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オックスフォード大学 クライストチャーチカレッジ
アベノミクス失敗に備えたコンティンジェンシープランを準備せよ!(1)
http://bylines.news.yahoo.co.jp/ohuefumio/20140919-00039248/
2014年9月19日 22時17分 大上二三雄 | MICG代表取締役、立命館大学経営管理研究科客員教授
==日本2020年のシナリオ(1)==
〜アベノミクス失敗のリスクに備えたコンティンジェンシープランを早急に準備せよ〜
東北大震災とそれがもたらした津波は、想像を超えた破壊力を示した。それと共に、様々な分野において我々の防災対策の不足や、対応能力の欠如を浮き彫りにした。そしてその結果、本来死ぬ必要の無かった多くの人たちが亡くなり、被災者は今も、日々の生活において問題を抱えている。
さて、それでは仮に、国家の財政破綻が現実のものとなり日本が「金融の大津波」に襲われた場合、我々にはどのような運命が訪れるのであろうか?政府や地方自治体、日銀、メガバンクをはじめとした金融機関、企業や組織、そして家庭はそのような事態に陥った場合、先ずどのような対応を取るべきであるかを充分に理解しているであろうか?そしてその為の準備、例えば非常用食料や飲料水にあたるものの備えは、充分であろうか?
結論を先に言おう。残念ながら、政府を始め様々な組織や家庭において「準備や対応」などほとんど無く、無防備な状況におかれている。 筆者は、そうした問題意識に強くとらわれ、四年前の夏より日本経済の大規模災害対策計画「プランB」の検討を、多くの方々の協力を受けながら進めてきた。
現在、安倍総理の陣頭指揮のもと、政府・日銀は一丸となって日本経済のデフレ脱却に向けたステップを踏み出した。筆者はいわゆるアベノミクスについて、デフレ脱却に向けた正しい取り組みであると評価する。現段階において、主として金融政策における大幅な緩和期待は、想像以上に日本経済に対して良い影響を与えているように思える。
しかし一方で、アベノミクスは多くの危険をはらんだ経済政策である事も、また事実である。金融緩和や財政負担の増大は、日本政府の負債を返済不可能なレベルまで拡大しつつある。そしてもし、一部の投機者に先導される形で、市場がその事をコンセンサスとして認識すれば、財政破綻の烙印を押された日本に「金融の大津波」が押し寄せる事になる。正直で不用意な有力与党政治家は、「アベノミクスが失敗したら大変なことになる」とテレビのニュース番組で語った。その通り。今は多くの日本人は一息ついたように感じているかもしれないが、アベノミクスは困難なデフレ脱却に向けた挑戦である反面、危機発生のリスクを高め、リスクが現実のものになった場合の災害を、より大きくしているのもまた、紛れもない事実である。
地震がいつ起きるか判らないように、財政破綻懸念の現実化という金融の大津波もいつ襲ってくるか判らない。重要なのは、そのような事態に対する「備え」を進めて行く事であり、それは堤防の構築や避難所の整備といったハード面の対策から、「津波てんでんこ」(津波の襲来が予想される場合、他人に構う事無く、皆てんでばらばらに思うように逃げろ、の意)といった津波襲来時の避難防災教育や関係機関の災害対策訓練といったソフト面の対策まで、様々な分野に渡る。
プランBの整備は、まさにそのような「備え」の準備である。アベノミクスという賭けに出た以上、政府や関係各機関から一人ひとりの国民まで、これからここで述べて行くような準備を行って行く事は、極めて重要なテーマであると筆者は考え、ここにプランBの概要を提示させていただく。
本論の構成
本論は、まずPART1で財政破綻を避けるためのナローパスを示す(図−1)。
アベノミクスとは、すなわちこのナローパスに足を踏み入れた事に、他ならない。これが上手く行けば、自ずから「自立・繁栄の日本」を実現する事が可能になる。ナローパスは、津波に対する防災で言えば、防波堤や地震予知にあたるだろう。
政策の不作為、あるいは世界環境の暴発によってもたらされる可能性がある財政破綻の危機に備えるためのコンティンジェンシープランが、PART2に示すプランBである。プランBは危機対応プランであり、その後の経済回復において効果を最大化する政策である。津波の防災に例えるなら、発生時の避難・防災活動のマニュアルや訓練であり、復興活動の準備である。これが上手く行けば、仮に危機を迎えたとしても、速やかな対応と適切な活動により、V字回復を果たし「自立・繁栄の日本」を実現する事が可能になる。それが出来なければ、私たちは子孫に「取り残され衰退した日本」を残してしまう事になる。
転換期を迎えた世界
ベルリンの壁崩壊から東西冷戦が終結し、天安門事件を経て中国が開放経済に移行して20年以上が過ぎた。そして2008年のリーマンショック以降、世界経済のガバナンスは先進諸国を中心にしたG8体制から、BRICSに象徴される新興国を加えたG20体制に移行した。
2010年に亡くなったイギリスの経済学者アンガス・マディソンは、世界各国の経済・所得水準を、過去から未来まで超長期的に推算したことで知られる。彼の1820年から2030年に渡る、主要な国と地域における210年のGDP推計(図−2)を見れば、1990年から進行するポスト冷戦下における経済のグローバル化と新興国の成長は、すなわち世界が大きく1820年の状況にリバウンドして行くことに他ならない事が良く判る。
世界経済の重心を欧米に傾けた帝国主義
1500年代からヨーロッパ諸国による、銃とキリスト教を用い徹底した破壊と植民地化が進んだ南北アメリカは、1700年代の後半より新天地を求め植民地に移住した住民達やその子孫が獲得した新しいエートスによる独立運動が、盛んになった。先ずアメリカが1776年に独立を果たした。その後、1789年フランス革命を経て、1800年代の前半にはブラジルやアルゼンチンをはじめ各地で、植民地人達により独立が宣言されるに至った。
その結果、新たな搾取先を求めヨーロッパの国々は、帝国主義的な侵略の矛先を最も遠い極東(ファー・イースト)であるアジアに向けた。1803年に弱体化したムガール帝国を保護国としたイギリスは、各地方の藩国をお互いに戦わせ、弱体化したところを保護国にして行くというやり方で、インドの植民地化を徐々に進め、1877年には英国国王を皇帝とするインド帝国の設立を宣言するに至った。イギリスがインドで行ったのは、イギリスのエートスを移植しつつ二重統治を進めるという、極めて巧妙なやり方である。「イギリスの官僚主義はインドにおいて完成された」という言葉は、その事を最もよく表しているだろう。そして、それとほぼ同時並行的に、弱体化した大国である清国に対しても、イギリスは軍事力を背景に経済的な攻勢を強めることとなった。
清国から絹織物や陶器、茶、工芸品などを購入する為に、イギリスが用いたのはインドで栽培したアヘンであった。国を滅ぼすほどに大量のアヘンが輸入され、困った清国政府は取り締まりを強めたが、イギリスは国益の為そのような行為を軍事的威嚇で阻止しようとした。そして最終的には、アヘンの輸入を阻止しようとする清国を暴力で屈服させるためにイギリスは1840年にアヘン戦争を仕掛け勝利した結果、屈辱的な南京条約を締結させることで、香港の割譲を含む甚だ不平等な条約を、国際法上で認めさせるに至ったのである。因みに、イギリス国内においてもこの戦争に関しては流石に「不義の戦争」との批判も大きく、予算案に関するイギリス議会の議決が僅か9票という僅差で可決されたのは、良く知られた話である。
しかしこの頃になると、遅れて帝国主義に参加して来た米国をはじめフランス、ロシア、ドイツ、など多くの国々も、中国という巨大な経済利権に群がり権益を主張するようになり、アロー戦争など醜い戦いの中、植民地化が進行し富の搾取が進んだ。そして、アジアで唯一近代化を進めた日本も、遅ればせながら1800年代後半より、欧米列強に交じり利権の獲得競争に参入した。結果として列強が相互に牽制する中、中国では革命から軍閥が割拠する状況に至ったものの、完全に植民地化する状況に至らなかったのは、やや無責任な言い方が許されるのであれば、不幸中の幸いであったかもしれない。
ベルリンの壁崩壊がもたらした帝国主義の終焉
そのような状況が進み、日本は最終的に無謀な戦いを米英を中心にした連合国に挑み敗れたが、敗戦後の冷戦下で奇跡的な復興を遂げ、一時は世界経済の10%を占めるに至った。そして今、中国とインドは経済的な長い眠りから目覚め、高い経済成長を続けている。かつて日本に牽引されるように経済成長を遂げたアジア諸国は、今度は中国とインドに引きずられるように、更なる経済成長の段階に入った。
その結果、世界経済の重心は、ヨーロッパ諸国による本格的な侵略が開始された1800年代初頭における位置に向け、大きく振り子の様に戻ろうとしている。アンガス・マディソンの2020年GDP推計において、中国、インド、アジア(日本を除く)の合計で世界のおよそ60%を占めようとしている状況は、ベルリンの壁崩壊により世界が欧米諸国による帝国主義の呪縛から完全に解き放たれた1990年から始まった、1820年への大きな回帰に他ならないのである。
日本の地位
そのような大きなリバウンドが進む中、日本が世界で占める地位はどのように変化しているであろうか。それを推し量るため、アメリカ、中国という日本にとって最も重要な三国間の相互経済依存度を、それぞれの相手国が自国の輸出に占める割合としてグラフ化してみる(図−3)、バブル崩壊から22年を超え、日本の世界、特に中国に対する相対的な地位が大きく低下したことを、一目瞭然に読み取ることが出来る。
10年後に向けた日本のシナリオ
転換期の世界においてここから10年、2024年に日本はどのような姿になっているであろうか? 筆者は、ここ数年来各界の将来を担うミドルメネジメントからボランタリーな協力を受け、シナリオプラニングの手法を用い2024年に向けた日本の姿を4つのシナリオにまとめる作業を毎年行っている(2014年版:図−4、5)。
横軸には、誰もが認めるグローバルな変化ドライバーとして、米中を始めとした多国間協調体制の確立を置いた。米中が大人のG2となり多国間の協調体制が確立されるか、諸国が自国主義に陥り孤立主義やブロック化が進んだ非協調体制となるか、ここの10年は須らくこのテーマを軸に、世界の政治・経済は動いて行くであろう。この横軸に対して、日本は影響を与えることが出来るが、結果を決めるのは米中の行動である。すなわち、日本はこのような世界の変化をマクロなシナリオとして、備えて行かなくてはならない。
それに対して、縦軸の変化ドライバーとして置いた、日本の政治が「創造的改革と自立」に向かうか「現状維持とポピュリズム」に陥るかは、日本国民の選択と政治家の能力の問題である。そしてその政治家を選ぶのは他ならぬ我々であるから、結果を決めるのは我々である。 自ら決める事が出来ない未来と、自ら決める事が出来る未来に対応した4つのシナリオ、先ずはこれを念頭にしっかりと置いて、本論を読み進めていただきたい。
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