01. 2014年9月24日 07:32:42
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福田赳夫氏の“インフレの政治経済学”深刻なスタグフレーション局面も2014年9月24日(水) 日経ビジネス編集部 日経ビジネスはこの9月に創刊45周年を迎えた。それを記念し、世相を彩ってきた“時代の寵児”20人を選び、彼らへのインタビュー記事を再掲する。それぞれの“肉声”から、今にも通じる様々な教訓を読み取れるだろう。 (注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。 1973年10月15日号より インフレでいら立ちを深める日本の経済社会の行く先は、この好況のあとに待ち構えるものは何か……。一貫した安定成長論者として独自の経済観を持つ福田赳夫氏にいまの世相を診断してもらった。 (聞き手は本誌編集長、太田 哲夫) 問 最近の世相をみていると、豊かにはなっているけど、なにか安定感がなくなっているようにみえますね。
答 たしかに、ポバティー・イン・プレンティ(豊饒の中の貧困)という感じが強い。こういう時期は戦前にもあった。昭和初期は大変な不況でねえ。ボクは昭和4年に大蔵省に入ったんだが、まるで宝捜しのような気分だったね。 当時はいまと違ってデフレだ。中小企業はバタバタと倒れるし、大銀行が取り付けにあって倒産した。一方で財閥はますます他歩を固め国民の反感が強まった。しかも、不況が農村まで浸透し、青年将校の決起となった。5・15事件に続いて満州事変が起こり、日華事変、第二次大戦へとつながっている。 そういう経過をみていると、いまの世相があの当時と非常に似通っており、なにか、国民がいらいらしている。もちろん、だからいまの世相が戦争につながるなんていうことは考えられない。しかし、それだけにいっそう物騒というか、どうなっていくか分からんという感じだね。 ある外人記者が書いた日本訪問記に「日本は第二次大戦で敗けたが、その心まで失ってしまった。たしかに、高層ビルの鉄骨は林立している。ネオンは夜空に輝いている。しかしなにか痛ましいものがある」とある。 インフレでは先々の見通し立たぬ 問 心休まらなくさせているものは一体、なんなのでしょうか。 答 いろんな原因があるんだろうが、やはり、インフレが一番、災いしている。いま、日本にインフレがあるのかどうか、皆さん、いろいろ意見はあるようですがね。これはまあ、学者に任せればいいことで……(笑い)。しかし、物価問題が容易ならざる段階にあるということはだれも異論はない。 卸売物価にしても、消費者物価にしても、先進諸国の中で群を抜いている。特にああいう数字に出てこない一面あるのは地価問題です。これは地価の暴騰というか狂騰ですね。そういう状態をみると、日本の物価というのは世界の中でも異例な様相といえる。 インフレ社会の中ではやはり、小さい者、弱い者の立場が弱まり、逆に大きな者、強い者の立場が強くなっていく。そうなると、社会公正というか、社会の安定という基盤にふれた問題が出てくる。 もう一つはわれわれの私生活なり事業活動にしても、先々のことが見通しがつかなくなるという問題がある。「さぁ、子供が高校に入った、3年たったら、大学だ」というんでその準備をする。まあ、子供のことが家庭の一番の関心事だが、そのカネが半分の役しか立たん、ということになったら、その親の気持ちはどういうふうなものか。 その次の家庭の関心事は自分の問題だ。年をとったらどうなるか。まあ、わたしは老後のことを心配するような世の中はあまり考えたくないんです。子供が全責任をもつという社会を考えてますからね。 しかし、現実はそうじゃない。特に、大都市では核家族化が進み、みんなが老後のことを心配している。そこで政府は5万円年金を手がけることになったわけですけど、やはり自分が一生懸命働いて老後の備えをする、ということをみんな考えるんですね。ところが、それが役に立たんということですよ。 それから、家庭の中で大きいのは住宅問題です。サラリーマンにとって、ささやかではあるが命を賭けての願いはなにかといえば、それは住宅を持つということだ。それが地価や建築資材の値上がりで、そのささやかな願望さえ奪われている。 共産党論ずる前にインフレ絶滅を 問 企業にとっては、いまのインフレはどうでしょうかね。 答 事業家の方でもやはり、経済価値を測る尺度が変わるんで先々の設計ができない、長期の契約もやりにくいという問題が出てきます。それに、モノがだんだん無くなる。これは本当に無くなってしまうわけじゃあないんです。 たとえば、鉄が市場に出てこない、そこで値段は倍にもなる。ところが、鉄は去年1億トンできてます。ことしは1億2000万トンをかなり上回っている。ところが鉄がないというのは町工場などでみんなが買い込むんです。先高だからこの際、ということになってくる。 最近、倉庫が足りないというんでテント屋がエラい繁盛をしている。横浜あたりでははしけが飛ぶように借りられている。はしけに積んでビニールをかぶせとくわけだ。つまり、モノがあっても、引っ込んじゃうんです。政府の予算にしても、なかなか執行できない。地方公共団体なんかでも、大変なものです。 やはり、人生なんちゅうやつは子供をどんなふうに育てるか、40歳、50歳にもなったらささやかな家でも持ちたい、といった長い目標に向かって、1日1日汗水たらすということでしょう。そういうことに生きがいとかハリというものが出てくる。 ところが、物価がこうなってくると、生きがいやハリが出てこない。戦前のようにはならんにしても、それだけにこういう社会がどうなるか、実は大変に心配しているんですがね。 問 そのイライラが発火して爆発する場合、どこに出てくるとお考えですか。 答 いま共産党の問題をみんな心配してますわね。ただ、インフレというのは共産党には一番いいお座敷じゃあないんですか。だから、わたしは「共産党を論ずる前に、まず敵はインフレにある。インフレを絶滅せい」といっている。そういうインフレが社会不安につながる。 産業需要だけ抑えればやがて不況に 問 いまのインフレの原因はなんだと思いますか。 答 やはり、戦後28年間、特に最近の十余年間続いた高度成長路線がもうやっていけない所にきているということです。それをインフレが端的に物語っているのではないか。 問 物価を抑えようとして、引き締めを強化し、有効需要を抑えようとしているのがいまの段階ですね。ところが、引き締めで生産は落ちても、賃金水準は抑えられない。景気は停滞するが物価には効かないということになるでしょう。 答 だから、よほどインフレ対策を根本的に考えないと、いわゆるスタグフレーションという現象が必ずやってくる。いま総需要抑制ということが物価対策の要であるといわれている。総需要というと、5割が国民消費、2割が政府需要、また2割が産業需要で、残りの1割が輸出だ。ところが、正月以来とられている金融引き締め政策はわずか2割だけの産業需要に向けられているわけだ。 さて財政の方は7000億円ですか繰り延べたが、これはむしろ執行できないから繰り延べた面がある。やはり、いまのインフレ対策というのは金融引き締めを主軸にしたもので、総需要抑制とはいうけれど、主力は産業需要にかたよっていると私は思う。 そうすると、いつかは分からんが、不況状態が出てくるのではないか。この不況状態も全面的に出てくるわけじゃない。引き締めの影響をセンシブルに受けなくちゃならんという産業や企業をきっかけとして不況感がまず出てくる。それから不況が続いてやってくる。 だから、卸売物価はある程度、水をかけられる。しかし、賃金の上昇とか原材料の高騰とかで動く消費者物価の方は別だ。したがって、スタグフレーションに陥らないためには相当努力が必要になる。うっかりすると、スタグフレーションが深刻な形でやってくる。 所得政策は勤労者が納得しなければ 問 いまのインフレはデモクラティック・インフレだという指摘がある。デモクラシーでみんな自分の能力以上のことを要求し始めている。だから物価は上がる。そこで日本でも所得政策が必要になってきた、という意見も出てきた。しかし地価狂騰という欧米にない問題をかかえていては、所得政策はきわめてむずかしいと思われますが。 答 たしかに、欧米並みの所得政策はむずかしい。欧米と違って日本はいま、所得の平準化作用が進んでいる過程ですからね。それからもう一つはこれだけ消費者物価が上がっているときには段取りとして所得政策はむずかしいということです。まず、勤労者が納得するような環境条件を整えてでないとダメだ。 「さぁ、地価も凍結しますよ、配当も規制する。だから勤労者も物価対策に協力を」というオールラウンドの施策で、しかもそれをやれば物価が先々安定するという見通しが納得される時間でなければねえ。 問 また、デノミの話が出ていますね。 答 デノミというのは、私は大蔵大臣のとき、計算上の便利とか、またささやかではあるが、国の体面というようなこともあって「いつの日にか3ケタの状態というのは清算しなくちゃいかん」といっておった。しかし、いまは物価を安定させることが先決だし、デノミとはそれがどんなものか理解されていない段階では物価の安定をますます困難にしてしまう。とにかく、物価問題が最悪のときにデノミなんて持ち出すことは論外だ。 土地問題はまず住宅問題だ 問 先日も経済企画庁が、庭付き1戸建て住宅は勤労者はもう諦めろという報告を出した。地価問題は手の付けようがない感じが強まっていますが……。 答 いや、どうしてもその手をあらしめなければならない。これは社会正義ということからも解決を迫られている。土地問題は住宅問題という角度からのアプローチを先行させるべきだと考えている。私権制限も当然、浮かんでくる。しかし、それには国民全体の理解とコンセンサスが必要だから、なかなか容易じゃない。 東京、大阪の過密大都市について、特別に住宅問題を考えてみる必要がある。その場合、広域的に考えないとダメだ。そこで首都圏の土地利用と人口配分を精密じゃないが、おぼろげな構想を考えてみるということだ。 しかし、一方で住宅施設をよりよくすれば逆に人口がますます集中してくるというジレンマがつきまとう。だから、人口分散によほど精力的に取り組まなければならない。大学の疎開、工場移転、事務所の増設規制のほかに、中枢政府機能の移転まで考えないといけない。 同時に、市街化された特定の地域については、土地利用に国家介入を考える。いわゆる調整区域では公的機関を中心にして住宅地帯を開発するとか、既成市街地再開発を震災対策の面からも進めるなどの手を打っていく。 地価は、土地保有税が新設されたが、この程度の税制だと、却って地価を高くする効果もある。地価高騰を抑制する、あるいは地価を凍結するくらいの効き目がある厳しい税制、たとえば高額譲渡所得税などが必要な段階だという感じだ。 企業の心構えも“自由過剰”だ 問 大企業に対する風当たりが強くなっていますが、いまの経営者を昔と比べてどう思いますか。 答 いまの世の中は社会連帯とか社会道義が欠けていますね。「社会あっての自分だから社会に貢献しよう」ということが希薄です。この社会的風潮は戦後の日本歴史の移り変わりの中から生まれたものだ。 廃墟の中から立ち上がり、食うや食わずで他人のことなど考えるゆとりもなかった。そこへアメリカの民主主義がはいってきた。ところが、日本では民主主義が皆、我慢のしあいの社会理念だということが忘れられてしまった。要求、権利、自己ということだけが浮き彫りにされた。それが今日に至っている。 したがって、企業のあり方にしても自由過剰の心構えになっちゃう。本当に健全な社会連帯感が存在する社会なら、煙草の吸い殻を道に捨てるというのと同じに、企業が買い占めをやって物価をつり上げるなどということはあり得ない。あり得ざることがあり得るというのは、社会風潮に原因がある。 問 いったん勝手に動き出したものは「これじゃダメだ」と気が付くまで放っておくしか解決の糸口はつかめないという悲観的な意見もありますが。 答 そんな考え方は政治じゃない。よくないことです。ロスも大きいし。 資源さえ乗り切れば将来は明るいが 問 経済力はついたが、ひ弱な面が目立つ日本が置かれた世界の立場はむずかしい。外国も日本がどう行くかについて予測し難いので不安になっていますね。 答 戦争に敗れても、はい上がってGNPが第2位になるというエネルギーがどこへ行くのか、外国が不安にかられて眺めるのは当然だ。世界の人は主として三つのことで日本に疑問を抱いている。 第一は経済大国が軍事大国化して核保有国になるのではないかという不安だ。第二は日本の発展が世界平和によって支えられている。特に日本の安全はアメリカの軍事力によって守られている。日本はこれに対し、何をもって報いるのかという疑問です。 第三が経済問題だ。15年間、先進諸国の2倍半の成長を続けてきて、これ以上まだやるのかという疑いだ。成長し続けるならば世界市場を食い荒らすだろう。有限ということが明らかになった地球上の資源に日本はどう対処するのかという不安が広がっている。 この三つのうち、初めの二つはしだいに理解が深まっている。軍事大国化とか核保有は考えられないとわかってくれ始めている。第二の問題は「ゆとりの出てきた日本が発展途上国に援助をふやそうという気持ちはわかった。あとは態度で示せ」ということになっている。 いまだに世界の人が全然わからないのは、日本が世界の経済秩序を破壊するのではないかという恐れだろう。 私は日本経済の先行きは明るいとみています。ただ黒一点は資源問題だ。新全総計画の最終年度、昭和60年には世界の鉄鉱資源の7割を日本が使う勘定になっているが、こんなことは世界が黙ってみてやしませんよ。すでに石油に端的に問題が出ていますが、やはり日本は世界平和の下で順調に資源がはいる状態でないと生きられない。その角度からも、鮮明に、かつ大胆に高度成長政策を安定成長政策に転換しなければならない。 もちろん、いっきょに成長率を下げるわけにはいかない。数年後に目標を置いて、安定成長に誘導する舵取りをしないと、日本は孤立化して袋叩きにされて元も子もなくなる。そこで資源問題さえ乗り切れば、先行きは概観して明るい。 公害、住宅、交通、福祉の遅れという問題があるが、これだけの経済力、財政力があれば、解決できない問題などないんです。ですから、あせっちゃいけない。着実な姿勢でやれば、イライラの原因は必ず解決する。それから、やはり外交は資源外交的な色彩を強めていかないとね。 すべて「あせっちゃいけない」のだが 問 その資源外交も、モデレートな経済に切り替えた上でのものでなくてはならないというお考えですね。 答 世界的に資源が不足しているので、各国が神経質になっている。だから、われわれは国際水準というか国際並みのことをやっているということで、初めてのエクスキューズも成り立つ。世界の平和と秩序に貢献し、協力していることで、初めて安定した資源が割り当てられる。 問 いまの内閣はそういう路線に沿っているんですか。 答 そう主張をしているんだが(笑い)。私ひとりの内閣じゃないからね。 問 「あせっちゃいけない」というのは、先日の新幹線網計画の決定を慎重にという問題にもつながるんですね。 答 そういう意味を込めているんだが。それに皆が地価や物価の問題を心配しているときに、地価の高騰をあおるような、また物価を刺激するようなことはどうか――という提言をしているわけです。 このコラムについて 時代を彩った“寵児”20人 日経ビジネスはこの9月に創刊45周年を迎えました。それを記念して、日経ビジネスに登場した名経営者や元宰相など、今では鬼籍に入って話を聞くことのできない方を中心に、時代を体現した“寵児”20人のインタビュー記事を再掲します。活字化された彼らの“肉声”から様々な教訓を読み取っていただければ幸いです。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140922/271570/?ST=print 「時代を彩った“寵児”20人」 田中角栄氏が語った“行革10年戦争”の青写真 課長、局長増やし公務員総定員は半減を
2014年9月22日(月) 日経ビジネス編集部 日経ビジネスはこの9月に創刊45周年を迎えた。それを記念し、世相を彩ってきた“時代の寵児”20人を選び、彼らへのインタビュー記事を再掲する。それぞれの“肉声”から、今にも通じる様々な教訓を読み取れるだろう。 (注)記事中の役職、略歴は掲載当時のものです。 1981年7月27日号より この夏、田中角栄元首相の動きが一段と目立ち始めた。東京都議選の表舞台での応援から行政改革推進の根回し工作まで……。「いま田中さんは何を考えているのか」。行革、防衛、鈴木政権の行方など主に当面の重要政策課題にしぼって意見を聞いた。「行革は10年戦争。公務員は半減できる」と言い切る田中さん。“目白政府”は健在とみた。 (聞き手は本誌編集長、杉田 亮毅) 鈴木内閣の評価 この1年は挙党体制の地ならし。これからがいよいよ行動の時ですよ 問 鈴木政権も1年を超えて“和”の政治は曲がり角じゃないかと言われています。この1年をみて、順調なすべり出しから後半もたついているという感じもするんですが、その点いかがですか。
答 私は正常な1周年だと思いますよ。大体、明治からずっと振り返ってみて内閣の平均年齢は2年ないんです。1年何カ月だ。戦後は比較的安定して2年から2年半ですね。佐藤さんは非常に長かったけれども、個々をみれば鳩山2年、私が2年半、三木、福田2年、大平1年半ぐらいで、戦後の政治はみんな2年ぐらいだな。 そのうちの半分を鈴木内閣はもうやってきたんだから、堂々たる政権と言わざるをえない。ただ、だからといって鈴木内閣は2年で終わると決めつけているわけじゃないですよ(笑い)。 佐藤内閣のあとの田中、三木、福田、大平の各政権。これはちょっとライバルが多過ぎたというか、立候補者が多過ぎたというか、その意味で相当厳しい潮流の中でそれぞれの政権が誕生し、交代していった。それは7年8カ月という佐藤さんのあとだから当たり前のことですよ。佐藤内閣の7年8カ月とわれわれの2年を足すと約9年。平均値は4年半だ。何も考えないでサラッと判断すると、鈴木内閣はわれわれの倍くらいもつ運命の中に誕生した――こうみていいと思うんだ。 何かない以上はという条件付きだよ。そういう意味でいえば、鈴木内閣の1年は挙党体制への地ならしの時期ですよ。激流に棹さした大平内閣のあとだから(地ならしに)1年ぐらいはかかりますよ。だから、鈴木内閣はここからが本格的スタートだとみるべきだね。 問 “和”の政治も結構だが、もう少し指導力がほしいという声もある。 答 大体日本人は“和”が好きなんだよ。聖徳太子の憲法も「和をもって貴しとなす」だ。“和”は基本なんです。だけど「和して同ぜず」もあるし、「和してなごまず」もあるしな……。基本的にはお釈迦さんだけど、お釈迦さんの言うことだけじゃ生きていけませんよ(笑い)。多数決も必要だし……。 いままで鈴木内閣は“和”だけだけれども、いよいよ行動を開始したじゃないですか。土光臨調の答申は100パーセント尊重します。基本米価は上げたくない──いままでのお釈迦さんから比べたら相当の変わりようだ(笑い)。 むろん、政治の基本は“和”でなければいかん。だから時間もかかる。ただ、政治では時がくれば“召集令状”を出さなければならんからね。その程度の決断は必要なんだよ。政治というのは待ったなしのところがある。時至れば、死刑の執行も行う。これが政治の避けがたきところだ。鈴木内閣はこれからちゃんとやりますよ。 大平君の衣鉢を継ぐという自覚を忘れたら鈴木君は一発やられますよ 問 鈴木さんという人は、いったん思い込んで決断するとなかなか動かないというところがあるんじゃないですか。 答 うん。あの人の生まれは岩手県だ。岩手県も太平洋で、日本のチベットと称されるところだ。だから、それはたくましいと思うよ。余談だがね、北陸本線に石動(いするぎ)というところがある。ところが岩手に行くと、この石動が途端に“岩動”になっちゃうんだな。 同じく“いするぎ”と読ませるわけだが、これは同じ人から由来してるんだ。北陸から岩手に逃れた人、居を替えた人が石を岩に入れ替えた。岩手人には相当なたくましさがある証拠だよ。鈴木君、どっちにしてもタダ者ではない。 大平−鈴木、田中−二階堂というと諸君がみてもどっちが明るいか、どっちがおっちょこちょいか、すぐわかるじゃないか(笑い)。これは万人周知のことだ。大平正芳はクリスチャンだけれども、私は初めから真言宗、弘法大師ですよ。クリスチャンの真似はしない。 ところが彼の選挙地盤(香川県)は弘法大師誕生の地だ。大平君は自分の選挙区では真言宗の戒名をつけて石塔を建てる一方で、東京では十字架もちゃんと建てていた。それくらい政治性を持っているんだ、大平君は(笑い)。その反面、一昨年の40日抗争のときでも(大平君は)譲らぬときは断じて譲らないじゃないの。私ら政党人は、すぐ足して二で割ったりするのでまだ弱い。 問 鈴木政権の背景に田中、福田両大御所が手を結んで支えているのが大きい。 答 それはそうですよ。田中も福田ももう首相をやったんだもの。やって終わりだから後の自民党政権を支える責任を持つのは当たり前です。 問 それはそうですけど、あえて言えば鈴木体制でなくてもいいわけですね。 答 そりゃ、どうかな。鈴木内閣を考える場合、大平体制が任期半ばで倒れたということをよくわきまえなければいかん。しかも大平総理の名前で総選挙をやって、国民の支持を得ながら倒れたんだから、次の政権はまず自民党の中で担当することは間違いない。ところが、自民党の中にも流れがある。その中で大平の流れから看板を出そう。みんなそういう気持ちだったんだ。 そういう意味で鈴木君が選ばれた。鈴木になるか、伊東(正義)になるか、斎藤(邦吉)になるか、みんな考えたんじゃないの。思想、政策は自民党の網領によってやるんだけれども、大平が信を国民に問うて結果が出たんだから、少なくとも大平の人脈の中から次の総裁を選ぼうというのは最大公約数だし、日本人なら黙っていても出る結論だ。 これを半年とか1年で引きずりおろそうなんて言ったら、誰も承認しないし、理解を示すはずがありません。大平の衣鉢を継いでいるから、党もみんなも認めているんだ。彼がその重さを自党している限り、鈴木内閣は続くさ。そうじゃなくて、とんでもないことを考えたりしたら、これは一発やられますよ。 鈴木君は総理になる前、ワシは人をつくるのが商売で、総理になろうなどということは全く考えない、と言っていたでしょう。その時のことを裏返して言えば、副総裁とか衆議院議長になって晩節を全うするんだという意味だよね。荒っぽい第一線に立って采配を振る気はないというわけさ。それをみんなから、そんなこと言わないで総理になって下さいと言われてなったんだから、逆に彼はその責任の重さを痛感しなければダメなんだな。 それをちょっとはみ出して、「嫌だ、嫌だという僕を引っ張り出したんだから、少しくらい恣意のおもむくままにやっても許されるだろう」なんて考えたら、鈴木君は手厳しくやられるよ。むろん鈴木君もまだ、「少しは僕のわがままを許せ」なんて言ってないけどね。いや、少し出てきたかな(笑い)。 行政改革 日本くらいになれば国防・警察・教育以外は全部民間でやればいい 問 そういう中で鈴木内閣の最大の試金石が今度の行革だと思うんです。臨調の答申をやれるかやれないか。 答 非常に常識的な答申だと思いました。この行政改革というのは必然性がある。答申の有る無しにかかわらず、行政機構の整理、合理化は当然行わなければならないところまできている。そこへこの答申が出たというのだから、少なくともこの答申程度のものをやらなかったら、一体どうするのか。第2次、第3次となると、省をいくつにするか、庁とか行政委員会といったものをどういう風に整理統合するのかという話になる。それに比べたら、今度のはまだ1省をつぶすというのじゃない。 問 答申の中にある補助金の一律削減というのをどう評価しますか。 答 低所得者で社会的恩恵も家族の恩恵も一切受けられないというところに与えている補助金も、法律の目的なんかすでに15年も前に終わっている補助金も、一律に10%削減というのはおかしいじゃないかというのは、その通りです。しかし、行革の手法としては一律削減という風にやらざるを得ない。これはたどらなければならない一つのやり方ですよ。 ただ、その中には政策目的が終わっているから、1割でなく3割とか半分にしてしまおう、あるいはこれをやめてしまおうという種類の取捨選択はこれから出てくる。全部一律削減にしたらだめですよ。 そもそもを言えばですね。国が何でもやるのは社会主義国で、民主主義国、自由主義国の中では政府のやるべきことは最小限でなければいけない。日本くらいになったら、国防と警察と教育だけ税金でやって、あとは全部みんな民間でやる。国民の英知と国民の結集にまかせるのが先進国というものだよ。官僚機構がすべての日本人を抑えるのは、低開発国時代の考え方だ。 一般会計の分を財政投融資にもっていく。財政投融資の分を民間金融に譲る。銀行行政のものを証券行政(直接資本)にもっていく。そして最後には税制を運用していく。民間企業活動の誘導は税制の運用でやり、直接規制はできるだけやらないわけさ。こうしないと権限の委譲はできないんじゃないの。そして、これが先進国における理想の姿なんだ。しかし、そういう意味の行政機構の改革は10年はかかるね。 局長や課長を増やし、窓口でパッパと決裁すればいいんですよ 問 行政改革は手始めにどこから始めるべきと思いますか。 答 行政改革はまず、省とか庁とか委員会、局などの定義から出発しなければならないと思う。たとえば、総理府などは一体、なにを統括するのか。総理大臣と防衛庁長官との間に、総理府総務長官が立っているのかどうか。いま、その辺がわからない。行政を、まず国民にわかるようにしなければだめだ。 通産省でもそうだ。鉄鋼局、電力局、石炭局、貿易局、というようにすればよくわかる。ところが産業政策局、立地公害局というのがある。こういうものは、外国語に翻訳するとどういうものなのかわからない。外国人には何か陳情する場合、どこへ持っていけばいいのかわからない。自動車の輸出はどこだ、となる。迂遠なようだが、そういうのを直すのが行政改革だ。 問 田中さんは行政改革でユニークな構想をお持ちだそうで……。 答 最終答申はマスコミが考えている以外のことになるかもしれんよ。全く逆のことが出るかもしれませんよ。たとえばね、それはいまある省を全部変えて、総理大臣と官房長官と総理府総務長官──これは別の名前でもいいが、それだけにしよう。 官房長官は総理大臣の政務担当で、総務長官は事務担当の副(総理)大臣みたいなものだ。そしてここは省を統括したり、政策委員会を統括する。省とか委員会は実施官庁だ。これを20省だったら20省にビシッとしなければいかん。いま21省だから、まあ総理大臣を除いて20省というところがいいところかな。 そして、国民にこれを明確に知ってもらう。陳情とか許可を得ようというときどことどこを回らなければだめだ、なんてことを役所に言わせないようにする。どこかの窓口に行って内容証明をぶつけたら、(返事が)ちゃんと1カ月以内に自動的に出てくるようにしなくちゃ。コインを入れれば何でも出てくる世の中なんだから(笑い)。 ただね、私の改革案は単純な削減じゃないよ。たとえばね、私は、今の局は、最低2倍なくちゃいかんと考えているんだ。3倍でもいいと思う。課長なども3倍でも5倍でもいい。逆に増やすんだ。しかし、公務員の総定員は半分でいい。そこらが大変なところなんだ。 問 総定員を減らして、役職員を増やす。国民に理解されますか。 答 説明すればわかるはずです。役所っていうのはね、だいたい、窓口が責任回避なんだ。面倒なものは上にあげるんだな。断るんでも、窓口で断るのがいやなものだから(上にあげて)課長が断り、局長が断り、大臣が断る。 ところが、民間の銀行は逆なんだ。銀行は全部、融資の窓口には課長を座らせる。銀行で課長が、「融資部長のところに行ってください」と言ったときには、もう50%は融資が決まっており、あとはいくら貸すかという判断だよ。だから、銀行は窓口でも管理職が責任を持っている。
官庁はまるで逆だ。だから局長や課長を増やし、窓口でパッパ、パッパと決裁しろというわけさ。1年おきに課長を代えることは絶対いかんね。少なくとも10年間は置かなければいけない。そうしないと、責任体制の確立ができない。国民が申請を出して30日以内に許可がないものは許可を得たものとみなす、という具合にしなくては。 「国土省」「食糧省」などの省庁の統合や国鉄の民営化が必要だ 問 この間、第二臨調の土光会長とお会いになりましたね。 答 答申が出る前に意見を聞かれてね。いろいろ具体的に話しましたよ。例えば、国土省ですね。国土省とは国土をつくるものだ。そこに建設省や林野庁、運輸省の港湾局が入るのは当たり前だ。それから気象庁が入る。そうなると、農林水産省は食糧省になる。国民食糧というのは最大の問題だからね。 本当は建設省がいまの国土庁に入るべきものだが、そうなっていない。もう建設省は事業省としてあまりにも大きくなっていて、政策がない。請負省みたいなものになっちゃった。技術省だよね。国鉄と運輸省監督局の関係みたいなものだよ。 国土庁から見れば、建設省との関係は馬に乗って象の大群を指揮するようなもので、コントロールし切れない。郵政省が電電公社や国際電電を1人の局長ぐらいで指揮できるわけがない。それと同じことなんだよ。そういう意味で、必要な行政機構は倍にして、その代わり10分の1に削ったり、統合できるところはいっぱいある。 経済企画庁だって、大蔵省の経済局にすれば簡単なんだ。企画庁がいらなくなるんだから。その代わり、20人か30人のスタッフを置いて内閣直轄の経済委員会にして、長は官僚と同じ給料を払う。 鉄道については、私は具体案を持っているんだ。鈴木総理のおひざ元の三陸鉄道だけどね。ここを今度、第三セクター(公共部門と民間の共同事業)でやるという。そりゃあ、総理が10万円も出資すれば、みんな出資するでしょう。だが、北海道の鉄道なんかは(この方式では)やれないですよ。 北海道から国鉄をとったらどうなる。熊だらけになってしまう。だって明治4年から北海道の鉄道は赤字だもの。これからだって相当赤字だよ。北海道の人口が1000万人になるまでは赤字だ。民営でできるわけはない。そういう意味で、北海道は北海道鉄道公社を作った方がいい。 四国はね。国鉄を入札にすれば、みんなが買うよ。「四国を買いますかねぇ?」というところに問題があるんだよ。四国は本当ならタダで売ってもいいんだ。だってこれから赤字が出るんだから。赤字の計算をすれば補助金付きで払い下げてやってもいいんだよ。 誰が買うかというと、それは大阪の私鉄、例えば近鉄だとか……。大阪の業者はいっぺんに買う。なぜかというと、これは鉄道だからダメなんで、あのレールの上をSLでも走らせれば学生が乗るし、遅いやつは中をホテルにしてカラオケをやっていれば新婚旅行が乗るしね。 そんなことがわからないで鉄道経営ができるか。(私が関係している)越後交通は、ずい分前から1割配当しているじゃないか。それが国鉄は1兆円の赤字を出す。国鉄の月給なんか絶対高くない。私が越後交通で払っている月給よりも国鉄の月給は安いもの。なぜ越後交通が1割配当して、国鉄が1兆円の赤字を出すか。人間が倍いて、働く時間が半分なんだ。 とにかく私は行革推進論者だ。財政(大蔵大臣)をやった人はそうでなければいかんよ。鈴木君も、政治生命を賭けると言っているが、総理大臣を1年間やっているんだから、政治生命を賭けるのは当たり前だよ。 それからもう一つ言うとね。今度の臨調の答申は多少は革新的なものもあるが、体制内の議論で、みんなワクの中のものだな。だって、大蔵省や各省はこれから15年ぐらいしたら局長になる39年から43年入省組を臨調の専門委員に派遣している。だから、答申は大蔵省だけでなく、行政機構の中で大筋においてコンセンサスが得られている。それで彼らは自信をもって書いたんだ。まあ彼らは各省の中の左派みたいな連中だな。 防衛・外交 米国の要求は政策転換じゃないんです。本腰を入れたんですよ 問 防衛問題に移りますと、米国はわれわれがちょっとヒステリックだと思うくらい強い要求をしているわけですが、ある程度それにこたえていかなければならんということでしょうね。 答 それは当然ですよ。米国は今度は本腰だ。大統領が代わったから政策転換をしたような格好だが、これは政策転換じゃありません。米国の本質的な政策です。彼らに自由主義、民主主義国家の中核だという自負がある。だからNATO(北大西洋条約機構)も守るという。 しかし、NATO諸国はソ連と陸続きだから、実際の空気は日本などと違う。第一、ポーランドひとつひっくり返ったら、西独の経済は2、3年お手上げですからね。それだけに西独も相当厳しい事情にある。いまや欧州は大なり小なり第二次世界大戦の前夜に似た空気ですよ。非常に不景気で、緊張が高い。日本もその辺のニュアンスを理解しなくちゃね。 もっとも、この点について、向こう(米国)の言うのは本当だけれども、日本も急に防衛費を倍にできるかという問題はある。そして、できなかったら米国から日米安保をやめると言い出すかというと、そんなことにはならない。そんなことにはならないけれども、そんな日本人だったら、いずれ報復がきますよ。 問 防衛力を増強する場合、憲法まではともかく、防衛大綱の見直し程度は必要ではないですか。 答 防衛大綱は選挙政策だとか言うけれども、そうじゃないんだ。国の基本政策ですよ。国民の生命と財産を守り得ずして政治があるか。どこへ出しても恥ずかしくない国防計画ぐらいは必要だ。これは当たり前のことじゃないの。 全方位外交というけれど、ソ連と中国への対応はおのずと違う 問 ただ、安全保障という広い意味で、対ソ、対中のバランスをとっていく必要があると思うが……。 答 日本は全方位外交などと言っているけれども、あれはマスコミが作らせたんだ。政治家はそれを言わなくちゃ、選挙に損だという恐怖心があるんだな。しかし、全方位外交っていうのは、実際にはどうかな。日本人でも単なる知り合いと親しい同級生、隣りの子供とわが孫は一緒にしないでしょ。隣りの子にもアメ玉をやるが、自分の孫にゴマする時には二つやる。外交でもそのくらいの自由裁量さえなく、観念的な平和論をやっているんじゃ政治論じゃない。 だから、ソ連とはいまのままで最高ですよ。抑留されて、何も賠償を求めたわけじゃないでしょ。四つの島の返還を求めているだけだもの。そういう意味でソ連に対しては卑下することは全くない。 しかし、中国に対しては間違ってはいけませんよ。私は周恩来元総理と北京で会ったとき、先方は「おまえさん、日本は何年何月何日から何日までに、千何百万人殺したんだ」と、その内訳を全部言ってきた。私もね、びっくりしたけど、「はなはだ遺憾だからこそ、ワシは北京に来たんだ。あなたが東京に来たんじゃない」って言い返したんだ。ところが向こうは「あなた、遺憾だけで済みますか」とくるんですなぁ。これは私も返事に窮したけどね。 「私は中国から渡ってきた文化の中で“ゴメンナサイ”という言葉は最大の感じを表した言葉と思っているんだが、あなたがそう理解しないなら仕様がない」と、はっきり言いましたよ。すると向こうも「あなたは(戦争の時は)こっちを向いていませんでしたからねぇ」と言う。よく調べてるもんだと思ってね。私は(対中戦ではなく)ウラジオストック攻撃部隊だったから。 それでも周恩来は、「あなたは日本の総理大臣じゃないか」と突っ込んでくるんだ。そこで私はね、「そこまで言うなら私も言うが、あなたの国も九州を攻めたことがあるんだろう。700年余り昔、兵船4000隻をもって、福建省からわが九州をうかがったじゃないか。時たまたま台風によって、1割の400隻が命からがら逃げ帰った。こっちは上陸に成功したけれども、あなたの方は上陸に成功しなかっただけの話だ」と切り返した(笑い)。そうしたら周恩来は「あなたはよく勉強してきましたね」と感心してたよ。それが日中の首脳会談ですよ。 私はクレムリンに行った時も、「中国は日本人を全部わが日本に帰した。しかしソ連はこれをシベリアへ連れて行って殺したではないか」と言ったら、ソ連側は「中国は帰したんじゃない。メシを食わせられないから日本へ送ったんだ」と言うんだ。しかし、「同じ口減らしでも何もシベリアまで連れて行って殺すことはない。日本人はそんなことを許すか。3代はたたるぞ」と言ってやった。それで向こうは参ったんだから。これはちゃんと記録に残っているよ。 だから、まあ中国、ソ連とは全方位外交とは言うけれども、日本は中国に対しては相当な借りがあるということだね。 日米関係と非核三原則 石油を第七艦隊が守ってくれているのだから、日本が何を分担するのか…… 問 ところで、米国との間で経済問題と防衛問題がからんでくると厄介なことになるんじゃないですか。 答 いや、経済と防衛がからんでも厄介なものじゃないよ。大体がからむものなんだ。しかし、日本に片付ける気がないものな。それをこれからどう解決していくのか。とにかく国際分担だね。 米国に対して、日本はまず保護貿易をやらないようにする。これについては時間をかけて徐々に行きますよ。日米繊維交渉から10年後のいま、自動車交渉が行われた。要するに、日本が門戸を開かないで、向こうにどこまでも自由貿易を守れというのは、なかなか言えないよ。だから、10年すると、「農産物全部の門戸を開け」、「日本の関税障壁を全部撤廃しろ」とくるね。でも、それらは本格的な経済戦争ではなく、身内の中のゴタゴタだね。 問 非核三原則にこだわることが国際分担の障害になるのでは。 答 日本は憲法を守っていこう。非核三原則は守る。武器輸出はしたいけれどしません(笑い)、ということだ。武器輸出については鉄板を輸出したら装甲車の鉄板に使われるんじゃないかというような野党発言は困る。こんなもの武器輸出といわれてたまるか。メチャクチャだ。国際的にはこんな議論は通りませんよ。 日本は兵隊を送れないかも知れないという国際理解はある。しかし、石油資源の99%は米国の第七艦隊が現実に守ってくれているのだから日本はどういう分担をするかという話になるよね。そうなるとイランなどの国に経済復興基金として100億ドルずつ出すとか物資を提供するとか、それもしなかったら輸送船を出すか、沿岸警備隊を作るとか、あるいは鉄砲ぐらいは日本がつくる。ところが日本は国際会議で要求されても兵隊も軍艦も出さない。トラックも出さない。そういうわけにはいかない。世界平和維持のため何か応分の協力が必要だ。 問 非核三原則は3原則のうち、持ち込まずを修正、寄港と領海(領空)通過は認めるという、いわゆる2.5原則に直すべきという議論もあります。 答 非核三原則は「作らず」「持たず」「持ち込まず」なんだよ。それを「持ち込ませず」にしたんだな。そこが政治的なんだ。「持ち込ませず」というのは形式をうたっているわけだが、実は大変なんです。警察権で凶器を「持ち込ませず」というのとはわけが違う。信頼ある世界最大の国、米国との協定なんだから、米国が核ミサイルを積載していないというなら、それは積んでいないんだよ。 ソ連は軍縮をやっていますと言いながらどんどん戦車を作っているんだ。そこがなかなかむずかしいんだな。日本人というのは夫婦でありながらなお「浮気はしません」と一札書けという。そういうことを書いてほんとうに価値があるのかどうか(笑い)。 頭隠して尻隠さずじゃなく、頭まで出している日本の防衛体制 問 NATO(北大西洋条約機構)には核がある。核を認めない安保条約は実質的に機能しないのではないか。 答 スペイン沖で米軍が4,5回水爆を落としている。積んでいなけりゃ落ちるわけないんだけどね。日本とNATOの違いは、日本は駐留軍はいてほしいが核兵器や原爆は困る。ところがNATOは兵隊はいなくていいから原爆は置いてくれ。戦争に対する考えが違うんだ。日本の戦争感覚は駿河湾に地震が起きても東京湾には起きまいというヤツだな。NATOの国々はソ連と地続きだから、明日の朝、別の国旗の下に生きて行かなければならないということもある。その辺が日本と違うんだな。 仮に米軍が本当に核を持ち込んでいなかったら、日本は一体、どうなるんだということもいえるよ。米国の核の傘の下にあるということになってるんだからね。日本の防衛体制は頭隠して尻隠さずじゃなく、頭まで出しているということだ。 問 欧州を中心に保護貿易主義的な動きが強くなっていますね。 答 保護貿易主義の傾向はあります。特に欧州はゼロ成長でこの傾向が一段と強い。しかし、日本は欧州に対し貿易のウエートは非常に小さい。問題は米国ですよ。米国との間では、いすゞと、世界的なGMが正式に提携してから10年になります。北海道の苫小牧にも工場を作り、拠点を設けた。これは歴史的なことだと思う。 日米間はこうあるべきだね。日米は一体で日本は米国のパートナーです。話し合いをしなくちゃいかん。日米首脳会談なども、開くことに意義がある。信頼の確認、友情の確認でいいんです。 問 田中さんが通産相当時、ニクソン・ショックが起きたわけですが、今後、日米間でこの種の問題が起きることは考えられますか。 答 ドル防衛ということはあるけど、どうでしょうか。米国はいま20%の高金利政策をとっている。その効果は出てきますよ。日本経済はいま世界中で一番バランスがいいでしょう。 ところが円はドルに対し1ドル=230円だ。米国経済が強くなってきたんだなあ。そういう状態なら日米間の摩擦は少なくなる。その反対に、キー・カレンシーとしてのドル価値の維持ができないとなると日米間の摩擦は増大する。ただ、今後はだんだんとドルが強くなる。また、強くならねばね。 問 英国のサッチャー内閣の経済政策はうまくいっていないが、レーガンの経済政策も同じようなことをやっている感じがしますね。 答 そんなことはないよ。サッチャーの場合は追いつめられており、本当の行政改革だ。戦前の日本の浜口雄幸、井上準之助の金解禁コンビと同じように1930年不況に対処するような政策をやっているわけですよ。英国の場合、世界の七つの海に浮かべていた英連邦諸国との特恵を全部なくしたほどだから、それは大変だよ。そこまで行ったから、英国は本気で改革をしなきゃならんわけだ。 米国の場合は本当はまだ力もあり、余裕もあるわけさ。米国がNATO諸国との関係を第一次大戦の前に戻すと言い、軍事費負担を減らすなんて言ったら──まあ、言いはしないが──NATOの連中は困るよ。レーガンとサッチャーの政策は同じにみえても、置かれた条件が違う。 田中軍団 私は一貫して政治の真ん中にいました。それが若い人には魅力なんです 問 田中派は衆参議員合わせて105人。自民党内で最大派閥であり、数の力で実際に政治を動かしている。一般の人からみると田中さんの力の根源はどこにあるのかという感じなんですが……。 答 大体、誰でも首相になると、派閥の力に乗って首相になったにもかかわらず翌日から派閥解消を言い始める。私の場合はひと言もそれを言わなかったけれどね。派閥というのは必ずしも悪い意味ばかりじゃないよ。 私の場合は昭和21年から選挙に出ているんだけどね。私は戦後一貫して政治の真ん中にいました。その辺が若い人にとって魅力なんでしょうかね。野球でいえば、ネット裏でなくたえずグラウンドの中にいる。タマ拾いをやったり投げてみたり、アンパイヤーをやったりで、グラウンドという広い意味の政権の中にいたわけよ。そこが違うんだ。だからいまでも若い者は相談にきますね。 「いやあ、夕べは暑くて寝苦しく、午前4時過ぎまで眠れなかったよ」──でインタビューが始まった。「歯を急に悪くしてね。だから写真は勘弁してよ」とおっしゃる。写真なしでは格好がつかないので、ムリに頼んで撮らせてもらった。豪放磊落に見えて、細かい気配りをする人のようだ。陽焼けした顔はつやも良く、健康そのものという感じ。ダミ声の早口で、相手のひざをポンポンと扇子でたたきながらしゃべる仕草も首相当時と変わらない。 鈴木政権の将来については、政権の長期化を示唆しながらも、「大平の衣鉢を継いでいるかぎり」とクギを刺すことも忘れなかった。2時間半のインタビューでとりわけ熱弁を振るったのは、行政改革。国土省、食糧省はじめ、数々の注目すべき「角栄構想」を披瀝した。政府、自民党首脳の間では、すでに行革の第2.第3ラウンドについて検討が進んでいるのだろうか。日中国交回復交渉の際、故周恩来首相と丁々発止とやり合った秘話を公式に披露したのも珍しい。角栄節はまさに健在で、内閣改造も取りざたされるこの暑い夏、目白御殿を訪れる客足は、ますます繁くなりそうだ。 このコラムについて 時代を彩った“寵児”20人
日経ビジネスはこの9月に創刊45周年を迎えました。それを記念して、日経ビジネスに登場した名経営者や元宰相など、今では鬼籍に入って話を聞くことのできない方を中心に、時代を体現した“寵児”20人のインタビュー記事を再掲します。活字化された彼らの“肉声”から様々な教訓を読み取っていただければ幸いです。 http://business.nikkeibp.co.jp/article/opinion/20140919/271504/?ST=print
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