01. 2014年9月22日 05:03:26
: jXbiWWJBCA
【第151回】 2014年9月22日 加藤 出 [東短リサーチ代表取締役社長] 「2年で2%」という日銀の約束 言い回しの細かな修正が最善策 9月11日夜のテレビ番組に出演した際の、黒田東彦・日本銀行総裁の発言は、円安誘導を狙ったものだったと思われる。 テレビ番組に黒田総裁が生出演中、ドル円レートが106円から107円へ動くシーンも見受けられた(写真は記者会見時のもの) Photo by Ryosuke Shimizu 黒田総裁は、もしインフレ率が十分に上昇しない場合は、躊躇なく金融緩和策を強化するつもりであること、追加緩和策の手段は限られておらず、市場から購入できる資産はいくらでもあること、などを強調していた。
それらの発言自体は目新しいものではない。しかし、FRB(米連邦準備制度理事会)の利上げ観測が徐々に市場で強まっている中で、あえてそういった発言を繰り返せば、円安ドル高の動きを後押しすることを黒田総裁は計算済みだっただろう。 日銀は昨年4月4日に量的質的緩和策を導入した際、2年程度でインフレ率を2%へ押し上げると宣言した。その「約束」のデッドラインまで残りおよそ半年となってきたが、インフレ率はしばらくの間、1%台前半で推移しそうだ。 消費増税による物価上昇を含めて、インフレの影響を差し引いた実質賃金は、前年比でマイナスとなっている家計が多い。インフレの再加速が始まるほど消費がこれから力強くなるかというと、現時点ではかなりの不確実性がある。 このため、日銀としては為替レートを一段と円安に持っていくことで輸入物価を押し上げて、何とかインフレ率を春までに2%へ引き上げたいのだと思われる。 黒田総裁は、9月16日に大阪で講演を行った際には「円高が是正されていくことは、日本経済にとって特にマイナスになることはない」と述べた。中央銀行総裁としては、通貨安誘導の意図をかなり込めた発言といえる。黒田総裁は現状を円高と見なしているが、国際決済銀行集計の実質実効為替レート(広範囲)を見ると、最近は過去20年で最も円安圏内にある。 その講演会で、佐藤茂雄・大阪商工会議所会頭は「輸入原材料高と、値上げが困難な国内販売との板挟みで悩む中小メーカーからは、厳しい声も寄せられており、(円安の)マイナスの影響にも留意が必要」と発言した。佐藤会頭は、円安誘導でインフレ目標を達成したがっている日銀に苦言を呈したといえる。 確かに、昨年12月に日本商工会議所が約3000社を対象に行った調査では、95円以上105円未満を望ましいドル円レートに挙げた企業が6割強で、105円以上を望む企業はわずか13%だった。 日本経済に無理を強いてまで、来春のインフレ目標達成を実現する必要は、本来ないだろう。今の消費者心理では、「来春までに物価を一段と上昇させてみせる」と政府・日銀に言われたら、かえって防衛的に消費を慎重化させる家計が増加しそうだ。 また、むちゃな追加緩和策を日銀が選択すれば、今でもかなり歪んでいる金融市場の価格形成は、ますますおかしくなっていく。それは将来、金融緩和の出口政策を一段と難しくするだろう。 とはいえ、2%というインフレ目標を公式に急に変えるわけにはいかない。円高や株安を招く恐れがあるからだ。また、明確に「約束」を反故にしたと市場に受け止められると、この先、日銀が新たなフォワードガイダンス(金融政策の指針)を採用しても、市場から信用されなくなる恐れもある。 よって、言葉遣いは非常に難しいが、「2年でインフレ率2%」という「約束」の言い回しを微妙にずらしていく手法が本当は望ましいと思われる。 (東短リサーチ取締役 加藤 出) http://diamond.jp/articles/print/59438 |