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欧州経済、独り負け&デフレ深刻で日本化 量的金融緩和へ舵切り、本格突入の観測高まる
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140917-00010001-bjournal-bus_all
Business Journal 9月17日(水)6時0分配信
「通貨は詩と似ている」。前欧州中央銀行(ECB)総裁、ジャン=クロード・トリシェ氏の言葉である。「五百年前の俳句のように金貨は鋳造時の姿を保つ。これは非常に重要な点だ。時を経ても価値を保つ不変の大切さを我々に教えてくれるからだ」(日本経済新聞の連載『私の履歴書』より)。同連載内でトリシェ氏は、幼いころから詩に没頭したと述懐している。フランス文学の教授であった父親の影響で、マラルメ、ボードレール、ヴィヨンなどに親しみ、自身で詩作もしたという。
セントラルバンカー(中央銀行職員)には“インフレファイター”のDNAが埋め込まれ、「通貨の番人」との自負がDNAとして引き継がれている。特に欧州はその気概が強い。「ユーロを守るためならなんでもする」というスタンスが一番の根っこにある。リーマン危機から3年もたたず、欧州債務危機が拡大する最中の2011年、当時ECB総裁だったトリシェ氏は2度の利上げを断行している。「詩心を持ったインフレファイター」のなせる業である。それだけをもって金融政策を誤ったのかは評価が定まらないところだが、日米欧の中で今、欧州の経済状況が最も厳しいことは事実である。
日米、そして欧州の中でも英はリーマン危機の後遺症から立ち直りつつある。特に日本は15年に及んだデフレを脱したが、その反対にユーロ圏は「ジャパナイゼーション(日本化)」ともいわれるデフレ懸念が深刻だ。ユーロ圏の8月の消費者物価指数は前年同月比+0.3%とデフレに陥る瀬戸際にある。
一向に改善しないディスインフレ(インフレを脱したがデフレではない状態)を受けて、ECBは追加の金融緩和策を打ち出した。すべての政策金利を0.10%引き下げ、指標となる金利は過去最低の0.05%とした。預金ファシリティ(ユーロ圏の民間銀行が一時的に過剰となった資金を中央銀行に預け入れる際の利子)のマイナス金利幅は-0.10%から-0.20%へと拡大した。これを受けてドイツの短期金利は大幅なマイナス圏に入り、3年物短期国債の利回りまでがマイナスという異常ともいえる事態となっている。このドイツの短期金利のマイナスは、金融機関がいかに「カネの置き場」に困っているかを反映したものだ。
前回の金融緩和策で打ち出されたTLTRO(Targeted-LTROs)は、その第一弾が今月実施される。TLTROとは銀行による実体経済への融資を促進するため、銀行に超低金利で期間4年の資金を貸し出す長期資金供給オペレーションのこと。14年4月時点の住宅ローンを除くユーロ圏企業および家計向け融資額の7%を上限に、借り入れることができる。当初分(9-12月)で2000億ユーロ程度の借り入れが発生すると予想されている。
●相次ぐサプライズ、国債買い入れ実施の観測も
実はこの前回の緩和策が実行される前(TLTROの初回は9月18日実行)に追加緩和策の決定はないだろうと市場の多くは見ていただけに、今回のECBの決定はサプライズであった。
もう一つのサプライズは、ABS(資産担保証券)とカバードボンド(担保付き社債)の買い入れを10月から実施するとしたことである。一部メディアの報道によればこの資産買い取りプログラムは今後3年で5000億ユーロとも伝わるが、そもそもABSやカバードボンドの市場規模(及び市中流通量)を考えると、そこまでの規模の買い入れが可能か疑問視されている。いずれにせよ、プログラムの詳細は次のECB理事会後に公表されることになっているので、踏み込んだ評価はそこまで待つ必要がある。
しかし、市場というものは性急で、早くも追加緩和の催促が始まっている。すなわち、ABSを対象とした資産購入プログラムではなく、日米の金融当局が行ってきたような国債を買い入れ対象とする「ソブリンQE(量的緩和)」の実施である。
量的緩和の定義は明確には定まっていないが、仮に「中央銀行がそのバランスシートを拡大すること」と定義すれば、これまでECBがとってきたスタンスは量的緩和の正反対であるバランスシートの縮小だった。
これは、11年末から実施したTLTROの返済を受けてきたためである。今回のABSを対象とした資産購入プログラムの規模感は不明ながら、TLTROの実施と併せてECBのバランスシート拡大に寄与するだろう。マリオ・ドラギ総裁は会見で、ECBのバランスシートを12年初めの水準に戻すと述べた。そうすると現在2兆ユーロのバランスシートを2.7兆ユーロ程度まで膨らませることになる。7000億ユーロの量的緩和を示唆したともとれる。問題は方法論である。ABSだけでは足りないだろう。それが「ソブリンQE(量的緩和)」発動観測を生む要因になっている。
トリシェ氏は、フランスの詩人ではマラルメが最も偉大だと述べている。マラルメの詩の一節に以下のようなものがある。
「誇らしい自負心は みな 夕暮れに
風に消される松明の焔と煙り
永劫不滅のその息吹も つひに
遺忘に抵抗することができない」
誇り高きドラギ総裁もQEを実施せざるを得ないか。いわずもがなだが、QEとは通貨価値を貶める政策である。通貨の番人の自負心も、「永劫不滅のその息吹」も、ついに「遺忘に抵抗することができない」のだろうか。注目の次回ECB理事会は10月2日に開催される。
広木隆/マネックス証券チーフ・ストラテジスト
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