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「いい人」ほど絶対辞めさせないブラック企業のあんまりな手口
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20140912-00013423-president-bus_all
プレジデント 9月12日(金)10時15分配信
■「辞めたくても、辞められない」は本当だった
「会社を辞めたいのに辞めさせてもらえない」――。
こんな労働相談が正社員だけではなく、アルバイトにも増えていると聞いて取材を開始したのは昨年の夏だった。今年の春にはそれをまとめて『辞めたくても、辞められない』(廣済堂新書)という本を出した。
しかし、当初は正直言って半信半疑だった。憲法で保障された職業選択の自由があり、「辞める自由」も民法で認められているのに「辞められない」というのは、よほど本人に問題があるのではないかと思ったからだ。
だが、取材を進めていくうちに、それはとんでもない勘違いだったということに気づいた。事態の深刻さを目の当たりにし、「いつでも辞められる」と思っている私たちの“常識”そのものが崩れ始めていることを知った。
まず、数の多さである。NPO法人労働相談センター(東京都葛飾区)では、賃金や解雇、パワハラなどの労働相談を電話やメールで受け付けているが、06年頃から「辞められない」相談が目立つようになり、2012年の相談件数は671件。全体の相談件数の8.6%を占めている。今でも相談のメールは後を絶たない。
労組の中央組織である連合や他の労組の相談窓口でも増えているといい、東京都労働相談情報センターが作成した最新の冊子にも、辞められない場合の対処法を紹介しているほどだ。
辞められないのは、単純に労働者が法律に無知なせいではない。辞めたいという労働者に対し、上司や経営者が詐術、脅迫、暴言・暴力、洗脳などありとあらゆる違法な手段を駆使して強引に辞めさせないようにしているからである。
たとえば、
「辞めるなら身代わりを出せ」
「業務中のミスで会社が被った損害を賠償しろ」
「辞めたら懲戒解雇にして2度と転職できなくしてやる」
などと言って脅す会社もある。
あるいは実家の家族に連絡して、ウソの借金の保証人にして引き留めようと図る。皆の前で「お前は無能だ、どこに行っても使いものにならない」といった暴言や殴る、蹴るといった暴力を振るい、本人のプライドや自信をずたずたに切り裂き、辞めたいという意思まで消し去ってしまう会社もあった。
その挙げ句、辞められないまま、過酷な環境で働かされ続け、最後は心身に異常を来して入院するまで使い潰す会社もあった。
■明治時代の苛酷な労働環境に似ている
辞めさせない会社に共通するのは、低賃金、残業代なき長時間労働など劣悪な労働環境に加えて、暴言・暴力などのパワハラ行為である。
こうした事例をみてすぐさま想起したのは、 明治時代の1903年(明治36年)に農商務省商工局が著した『職工事情』に記された労使関係の実態だ。長時間労働や暴力などの虐待も横行し、その結果、鉄道自殺を図る者、肺病、胃腸障害などの病気になった人や死亡した人も多かった。
もちろん、経営者の都合でいつでも解雇でき、労働者はそれに異議を唱えることも許されない一方、「解雇を乞う」、つまり自己都合で辞める場合は、積立金や未払い賃金が没収されるうえ、場合によっては代人(身代わり)を出すという取り決めをしているところもあった。
この時から100年以上の時を隔てた法治国家の日本でも同じことが起きている。というより、戦後に築き上げた良好な日本の労使関係が悪化の一途をたどっているということだ。
もちろん一部の企業には違いないが、2013年の9月に厚生労働省が実施した「若者を使い捨てにする企業」の重点監督では、違法な時間外労働など何らかの労働基準法関係法令違反を犯した事業場は全体の82%に及んでいるという実態もある。
一般的に長時間労働や残業代未払いなどの低賃金労働に従事させ、使えない社員をいじめや嫌がらせによって自主退職に追い込んでいくのがブラック企業の手口とされている。
一見、使い捨てにするブラック企業と「辞めさせない企業」は真逆の存在のように見えるが、じつは「辞めさせない会社」も利用価値のない人は退職に追い込むが、利用価値のある人は潰れるまでとことん働かせるという意味では、同じブラック企業なのである。
そして、辞めたくても辞めさせない、あるいは辞められない現象は人手不足の状況になると顕在化する。
牛丼の「すき家」の大量店舗閉鎖に至った原因を分析したゼンショーホールディングスの「労働環境改善に関する第三者委員会」の調査報告書が7月末に公表された。この中にも、辞めたくても辞めさせてもらえないという人たちもいる。
その前に、報告書に描かれた“ブラック”の実態を紹介しよう。店舗の閉鎖に至った原因は、慢性的な人手不足による長時間・過重労働にある。それが退職者の増加を招き、人手不足が加速されるという「負のスパイラル」に陥り、過重労働がさらに深刻化していったと断じている。
■なぜ「すき家」バイトは「辞める」気力さえ失ったか
すき家の店舗数は2011年4月の1572店舗から12年4月に1799店舗、13年4月、1941店舗、14年4月1986店舗と拡大していくが、この間の正社員数は400人弱とほとんど増えていない。
もちろん、毎年170人程度を新規に採用しているが、2012年度、13年度の退職者数とほぼ同数。社員が一向に増えないまま、店舗だけが増えて仕事量が増大するという悪循環に陥っていた。
ちなみに新卒社員の離職率も年々高くなっている。2011年入社の社員(131人)の3年以内離職率は58.8%。2012年入社(175人)の2年以内離職率は45.7%である。
同社の残業時間データによると、非管理職社員の平均月間残業時間は多いときで約80時間、少ないときでも40時間を超えている。月間平均残業時間が100時間以上の正社員がしばしば100人を超え、クルー(アルバイト)でも常に数百人いた。もちろんサービス残業は含まれていない。
2012年度から13年度にかけて時間外労働に関する協定の限度時間を超えるなど法令違反で労働基準監督署から是正勧告を受けた数は62回に及んでいる。
第三者委員会のヒアリング調査では社員の中には恒常的に月500時間以上働いていた人や業務が多忙で2週間家に帰れなかった人もいたという。
過重労働は当然、健康を蝕んでいく。鬱病になった人、体調不良およびノイローゼで通院する人、居眠り運転で複数回の交通事故を起こしたことで退職する人もいた。
こんな労働環境では辞めたくなるのは自然だし、離職率増加の最大の原因でもある。だが、一方では辞めたくても辞められない人もいた。報告書ではこう述べている。
<クルーの中には、月間労働時間が400から500時間に上る者がおり、過重労働は、クルーにも及んでいた。実際、アルバイト用のアンケートにおいては、「断る事が苦手な人や優しい人達などが酷いシフト常態になっているのを目の当たりに見る。休み無しで、家にも帰れず車また店舗の更衣室などで寝ているのも見た。はっきり言って異常な光景だと思う」との回答があった。また、クルー相談窓口には、クルーから「長時間労働で体力的にもキツく、退職したいと5カ月位前からBM(注:ブロック・マネージャー)へ言っていたが、辞めさせてもらえない」等との声が寄せられている。>
辞めたいと申し出ても、いろんな理由をつけて引き延ばすのは、辞めさせない企業の常套手段である。もちろん有期のアルバイトでも、当初の契約内容と違う、あるいは法令違反があれば、契約期間内であってもいつでも退職を通告して一方的に辞めることができる。
しかし、会社や職場の人間関係を壊したくない、辞めれば職場や他の社員に迷惑をかけるという気持ちが働き、会社の承諾を得てから辞めようとする。
その結果、辞められないままに過重労働で心身が疲弊し、辞めたいという気力すら失ってしまい、最後は病院に担ぎ込まれるという人が少なくないのである。
■「断るのが苦手な人」「優しい人」が生贄
さらに辞めさせない企業に共通するターゲットが「断る事が苦手な人や優しい人達」だ。ある労組の相談員は「どちらかといえば素直で従順な気持ちがやさしい人の相談が多い。だから会社に何か言われても、逆らおうとしない。会社がうんと言わなければ、辞められないと考えてしまう」と指摘する。
だが、こういう人たちは人としてはまっとうであり、真面目な人だ。与えられた仕事をこなそうとする責任意識の強い人であり、彼らには責められるべき何の非もない。悪いのはその性格を巧みに利用し、こき使おうとする経営者や上司である。
労組の担当者はその構図をこう説明する。
「長時間労働など過酷な労働のせいで仕事中にミスして、経営者や上司から責め立てられれば、労働者の意識がどんどん卑屈になっていく。会社側も、悪いのは会社ではなく自己責任なんだという方向に持っていき、労働者はとにかくすべて自分が悪いのだと思ってしまう。しだいに経営者の言うことを疑うことなく、真に受ける。与えられたノルマを果たせなかったことで、社長に迷惑をかけてしまったと考える。引き継ぎもしないで逃げるように退職することは、モラルとしても許されないと信じて疑わなくなる」
会社は社会的に許容されない違法労働などの悪事を働きながら、労働者に対しては「すべて自分が悪いのだ」という自己責任意識を植え付ける、つまり洗脳によって辞めさせることを封じて過酷な労働を強いるのである。
じつはすき家も例外ではない。第三者委員会の報告書は過重労働を是正できなかった原因の一つとして、悪しき「自己責任」論と「言いっ放し・聞きっぱなし」の蔓延を挙げている。
<すき家では、「自己責任」の名の下に、上から下への責任の「押しつけ」、下による押しつけられた責任の「抱え込み」が広くみられる。また、各自がそれぞれの立場から正論を言うだけで具体的なアクションにつながらないという「言いっ放し・聞きっぱなし」が蔓延していた。>
今、世の中は人手不足問題で騒がれている。今後、人手不足が続けば、自己責任の名の下にあらゆる策を弄して辞めさせない企業が増える可能性がある。
溝上憲文=文
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