齢化日本」への提言 【第15回】 2014年9月25日 野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問] 深刻な積立金不足に悩む企業年金 本来、企業年金は私的な制度であるが、公的年金と並んで、老後の生活保障に重要な役割を果たしている。とくに、公的年金給付の一部を代行することが認められているため、制度的にも密接に関連している。以下では、現在の企業年金がいかなる問題を抱えるかを分析する。 企業年金の仕組み 企業年金の仕組みはやや複雑である。そこでまず実体がどうなっているかの概観から始めよう。 日本の退職後生活の手当は、従来は退職一時金の支払いによってなされてきた。それが徐々に年金化されてきた。 「厚生年金基金」は、1966年に設立された制度で、企業年金の中核をなす。公的な年金制度である厚生年金に上乗せして支給する企業年金制度としてスタートした。 しかし、運用環境の悪化などから制度が見直され、2001年に確定給付企業年金制度と確定拠出年金制度の創設が決まった。確定給付企業年金は2002年から始まった。2014年9月1日現在で1万4124件ある。 確定拠出年金は、「401k」とも呼ばれる。それまでの企業年金が給付額を企業などが保証する給付建てであるのに対し、確定拠出年金では、拠出された掛金が個人ごとに明確に区分され、掛金とその運用収益との合計額をもとに給付額が決定される。自分で運用商品を選ぶ。14年6月での加入者数は499万人だ(企業年金連合会の資料による)。 これらのほかに「税制適格退職年金」があったが、2012年3月末に廃止された。 厚生年金基金の実態 以下では、厚生年金基金制度を中心に述べる。 これは、つぎの2つの部分からなる。 (1)国の老齢厚生年金の一部を国に代わって支給する「代行給付」 (2)企業の実情に応じて行なう独自の上乗せ給付(プラスアルファ給付) その状況は、次ページの図表1に示すとおりだ。 厚生年金基金数は、2003年度末の1357から減少を続け、12年度末には560基金となった(図には示していないが、ピーク時には1800以上あった)。基金の加入員数は415万人、事業所数は 10.5万だ。 年金受給者は267.5万人だ。2012年度における厚生年金の受給者数は3154万人なので、その8.5%ということになる。 平均年金額は、代行型で55万円、加算型で47.3万円になる。代行型は厚生年金の給付を代行しているに過ぎないので、受給者のネットの受け取りが増えるわけではない。ネットで増えているのは加算型の分だ。2012年度における厚生年金老齢年金の平均年金月額は15.1万円(年額181.2万円)なので、その26.1%ということになる。 現在の標準的な年金(モデル年金)は、世帯全体で月額23万8125円(年額286万円だ)。これに対する比率で言えば、16.6%ということになる。
ところで、厚生年金基金発足当時は、代行部分を予定を上回る成績で運用できた場合、上回った運用益を3階部分に上乗せして支給できることがメリットと考えられた。
しかし、次第に運用成績が計画を下回るようになってきた。とくに1990年代のバブル崩壊後に、資産運用環境が悪化した。このため、積立金の不足問題が生じた。 そこで、2001年に確定給付企業年金制度と確定拠出年金制度が創設されたことに伴い、03年9月からは、代行部分を国に返し(代行返上)、確定給付企業年金へ移行することも認められるようになった。 その結果、図表1に示すように、代行部分の返上を行う基金が増加し、また基金そのものを解散するケースも増えた。 高すぎた予定利回り 厚生年金基金と確定給付企業年金については、財政状態をチェックするため「財政検証」を決算時に行なうことが義務づけられている。これには、「継続基準」と「非継続基準」がある。 「継続基準」は、年金制度が今後も継続すると前提した場合の検証だ。まず、将来の給付を賄うために現在準備しておくべき金額(責任準備金)を計算する。将来の年金額を所与とすれば、それを現在値に直す割引率が影響する。 また、将来の加入者数等の想定も必要になる。そして、責任準備金に見合う積立金を実際に保有しているかどうかを検証する。継続基準による財政検証で不足額があれば、償却する必要がある。ただし、不足金が許容の範囲内であれば、掛金による償却を繰り延べることができる。 「非継続基準」とは、年金制度が基準日時点で終了した場合、加入者や受給者の受給権が確保されているかどうかを検証する。すなわち、現時点までに発生している債務(最低積立基準額)に見合う積立金を保有しているかどうかを検証する。将来の年金額を所与とすれば、割引率が計算結果に影響する。 いずれの計算においても、割引率が低ければ、割引現在値は大きくなる。つまり、必要積立金額は多くなる。 企業年金連合会の資料によると、厚生年金基金の予定利率は、図表2に示すとおりだ。ここに見られるように、1990年代の末まで、5%に近い数字、あるいはそれ以上の数字が使われていたわけだ。現在の数字と比べても2倍程度だ。つまり、現在の基準でみれば、半分の積立しかなされていなかったことになる。現在の平均的な利回りに比べれば、不足はもっと大きい。 企業年金が抱える問題の基本は、過去において予定利回りが高く設定されていたため、十分な積立金がないことだ。 積立金不足による基金解散
2012年にはAIJ投資顧問による詐欺事件が発覚し、多くの基金が預けていた資産が消失するという問題が発生した。 12年7月18日、厚生労働省の11年度決算(速報値)調査で、つぎのことが分かった。 (1)同年3月末時点で、全国に576ある厚生年金基金の半数にあたる286基金で、「代行部分」の積立金不足額が計1兆1100億円に達し、1年前より4800億円増加した。 (2)AIJ投資顧問の年金資産消失事件で被害を受けた81基金の不足額は計3000億円。 厚生労働省は、これらの事態を受けて、「特例解散」の仕組みを取り入れた。 これは、深刻な積立金不足の基金に適用されるものだ。14年度から5年の期限で認められる。積立金の不足分は加入企業が穴埋めすることになっており、解散を申請すると最大30年に分割できるなど負担が軽くなる。また、それまで代行で給付していた厚生年金は支給されるが、上乗せされていた企業年金は支給されなくなる。 朝日新聞は14年4月27日、「厚生年金基金のうち74基金が今年度から来年度にかけて、深刻な積立金不足の基金に適用される『特例解散』をする方向で調整している」と報じた。これら74基金では、厚生年金の代行部分を行なうための積立金が不足していたためだ。 なお、同紙は、「全国の527基金のうち、3月18日までに195基金が解散する方針」と報じている。 企業年金連合会「2013(平成25)年度 財政・事業運営実態調査結果の概要(速報値)」によると、今後の制度運営の方針について504基金からの回答は、つぎのとおりだった。 「現在検討中」32.1% 「通常解散」31.3% 「特例解散の認定を申請」19.0% 「確定給付型の企業年金として存続」17.5% ●編集部からのお知らせ● 野口教授の最新刊『仮想通貨革命――ビットコインは始まりにすぎない』 好評発売中! ビットコインをはじめとする「仮想通貨」が、世界で注目を集めている。管理主体を持たない通貨、国家の枠組みを超えた通貨として従来の通貨を脅かしつつあり、その技術革新はより広範な分野に影響を及ぼすとみられている。金融資産の取引が、いまはない分散市場に移行する。新しい資産が作り出されて、所有権の概念が変わる。さらには、経営者がロボットに置き換えられたような企業が登場することさえありうる。起こり始めた通貨革命のインパクトと、これから経済・社会がどう変わっていくのかを述べる。
〈主な目次〉 第1章 通貨革命が始まった 第2章 きわめて斬新なビットコインの仕組み 第3章 ビットコインに続くもの 第4章 現代の通貨はどこに問題があるか 第5章 通貨革命は社会をどう変えるか 補論 公開鍵暗号と電子署名 ご購入はこちら→[Amazon.co.jp][楽天ブックス] ●野口教授が監修された経済データリンク集です。ぜひご活用ください!●
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